エルフの森です4
「ようこそ。私はエンシェントエルフ。守護龍様がお待ちですよ。白虎様」
エンシェントエルフに迎えられ、ヒメたちは守護龍の下へ案内されることになった。
ヒメたちが転移してきたのは小屋の中だった。床に転移の魔法陣が描かれ、他には何も置かれておらず、開放されている窓からは巨大な木が見えており、そこが守護龍とエンシェントエルフのいるヤカリ森国の中心地であることは、約2年の間里で暮らしてきたエルメラが一番理解できた。
「外に出たらすぐに守護龍様が見えるのだけれど、やんちゃするようであれば私が潰すからそのつもりで」
エンシェントエルフの有無を言わせぬ迫力に、里長に対してもへらへらとしていたエルメラも、自然と背筋がピンと伸びていた。
扉を開けたエンシェントエルフに促されて外に出てみると、巨大な樹木と、その根元にいる巨大な龍が目に飛び込んできた。里にいた時から見えていたその巨大な樹木は、こうして根元から見るともはや壁のように見えていた。中心付近から見ているから何とか両端まで見えてはいるが、その太さはエルメラを何百人と並べてもまだ足りないほどで、とてつもない年月をかけて育ってきたのだろうということしかわからなかった。
「あれが……守護龍様?」
その巨大な樹木と一体化するような龍。見方を変えればその龍の背から巨大な樹木が生えているようにも見えるその巨体は見えている部分にも苔がびっしりと生えており、同じように長い年月を生きた龍であることを感じさせる。
「ほら、固まってないで。白虎様たちが行ってしまうわよ?」
「ふぇ? っておいてかないで!」
あまりの光景に唖然としていたエルメラはエンシェントエルフに話しかけられるまで気づいていなかったが、ヒメたちは一足先に守護龍の頭の側にまで向かっていた。慌てて後を追うエルメラだが、守護龍の下へ近づくにつれて、守護龍の存在感に圧倒され、自然と足が止まってしまっていた。
「やっぱり普通のエルフでは近づくことすらできないみたいね」
「……れ……」
「喋ることも厳しいとなると強めにかけたほうがよさそうね」
エンシェントエルフがその場に固まるエルメラの肩に手を置くと、金縛りが解けたかのようにエルメラが動き出した。どっと汗をかき、地面に倒れ込んでしまったエルメラだったが、先ほどまでのような感覚はだいぶ和らいでいた。
「守護龍様、マジぱねー」
「ふふ。おもしろい感想ね。そんなことを言ったのはあなたが初めてよ」
「それはどうも。にしても、あの中を平然と進む彼らはいったい何なんですかね? あーはやく調べたい」
「ただのモンスターではないというのは既にみているんじゃないかしら? 嘘か誠か、白虎様はあの守護龍様の元主だというくらいよ」
「どう見ても白虎ちゃんの方が幼いんだけど?」
「私に聞かれてもわからないわよ。30分くらいは大丈夫なように魔法をかけてあげたけど、あなたは私の張った結界の中から決して出ないようにね。何が起こるのかまったくもってわからないから」
「死にたくないですからね。むしろよろしくお願いします」
「素直でよろしい」
エンシェントエルフは、既にこの辺り一帯に張っていた雨よけの結界に干渉しないようにしながら、守護龍の近くまで続く結界を張り、その中をエルメラとともに進む。既にヒメたち3体は守護龍の側数mというところまで進んでいた。
エルメラを動けなくしていた正体は、守護龍が無意識に放つ魔力と威圧だった。威圧と言っても、オーガ系統や獣型のモンスター意図して使うスキルとしての威圧とは違い、その存在そのものが持つ無意識の威圧だ。意図して抑えておかなければ漏れてしまうほどの強大な魔力が重さを帯びたと考えるのが近いだろう。守護龍と言う絶対的強者の前では、生半可な存在は近づくことすらできない。
エンシェントエルフの張った結界と魔法による防御を突然切られてしまったら、今のエルメラでは、認識するよりも早く死を迎えてしまう。それほどの圧を放つ存在が守護龍と呼ばれる龍であった。
エルメラとエンシェントエルフが遅れる中、一足先に守護龍の下へ到達していたヒメたちは、無言のままじっとヒメを見つめる守護龍に対して、こちらも一言も発せず、ただじっとしていた。
「おや、守護龍様どうかされました?」
2体が無言で向き合っていると、エルメラとエンシェントエルフもすぐ近くまでやってきた。エルメラはエンシェントエルフの張った狭い結界の中ではあるが、その中でも完全に影響を0にはできていないようで、普段よりも息が荒くなっていた。それを察知したゼルセがエルメラの前に立ち、自身と、地面にクエイクで作った机の上に寝かせたメイとを一緒に覆うように結界を張る。魔法と、二重の結界が合わさり、エルメラも完全ではないが、自然と息が整っていった。
「かう」
2人がやってきてからも1分ほどお互いを見つめあっていたが、ヒメが短く鳴いて守護龍の方へ歩き出したことで終わりを告げる。ヒメが近づこうとするのを止めるためエンシェントエルフも動きだしていたが、守護龍に目で制されていた。
「かうかう」
守護龍の鼻先にまでやってきたヒメは、短い前足でポンポンとその顎を叩いた。そしてねぎらうように横に振って顎をなでる。
「守護龍様!?」
エンシェントエルフの驚く声で前足を離したヒメの横に、ボトリと水の塊が落ちた。慌てて後方にジャンプして距離をとると、ヒメがいた位置にも同じようにボトリと水の塊が落ちる。ぼとぼとと地面に落ちるそれは、守護龍の瞳から流れ出ていた。
「主よ……辛かったろうに。苦しかったろうに。最後の時を側にいられなかった不忠者であるわしを、許してくれるというのか?」
「かうかう。かうかーう」
「『今はもう主ではない』か。姿も変わり、記憶もほとんどなくしておられたとしても、その魂の輝きは決して変わることはない。だが、そうなのだろうな。既に主は死んだ。今のお主はまた別の存在だ」
守護龍は瞳からあふれ出る涙が止まると、その視線をゼルセとメイの方へ向けた。
「やはり最後まで主とともにいたのは鬼か。しかし、あやつもきちんと負けたようだ。くっくっく。あれほどわしに対抗心を燃やしていた鬼がわしと同じ種の力を取り込むとはな。強くなるためとはいえ己を捨てすぎではないか?」
「かーうかうかう!」
「自分がやったと? 種と種の配合。多くの種族を従えた主らしい能力というわけだな。そして……」
守護龍の瞳の色が深いエメラルドグリーンから、黄色に一点の黒色という、別の生物を思わせる色へと変わる。しかし、それはほんの数秒だけのことで、ヒメに視線を戻す頃には元に戻っていた。
「『西方の神の加護』。あれがいまだ残っていた守手を、そして主を討ち果たした戦士か。起きていれば話を聞くところだったのだがな」
守護龍がエンシェントエルフに視線を向けると、エンシェントエルフはエルメラの方に手を向けて話し出す。
「守護龍様、お話中申し訳ありません。私の魔法と二重の結界を張ってはありますが、あまり長時間ここに置いておくのはやはり限界がありそうです」
ゼルセの陰に隠れてはいたものの、エルメラにはかなり負担が激しかったようで、再び息が荒くなっていた。
「その様子では抑えても無理そうか」
「抑えていただければ多少時間は延ばせますが、それもそう長くは続かないかと」
「だろうな。エルフよ、少し抑える。鬼の陰からでてくるがよい」
守護龍が漏れ出る魔力を抑え込み、エルメラを促す。少しふらつきながらも、エルメラはゼルセの腕にもたれかかりながら前に出てきた。
「こんな格好で申し訳ないです。今座ると起き上がれなくなりそうでして」
「エルダーでもここまで来た者は数えるほどしかいませんからね」
「そうやすやすと来ては何のための守護かわからんのでな。まあいい。エルフよ。今回の件、白虎の発見者はお前だそうだな」
「は、はい」
「わしの個人的な頼みを叶えたことに褒美をとらす。エンシェントエルフ」
「は」
エンシェントエルフは、アイテムボックスから、先ほど守護龍が切り落としたばかりの爪を取り出した。
「この爪を与えよう。正真正銘、わしがさっき切り落とした爪だ。龍の素材というだけでも価値はあろう」
エルメラはエンシェントエルフの手元に目が釘付けになり、思わずよだれが垂れた。しかし、頭を振ってよだれも拭うと、大きく深呼吸をして、己を振るいたてるように頬をパンと叩いた。
「えっと、本音はすっっっっっっっごいほしくはあるんですが、黄龍ちゃんとの先約がありますから辞退します。その代わり、そこに寝ている彼を助けてもらえないでしょうか?」
エルメラの問いに、唖然とするエンシェントエルフをよそに、守護龍は大声で笑いだした。
どうもコクトーです。
今回もメイ視点ではないのでステータスはなしです。
ちょっと間に合いませんでしたが誤差と言うことでお願いします。
何でもしま せん!
前話の時は触れられるような状態にありませんでしたがようやく上向きだしました。
プロ野球が始まりましたね! ツイッターでは阪神のことばかりつぶやいています。
7、8月は多残業になるという宣言を上司からされていますが、野球とカフェオレがあれば頑張れる…
ではまた次回




