新たなる魔剣です
「刃は?」
エルメラさんから受け取った俺の新しい武器。その刀身にあたる部分、そこに刃は存在せず、どう見てもただの棒になっていた。鍔の部分までは今までのステュラとほとんどかわらず、柄頭と鍔に施された意匠が龍を模った物になっている程度だ。絶対にエルメラさんの趣味だろう。
「エルメラさん、刃はどこ行ったんですか?」
目の前にある鍔の付いた棍棒と言った方があっていそうな武器とエルメラさんを交互に見比べる。始めはどや顔で武器を見せてきたエルメラさんだったが、無言のまま俺が繰り返し視線を上下させるにつれてその表情が崩れ始める。
「ステイステイステイ。まあ落ち着き給えよ。大将、コーヒーをお願い」
「ここは酒場でもバーでもねえよ」
「おっと失礼。メイさんや、あなたが言わんとしていることはわかっているつもり。でも、ちょっとだけ待って。話を聞いてもらえる?」
「この奇怪な棍棒について説明してもらえるんだな?」
「棍棒じゃなくてご依頼の剣だから!」
「エルメラ……ついに頭が」
「へいそこ! ついにってなにさついにって! 私はいたって平常だよ。大仕事をやり切ってテンションはまあ高いけど」
「なら説明してもらおうか。この細めの棍棒を剣と言い張る理由を」
「ほい来た。じゃあまずは何も言わずにこれを両手で持ってくれる? 武器は一旦こちらに」
エルメラさんに武器を渡し、なんの変哲もないただの木の枝を受け取った。ここにくる道すがら拾ってきたのだろう。
俺は言われるがままに受け取った木の枝の端を両手で持ち、腕をしっかりと伸ばしてエルメラさんの方に突き出した。
「えいや!」
横持ちにした木の枝にエルメラさんが武器を振り下ろす。戦士として普段から武器を戦闘のために使う人たちが使うほど鋭いものではないが、普段から試し切り自体は行っているということもあってエルメラさんが振るった棍棒はあっさりと木の枝をぺキリと折った。エルメラさんはやり遂げたと言わんばかりにどや顔に戻る。
「で、これがなんなんですか?」
「メイさんや、君は剣という武器の定義について考えたことはあるかい?」
「しっかりと考えたことがあるわけじゃないが、刃の付いた武器が剣じゃないのか?」
「刃の付いた武器。たしかにそれは剣らしい剣だね。でも、私としてはそれはあくまで一般的な剣の見た目の話であって、定義としてはまた別問題だと思うんだよ。刃がついている武器をすべて剣と呼ぶのであれば鎌なんかは剣になっちゃうし、斧だって間違いなく剣になっちゃうよ」
やれやれと首を振りながら話すエルメラさんの言葉はたしかに一理あった。俺が言った定義であれば、確かに鎌も斧も刃を持った武器であり、剣ということになってしまう。石斧のような刃と言っていいのかわからない例外もあるにはあるが、一般的に思い浮かべる斧は間違いなく刃の付いた武器と言えよう。
「それじゃそっちの二人はどう? 話を聞いているだけじゃ暇でしょ?」
「俺たちを巻き込むな」
「考えたことなかったしおもしろい話だけど今はやめときましょう。あんまり待たせるようなら魔法使いに先に行ってもらいますよ?」
「それはまずい。じゃあ私が導き出した結論を言おう。私にとって剣とはとにかく切れる物であること。それだけよ。見た目が斧だろうが鎌だろうが関係ない。武器という大きな枠組みの中にある剣という枠組みに含まれるいくつかの種類の一つにそれらがあるだけ。対象を切ることができればそれはもう剣だと思ってる」
背景にドンッと描きたいほどに胸を張って言い切ったエルメラさん。俺の意見をぶったぎった理由と全く同じ理由で意見をぶったぎることができるがそんなもの知ったことかとはっきりと言われてしまうと何とも言えなくなる。
「そして実践して見せた通りこれは木の枝を見事に切り裂くことができた。これは紛れもない剣だよ」
「……いや折っただけじゃね?」
「……ばれた? ちょちょちょちょちょちょちょちょ! その振りかぶった拳を下ろそうか! 暴力はんたーい!」
「結局何が言いたいんだ? まさか失敗した言い訳に」
「さすがにその発言は聞き捨てならないね? 私が、こと武器の製作において嘘をつくことはありえないよ」
「すみません」
有無を言わせない迫力に即謝罪した。さすがにこれは彼女に失礼だ。
「ちょっとふざけたのは確かだけど、あの設計図で作られたのは間違いなくこの武器なんだよ。これの真価は君の魔力が込められた時に発揮される。私じゃこの剣の手入れはできても使い手としては認められてない。そんな状態で下手なことをしても下手したら死んじゃうから。いい? 断言しておくけど、これは真正の魔剣。それこそ気に入らなければ使い手を食い殺す程度は易々とやってのける一品だよ。間違いなく私がこれまで作った中でも最高傑作だけど、設計図無しで作れる物じゃない。もちろんあの素材たちも必須だけどね」
「つまり魔力を流すことで刃を取り戻すってことですか?」
「わかんにゃい」
「はぁ!?」
「だってやったことないんだもん。わかんないってば。ということでほんとの使い手さん。どうぞ」
エルメラさんは再び俺に武器を渡してくる。その目はおもちゃを前にした子供のようにきらきらと輝いていた。
「そういえばこの武器の銘は?」
「それなら設計図に書いてあったよ。悠久の魔剣、グラウコス」
「魔剣グラウコス……」
柄を握り、その名を口ずさんだ瞬間、周りに圧を放ったように感じた。それを示すかのようにこのやりとりを見守っていたエルフたちの足が下がるジャリという音がかすかに聞こえてくる。
「ハリーハリーハリー!」
急かすエルメラさんの言葉に影響を受けたわけではないが、握った柄から魔剣グラウコスに静かに魔力を流し始めた。グラウコスは一切の淀みなく俺から流れる魔力を吸っている。
魔力を吸い始めたグラウコスに目に見えた変化はまだない。刀身にあたるはずの部分は未だに石造りの棒のままだ。おそらくはこの部分の元になったのは素材として提供した龍人の角なのだろう。折れた状態でダムドレアスを縛り付ける核としてあり続けたあの角は無事オリハルコンを超える強度の素材として認められたのか。
そんなことを考えながらこめる魔力を増やしていくと、その棒の部分が根元から順にうっすらと光を放ち始めた。込める魔力が増えるにしたかってだんだんとその光は先の方に向かって伸びていく。
「おお!」
「ゼルセ、念のため俺以外に結界貼ってくれ」
「ゲ」
光が中心を超えたあたりで万が一に備えてゼルセに指示を出す。幸い俺の方には誰もおらず、ゼルセの結界があれば何かあっても被害は俺だけに抑えられそうだ。
周りの安全を確保してグラウコスに込める魔力の量を上げる。じわじわと流していた魔力が急激に上がったことで棒の部分を進む光もその速度を上げた。そしてその光が棒の部分全体を包み込むと、白い光だったそれが根元から紫の光に変わり始めた。
注ぎ込む魔力量を大きく増やすと、光はみるみる紫色に変わっていく。そのまま全体の色が変わりきると、今度は根元からゆっくりと光が消え、石造りの棒にひびが入り始めた。ようやくお披露目になるのか。
光が完全に消え去り、その代わりにひびが完全に全体を覆いつくしたところでポロポロと棒の部分の石が崩れ始めた。大量の魔力を吸い取りながら表面を覆っていた石が砕けてその内側に隠れていた真の刀身が露わになっていく。石の欠片はまるで初めからなかったかのように空中に溶けて消えていき、すべての石が消え去った後、残されたのは中心に波のような意匠の入った、左右が紫と黄色に分かれた両刃の剣だった。
「……きれいだな」
剣としての重さは見た目詐欺とも思えるような重さのあったステュラと比べてもさらに重い。刀身の幅も長さも大きくなっていることを考えると納得もできるが、なぜだか棒の状態だった時よりも重いように感じる。
石がなくなって完全体となった魔剣グラウコスに魔力を流してみると石がなくなった状態でもすんなりと流れてくれた。ステュラの時は魔力を込めたところで何もなかったが、グラウコスの場合は込めた魔力の分だけ白い波の文様が紫に変わっていく。
「おっと、魔力を込めるのはやめておこうか。その武器には周りに火を放つとか氷を放つとかそういった効果はないけど何かチャージしているようにしか見えないから」
「設計図には何か書いてなかったか?」
「効果については破壊されない点以外にはなかったね。何かを溜めるとかチャージについては特に。まあでも古い設計図だし、もしかしたらあの貴族が効果とかの部分について書かれていた部分をなくしちゃった可能性は否定できないね」
「実戦で使ってみるしかないってことか……。まあいいか。代金は今この場で渡した方がいいです?」
「いや、ここでもらうのはやめておくよ。ただし、ゼルセ君は置いて行ってもらうけどね。代金の形という意味もこめて」
「わかった。ゼルセ、引き続き警備は頼んだ」
「がぁ」
ゼルセにアイテムボックスに入っていた焼いた塊肉を投げ、そのままエルメラさんの護衛を任せた。
「お待たせしてすみません。準備はもう大丈夫です。戦場へ」
魔剣グラウロスの刀身に額をつけて一言頼むと告げてアイテムボックスにしまい、案内に従って俺は戦場へ飛ぶ転移魔法使いの元へむかった。
どうもコクトーです。
『刈谷鳴』
職業
『最大
ビギナー(10) 格闘家(50) 狙撃手(50)
盗賊 (50) 剣士 (50) 戦士 (50)
魔法使い(50) 鬼人 (20) 武闘家(60)
冒険者 (99) 狙撃主(70) 獣人 (20)
狂人 (50) 魔術師(60) 薬剤師(60)
神官 (50) 剣闘士(60) 重戦士(70)
龍人 (20) 死龍人(20) ローグ(70)
魔導士 (90)
有効職業
聖魔??の勇者Lv23/?? 精霊使いLv32/40
舞闘家 Lv69/70 大鬼人 Lv24/40
上級獣人Lv17/30 魔人 Lv14/20
探究者 Lv34/99 狙撃王 Lv7/90
上級薬師Lv4/80 上級龍人Lv1/30
死霊術師Lv1/100
非有効職業
アーマーナイトLv1/99 剣闘騎士Lv1/99
呪術師 Lv1/80 死龍王Lv1/30
盗賊王Lv1/100 大魔導士Lv1/100』
先週はすみませんでした。友人の結婚式がありまして、その後いろいろやっていたらお休みが終わっていまして…
しかしサブタイトル変えたのいつぶりでしょうか(メソラシ)
ではまた次回