キャラビーとユウカの物語です1
「キャラビー、昼食をとったら町に出かけるからの。今日の鍛錬は少し抑え気味にするのじゃ」
「かしこまりました。では今日は格闘戦だけにしておきたいと思います」
私がご主人様とのつながりを失ってから3日が経ちました。
魔王その人とその配下の幹部集団の襲撃のあったあの広場はユウカ様が離脱させられてすぐに放たれた攻撃によって大穴が空いていましたが、ユウカ様に指示されたアンナとその配下の働きによって平らに均され、こうして私がユウカ様の指導の下みぃちゃんやカルアを相手に鍛錬を行うのに適した場になっていました。
ユウカ様は受けたダメージと奥の手でもある神威開放による影響でまだまだ本調子とは言えず、私の鍛錬も基本的には指示を出して戦闘を見守る。そして私の動きに拙いところがあれば修正点を伝えて戦闘再開と普段のユウカ様の鍛錬とはまるで違う様相です。今も首元から包帯が見えており、私に説明をするのについつい体を動かそうとして痛みに顔を顰める様はとても苦しそうでした。
戦闘で受けたダメージはユウカ様が使える簡単な回復魔法と応急手当で多少ましにはなっているはずですが、神威開放を使った反動はそう簡単にどうにかなるというものではないそうです。
グリムの町にある『白き御旗』の治療院のお世話になることも考えましたが他ならぬユウカ様に止められてしまいました。彼らの信仰する神とは別の神様ではありますが、神様の力を己が力のように扱う神威開放を快く扱わない者もいるそうです。実際そのせいで以前トラブルにもなったのだとか。それ以来可能な限り使用を避けているです。もしもご主人様を我が物のように扱う輩が現れたらと考えると……納得しかありませんでした。
「みぃちゃんよ、相手をしてやれ」
「がう」
ウォーミングアップ兼体力作りとして行っている全力ランニングを終えてユウカ様の下へ戻ってくると、 早速みぃちゃんが前に出てきました。
準備万端と言った様子で地面をかくみぃちゃんに対し、走り終えたばかりでまだ息の整っていない私は目線を切らさないようにみぃちゃんを見据えながら大きく深呼吸をして息を整えます。私の方からの申し出ではありますが今日の鍛錬は格闘戦。私のメインの武器であるナイフの取り扱い、そしてそれを使った戦闘の練習をするのではなく、怪我をしない体の使い方を学ぶのがメインとなる鍛錬であり、私の方から仕掛けることはありません。戦闘中に武器を失った場合、あるいは武器が手元にない状態で戦闘が始まってしまった場合。そんな状況下においてご主人様たちがやってくるまでの時間を稼ぐための生存戦というのがこの鍛錬のコンセプトです。みぃちゃんという素早い足がある状態であればともかく、素の私程度では攻勢に出ても体力の消耗を速めてしまうだけ。実際に初日の午後に同じ鍛錬をした際には広場を走り回って相手から距離をとろうとしましたが、そもそもが私よりも圧倒的に素早い相手ということもあって距離をとることもできず、焦ったところに爪から放たれた斬撃で足元を狙われて転倒。次の瞬間には眼前で口を大きく開けて待っていたというあっけない幕切れでした。
ユウカ様の指示により日に二度はこうした無手での格闘戦がありましたが、そのいずれも10分と持たずに相手にやられてしまっていました。それでも一番長くもったのがこの方法。本来の動き回ることで相手を翻弄するスタイルとは真逆の戦い方ではありますが、いかに相手の攻撃を捌くのかというところで普段の攻撃にも生かすことができそうです。
「がぁああ!」
様子見に徹していると思っていたみぃちゃんの咆哮で、体がびくりと反応してしまいます。幸い委縮はしなかったけれど足が軽くすくみ、すぐさまみぃちゃんがまっすぐ突っ込んできました。
「ふっ」
右前足を上げて飛びかかってきたみぃちゃんの下に入り込んで下から突き上げました。勢いも利用した投げによってみぃちゃんを遠くに飛ばしますが、みぃちゃんはあっさりと地面に着地するとすぐに踵を返してこちらに突っ込んできます。先ほどとは違い低い姿勢のまま向かってくるみぃちゃんに対して半身になって迎え撃ちますがみぃちゃんは直前で方向を変えて私の周りを走り出す。顔を動かさずに視線だけでなんとかみぃちゃんの素早い動きを追いながらおそらく向かってくるであろう背後からの攻撃に備えます。
その後も向かってくるみぃちゃんの攻撃に耐え続け、何とか10分を耐えきることができた。何度も爪が当たって傷ができ、勢いを利用されないようにあえて勢いを殺して攻撃を仕掛けてくるみぃちゃんを投げ飛ばすために思いっきり力をこめたりと、とても10分しか経っていないとは思えないほどの疲労感がありますね。鍛錬用に用意したボロ服とは言えあちこちが破れてしまってもはや服とは呼べません。
「っ!」
体中にある傷から流れた血が一定量を超えたのかふらりと急に力が抜けました。その隙を逃さずにみぃちゃんがタックルを仕掛けてきて私は地面に倒れます。
「そこまでじゃ!」
ユウカ様の宣言で戦闘が終わりました。すぐにみぃちゃんに首根っこを掴まれてユウカ様の前に連れていかれます。そしてそのまま回復魔法と応急手当で回復していただきました。
どうもコクトーです。
今回はメイ視点ではないので職業レベルは無しです。
遅くなってすみませんでした。土日も仕事だったり体調崩したりと普通に遅くなりました…
ではまた次回