喰らいました
瞬間、瞳はその男を喰らい始めた。
「ぎゃぁぁぁぁぁあああああ。なんだよなんだよなんだよぉぉ! 喰われてる? なんでだよぉぉぉ、魔法を喰らう瞳のはずだろうが!? まさかあのやろう俺に嘘の説明させやがったのか!? いやそんなはずはねえ! 魔物を喰らう瞳なんか存在するはずがねえ! はじめの表示ではちゃんと『魔法を喰らう瞳』だったじゃねえか! まさか、瞳自体を応用させたとでもいう気かよ!? ありえねえありえねえありえねぇぇぇぇえええ!! 『魔物を喰らう瞳』とかありえるわけねえだろうがぁあああああ」
男が叫び続ける最中も瞳は男を喰らい続ける。腕を喰らい、胴を喰らい、足を喰らった。男は叫び続けるも、助けに来るやつなどいない。いるはずもない。ここは深い深い谷の底だ。上から来たらそいつは橋から落ちたやつだ。
「いやだぁぁぁあぁああ。俺の力がぁぁぁぁぁ……。俺はぁぁああ、この力でハーレムをきずk…………」
そこで完全に男を喰らいつくした。再び静寂があたりを支配する。
そして再び痛みが襲う。
「ぎぃゃあああああああああああああああああああああああ」
さっきほど痛くはないがそれでも痛いものは痛い。それが二十秒ほど続いてやんだ。
『スキル:無詠唱魔法・鑑定・スキル習得率上昇・体術・回復速度上昇・アイテムボックスを習得しました
パラメータ:全上昇(大)を習得しました』
なんか色々と習得した。無詠唱魔法とかどんなチートだよ。あ、俺魔法使えねーじゃん。いや魔法を喰らえば使えるのか……嫌だなぁ。わざと受けろってことだろ? つまりあの痛みを何度も受けないといけないということで……
「あれ? すげー使い勝手悪いんじゃね?」
いやまて、魔法を使えるモンスターとか喰らえば魔法自体が使えるようになるかもしれない。だけどそのためには痛みを受けないといけないわけで……それを回避するためには戦えないといけないけど、そのためにはモンスターや魔法を喰らわないといけないわけで……結局喰らう以外の選択肢がない。
「……ならモンスター喰らってスキル手に入れるのがいいかな……制限とかないのかな? 頭で触れるのが条件みたいだし失敗したら即死だよな? なら倒してから喰らえば……」
葛藤が続く。
結局なんとかして体術で倒せばいいということになった。
それから完全に回復した俺は、とりあえず谷を出ることを目標として歩き始めた。壁を登ることも考えたが一瞬で諦めた。そもそも空が見えない時点でアウトだろう。
しばらく歩くと最初のモンスターを見つけた。見た目的にはオーガといったところだろう。
(そーいや鑑定でわからんかな?)
そう思いスキル鑑定を使おうとする。……使い方わかんねえ。あいつ教えてくれなかったしな。とにかく色々とやってみるしかないか。
「スキル鑑定」発動せず
「鑑定スキル」発動せず
「鑑定スキル発動」発動せず
「鑑定発動」発動せず
「鑑定…」発動せず
「だぁああ発動しやがれ!!」発動せず
「な・ん・で発動しねえんだよ……」
大声を出すわけにもいかずやるせない気持ちでうなだれる。発動してくんないかな~とか思いながらじっとモンスターを見つめてみる。幸いまだ見つかっておらず、いつ仕掛けようかタイミングを計る。
『オーガ(オーガ種)』
「うぉお!」
いきなり視界の右端に現れたその文字につい声を上げてしまった。オーガはそれを聞きつけ、こちらに気づいた。
慌てて構える。オーガはゆっくりと近づいてくる。手に持った棍棒を振り回していて威圧感が半端ない。それでも萎縮して固まっていてはただ死ぬだけというのもあり、無理矢理に体を動かす。
棍棒を降り下ろしてくるオーガにたいして、俺は横っ飛びでそれをかわす。そのままの勢いで転がってオーガから距離をとる。すぐさま立ち上がってオーガと向き合うと今度は逆に距離をつめ、鳩尾に蹴りを叩き込む。そして腕にも攻撃を加える。棍棒を落とさせるまでとはいかなかったが、すこしくらいは痺れさせられたかな~とか思ったがそんなことはなく、蹴りの勢いによって多少後ろに下がっただけだった。それでも棍棒の射程範囲内だったため、オーガはそのまま棍棒をふるう。蹴った後で体勢の整っていない俺は必死に飛び退こうとしたができずに飛ばされる。
体術スキルのおかげか、受ける瞬間にその方向へ飛ぶことでそこまでダメージがなかった。わりとすぐに立ち上がることができ、オーガを見据える。見るとオーガは倒したと思ったのか立ち去ろうとしていた。いや確認くらいしないとだめだろうに。
「だが、今回ばかりは助かった」
後ろから首を蹴りで薙ぐ。ゴキッという音がして首が変な方向へ曲がる。クリーンヒットというところだろう。そのまま手から棍棒が滑り落ち、体が前向きに倒れる。そのままオーガはピクピクとふるえるもののそれ以上は動かない。
俺はそれに近づいていきそっと頭を腰のあたりにつける。瞳が熱くなるのを感じてそのあと体に痛みが走る。だんだんと痛みが少なくなっているのを感じる。どうやら喰らえば喰らうほど痛みは減っていくらしい。そして数秒かけてオーガを喰らいつくす。
『パラメータ:筋力上昇を習得しました』
なんかスキルじゃなくてパラメータというものが手に入った。能力を数値化とかできるのかな? 試しに自分を鑑定してみる。結局鑑定と念じるのが発動方法だったらしい。あの葛藤は無駄だったわけだ。
『刈谷鳴
????勇者Lv1:ビギナーLv2』
「……レベル制かよ!! どこのRPGだよ!」
いかん、つい突っ込んでしまった。と言うか勇者の前の?はなんだよ。なんかつくのか? あと普通の服は装備には入らないらしい。どっからが装備になるんだろうか。
しかし肝心のステータス数値化ができなかった。これじゃどんな感じで上がってんのかわかんねえじゃん。
「さて……まあもう一回戦ってみればどんな感じかわかるかな? まあそう都合よくオーガがでてくるわけが」
……ありました。
普通に向こうの方から歩いてくるオーガ二体。装備も見た目もさっきのとかわりない。群れかなんかなのか? それなら納得もできる。
「なんにせよ好都合。確認とれたらラッキー。とれなくても……」
そこから前の言葉がでかかって俺は口を止めた。俺が言おうとした言葉はこれだった。「喰える。」なぜ自分が無意識のうちにその言葉を発しようとしたかがわからなかった。俺ということを考えれば普通まずでてくるのはどう逃げるか、あるいはどう追い払うかのどちらかだ。しかし、今俺はあれらを喰おうとしている。意味がわからん。
しかし、これ以上考えては頭がおかしくなりそうだったのでやめとく。とにかく今は目の前の状況をどうにかしよう。
すでに2体のオーガは俺のことに気がついて走り始めている。あと数秒後にはやつらの射程範囲内だ。そこで俺は体術スキルを活用して、相手の攻撃を止めることを念頭におく。
1体が上から攻撃をしかける。それにたいして両腕をクロスさせて受け止めた。もう1体が横から殴ろうとしてくるが、それはしゃがんでかわす。棍棒を支えていた俺の腕が消えたことで相手のバランスが崩れる。
そこに俺の蹴りが直撃する。なんか吹っ飛んだ。それでも蹴られたオーガは空中で体をひねり、うまく着地する。うん、筋力上昇は想像以上のようだ。
そんな風に感心しているともう一体のオーガが棍棒を叩きつけてくる。それを両手でがっちりつかんだ。そしてそれをつかんだままオーガを投げる。そのときに投げられたオーガの手から武器が離れる。もちろん俺はそれを掴んだままなので武器ゲットだ。これで遠距離攻撃ができる!
俺はその武器を大きく振りかぶる。そしてそれを投げた方のオーガに勢いよく投げつけた。
「肩口を抉るストレートってとこか」
抉るといっても物理的にだが。文字通りオーガの右肩を抉る。そのまま棍棒は壁に刺さる。筋力上昇やばいな。
「――――――!?!?」
オーガの声にならない悲鳴が響く。相当痛いんだろうな。俺は経験したくない。
1体を戦闘不能にしているうちにもう1体のオーガが棍棒を振るおうとしていた。気づくのが遅れ、完璧にはいってしまった。左腕から嫌な音がして横に飛ばされる。
地面を転がって勢いが止まる。左腕からは鈍い痛みが襲う。幸い完全には折れてないようでせいぜいひびといったところだろう。『再生』スキルが発動して修復されていく。けっこう重傷のはずなんだが……。
「やべ、超逃げたい」
オーガは体の色が若干変化していた。深い緑からどす黒い赤へ。かなり怒ってることが見てとれる。やりたくないけどどうしても逃げられるようには思えない。
俺はオーガの方へ駆け出した。
オーガは力任せに棍棒を振るう。これまでよりスピードはあがっているが、それでも脅威にはなりえなかった。力任せな分攻撃が単調で、蹴りで流すことができていた。懐に潜り込み、連打を叩き込む。それで動きを止めたオーガの手を狙い、棍棒から手を離させた。そのときに指が折れたようで何本か変な方を向いていた。地面に落ちる棍棒をオーガより早く拾い、足めがけてフルスイングした。結果、想像通りに脚が折れる。
前のめりに倒れるオーガの頭に、棍棒を降り下ろした。
ぐちゃっという音と共にオーガは事切れた。俺は先程の肩口を抉った方にいく。肩をおさえたままうずくまっている。生きているみたいだが、もはや戦意はなかった。そのオーガにおもむろに頭をつける。そいつは生きたまま瞳に食われた。同じように筋力上昇が手に入った。
そしてそのまま止めを指したオーガの方に向かう。喰う前に鑑定をしてみたらなんとオーガはハイオーガになっていた。あの赤く変色したのは進化していたらしい。
「……よく勝てたな……。まあ、いいか」
ハイオーガを喰らう。もはや痛みは起きない。実際には起きているかもしれないが痛みは感じない。これで楽になった。
『スキル:威圧を習得しました』
ハイオーガを喰らって手に入ったのはパラメータじゃなかった。やはり種族ごとに違いがあるようだ。
「んー威圧か……少しくらい相手の動き止められるかな? なら最悪それで止めてるうちに喰っちゃえばいいな」
戦闘回避のために使えるスキルを覚えられたことは運がよかった。実際には使い方違うんだろうが関係ない。俺は本来戦うのはそこそこで真那と一緒にのんびり暮らしていればそれでよかったんだ。その上で帰る手段も探す。それがなんでこんなことに…。
「ぐだぐだしてても仕方ないか。とりあえずここ出なくちゃな。……でも、なんで空見えねえんだろ?」
その時鳴はまったく気づいていなかった。
そこが、谷底ではなく迷宮であることに。
どうもコクトーです
悪魔さんはログアウトしました
今回から鳴の職業とレベルを表示していきます
『刈谷鳴』
職業
????勇者Lv1
ビギナーLv2
ではまた次回