キャラビーとユウカの物語です4
今話もキャラビー視点です。ご注意ください。
「魔王の狂信者と言っておったよ。そしてあの場には連れてきておらんかったが、天上院古里、あやつを傲慢として覚醒させるのがそもそもの目的で、『力』に目覚めておると」
ユウカ様がさも普通かのように話したその言葉は、既に知っていた私を除く全員を驚愕させたのでした。
「おいおい、あの勇者様と連絡が取れなくなったってのは知っていたが、まさか全滅とかじゃなくて内側に裏切り者がいたってのは想定外だぞ?」
「パーティメンバーは王国が厳選した身元の確かな騎士や貴族だと聞いてたが違ったか?」
「サラさん、というよりファルシマー家は優秀な魔法使いの家系です。彼女自身も『白き御旗』で修練をつんでおりましたが、国王様の目に留まったことで王国直属魔法使いとしてスカウトされた方。少なくともうちにいた時には魔王軍影など少しもありませんでしたわ」
「王国に行ってから魔王軍にスカウトされたと? まあ、ファルシマー家が魔王軍や『アーディア』とつながっているなどという話聞いたことがないし、お前さんのところがつながっているとはもっと考えられん。というか考えたくない」
「それは冒険者ギルドとしても考えたくないことだね。『白き御旗』の方々が開いている教会や各地に派遣されている魔法使いによってどれだけの冒険者が助かっていることか」
「グリム様、アハト様、これは話の途中であっても早急に国王様へ報告を入れるべきでは? 連絡がとれずに行方不明という状態から明確に敵に回ってしまったという状況へと悪化したわけですから、それを知らぬ者たちがだまされてしまう前に」
「……いや、嫌な予感しかしないから話を最後まで聞いてからにする。グリム、お前もだ。連名で王へ伝える。終わり次第連絡を入れられるようにだけしておけ」
「承知しました」
アハト様の指示でグリム様とアハト様の背後に控えていた従者が部屋から出ていきました。続きを促すように皆がユウカ様の方を向きます。
「うむ。幹部クラスの者という点ではそやつらだけであったが、勝手についてきたと言っておった者もおった」
「随分と適当な管理体制だね」
「残りはそやつだけじゃが、戦いが近いとふんで、仲の良い幹部に張り付いて居ったそうじゃ。魔王軍幹部の枠の関係で幹部ではないというだけだそうじゃからな」
「幹部と同等の力を持つ一般魔人ということか。結局そういうやつの方が厄介かもしれん」
「そやつはバラーガ・グーテンの体を奪ったセン・グーテンと名乗る男じゃ。わし自身は直接戦っておらんが、見ていた限りはバラーガとは比べ物にならん実力の持ち主じゃな。知っている顔、知っている声であるのにまるで別人の動きをする。なかなか恐ろしい経験じゃった」
あの男が魔王軍にやられ、その体を先祖でもあるヒツギ様のかつてのお仲間、セン・グーテンが乗っ取ったというのは私やご主人様たちは知っていましたが、考えてみればそれを知ったのはユウカ様がいない場面。もしかしたらマナ様あたりから話を聞いているかもしれませんが実際に目にしたのは初めてとなると動揺はあったようです。後はこの場ではご主人様から話を聞いているアハト様も知っているはずです。しかし、先ほど勇者パーティが全滅したことを知った方々は体を乗っ取られているということに先ほど以上の驚きを示していました。
「バラーガの体を乗っ取ったってやばいのではなくて?」
「バラーガ様と言えば王の信頼も厚いお方。そんな方の体を敵が操るというのはいささか問題が起こりそうですね」
「これこそすぐに報告すべき事案ですね。アハト様はこれを見越しておられて?」
先ほどまでユウカ様に向けられていた視線が冷や汗と共に尊敬のまなざしでもってアハト様に向けられました。しかし、アハト様は極めて冷静な様子でした。
「そいつのことは既に各国の王たち、それから一部の貴族には連絡がついている。別口で知っていたからな」
皆の視線を集めたアハト様はさも当然と言うようにそうおっしゃいました。
「勇者パーティ壊滅の情報と違って展開先を絞っていたがな。おかげで内部に入り込んでいたネズミを数人釣りだすことができた」
「アハト様、私もしらなかったのですが……」
「魔王本人が幹部を引き連れて攻めてくるなんて事態が起きちまってるからこうして結構な面子が集まってるが、こう言っちゃなんだが別にここはそこまで要所ってわけじゃねえだろ? 直接『アーディア』と隣接してるところならともかくな。もともとこの件を知ったのはカシュマ王家の秘伝に関係する場所でのこと。いくら王位継承権を破棄しているとはいえ俺も王家に連なる者。どこまでも広げるわけにはいかなかったのだ」
「まあそういう裏事情があれば仕方がないのかもしれんの」
「バラーガ殿が我々に直接何か頼みに来るとかそういうことはないからね。仮に勇者パーティのためにとか来ても怪しんでただろうし」
「回復という点でもわざわざ私たちを頼る必要もないですし、依頼をしたいとかそういうこともないでしょうから」
「僕の場合は魔王との戦闘を優位に進めるべくスカイウォークの魔法を教えてほしいとかあるかもしれないけどね。まあ教えるわけないが」
「今回の件があったから民衆に話が広がらないようにはしてもらうが各地の領主や冒険者ギルドのギルド長には連絡を飛ばす。その地の有力冒険者たちに伝えるかどうかはギルド長の判断に任せるが、そもそも勇者パーティ壊滅自体も民衆には伏せている話だ。お前らもいたずらに言いまわることは禁じるからな」
「そのあたりはさすがにわかってるわよ。でも、死体をただ操るのではなく別の死人がその肉体を生前の様に操る方法には少し興味があるわね」
「先日戦った敵幹部には死霊使いはおらんかったが、そもそも魔王がそういう能力者なのかもしれんの。本人の戦闘の様子はそんな感じはせんかった」
「私たちが見た時にはもう戦ってなかったのよね。魔王」
「ユウカ様は龍人と戦っておられたのですよね? となると魔王本人と戦っていたのはメイさんということに?」
「そうじゃの。途中まではメイが魔王を抑えておった。名前はわからんが炎を放つ両刃の大斧を使う戦士じゃった。受ければそこから炎が噴き出し、おそらく躱しても炎で追撃ができたのじゃろう。そう長い時間戦ってはおらなんだから別の手札は山ほどあるじゃろうが魔法型とは呼べん感じじゃな」
「ゴールドさんの防御なら大丈夫でしょうか? ジョーさん辺りは相性が良くないかもしれませんね」
「我々3人ではいかに距離をとるかが大事でしょうね。炎の勢い、威力にもよりますが魔王と呼ばれるほどの存在。弱いわけはない」
「距離をとったところで渦使いの魔族が側にいたらそれも意味がないでしょうね。転移で背後に回られてバッサリいかれかねない」
「渦使いはマナが相手しておったが、数も展開速度も相当なものじゃった。相手の魔法に合わせて渦を作られたら見当違いの場所に飛んでしまう。味方が多ければ下手な魔法は同士討ちの原因になりかねんぞ」
「以前妹たちから聞いた魔法使いの子ね。かなりの使い手と聞いているけど」
「トーチとはまた違った方面での魔法の天才と呼べる存在じゃとわしは思っとるよ。距離がある状態で始まればわしも完封されかねんレベルじゃ」
「君がかい? ちょっと信じられないかな」
「私も事前準備をしっかりしたとしても完封なんてできる気がしないのに」
「じゃが、そんな魔法使いでもあの渦の前には相手に魔法を当てることもできておらんかった。おそらく何かしらの対策は思いついておるじゃろうが、今どこにおるのか、生きておるのかもわからん」
ユウカ様の表情が後悔と悲しみに少し歪みました。ご主人様の命の元、コルクがついて行ったのは確認したとアンナから聞いていますが、ご主人様同様マナ様についてもまるで情報がありません。無事でいてくださるでしょうか……。
ユウカ様のその話を待っていたとばかりにアハト様が手を叩いて注目を集めました。
「そう、そこだ。そこが気になっていた。『マツノキ』の他のメンバーたちは皆渦に呑まれたと言うのは見ていた。どこに飛ばされたのかは今の発言を聞く限りわからんのだろうな。だが、なぜだ? なぜ敵は彼らを転移させたのだ? 殺すのではなく。俺はそこに何か重要な手掛かりがありそうだと見ている」
アハト様の視線はまっすぐにユウカ様を貫いていました。
どうもコクトーです。
先週は投稿できずすみませんでした。夜勤と夜勤に挟まれ普通に体調崩してました。
もう1年も半分が終わってしまったと言う事実に驚愕しかありませんがワタシハゲンキデス。
ではまた次回