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エンシェントエルフと報告

今話はエンシェントエルフ視点です。ご注意ください。


 時はさかのぼり、メイが2つ目の戦場を終わらせて3つ目の戦場へ向かった頃、エンシェントエルフは守護龍とともに各戦場の様子の報告を受けていた。


「……そうですか。彼が敵の魔族と内通して戦場から兵士を引かせることによって手薄になった戦場を大軍勢でもって襲う算段を立てていると。そう言いたいのですね?」


『はい! 愚かな冒険者たちはあの裏切り者の策略にまんまと騙されたようですが私のような優秀なエルフたちは騙されません。既に本部に連絡し捕縛命令を出しております故、優秀なエルフたちの手で裏切り者はお縄につくことになるでしょう! そもそも彼の者は私の命じた本部の警備を放り捨てて戦場を荒らし、私の作戦を台無しにしたのです。しかしそれもまた彼の者の作戦の一つだったのでしょう!』


 現在の戦況、その報告が終わった後、追加で報告したいことがあると詰め掛けたのは一つの戦場を任された指揮官のエルフ。若手の中ではトップクラスの成績を修め、里長を含めたハイエルフたちを戦争には出さないという条件下にあたって指揮官を選ぶ中、一部のエルフからも強い推薦があってサポート付で彼が指揮官として配属されることになったと報告書には書いてあった。しかし、その結果がこれですか。


「こやつには通告はいっておらんのか? というか、本気で思っておるのか?」


 通信に乗らないようにこちらからの音を切ったと同時に守護龍様が語りかけてくる。一部のエルフの間に広がっていると聞いていたエルフ第一種主義とも呼べる思想。人間とはエルフの下位種族であり、エルフこそがこの世界で最も優れた種族であるなどという愚かしい(・・・・・)考え。この者もまたそれに染まり切った一人なのでしょう。


「守護龍様、お耳を汚してしまい申し訳ございません。この里の成り立ち、それを思えばこのような思想が生まれることなど考えられぬことであるはずなのですが、その世代の者からの苛立ちと憎悪。それらによって作られた若者なのでしょうね。根が深い問題です」


 柩様、そしてかつての仲間の手で集められ、この森におわす守護龍様を核として、その身を祀る私を女王として据えることによってなんとか形を作り上げた奴隷国家(・・・・)、それこそがこの『ヤカリ森国』。ハイエルフの一部はハイエルフとなる前、幼き頃に受けた迫害、そしてその末路たる奴隷の記憶を受け継いでいる。建国当時から生きているのは既に私だけですが、そのころの記憶など理由として他の種族の人たちから距離をとって暮らしていたエルフはいた。そしてその子孫たちの一部は未だにその生活を続けている。他里のエルフとの交流はさすがに実施しているが、それ以上は決して関わろうとしない。おそらくそんな隠れ里の出身なのかもしれないですね。

 私は音声を戻した。そんな思想を持つ者を他種族も冒険者も兵士も関係なく指揮をとらないといけない立場に据えてしまったのは我々のミスだ。しかし、戦争という命のやり取りの場でその思想を前面に出してしまうとは。


「全軍幹部には私からの通告を伝えるようにと指示してあったとは思いますが行き届いていなかった。そういうことであっている?」


『全幹部格の者から連絡を受領した旨の返答を確認しております。この者も含めて』


「それを理解した上でこの報告ということ?」


『エンシェントエルフ様! あの者が何か卑劣な手を使ってあなた様をだまそうとしているのです! 人間の、冒険者風情がエンシェントエルフ様の客人であるなどと』


「黙りなさい。私が、彼に騙されたと、本気でそう言っているわけね?」


『失礼を承知の上ですがそうであります!』


 ついつい手元の通信水晶を破壊してしまいそうになる。自分が何をしているのかを分かっているのかいないのか。わかった上で本気で私が、そして守護龍様が彼に騙されているとそう思っているのか。


「はぁ。あなたが私のことを、ひいては守護龍様を侮っているのは理解できたわ。まったく、いつから彼はあなたの配下になったの?」


『わ、私はあの戦場を任された指揮官として、戦争に参加した冒険者を統括する義務があります!』


「……通告では彼は冒険者としてではなく、私の客人として殲滅に手を貸すと書いてあったはずよね? なぜ他の冒険者と同列で語っているのかしら?」


『エンシェントエルフ様はあのクソガキに騙されているのです! 冒険者風情を特別扱いするなど!』


 この勘違いエルフが語る言葉にもはや価値は感じなかった。戦況報告が入るよりも前に書類として送られてきていた、こいつが指揮をとった戦場の報告資料と冒険者ギルドへの謝罪対応及び補填の許可願い。これだけでも正直に言ってしまえば罰することは決まっていたというのに、ここまで来てしまってはとてもではないが減刑しようという気も起きない。


「追って処刑方法は連絡します。その者を捕らえておきなさい。私からの通告無視に加えて戦場における指揮官の権限を用いた軍の私物化による自己保身。さらには冒険者ギルドそのものを敵に回しかねない言動に異常命令の数々。これを私への報告の場に参加させたという理由であなたたちにも罰を与えたいくらい」


『むごーもごぉ!』


『エンシェントエルフ様、申し訳ございません』


 その場にいたハイエルフの手によってツタで全身を縛り上げられていく勘違いエルフ。蓑のようになったそれを運び出すのを背景にしながら頭を下げる様子が映る。だんだんとこの地に近づいてくる、隠そうともしない気配を前にこれ以上は長引かせたくないわね。


「メリアン、少しの間統括を補佐に任せてでも冒険者ギルド及びあれが指揮を執っていた戦場へ参加した冒険者への謝罪と補填を急がせなさい。対応許可願いは届いているから準備は進めているはず。冒険者ギルドが派遣を取りやめる判断を下す前にね」


『かしこまりました。早急に対応いたします』


 指示を受けて即座に担当者に連絡を取る里長の一人をおいて他の者に指示をだす。


「戦場も残すところはあと2つ。冒険者の力も借りなければより多くの被害が出る。選民思想などという愚かな感情は捨ておきなさい。兵士も、冒険者も里を、そしてこの国を守るための大事な戦力よ。その一時の感情によって抜けられた時に苦しむのはあなたたちだけではない。民なの。民を守るため、最後まで気を抜かずに守り抜きなさい」


『『『はっ!』』』


 発破をかけて通信を切る。ここに至る道中の最後、蔦の迷宮もあの脳筋の前にはただの時間稼ぎにしかならなかった。外に出てまっすぐにそちらの方向を見つめていると守護龍様の樹を覆う結界に人一人分が通れるくらいの穴があけられ、そこから全身鎧の騎士が入ってくる。


「どうせ転移できぬからと歩いてきてみればえらく時間がかかってしまった。いっそがばがばになるほど回し入れろと言うがこうなるとほんとか疑わしくなるな」


「急がば回れでしょう。この地は限られた者のみが入れる場所。あなたが入っていい場所ではないわ」


「随分大きくなったなぁ! 最後に分かれた時はこんな小さかったのに」


「こうして戦争を仕掛けてきている以上、昔話をしに来たと言うわけでもないでしょう? なぜまだ生きているのかとは効かないでおくわ。早く本題に入りなさい。セン・グーテン」


「宣戦布告の使者として来たのにそれはないのではないか? まあよい。お前も鬼に、じゃない。お前もこちらに来ないか? メイム・クルフェ」


 兜を外して昔と変わらない満面の笑みを浮かべながら、セン・グーテンはこちらに手を差し伸べた。




今回はメイ視点ではないので職業レベルはなしです。

WBC日本代表優勝おめでとうございます! 優勝の瞬間は夜勤明けの疲労とその日の夜勤に向けた休息の板挟みで見逃しました(血涙)


ではまた次回

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