守護龍の試練です23
3分の2ほどまで回復していた魔力を半分ほど使って至近距離から収束させたブレスをその無防備な胴体にぶっ放した。
九頭龍王の無防備な胴体に『死龍のブレス』が直撃し、少しずつその表面の鱗を削り、その内部へとブレスを進ませる。体に噛みついたままの雷龍の頭による苛烈な反撃もあるが、一気に抵抗らしい抵抗を抜け、ブレスはそのまま体を貫通して奥に広がる森に襲い掛かった。
死龍の力によって牙がもつ硬さと鋭さが消え去り、それまで腹から感じていた鈍い痛みが面で潰されるような痛みに代わり始め、俺は天を仰ぐようにブレス吐き続けたまま顔を上に向ける。表面は頑丈な鱗に覆われているとしても内部がその限りではないのは九頭龍王も変わらず、ブレスは大きな抵抗もないまま九頭龍王の内側を蹂躙し、ついにはウォーターカッターさながらに左右に切り裂いた。
牙がなくなっても尚俺を殺すべく、雷を纏って噛み続けた雷龍の頭から力が抜け、上に向けたブレスに撃ち抜かれた頭が2つ地面に落下する。
傷口を圧迫していた雷龍の頭による攻撃がなくなったことで『再生』が命を削らせないとばかりに魔力を持っていき、『竜化』による『死龍のブレス』を吐き続けるだけの魔力もなくなってきた。
ブレスを止め、その戦果を確認すべく九頭龍王を睨みつける。半ばほどから真上に向けて左右に引き裂かれた巨体は、重力に従って左右に分かれるように倒れ始めた。
「「ガァア、アア、ア、アアア」」
ほぼすべての生気を失い、自身の体にもたれかかるようにして倒れそうな左右2つの頭が、最後の力でお互いの首元にその牙を突き立てた。
傍から見れば自決のようにも見えるその行動が意味するところは、やられてたまるかというその2本の頭の最後の足掻きであった。俺の体を噛み砕かんとしていた雷龍の牙よりもより深くまでお互いの首元に突き刺さったその2つの頭によって、左右に割れようとしていた九頭龍王の体が止まる。そして、最後の1本となった森龍の頭の魔法により、外側から伸びた2本の木に縁ってその体は押し戻された。
『死龍のブレス』によって焼かれた傷口がぶつかり、ぐちゃりと意味をなさなくなった内臓の一部を地面にまき散らしながら、傷口の付近から細い蔓のような枝が伸び、その体を手術のように縫い留め始める。まだ終わっていない。
『死龍のブレス』を吐くには魔力が足りず、単発型の発射であってもそれができるまでの回復を待っていたらこの手術は終了するだろう。正直、この手術が終わったところでまともに九頭龍王が回復するとはとても思えない。頭は5本胴体から離れて落ちており、2本は体が割かれるのを止めるために命を払ってお互いを食い合い止めている。手術が終わり、時間が経てば回復するかもしれないが、すぐに回復できるようなものではないだろう。
手っ取り早く枝を燃やす手段として『火炎壁』を発動した。しかし、見るからに細く頼りなさそうなその枝を焼き切るための火力がなぜか足りない。周りの森を焼くことはできる。そこから飛ばされた葉を灰にすることはできる。しかし、なぜかその枝を焼き切ることができない。
他の火を扱うスキルを思い浮かべてみるが、頭の中で鳴り響く「ダメだ」という言葉がそれを使うことを躊躇させる。『ファイア』も『バーストショット』もあれを焼き切るのには足りない。
頭の中に響いたその言葉を信じ、俺は地面を蹴って最後に残ったその頭の首元に噛みつく。
ガキン。
首を狙った俺の噛みつきは肉ではなく空を噛むだけに終わった。首元を食い破る予定だっただけに噛み合わさった歯が痛い。
攻撃が届かなかった理由は俺の尻尾にあった。俺の意思とは関係なく、ピンと伸びた尻尾の先に絡みついた1本の枝。九頭龍王の体を縫い付けていた枝がその肉を引きちぎり、俺の尻尾を掴んで前に進むための推進力を殺していた。
「ガ、ァ。ア」
噛み殺すはずだった九頭龍王の最後の頭である森龍の頭は、残りのすべてを口元に魔力として集めていた。この状況になって、九頭龍王は命を放棄したのだ。その理由は1つ。俺を殺すためだ。
もう後は発射するだけという状態にまで魔力が高まった九頭龍王のブレス。死龍の力があったとしても森龍のブレスをこの距離で受けたら本当に死にかねない。地面に撃ち落とされ、そのまま木々による串刺しが待っている。
返しに魔法を準備するような時間はなく、『竜化』したままの巨体で尻尾を掴む枝を振り切って攻撃をかわすようなことはできない。だが『竜化』しているからこそこの状況をなんとかする一手が打てる。
カチン。
先ほどとは違い、意図して空を噛んだ。
人ではなく、獣、そして竜だからこそできる即効性の高い一撃。
「『ファングショット』」
半透明な牙が、最後に残ったその頭を噛み千切る。落下していく頭と共に口元に集められた魔力が、発射されるそのわずか手前だったその魔力が霧散していく。
地面に落ちる頃にはすべての魔力が霧散し、そしてその頭が崩れていくのに合わせて手術を止めた本体も再び左右に割れ、九頭龍王自身によって作られた森の木々をなぎ倒す。自重によってなんとかつながっていた部分すらも千切れていく。
ズシンと大きな音を立てながら九頭龍王の体が地面に倒れた。そして森と共にこの空間からゆっくりとその姿を消していく。俺ももうこの状態でいる意味はないだろう。
腹に開いていた傷口が塞がっているのを確認して『竜化』を解除する。この状態であれば致命傷にはならない傷でも、その穴が開いたまま人に戻れば場所にもよるがそれはすぐにでも致命傷に早変わりするだろう。
『職業:聖魔??の勇者Lv20になりました。
ローグLv64になりました。
龍人LvMAXになりました。
精霊使いLv32になりました。
舞闘家Lv59になりました。
大鬼人Lv20になりました。
上級獣人Lv15になりました。
魔導士Lv81になりました。
死龍人LvMAXになりました。
魔人Lv12になりました。
探究者Lv31になりました。 』
『龍人、死龍人がLvMAXになったので狙撃王、上級薬師を有効化します。
職業:上級龍人、死龍王になりました。 』
『スキル:精霊魔法光属性Lv1 獣の守りLv1 死龍尾 死龍翼 体力消耗軽減(弱)Lv1 魔力消耗軽減(弱)Lv1 消耗軽減(弱)Lv1 を習得しました。 』
スキル:ブレス強化Lv3 竜化LvMAX ブレイクショットLvMAX 強鬼化Lv5 魔力操作Lv1 を習得しました。』
『スキル:魔力操作が魔操作に吸収されました。 』
『スキル:魔操作Lv4 を習得しました。 』
『スキル:精霊魔法光属性が消滅しました。 』
『条件:竜化LvMAX 龍人LvMAX を達成しました。
条件:竜化LvMAX 死龍人LvMAX を達成しました。 』
『エラー:条件を同時に達成したことによりエラーが発生しました。
エラーの内容を確認中。……習得対象は人間になります。審議が発生しました。
……スキルの分離を実施……成功しました。 』
『スキル:龍化Lv1 死龍装甲(全) を習得しました。 』
『Congratulations! あなたは見事守護龍の試練を達成しました。
試練達成の報酬をお受け取りください。
また、??、!?による介入の跡を発見しました。報酬を追加します。お受け取りください』
人の姿に戻った俺を待っていたのはしばらくなかった大量のレベルアップとスキルの取得。そして試練達成のアナウンスだった。気になることはあるし、スキルも調べたいのだが、新たに得た職業のうちの片方が一番の爆弾であるような気がする。
守護龍の試練だといきなり穴に叩き込まれたせいで、クリアしたら一発ぶん殴ってやろうという怒りがモチベーションを保っていたのも要因なのか、死龍人の職業はこの試練の間だけでカンストまで上がりきった。その結果が死龍王なのだからどうしたものか……。
小さな魔法陣によって報酬として召喚された3つの宝箱。その中にあるものに大いに期待しつつ、それと共に広場の奥の壁に現れた大きな洞窟に、嫌な予感がした。
どうもコクトーです。
『刈谷鳴』
職業
『最大
ビギナー(10) 格闘家(50) 狙撃手(50)
盗賊 (50) 剣士 (50) 戦士 (50)
魔法使い(50) 鬼人 (20) 武闘家(60)
冒険者 (99) 狙撃主(70) 獣人 (20)
狂人 (50) 魔術師(60) 薬剤師(60)
神官 (50) 剣闘士(60) 重戦士(70)
龍人 (20) 死龍人(20)
有効職業
聖魔??の勇者Lv20/?? ローグ Lv64/70
精霊使いLv32/40 舞闘家 Lv59/70
大鬼人 Lv20/40 上級獣人Lv15/30
魔導士 Lv81/90 魔人 Lv12/20
探究者 Lv31/99 狙撃王 Lv1/90
上級薬師Lv1/80
非有効職業
呪術師 Lv1/80 死霊術師Lv1/100
アーマーナイト Lv1/99 剣闘騎士Lv1/99
上級龍人Lv1/30 死龍王Lv1/30 』
長きにわたり続けてきた守護龍の試練もようやく終わりました。
まあ実はもう少しだけ続くんじゃよ(2話予定)
久しぶりのレベルアップ回。やっぱり管理が大変ですね。
書き始めた頃の自分に何でエクセルではなくテキストファイルで管理していたのかとド叱りたいくらいです。
ではまた次回




