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ある龍の見た夢の話

今回もメイ視点ではありません。ご注意ください。


「なぜだ! なぜわしがここを離れねばならぬのだ!」


 またこの夢か。まだわしが若い龍であった時代に起きた、永遠に忘れられぬ出来事の夢。何度この夢を見てきたことか。もはや数えることはやめてしまった。しかし一千の年を超えておるのだ。致し方ないことか。


「理由を言わぬとも、賢いお主であれば理解しているだろう」


「わからぬ。いや、わかりとうない!」


「そうわがままを言うでない。我にとっても苦渋の決断なのだ。お主にしか頼めないことだ」


「その頼みとはここを出て行けということであろう! そんなものは頼みでもなんでもない。わしは自他ともに認める主を守る最後の要。そんなわしをここから追い出そうとはどういう了見なのだ!」


 あの時、主はこのわしにダンジョンから出よと、はっきりとそう言った。当時の若かったわしは感情に任せて主に詰め寄ったが、結局のらりくらりと言いくるめられたのだったな。


「いいか、既に一部の者はここを離れる算段をたてている。既に去った者もいるし、我を殺そうと目論むものもいたと聞いた」


「そうとも! 既にスプリガンの王は鬼と犬が潰したし、狼の王はわしが話をつけた。まだ表立っているわけではないが、蛇の王も、鳥の王もわしの睨みがきいているからこそ動いておらんだけだ。そんな状況下でわしがここを離れねばならぬことがやはり納得いかんのだ!」


「仕方がないだろう。配下が見切りをつけねば生きてゆけぬような状況を作ってしまったのは我なのだ。一部の少数種族、我のほかに王を持たぬ種族たちには離れたとしてもどうすればよいのかわからん。ここにいれば共食いか、はたまた餓死か。いずれにせよろくな結末が待っていないのはわかっている。でも、どこに行けばよいのかわからん。そんなやつらの助けになってくれ」


 一配下でしかないわしに頭を下げ、他の者たちが自分の下を離れていく手助けをしろと頼む主。この弱肉強食の世界において、主は優しすぎたのだ。


「……わしはいつでもここに、主の下へ帰ってくる。わしが仕えるのは主だけだ。それだけは決して忘れるでないぞ!」


 その傷ついた体で「頼んだぞ」と笑う姿こそが、優しき主に惚れ込んだ大馬鹿者が見た最後の姿だった。もう二度と見ることの叶わない、主との最後の思い出だった。

 だからこそ、何度も、何度も夢に見る。もし仮に、わしがあの時にそこを離れたりしなければ。今こうしているように、身動き一つとることができないような環境にいなければ。あの地を人に知られてはならないという思いから誰にも頼らず、女王を務めるエンシェントエルフによる感知の可能性を危惧して様子見に探知を行うこともしなかったが、その信念を曲げて動ける者に頼んでいれば。あの夜から何度も考えたことだ。


 わしがいつもと変わらずに森の守護として眠りについていた時、唐突に感じたつながりの断絶。あまりに突然のことで何が何だかわからず、かなり取り乱してしまった。既にこの地の聖樹と体が一体化してしまうほどの年月が過ぎているが、その聖樹を大地から引きはがしかける事態になってしまった。エルフたちの協力もあって今はまた聖樹が大地に根付いたものの、少なからずダメージがあったはずだ。

 あの様子では遅かれ早かれいずれはこの時が来るということはわかっていた。直接見ることもできていないが、主がどうなったのかはわかっているつもりだ。

 主の最後、それはおそらく餓死だろう。

 もはや正確には覚えていないが、数百年前、一度だけあのダンジョンを離れてきた者に会ったことがある。その時に、既に主は物を食べることを辞めていたとのことだった。残った配下のために。

 あのダンジョンは、もともと人が入るような土地にあるわけではないが、森、山、海と豊富な自然なエリアのある素晴らしい場所だった。だが、ある時から急にその土地からは自然が失われていくことになった。それに気が付いていたのはそう多くはないはずだが、当時のわしですら気が付くレベルの地脈の乱れ。主がわからないはずがなかったはずだ。その原因をたどるべく、わしを頼ってきたかつての配下を動かすかとも思ったが、分からぬ者をいたずらに動かしても意味がない。

 主は自分を守る者を決して食らおうとはしなかった。森につながるエリアの者を少しずつでも食らえば主は生き延びられただろうが、それをできるお方ではなかった。叶うのであれば、そのような惨めな最後などではなく、我ら主の守護者を打ち倒した猛者との死闘の後に誉高き死を迎えていただきたかった。


 そんな主が亡くなったことを頭では理解しても、心が理解するまでに数日を要した。それも既に数カ月も前のことではある。わしもこの夢を見るまではただただ眠りについていただけだったが、今、このタイミングで夢を見たというのには何か意味がある。いつもであれば何事もなく眠るままのところだが、今回はなぜかそう思ったのだ。


 ゆっくりと、重い瞼を持ち上げた。眠るうちにつもった土がパラパラとこぼれ、わしの口元に小さな山を作る。

 聖樹の枝葉の隙間から漏れ落ちる雨粒が、残った土を洗い落とし、同時にわしの視界をはっきりとしたものへと変えていった。


「守護龍様、お目覚めでございますか?」


「……エンシェントエルフか」


 探知能力の優れたこの者が気づかないはずはないと思うたが、こうも早く近くに来るとは思わなんだな。


「はい。私でございます。今回のお目覚めは落ち着いた様子でございますね」


「何かがあっての目覚めではない。また、夢を見た」


「いつもの夢でしょうか?」


「その通りだ。そう遠くない未来、何かが起こる。なぜだか今はそう考えておる」


「もしやまたあの鍛冶師が何かやらかすのでしょうか……。今朝掃除のために一時的に部屋を追い出したと報告が上がっていましたが、人をやりましょう」


 エンシェントエルフの言う鍛冶師が何者かは知らんが、何かを起こしかねない予兆があるのだろう。


「しばしわしも意識を起こしておく。お主らは気にせずにいればよい」


「また何かおありでしたらお申し付けください」


 エンシェントエルフが礼をしてそばを離れる。その時だった。



 ……ぁー……ぅー……



「ぁあ、ああ、あああああ!」


「守護龍様!?」


「声が、声がした! かつての者よりもひどくか細く、弱々しいが間違いない。主よ! ああ主よ!」


 わしですらほんのわずかにしか感じることができないほどかすかで、今にも消え入りそうな声。弱すぎて場所を感知できないし、その声色もまるで違うが、わしにはその声があの主ののもであるとはっきりとわかった。


「森の中、どこかまではわからん。だが! 必ず、必ずおられる! エンシェントエルフ!」


「はっ! すぐに捜索隊を手配します。して、その探すべき者とは?」


「姿が変わっているかもしれんが、お主にならその探すべき者だとわかるはずだ。あのお方の名は……白虎(・・)!」


 エンシェントエルフが動きだす中、わしはあのお方を探すべく、探知を始めた。



どうもコクトーです。


今回もメイ視点ではないのでステータスはなしです。


予定通りGW中のもう1話更新です! なんとか間に合ったよー。

今年のGWはずっと家の中だったのでなんだかGW感がほとんどありませんでした。地元のお祭りも中止でしたしね。でもまあご時世的に致し方ありませんよね……。

GWが空けてもまだまだ世間ではコロナが蔓延しております。油断せずに生活しましょう!


ではまた次回

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