ヒメで遊ぼう-おもち編-
本編の流れとは全く関係ない短編となります。ご注意ください。
ある日、買い物に行ったユウカが町で仕入れてきたのは大量のお餅だった。このグリムの町にはそういう文化がないが、日本でもなじみ深かったそれはユウカの故郷でも年始頃を中心に食べられていたそうな。たまたま町で見かけて、売れ残っていたのを大量に購入してきたのだ。
せっかくだからとみんなで焼き餅と雑煮を作っている最中、いつ出てきたのか小さいのが台所に突貫してきた。
「かうかう!」
「あー邪魔するなヒメ。ハウス。毛が入ったら食べられなくなるだろうが」
焼き餅に塗った醤油の香りにつられてやってきたのだろう。ぴょんと飛びついたところを『シャドーハンド』で下から拾い上げる。ぷらーんと短い足を揺らしながらもその視線は皿の上に盛られた焼き餅に向けられていた。ちょこっと横にずらしてみてもそれに合わせて顔がずれる。ちょっと面白いな。
面白いは面白いがいつまでもこうしているわけにもいかないしどうしようかと思っていると、『シャドーハンド』とは別の手がヒメを抱きかかえた。さすがに視線も焼き餅から外れてその手の主、キャラビーの方に向く。
「ヒメちゃん、私とブラウニーたちにご飯をあげに行きましょう。きちんとこなせばきっとご主人様からご褒美にあんなことやこんなことが」
「しません。まあちょっとご飯の量を増やすくらいはやってもいいけどな」
「かうかう!」
ごはん増量と聞いて慌ててキャラビーに向かって早くいくぞ! とペシペシ腕を叩いて指示を出す。しかし残念だったなヒメよ。今日の食事に肉はない。そのほっぺを埋め尽くすのはお餅だ。
準備も終わり、食事の時間になった。ヒメたちちびっこ組の前には一口サイズのサイコロお餅を山にして用意した。さすがに俺たちが食べるサイズで食べるとのどに詰まらせそうだしな。
「うむ、やはり餅には醤油が合うの」
「えー。私は甘ダレの方がいいな」
「でもお雑煮も捨てがたいよねー。体の芯からあったまるっていうか」
「ただのスープと比べて満足感が違う気がします。これだけでお腹いっぱいになってしまいそうで」
「それ餅は結構お腹にたまるからそのせいじゃないか?」
各自好き放題餅談義をしていると、不意に袖口を引っ張られた。
「あうあう」
「どうしたヒメ? まさかもう食べきったなんて言わないよな?」
そう言って黄龍とカルアが突っついている餅の皿を見るがまだまだ餅の山は捌けていない。お口いっぱいに放りこんだせいで口をもごもごとさせる黄龍もなかなかお餅に苦戦しているようだ。いつもの調子でたっぷり放り込んだんだろうな。
「かうかう、かうかーう!」
餅が足りないのではなく、餅が小さいと文句が言いたかったようだ。何度も俺たちが食べている拳大の大きさの餅を指差している。
「いやお前、その口でこっちのはでかすぎるだろ。味は変わらないんだからそっちで満足しろ」
「うー、かーう!」
埒が明かないと判断したのか俺の膝を踏み台に机の上に跳び乗り、制止する間もなく机の上に並べられた餅の一つに噛みついた。
「むにゃーう」
不幸にも皿に一部が張り付いてしまっていた餅を前足で抑えたせいで、みょーんとヒメの口元と皿の間に餅の橋ができた。
即興で作られた餅の橋は、慌てた様子で横切ろうとした右前足を絡めとって三叉路へと姿を変える。さらにびっくりして差し出した左前足も絡めとって十字路へ。
「むなーう!?」
どうやら餅はその小さな口の中でうまいこと上下の歯も絡めとったらしい。幸い口内で収まってはいるようだ。のどの方に行かないようにだけ注意しなければ。
慣れない餅に悪戦苦闘するヒメ。お口と皿とをつなぐ橋は伸び切った結果切れたようだが両足をつなぐ橋はヒメが目一杯両前足を広げてもなかなか切れないようだ。いやーよく伸びるお餅だこって。
「無理して大きいのを食べようとするからだぞ。ほれ、落ち着け」
ヒメの前足と口で橋を作るお餅を箸で剥がそうとしたが残念ながらうまくいきそうにない。よし洗ってこよう。
その後、風呂場で顔に直接当てられたシャワーに悲鳴を上げるのが一匹出てしまったがそれはまた別の話だった。
どうもコクトーです。
2023年も今日で終わりですね。皆様の2023年はいかがでしたでしょうか?
自分は1月2日から仕事が始まり、阪神のアレに大喜びし、飲み会でつぶれて体調崩してヒメで遊んで終わる。そんな一年でした。
なんでまだ9章終わらないの?とか言ってはいけません!(メソラシ)
今年も一年『俺が勇者じゃ救えない!?』をお読みいただきありがとうございました。皆様の一時の楽しみになれれば幸いです。
一応新年は書ければ1月8日からの更新を予定しています。2024年も完結目指してのんびりだらだら続けていきますよー。これからもよろしくお願いします!
ではまた次回