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エンシェントエルフとセン・グーテン

今話はエンシェントエルフ視点です。ご注意ください。

「お前もこちらに来ないか? メイム・クルフェ」


 兜を外して昔と変わらない満面の笑みを浮かべながら、セン・グーテンはこちらに手を差し伸べた。

 久しぶりの再会ではあるけれど、そもそもこの男が生きているということが私としてはあり得ないことであるという一点を除けば柩様と再び会うことができると言う点を考えると多少魅力的でもある話だ。だが、それはあり得ない話だ。


「あなたは何を言っているのかわかっているんですか?」


「魔王軍は常に人材不足だからな。優秀な戦力はスカウトするに限る」


「それは戦争をしている相手国の女王であろうと?」


「女王だなんだと言う前にお前は俺たちの仲間だった。だからこそその優秀さは俺たちがよく知っている。今ならなんと、こちら側につけば柩もついてくるぞ?」


「そんな柩様をオマケみたいに言う馬鹿者には難しい話でしたね……。それに、私はあなたのことが当時から嫌いでしたし、そんな相手を交渉の席に立たせるような組織なんてまっぴらごめんです。まったく、本当に勧誘に来ただけだとでも言うつもりですか?」


「ほんとに来ないのか? きっと柩もよろこぶぞ?」


「柩様は私が人類の敵になることを望みませんよ。かつてはっきりと言われましたから」


 私が柩様のもとを離れ、この地に残ることになったあの日、柩様は哀しそうな表情を浮かべながら私に言った。


『私は弟にもう一度会う方法を探す。どれだけかかろうが知ったことじゃないわ。でも、その道程で、もしかしたら私は人類の敵になるかもしれない。いつの日かわからないけど、もし本当にその時が来たら、あなたが私たち(・・・)から人類を守りなさい。あなたが人類の守護者として私の前に立ち塞がること。それが私が下す最後の命令よ』


 今でも一言一句思い出せるあの日柩様残した最後の命令。奴隷である私に対し、その持ち主として命令を下すことを嫌っていた柩様が下した命令。それを破ることは私のプライドが許さない。


「そもそもオルス様ならともかくただの人間であるあなたや、呪いの力もあってただの人間よりもよっぽど寿命の短いエルギウスがこの900年もの時間が経った今も生きているのかは聞かない。聞いたところであなたが説明できるなんて思わないし」


「こちらにも事情という物があるのだ。対価を示された以上、契約は果たさねばならん」


 私はこのセン・グーテンという男が嫌いだ。慣用句や柩様から教えていただいた日本のことわざなんかを中途半端にしか覚えようとしないし、間違っていてもお構いなしに話を続けようとする。考えるよりも先に手が出るようなことも多いし、エルギウスが見つけて注意したばかりの罠にだって当たり前のように引っかかって柩様や私たちに迷惑をかける。だけどこいつは傷一つ追わずに笑っていたりする。どれだけ苦言を呈されようが、オルスの手によってお仕置きを受けようがまったくもって堪えない。あの頃の国王様に怒られたら少しだけしょんぼりしていたが、一晩経てば忘れていた。そんなあいつが嫌いだ。


「……かつての仲間の誼です。苦しまずにあの世に送ってあげましょう」


 だが、一番の理由はこの男は頭は悪くないし、決して裏切るようなことはしない。そう自分が断言できてしまうことだった。


「火葬か、土葬か。好きな方法を選ばせてあげますよ」


 杖に込めた魔力で火を周りに浮かべた。ポンポンポンと浮かべた3つの炎をくるくる回し、その回転が少しずつ速くなっていく。


「おいおい、それじゃ火葬一択じゃないか。まあ死ぬつもりはないが。というか宣戦布告の使者を文字通り死者にするとかおふざけがすぎるんじゃないか? 国際問題だぞ」


「そもそも女王を魔王軍にスカウトするなんて行為自体が国際問題だと言うのは考えていないのですか?」


「こうして一週間もかけてようやくお前のところに来れたと言うのに簡単に追い返されるとは。戦場であいまみえたら拳で語るとしようか」


 真横でくるくると回る炎のリングに視線を向かせて無言で飛ばしてみたウィンドカッターを簡単に切り落とし、こちらを見ながら結界の方へ後ずさりしていくセン。しかし、その言葉に少し気になるところがあった。


「おい、まさかあなた、一週間前に宣戦布告に行ってくるとか伝えて連絡も取らずにここに向かっていたとかではないか?」


「お? よくわかったな。ここに直接転移して(飛んで)これなんだ歩いてくるしかないではないか。あんな面倒な迷宮なぞ用意しおってからに」


「……今の状況を理解していないと言うことがはっきりと分かりました」


 つまるところ、この男は今、この瞬間も戦争が続いているということを理解していない。一週間も帰ってこないセンを殺されたか、捕らえられたかと判断して、部下か同僚かが動き出した。そういうことなのでしょう。


「バカセン、はっきり言っておきますが既に戦端は開かれていますからね。あなたたちが仕掛けた4つの戦場、その2つは既に壊滅させ、1つは王手、もう1つも落ちるのは時間の問題ですよ」


「ぬ? 嘘……ではないんだなその顔は。ふむ、俺を待つように伝えてあったのだがな。時間をかけすぎたか」


「一週間も連絡が取れなければこうなるとわかるでしょうに」


「しかし、お前がここにいるということは戦場には出ておらんのだろう? それでいてすべて潰されるとは。ちょっと戦力を見誤ったか?」


「まあうちのエルフたちを、そして冒険者たちを舐めない方がいいですよ?」


「魔王様になんといわれるかのう」


「それと、帰れるとは思わないことですね」


 会話の間もずっと回転させていた炎のリングをセンに飛ばす。高速回転する炎のリングはあっさりとセンに切り裂かれ、二つになった炎は背後で軽い爆発を起こす。奥の草原に落ちた炎は燃え広がることはないがモクモクと煙を上げた。


「しかし俺が楽しむ時間もなくこのまま負けるのであればつまらんな。魔人を倒したやつとタイマンでもしてくるか?」


 足元に種を撒き、呪文を唱えてそこからツタを伸ばす。私の魔力を貯め込んだ種から生まれたツタは縦横無尽にセンに向かっていき、その体を縛り上げるべく襲い掛かる。


「切りづらいな。フン!」


 剣を弾き、受流し、そのままセンの体を捕まえようと動くツタを力づくで引きちぎったり切り落として防ぐセン。その場で回転しながら斬撃を飛ばして周りのツタをまとめて切り裂く。易々と切れる強度ではないはずなんですがね。


「悪いがやることができたからな。お前と遊ぶのはまた今度だ。宣戦布告よりも前に攻め込んでしまったのは詫びておこう。ではスープバー!」


 地面に剣を突き立てて土煙を起こすと、結界の方に向かって走り出すセン。走りざまに結界を四角に切り付けてあっさりと結界に穴を開ける。そこに向かった飛び込もうとするところを左右から伸びた巨大な拳が挟み込んだ。


「ぐぬぅわ! あっちゅ!」


 切り飛ばされた炎を通じて召喚した2体のイフリート。その拳がセンを焼く。そしてそのまま焼き殺すべくそれらの足元へ魔法陣を開く。


「『焼き尽くすは我が怨敵、燃えよ燃えよ憎悪の炎。深き暗闇に抱かれて』アビスフレア」


 センの手によって核を潰されて切り殺されるイフリートたちごと獄炎魔法の黒い炎柱がセンを包んだ。その昔のセンであればこれに耐えられるはずはなく、灰すら残らずに殺しきるはずだった。


「ハンマーヘッドシャーァァアアアアアック!」


 アビスフレアが割れた。内側から若干溶けた鎧を身に纏い、焼け焦げた体を晒すセンが姿を見せる。殺しきれませんか。

 センは満面の笑みを浮かべてこちらを見る。だが、攻撃を仕掛けてくるのではなく、結界の向こうに走って行った。結界の外に出た瞬間に頭上に掲げた水晶玉を掲げてその手で砕く。すると、その場に現れた時空魔法の渦に飛び込み、センは姿を消した。


「あれすらも殺しきれないということはオルス様あたりならば無傷なんてこともあり得そうですね。しかし……契約と対価(・・・・・)。調べてみないといけないですね」


 私はあの頭は悪くない男がわざわざ残した手土産に頭を悩ませながら、私は守護龍様に仕留めそこなったことを詫びに向かった。



今回はメイ視点ではないので職業レベルはなしです。

新年度に入り、プロ野球も開幕しました!今年の開幕三連戦は楽しく見られました(阪神ファン並感)。あかん、アレしてまう!


ではまた次回

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