エルフの里の異変です13
「司令部より伝令! エルフ第三部隊、30秒後に全員で斉射! そして即時後退せよ!」
「合わせて伝令! 前線を下げる。第五部隊、前に出て前線の再構築が完了するまで敵の注意を引き付けるように!」
伝令係のエルフが司令部からもたらされた命令を伝える。先ほどモンスターどもに押されて前線を下げた時と全く同じだ。交代の順番、疲労度などは完全に無視した冒険者だけで作られた部隊への交代指示。現場で戦っている奴らのことを何も理解していない本部の指揮官からの指示だが、命令として出されている以上、俺たちはただ従うしかない。
「ぐっ、すまない、全軍! 最速で状況を整えなおせ!」
「西の戦場にてモンスターの殲滅が完了! 援軍を送るとのことだ! それまで1人でも多く生き延びろ!」
背中を任せ、共に表立って戦うやつらには何の不満もない。彼らは俺たち以上に上からの命令というものは絶対なのだ。これがモンスターの討伐、もっと言ってしまえばただの依頼としての戦いであれば現場の判断として動くことは多少は問題視されるかもしれないがそこまでだ。
しかし、ここは戦場だ。個人の裁量がどうこうと言っていられるような規模ではない。個人で動いて、その結果その場を抜けられでもしたら待っているのはこの場にいる全員の死。それを思えば、前線を下げ、敵を迎え撃つための状況を整えるために1つの部隊を前に出して囮にするのは完全に間違いではないだろう。
「そう思えれば楽だったんだがなぁ! マックス、魔力はどうだ!」
「何がっすか! 回復しきってはないですけどやんなきゃなんないんすよね!」
ついつい心の内が表に出てしまった。多を生かすための犠牲となるのは誉だと言うやつもいるが、俺たち冒険者からすればそんなのは嘘だね。生きて、生きて生きて、その上で敵を討つ。依頼を果たし、生きて帰って、酒場でみんなでうまい酒を飲むんだ。
勘違いというわけじゃないが冒険の最中で命を落とすのは別にいい。いや、いいわけじゃないが、冒険の中で命を落とすと言うのは単に俺の、ひいては俺たちのパーティの実力不足が原因だからな。罠の解除ができなかった。モンスターに負けた。そもそも事前の調査も準備もなく死ぬような相手に戦いを挑んだ時点で俺たちの負けなんだからな。
だが戦争はそうもいかない。冒険者は一定のランクを超えた場合、滞在していた町や国に脅威が迫ってきた場合に戦いに出なければならない。その時々でギルドが独自に指揮を執る場合や、たまたまその場にいた冒険者たちの中で高ランクのパーティーがいればそこに任せる場合もあるし、今回のように国や町の騎士団に指揮を任せる場合もある。それはいいんだ。
問題があるのは今俺たちの上に立つ指揮官が冒険者を下に見ている節があることだ。
最初に疑問に思ったのは今は負傷して下がったうちのパーティの副官だった。ある程度の人数ごとに冒険者の部隊として組まれたのは4つ。エルフの騎士のみで構成される部隊も同じだけあるがその人数は各部隊ざっと1.5倍程度。パーティ単位で動くことに慣れている冒険者の部隊の人数を減らすのはいいがエルフの部隊の人数を増やす必要はない。どうせ基本は2~3部隊ずつでローテを回すのだからな。
戦争が始まってすぐ、それまでの有象無象と比べたら大物と呼べるモンスターが出た時に前線に出ていたエルフの部隊と冒険者の部隊を入れ替えた。もう死んじまったが、その部隊にはBランク以上の冒険者もいたしその大物への対抗策として火力のある部隊を送るという判断は正しいだろうが、その部隊が休息に入ったばかりの部隊だというのが問題だった。
交代したばかりの部隊を前に出すと言う無茶な指示に、下がれと言われたエルフの部隊すらも困惑し、大物は仕留めることができたが疲労と魔力の回復が追い付かずに冒険者が何人もやられた。その穴を埋めるために冒険者の再編もせねばならなかったが、命令として下されたのはこの第五部隊から2パーティを移動させると言うもの。しかも役割も強さも能力も関係なく人数の関係で移動させられた結果、魔法使いは1名のみになり、マックスへの負担は大きくなった。休息に入ったタイミングでエルフの部隊から魔法使いの派遣を要請しても命令として却下された。部隊の人間でなんとかしろとさ。
「全員盾か槍を構えろ! 攻勢に出る必要はねえ。足の速いやつを抜かせなければそれでいい! マックス、攻撃には魔力を使うな! パワーエンチャントだけしたらその場で待機。支給されたポーション飲んで休んでろ。ただし、最後に下がる時に大きいの頼むかんな!」
「『我らに偉大なる大地の加護を』パワーエンチャント!」
「吹っ飛ばせ!」
「「「うぉぉおおおお!!!」」」
こうして俺たちの守りの戦いが幕を開けた。
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中央の戦場の中でも比較的西側に転移してきた。すべての戦場の中で現在最も押されてしまっている場所らしい。中央の戦場だけで3つに分かれているというのは少しびっくりしたがそれだけ敵が多いと言う証拠でもあるのだろう。むしろ西側の戦場があの1カ所だけで助かったとも言えるな。
転移してきた俺に気が付いたエルフに連れられてこの戦場の指令室に入る。中では西と同じように各地と連絡を取り合うエルフとこの戦場の物と思われる図を前に出された指令を伝えたり逆に前線から送られてくる連絡を取りまとめていた。
「よく来た。君が援軍の冒険者か。私がここの指揮官だ」
「どうも。『マツノキ』のメイです。早速押されている詳しい場所を教えてください。そこに向かいます」
自己紹介もそこそこにさっそく本題に入ろうとすると、指揮官のエルフは手を挙げてこちらの言葉を制した。
「まあ待て。確かにここの戦場は押されているのは間違いない。しかし我々も策を講じていないわけではない。一時的に前線を下げてそこから反攻する予定だ。既に指示を出している」
「その反攻に合わせて行けと言うわけですか」
「君がそこに参加する必要はない。君にはこのまま司令部の警護を命じる」
「は?」
「君にはここで私の警備を命じる。私の指示にきちんと従っていれば問題なくモンスターなぞ押し戻すことができるのだからな。……だいたい、もとはと言えば冒険者どもがきちんと指示に従っていればこうはならなかったというのに」
「ヘック様、それは」
「何が言いたいんです?」
後ろを向き、聞こえないとでも思ったのかぼそりとつぶやくように言葉をつづけた指揮官のエルフに強い口調で尋ねた。周りにいた側近と思わしきエルフの顔が真っ青になるがそれに気が付かずに彼は続けた。
「きちんと指示通りに動けずに醜態をさらし、挙句人数が減ったからと部隊再編の指示を出せばクレームを入れる。そんなざまではどれだけ私の作戦が優れていようがどうしようもないではないか。所詮はただの冒険者。我々エルフが賢く使ってやらなければ指示もまともにこなせない。まあ、せいぜいエルフの部隊が下がるまでの足止めとして役に立ってくれれば彼らも本望だろう」
「……俺もそのあんたの言う冒険者なんですがね」
「結局冒険者というやつらはこの戦いが終わればそこでおしまいだ。所詮今回起きた戦争によって臨時で集められた烏合の衆なのだから。だが我々は違う。今日、この戦争を乗り越えた後も我々は戦い続けなければならない。なぜならこの戦争に勝つことではなく、その先にある国や町や村、その平穏を守ることが使命なのだ。こんなところで命を使う必要はない。その冒険者を使い潰してでもエルフの部隊を生き残らせて戦争を終わらせる。それが私の仕事だ! 貴様も所詮は一冒険者に過ぎん。特別に前線ではなくこの後方で使ってやるのだから精々私の役に立て!」
わめきたてるエルフの指揮官。俺にはもはやその言葉を聞くつもりはなかった。
どうもコクトーです。
『刈谷鳴』
職業
『最大
ビギナー(10) 格闘家(50) 狙撃手(50)
盗賊 (50) 剣士 (50) 戦士 (50)
魔法使い(50) 鬼人 (20) 武闘家(60)
冒険者 (99) 狙撃主(70) 獣人 (20)
狂人 (50) 魔術師(60) 薬剤師(60)
神官 (50) 剣闘士(60) 重戦士(70)
龍人 (20) 死龍人(20) ローグ(70)
魔導士 (90)
有効職業
聖魔??の勇者Lv23/?? 精霊使いLv32/40
舞闘家 Lv69/70 大鬼人 Lv24/40
上級獣人Lv17/30 魔人 Lv14/20
探究者 Lv34/99 狙撃王 Lv7/90
上級薬師Lv4/80 上級龍人Lv1/30
死霊術師Lv1/100
非有効職業
アーマーナイトLv1/99 剣闘騎士Lv1/99
呪術師 Lv1/80 死龍王Lv1/30
盗賊王Lv1/100 大魔導士Lv1/100』
個人的に年休だったので実質三連休……ということで珍しく平日更新です。
来週はきちんと更新しなければ…再来週には新たな冒険が待っている…(SV感)
ではまた次回




