表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
416/593

エルフの森の変態鍛冶師

今回はメイ視点ではございません。ご注意ください。


「なんなのよこの惨状は!」


 私が隊長の指示を受けて、変態鍛冶師ことエルメラの工房を訪れた時、考えるよりも先に出てきた言葉がそれだった。彼女がこの里に来てからの2年間で何十度と特殊な植物と魔法を使って補修が行われて頑丈に作られているはずの部屋の壁はところどころがはがれおちており、補修に使われた、大地から伸びる太い根っこも根元から崩れていた。部屋の中で火事が起きたかのように天井まで黒くなっているが、一方で地面には無傷の書類が散乱し足の踏み場もろくに見当たらない。その数々の書類の下には彼女が製作でつかっていたであろう素材や、生活の跡として服や食料なんかがぼろぼろこぼれており、目も当てられない状態だった。


 彼女がこの里に来てから約2年。なした功績の数百倍の数の問題を起こしても、ここに拠点を構え続けていられるのはひとえに彼女がなした功績がそれだけ大きいからだ。

 彼女はもともとこの里どころか、ヤカリ大森林の外で生まれたエルフであり、この里に現れた当時、よそ者ということで歓迎されているとはとても言えないような状態だった。今でこそよそ者にそこまで厳しく当たるようなことはなくなっているが、当時は悪意ある人間の手で外部から持ち込まれた虫のモンスターが森を荒らしており、その対応に里中がピリピリとしていた。

 森が荒らされてるとは言っても、国や里全体が揺らぐような壊滅的な被害があるわけではなかったから守護龍様に頼るようなことはせず、地道に1体1体狩っていたから、それでストレスが溜まっていたというのが大きな要因だとは思う。森を荒らすために放たれた虫のモンスターは、頑丈なあごと硬い外殻を持った甲虫のモンスターで、豊富な知識を持つハイエルフたちも知らないモンスターだった。私たちが全員比較的得意で防衛の要にもなっている弓と植物を操る魔法が効きづらく、後になってそのこと自体がストレスになっていたと皆で反省したのも遠い過去のようだ。

 彼女のなした大きな功績の1つがそのモンスターに特攻効果を持つ弓矢の作成だ。

 村にある唯一の宿の一室という、とてもではないが鍛冶仕事をするには向かない、というか設備も何もないような場所で、私たちが狩ってきた甲虫の素材から特攻武器を作り出してしまったのだ。一民間人でさえも弓の手入れができるように習う我々にとって、それがいかにすごい技術であるか十分に理解できた。


 彼女の協力を得て、里周辺の森から甲虫を一掃できたことで、彼女は正式に里から感謝状と工房を送ることになった。金属を扱うことができる職人が里に誰もいなかったというのも大きかったがその実、彼女の技術が惜しかったというだけだ。昨今のように魔族が魔王の名のもとに国境なんておかまいなしと言わんばかりに暴れまわる現状とは比べるまでもないが、当時も国境付近でのいざこざは尽きなかった。守護龍様、エンシェントエルフ様のご尽力により大きな被害は出ていなかったけど、当時からいつか大きな戦に備える必要があると説き続けていらっしゃったのもあって、その助けになるような人物を放り出すなんてできなかった。

 実際、彼女がその工房に拠点を構えてくれたおかげで助かったことは何度もあった。しかし、たまたま彼女のことを知る外から来た商人の話を聞いて、彼女がこの里に来た目的が明らかになった時、里の意見は真っ二つに割れた。


 彼女は商人ギルド、職人ギルドの中で、いい意味でも悪い意味でも有名だった。

 片方はもちろん私達も確認したその腕のすごさだ。私たちのために作りだしてくれた武器はほとんどがあの甲虫のモンスターを素材としていたからそこまでのものではなかったという話だけど彼女が本気で作った武器は、素材に非常に高価な物を使用していたとは言え金貨数百枚にまで達したこともあるほどらしい。低いものでも金貨数枚はくだらないとのことだ。

 その一方で悪い意味というのは彼女が狂っていると言ってもいい程の龍マニアだということだ。


 彼女がこの里にやってきた理由、それは守護龍様の素材を使って武器や防具を作ることだった。

 商人から以前その思いが強くなりすぎたがゆえにとんでもない事件を起こしたという話を聞いて、本人に問いただした。するとその事件の件もそうだし、理由についてもその通りだとはっきりと断言するくらいだった。別に隠そうとかそういう思いはまったくなかったのだろう。聞かれなかったから言わなかった。ただそれだけだ。

 彼女曰く、別に守護龍様を殺して素材にしてしまいたいだとか、ヤカリ森国に仇なそうとかそういう気はまったくないらしい。年齢を重ねている者ほど信用ならないと疑ってかかっているが本心から言っているというのがまたややこしい。

 この里からそう遠くない場所にドラゴンが出没するダンジョンはある。しかし、龍は今のところ一度足りとも確認されたことはない。エンシェントエルフ様のかつてのお仲間のパーティによって攻略されているから今後も確認されることはないだろう。何せ魔改造を施したうえで試練と言う形で利用しているようなダンジョンだ。そこをさらに強力なモンスターがでるようにする必要はどこにもない。

 守護龍様は、そこらのモンスターとは格が桁違いだ。我々にとって絶対的上位の存在でもあるエンシェントエルフ様ですら足元にも満たない。そんなお方の爪やウロコともなると、そこにあるだけで周囲に影響を与えてしまう。それは年月が経つことで剥がれ落ちた物であっても例外ではなく、エンシェントエルフ様が適切に処置を施してくださっている。彼女はそうした素材を武器防具にしたいと言っているのだ。


 彼女は別にその武器防具を使って冒険者として名前をあげようだとか、鍛冶師としてそれだけの素材を取り扱ったという実績をもってどこかの貴族や国に売り込みをかけようだとか、作った武器防具をオークションなりで売り出してお金を稼ごうだとか、特定の異性に貢いで気を引こうだとかは一切考えていない。本当にただただ守護龍様、龍の素材を使って物を作りたいだけなのだ。


 結局、エンシェントエルフ様の許可が下りなかったのだが、それでも諦めずにこの里に2年も留まり続けているというのが彼女が狂っている証拠だろう。変態鍛冶師というだけあって、生活能力が破綻していることが早々に発覚し、死なせないために定期的な見回りが必要になったのがいまだに残念でならない。


「エルメラ! 生きてるんでしょうね!」


 ふと我に返った私が部屋中に響く声で叫ぶも、返事は返ってこない。慌てて数度声をかけると、部屋の隅の方でがさりと何かが崩れる音がした。


「エルメラ?」


 山になった資料の中からもぞもぞとエルメラが姿を現した。


「んぁー。お、フィアーじゃないか。また武器の手入れでも頼みに来たのかい? もーだめだなー。自分の武器の手入れは自分でできるようにならないとだめだよー。古文書にもそう書いてある」


 何事もなかったかのように地面に散らばる物をかき分けてやってきた彼女、私は胸倉をつかんで一発自慢の頭突きをくらわした後、部屋の外に放りだした。


「今から掃除するからその間外で待ってなさい! このダメエルフが!」


 バタンと力いっぱい扉を閉め、私はこのゴミ屋敷の掃除に取り掛かる。無駄に防音がしっかりしているこの工房の扉を閉めてしまったことで、私は放りだしたエルメラの様子に気が付かなかった。


「いったいなー……すんすん。このかすかだけど香る匂いはまさか! こうしちゃいられない。待っててねぇ!」


 私の知らないところで、彼女は森に突撃していった。

どうもコクトーです。


今回もメイ視点ではないのでステータスはなしです。


先週は投稿できずすいませんでした。ちょっと今後のことを考えて予定してた内容から変えたら書ききれなかったんです…。

ようやく緊急事態宣言も解除となりましたが、こういう病気って第2波の方がやばいって聞きますし油断せずにいきます。

ちょっとPCの調子があまりよろしくないのが気がかりですがまあなんとかなるでしょう!


ではまた次回。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ