僕は真の勇者だ!その3
「はぁ!」
「古里殿、もう少し下がらねばヴァルミネの魔法にあたるぞ!」
「そうですわ! 下がるまではマーサさん頼みますわ!」
「まかせときな! 『我が弾よ、その身を3つに』分裂弾!」
今の今まで僕が戦っていたモンスターの頭に3本の矢が突き刺さる。
それによってできた隙をすかさずバラーガが切りつける。彼の持つ大剣によって腕が飛び、そこから血が激しく噴き出す。モンスターは痛みにくるって3mを超す巨体で暴れだすが問題ではない。
落ち着いて後ろに回り込み首を斬る。宙を舞った頭は地面にポトリと落ち、数秒差で体の方も地面に倒れた。
そしてその体は煙とともに消え失せ、そこにはアイテムが残された。
「ふう。やっぱりボスモンスターは強いね。僕らの敵ではないけど」
「皆さーん怪我はありませんか?」
「大丈夫でしてよ! 私たちは後衛ですし、先ほどの魔物には遠距離攻撃の手段がなかったですもの」
「俺も別にダメージはないな」
現在、僕たちはダンジョンに潜っている。
そもそもなぜダンジョンにいるのかというと、話し合いの結果、初めて対面した次の日から、連携の訓練と僕たち個人個人の技量の強化を兼ねてダンジョンに潜ることになったのだ。そして今僕たちがいるのは、ダンジョン『タイラン』の25層。そのボス部屋だ。
ここまでは特にこれといった怪我もなく順調にこれた。キャラビーが力で押されてダメージを負ったのと、僕がキャラビーが解除する前の罠にかかってしまったのと、ヴァルミネの攻撃魔法にあたったのでダメージを受けたけどそれ以外はない。
25層に出てくるモンスター、ライトホーンの突進も別に流せないことはない。剣で流して後ろからスキルで倒す。この繰り返しだ。光魔法で攻撃するときもあるけどやっぱり剣のほうが勇者っぽいじゃん!
今戦っていたのはボスモンスター、ファイターベア……の、亜種だ。
普通のファイターベアはあんなに狂暴じゃないし体も2mくらいが普通だ。それでも僕達にはかなわなかったみたいだけどね。
ここまで来るのに約3か月かかってしまった。はじめのうちは連携もうまくいかず、さっきも言ったけどヴァルミネの魔法によく当たっていた。僕の身体能力じゃなければ大ダメージになっていたに違いない。まあ痛いものは痛いんだけどね……。
だんだんと打ち解けていき、ゆっくりとではあるが確実に上の層へと進んできた。心配事といえばキャラビーなんだけど……いまだに誰とも打ち解けてる気配がない。どこかで壁を作ってる感じがする。何度言ってもヴァルミネは奴隷扱いしてるし……。
みんなの問題もわかってきた。
バラーガは騎士道精神が強くてずるは許せない。冒険者ギルドでときどきもめごとに自分から首を突っ込んで解決しようとすることもあった。仲間としてはこれほど心強い人もいないんだけど搦め手に弱そうってイメージがしてしまう。
サラは力が弱い。回復役としてとても役に立つし、軽い魔法も撃てるから援護としては大丈夫だけど魔法が封じられたら真っ先に負ける気がする。
ヴァルミネは貴族の誇りが強すぎる。すぐケンカになるし文句も多い。最近は収まってきたけど最初のころは街の宿に文句を言っていた。ベッドが固いってさ。一応王都でもなかなかに高いランクの宿に泊ってはいるんだけど、それじゃ足りないらしい。お金はモンスターを狩って稼いでいるし、初めに王様に多めにもらったけど、有限だからランクを上げるなんてできないし、怪我とかしたら狩りにいけなくなるから下げないといけなくなるかもしれない。気をつけないと……。
マーサは大雑把すぎる。戦闘中は百発百中で正確に射抜くのに私生活は適当すぎる。料理なんか絶対やらせない。一回やらせたら調味料の量がおかしかった。なんでほとんどの調味料がなくなってんの? 十分にあったはずなのに。なんでそれで見た目だけはちゃんとした料理になるのさ! ヴァルミネがキレて大変だった……。
一番の問題はキャラビーだ。
いつもみんなにおびえている。僕が話そうとしても距離をとってしまう。これじゃあ攻略できないじゃないか! ヴァルミネにはこき使われてバラーガには気合が足りんと言われ、マーサは悪気はないんだろうが肩を叩いたりする力が強くて痛そうだし、サラはあまり関わっていない。僕が慰めてあげないといけないんだけど距離をとられてしまってダメだ。なんとかしないと!
「さて、休憩も終わっただろうしそろそろ次に行くか?」
「そうだね。みんなも大丈夫?」
「問題ありませんわ」
「大丈夫です。なにかあってもきっと神が守ってくださいますから」
「サラはそればっかだな。あたいも問題はねえ」
「わ、私」
「キャラビー、問題ありませんわよね?」
「……大丈夫です」
「じゃあ行こうか! たしか次の階からはモンスターがかなり強くなるんだよね?」
「ああ。もしかしたら俺と古里殿だけで抑えきれんかもしれん。近づかれたらマーサとヴァルミネで牽制しながらサラを連れて下がってくれ。態勢を立て直してから俺たちの援護を頼む」
「僕とバラーガならきっと大丈夫さ!」
「そうならいいんだが……次の階層もモンスターはライトホーンだ。見た目は同じでも気は抜くなよ」
「わかってるって。突進は正面から受け止めず確実に流すこと。それから魔法にも注意するんだよね」
ライトホーンは極まれにだけど雷魔法をつかうらしい。幸い25層で出てきた個体で使ってくるやつはいなかったけど26層ではそうはいかないかもしれない。
「雷魔法は私もある程度使えますが非常によけにくい魔法ですわ。スピードが速く、何より軌道が読みづらいのです。それでいて威力も申し分ないという魔法ですわ。使えるようになったときは歓喜に震えましたの!」
「あまり使えるものも多くないがゆえに防ぐ方法も見つけにくいからな」
「僕なら『雷切』を使って対処できるけど連発されると厳しいんだよね。『スキル』も万能じゃあない。身を引き締めていこう」
「「「おう(はい)(ですわ)」」」
こうして僕たちはアイテムを拾って階段を下り、現在到達の確認されている層の中でも最下層である26層に潜るのだった。
26層は雰囲気的にもまったく25層と変わりなかった。なぜか明るい洞窟だ。それどころか、まったく同じだ。入ってきてすぐにあれ? 転移でもした? と疑問に思ったほどに。
「キャラビー、罠はどうだ? 同じか?」
「えっと……見た限りは、その、同じ、です」
「なら気にする必要はないな。できればこのあたりで一戦交えておきたいところだが……」
そう呟いたバラーガの声が聞こえたのかそうでないのかはわからないが、洞窟の向こうから25層のより1回り小さいライトホーンが出てきた。
「なんか小さいね」
「だが油断はするなよ。解析でもライトホーンと出ているが用心しなければ」
「きますわ!」
「メェエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!」
ライトホーンはその場で雄たけびを上げると、こちらに角を向けてきた。そして、その角にバチバチと雷をまとい始めた。
そして頭を大きく後ろにそらし、振り下ろした瞬間、雷魔法が放たれた。
僕とバラーガ、ヴァルミネとサラの四人に同時に雷が襲い掛かった。
「『雷切』!」
「『サンダーシールド』」
「『大地よ、その力をもって我を護り給え』クエイク!」
「『神よ、偉大なる力で迫りくる魔を払い給へ』魔封壁」
全員がなんなくそれらを防ぐ。
そしてすぐに敵を見据えて剣を構えた僕が次の瞬間に見たものは……白目をむいて宙を舞っているバラーガと天井だった。
そこで僕の意識は途切れた……。
「何があった!? やべえんじゃねえの!? サラ、撤退!」
「二人とも意識がなさそうですわ! 急いでくださいまし!」
「サラ、さんの守りは私、が」
「『我其を運ぶ旅人なり。其を導く先人なり。今、大いなる力で彼の者たちを約束の場へと羽ばたかせん』転移魔法リターン・オン! 対象・パーティ」
そして彼らは一体どんな攻撃を受けたのかだれ一人理解できないまま、ダンジョンの外へと一時撤退したのだった。
次の日、目を覚ました僕たちは、今のままでは通用しないんだと知り、さらに強くならねばと決意を新たにし、『タイラン』ではこれ以上のレベルアップは図れないと考え、違うダンジョンを求めて全員で旅に出るのだった。
どうもコクトーです
活動報告でも書きましたが、遅くなりました。
3人目の話はいったんここでおしまいです。次回からは第3章に移ります
その前にスキルまとめでもやるかな?
要望あったらまた書いておいてください
ではまた次回