コロイドの町の会議
防衛戦があってから数日後、俺ヘレンと2~4部隊長、冒険者ギルドの幹部3人とギルドマスターのクダラ・モスカの8人が、元領主の館、今回の戦いで騎士の制止を振り切って町から出て死んだ、カテーネ・モスカの館の応接室に集まっていた。
「全員揃ってるし早速本題に入るが、今日の集まりの趣旨はわかっているな?」
クダラ・モスカが話し出す。
この場にいるやつなら全員なんで集められたかわかっている。それは、新しい領主をどうするか、だ。
もともと外の貴族との会合以外は騎士団が分担してやっていたので仕事の引き継ぎなどはほとんどない。やつがやっていたのは貴族との会合(月に1度の賄賂とごますりのパーティー)と報告書の作成(俺らの作ったやつを偽造して問題なしに)、それから税金のピンはねくらいだ。この時点でおかしいのだが……。
少しでもピンはねしないように予算はいつもぎりぎりまで当てるようにしていた。それでもとってくんだから目も当てられない。
報告書は領主の印鑑がいるのでどうしようもなかった。こんなとこまで査察に来るほど王都の連中は暇じゃない。何度問題点を書いて怒鳴られたことか……。
「領主の件だろ? 仕事には問題ないとはいえいつまでもこのまま領主なしってのはまずい。いつ外の貴族が手を出してくるかわからねえしな」
「私が、亡き父様の跡を継ぐ」
一番最悪なことを言いだしやがった。
「たしかにもともと私の父様はこの町出身ではない。しかし、そんなこと関係なく民のために力を尽くしていた」
「いつんなことやったよ。管理してた俺らの記憶じゃ来年に回す予定の分は全て私腹を肥やすのに使って、既に用途が決められたものもパーティーとか贈り物、自分用の宝石類に使ってただけだ」
「自分たちの不正を全て死人のせいにする気か?」
「ぁあ?」
「父様からよく聞いていた。貴様らが民のための資金を自分たちの都合がいいように防衛費に多くあてているせいで色んな事業ができないでいるとな!」
「おいメグ、予算管理の帳簿もってるか? なけりゃ持ってこさせるが」
「あるわよ」
メグは持っていた袋から帳簿をだしてクダラに見せる。
「こんな嘘っぱち信じるとでも思ったのか!」
「嘘じゃねえよ。それより、お前が領主になったらギルドはどうなる? 外から呼ぶ気か?」
「いや、私が務める」
「ギルドマスターと領主を兼任する気か?」
「それしかないだろう? 外から来た人間にここのギルドはまかせられない」
なに言ってんのかわかってるのかこいつは? ギルドマスターと領主の兼任。それが示すことは1つ。領主という権力がギルドに、またはギルドが領主に介入するってことだ。
この町では腐ってたからあれだが、本来ギルドは独立組織だ。あらゆる権力に介入してはならない。それは逆もまた然り。
「だから私が両方やるしかないだろう? ここにいるのはギルドの幹部たちだが全員納得している」
嫌な笑みを浮かべながら頷く幹部たち。甘い汁を吸わせるって約束でもしてんだろうな。
「たとえそうだとしても、ギルドと領主は完全に別のものとして扱ってもらうからな。前みたいに問題起こしたやつを領主権限で解放なんかすんじゃねえぞ」
「問題を起こした連中なんかいなかったじゃないか。君たちが職権乱用していただけだろ?」
「町中で乱闘騒ぎ起こすのが問題じゃないとでも思ってんのか?」
「彼らはルールにのっとって決闘していただけだ。と、今はもういいだろう。とにかく、私がこの町の領主を」
「それはないです」
突如部屋の扉が開いて3人の男が入ってきた。
一人は全身を白銀の鎧で包み、背中には身の丈ほどもある刀身の赤い剣を背負っている。
他二人はそれぞれ軽装ではあるが、片方は黄色い手甲、グリーブをはめており、頭には数本の鉢巻を無造作に巻いてる。もう片方は巨大なハリセンをもっている。正直異様なパーティーだ。
「誰だ! 今は大事な会議中だぞ!」
クダラが怒鳴り散らす。うるさいなーとも思うが今回はこいつが正しいからなんも言わない。会議中にいきなり入ってきたこいつらが悪い。
「我々は王都より派遣された者です。今回の件で来ました」
「町の防衛は成功してる。死者は騎士数名と領主、それからその周りが何人か。町への被害は0。報告したと思うが?」
「あー、それは大丈夫です。今年の王都への上納もなしでいいということを伝えるのも任務です」
「本題に入らせてもらう。ここの町の領主はこちらで決定することになった」
「それには及びません。私が父様の跡を継ぎますから」
「それだけはないですよー。私たちはー王都から役人に関することとー、ギルドに関することのー両方できましたからー」
「改めて、王都より依頼で参った、パーティー『レーザー』だ。冒険者ギルドの総マスターに頼まれてもいる。連絡は5つ」
「まー2つ以外はーそこのクダラさん関係ですよー」
「私の?」
「うむ。まず、1つ目としてギルドマスター解任を命ずる。これは決定事項だ」
「なぜ私が!」
「親が領主なのをいいことにその権限を利用していましたよね? ギルドはそもそも独立組織。権力の介入は認めません。よってギルドマスター解任+ランクをFに降格。これが1つ目」
「2つ目はーあなたの実家、モスカ家のー爵位剥奪ですー」
「税金の不正利用、不正な搾取、仕事の放棄、権力の悪用、不正な人身売買、書類の改竄などなど、数えればきりがないほどに埃が出ましたよ。さらに今回の件でまともに対応の指示を出さず、ありもしない用事の為に制止を聞かずに飛び出して多くの家の者が亡くなりました。その一部の家から色々ときているのですよ」
「そん……な……」
「あなたに関してはこれで最後ですが3つ目、あなたの家がでっちあげで回収した武器を返してもらいますよ」
「な、なにを言ってるんだ! そんなものありはしない!」
「元Sランク冒険者、ユウカ・コトブキ様より過去に長年愛用していた武器を取られたと証言があるのですよ。ちなみに今の彼女は王都の騎士訓練所所長。なにかしようとしても無駄ですよ」
「彼女は有名なんですよー。女性にしてはじめての訓練所所長でー、実力も申し分なくー、あなたに剣を奪われてからも討伐依頼をしっかりこなす。そしてーその美貌も相まってー、騎士のやる気のもとになってたりもしますー」
「そんな彼女の武器を不正に奪ったんだ。それだけでも死罪は確定したようなものだ。それを生かしてもらっているだけでありがたいと思え。それに今回の件でギルドがなにもしなかったということはすでに報告が来ている。それで自分は逃げようとしていたと? 許されるとでも思っていたのか?」
「とゆうことで、あなたに関して3つ目、あなたに出頭命令が出てます。もちろん王都に。その後の対応は知りません。まあとにかく行きますよ」
「私はそんなことは認めない!」
クダラはその男たちに向かって走り出した。その手には忍ばせておいたのだろう短剣が握られていた。武器の持ち込みは禁止のはずだろうが! 近衛は何やって……あ、こいつの手の者か。
そうこうしているうちにあと少しで彼らの下に到達してしまう。まずい!
「なめないでもらえますかー?」
次の瞬間、ハリセンが振りぬかれ、クダラが崩れ落ちた。体は痙攣してブクブクと泡を吹いている。
「いやー、私たちはーこれでもS-やA+の冒険者3人パーティーですよー。あなたみたいにー、人の武器の力と金で上がった連中と一緒にしないでもらえますかー?」
「とりあえず拘束しといてください」
「うむ。『汝、其を縛れ』」
手甲をした男の見たこともない魔法で頭に巻いていた鉢巻が取れてクダラを拘束する。意識のないクダラは抵抗もできずに捕まった。
「これで大半は終わりました。残る用件は2つです。1つはヘレンさん、あなたにです」
「俺か?」
「あなたをこの町の領主として任命するそうです。ですが、実際にやることはこれまで通りでいいと。報告書の押印をあなたに任せるだけです。貴族とのやり取りとかはしてもしなくてもよいとか。あちこちの貴族がここから手を引いてますし」
「それはどういうことですか?」
「彼と一緒にご子息の亡くなったニトー家を筆頭にあちこちの貴族から送られていたご子息が既に家に戻っています。それに援助の打ち止めなど、もはやこの町に手を伸ばそうとしている貴族なんかいませんよ。いつまた襲われるかもわからないような町ですから」
「もう1つはお願いなのですがー、今回の件で冒険者が協力してますよねー? 誰ですかー?」
「最近やってきた冒険者ですが?」
「それが誰かを聞いているんですよー。登録してある冒険者なら場合によってはランクアップ、登録してないなら貴族が抱え込もうとするのがわかってますし、ギルドとしては確保しときたいんですよー」
「個人名までは教えられない」
「なぜですかー?」
「その者たちとの約束だからな。今回の件で多大なる恩がある。そいつらは自由に生きたいようでな、すでにこの町にはいない。どこに向かったかもわからないし、そもそもよくわからないやつらだった」
「ただ登録はすでにしてたみたいよ」
「まーそれだけ聞ければいいですよー。本人たちが嫌がってるのに無理して聞き出すのも嫌ですしー、なにより、自分の名前を無闇に言いふらしまくるような輩ではSにはなれませんからー。それならいらないですー」
「地位に固執するような奴ではいずれくる壁を越えられない。我もまたその1人ではあるが」
「あなたが固執してるのは地位じゃなくて小さい子でしょーがー。このロリコンめー」
「小さきものの何が悪い! あの愛らしさを守るためであれば我は悪魔にでも魂を売ろうではないか!」
「そこまでにしなさい。では用件は以上ですので私たちはこれで。一月もしないうちに新しいギルドマスターが来ますから。さ、剣を回収していきますよ」
ハリセンと鉢巻の男が部屋を出る。もう一人は俺のすぐそばまでやってきて耳元でボソッと告げた。
「私たちのギルド内にもここの出が何人かいます。心配していました。無事でよかったです。ここの町のことはお願いしましたよ」
言うだけ言って帰っていった。茫然としている俺たち。ここは俺がしめるしかないか。
「とりあえず新しく領主になるのは俺だそうだが……反論はあるか?」
誰も何も言わない。幹部連中は自分も罰せられるんじゃないかって顔してるけどな。
「よし。じゃあ明日正式に発表とする。仕事に関しては今まで通りにする。援助がなくなるそうだから予算の割り振りは苦しいかもしれんが気を引き締めていくぞ。ギルド連中、余計な介入は俺が領主になったからには認めない。ギルドは完全に独立した組織だ。お前らが中心となってちゃんとしたギルドの経営をしろよ。報告書には俺らのもお前らのも良くも悪くも偽りなく書くつもりだ。その辺は覚えておいてくれ。以上解散!」
最後の方は脅しみたいになったけどこれでいいはずだ。これから忙しくなるな……。仕事は部隊長で分担してやっていくとするか。まずは明日の準備だな。
そしてコロイドの町は新しく生まれ変わっていくのだった。
どうもコクトーです
これで2章は終了です
もしかしたらもう一話入るかもしれませんが…
入らなければ3章突入!
の前にメイのスキルまとめをやります
色々と感想で聞かれたことの一部はそこで説明入れる予定です
もしまだあれば書いといてください
感想の返しで説明かスキルまとめで説明かどっちかします
ではまた次回




