キャラビーとユウカの物語です2
キャラビー視点の話となります。
ご注意ください。
アンナ配下のスラッシュアントが転がしてきた丸太を椅子代わりに座りながら、ユウカ様の手当てを受けて一通り体についた傷が塞がりました。服はさすがにお屋敷に置いてきているので一枚上着を羽織っているだけですので後で着替えないといけないですね。
「傷はもうよさそうじゃの。じゃが少し血を流しすぎたか?」
「どうでしょう? 少し動いてみたら……あ」
「がう」
ご主人様の『再生』スキルなどと違って流れて失った血まで回復できるわけではなく、立ち上がって歩いてみようとしたところでふらりと足元がおぼつかなくなってしまいました。側にいたみぃちゃんが支えてくれて倒れませんでしたが再び丸太の椅子に座らされました。
「やはりの。増血剤も飲んでおくのじゃ」
「……お昼までゆっくり休めば大丈夫じゃないですか?」
「これ苦いから飲みたくないのはわかっとるが諦めるのじゃ」
「むごぅ」
こっそりと背後に来ていたアンナの配下のアサシンアントに動きを止められて、ユウカ様から増血剤の入った小瓶を口にねじ込まれました。口の中に増血剤の苦みが広がります。いやぁ……。
「苦いです」
「良薬口に苦しというものじゃ。しかし今日はいつも以上に粘れておったの。その場で動かなかったのは作戦か?」
「はい。まだ息も落ち着いてなかったですし、これまでで一番長く耐えられたのがこの方法でしたので少し立ち回りに気を付けながらもう一度やってみようかと」
「アンナ配下のように遠距離の攻撃手段がある相手ならともかく今日のみぃちゃん相手ではいい感じに機能したというわけじゃな」
「がぅう」
みぃちゃんも自分の動きに思い当たる反省点があるのかしゅんとして下を向いてしまいました。配下のアントたちに慰められていますが彼らはいつの間にやってきたのでしょう?
「とりあえず今日はもうおしまいじゃな。反省会をするからみぃちゃん屋敷にキャラビーを運んでくれ」
「がう」
またふらついてしまっても危ないということでみぃちゃんの背に乗せられた私はゆらゆら揺られながら屋敷に帰りました。
屋敷に戻り、休憩を兼ねた反省会をした後、みぃちゃんたちも一緒に昼食の時間となりました。反省会が予定よりも長引いてしまったために出来合いの物で昼食となってしまいましたが収穫の多い鍛錬でした。
昼食をとり終えた後は冒険者ギルドに向かうことになりました。このために午前中の鍛錬を早めに切り上げたものの、結局時間がぎりぎりになってしまったとのことで、私とユウカ様二人ともがみぃちゃんにまたがって、向かい風で体が痛まない程度のスピードでかけていきます。私が可能な限り風よけの役割を果たそうとしますが、さすがに体の大きさが違うのでないよりはまし程度にしかその役割を全うすることはできませんでした……。
今日の入り口には大きな馬車を連れた行商人が一組いたものの、途中でやってきた応援のおかげで入場と検査が完全に分けられたことでそれほど時間がかからずに入ることができました。ここからはみぃちゃんから降りて向かうことになりますが門で時間をとられなかったのでこれなら遅れることはないだろうとユウカ様も一安心しておられました。
冒険者ギルドまでやってくると、お昼過ぎということもあって私たちと同じように昼食をとり終えたばかりの冒険者たちであふれかえっていました。朝の大混雑と比べれば全然いないようなものかもしれませんが、どの受付にも列ができているという状態に少し遅刻の二文字が頭をよぎります。
「ユウカ様、お待ちしておりました。お連れの方も一緒にこちらにどうぞ」
他の冒険者たちからの好奇の視線を浴びながらおとなしく列に並んでいると、ユウカ様に気が付いた職員の方がやってきてギルドの奥の部屋へと案内されました。「やっぱり本物だったのか! サインもらいたかった!」などという言葉も聞こえてくるところからもユウカ様の人気の高さがうかがえますね。
職員の方に案内されてやってきたのは関係者以外立ち入り禁止である特別会談室と書かれた冒険者ギルドの中でも奥まった位置にある部屋でした。促されるままに中に入るとそこには机を取り囲んで座る6名と、それぞれの背後に立った方々が待っておられました。
「おお、来たようだな。立ち話もなんだ。まあ座ってくれ」
「お主らまさか朝からずっとここにおるのか? 随分と早いおつきじゃの」
「まさか。みんな1時間ほど前まではそれぞれの拠点に帰っていたさ。と言ってもギルマスはここが拠点なわけだけど」
「領主の館では話しづらい内容とのことでしたからこちらをお貸ししていますが、別にわざわざ当冒険者ギルドでやらなくてもよいと思うのですがね」
「必要とあらば我が教会の一室をお貸しすることもできましたが、それではユウカ様が来ていただけない可能性もありましたからね。それにしてもなんと痛々しいお姿。その包帯の下、私が癒して差し上げましょうか?」
「やめておきなさいアーカイブ。その申し出を簡単に受ける女じゃないことはわかっているでしょう?」
「かか。そういうことじゃな。どちらにせよ治せるようなものでもない。気持ちだけ受け取っておくのじゃ」
ユウカ様が空いている席に腰かけたのを見て私はその後ろに並びます。私のような一奴隷である身分の者がいるのもおこがましいと感じるほどの面々ですね。
グリムの町を取り仕切る領主のグリム様に、冒険者ギルドのギルドマスターであるソディア様、総本部のギルドマスターであるアハト様。そしてSランク冒険者、『白き御旗』のルーミ・アーカイブ様、『黒き翼』のドレアム・デス・ドリー様、『青き空』のスカイ・レインウィーカー様。背後に控えるのはそれぞれのギルドの中でもこの町の支部を仕切る幹部クラスの方か、そうでなくても彼らの側近の方々と思われます。つい先日、この町の近くに魔王とその幹部が現れたことを考えれば不思議ではないかもしれませんが簡単に集められる方々ではありません。これから話される内容に目星はついていますが、ご主人様たちのことを思うとあまり気乗りはしませんね。
「ユウカならわかっていると思うが、ここにいる面々は先日の魔王及びその幹部たちの襲来の件を知り、残念ながら失敗に終わったがその討伐作戦に参加していた。ある程度はカラスを通じてあの場で起きたことを理解している奴らだと言うことを前提に置いた上で、実際にその場で戦闘を行っていたお前さんに話を聞きたい」
こうして、4名のSランク冒険者とグリムの町の領主、そして冒険者ギルドのギルドマスター2名による秘密会談が始まりました。
どうもコクトーです。
今回もキャラビー視点のため職業レベルは無しです。
3週連続夜勤の2週目が終わり、来週も夜勤…体調管理が難しいです…
ではまた次回