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南の門です

 南の森に入るすぐ手前くらいで馬車が真っ二つになった。両方ともある程度までずれると崩れた。無惨な姿になったそれからは赤い血がどくどくと広がっていく。

 幸か不幸かそれが見えた者は数名だった。しかし、その数名はさっきまで門を通ろうとしていた商人たちと騎士だ。騎士は声を押し殺して歯を噛み締める。馬車をあのような状態にしたほどの存在を自分たちで抑えなければ町が、町の人々がああなってしまう。死んでも止める。そんな風に覚悟を決めて槍を持つ手にも力が入る。

 しかし、それは普段訓練をつんでいる騎士だからこそできたことだ。そこらの商人にできるわけもなく、彼らの努力虚しく商人たちは騒ぎだし、我先にと荷馬車を捨てて町の中央に向かって走り出す。

 人は集団というものに流されやすい生き物だ。まったく状況をつかめていない状態でも誰かが逃げ出し始めると自分も逃げなくてはいけないという感情が生まれてしまう。

 そしてその時一人の商人の言葉でそれを実行に移すのに十分な状況をつくり出した。


「ま、魔物が森の入り口に! 領主様が!」


 それはそんなに大きな声というわけではなかった。しかし、それはしっかりと周りの人間には聞こえていた。


「「「「「うわぁあああ(きゃぁあああ)!!」」」」


 騒ぎは拡大した。


「いやだ、死にたくない!」

「逃げなきゃ!」

「町の真ん中へ! 急げ!」

「うわぁん。ママぁどこー!?」

「どけよ! 邪魔だ!」

「てめえがどけよ!」


 全員が町の中心に向けて逃げ出す。騎士たちが必死になって落ち着かせようとするがそんなものないかのように騒ぎは広がっていき、どんどん収拾がつかなくなる。

 そんな人々の慌て様を嘲笑うように見ていた者がいた。


「ひっひゃー。予定通り大騒ぎになったな。俺様の作戦大成功!」


 この騒ぎを引き起こした張本人だ。

 見た目は普通の人間の男のようだが、ところどころに人間とは異なる感じがある。全身から茶色の毛が生えており、身長は約170くらい。横に広めな体格でその手にはその身の3倍以上にもなる大きさの剣が握られていた。


「今殺したのの中にここの領主もいたし混乱は確実。町の中央のほうに追いやることにも成功してはいるんだが……なんで町中から煙が上がってねえんだよ。あいつらなにやってんだ? これ終わったら全員つぶしとこ。こんな命令も完遂できないような奴らはいらん」


 彼の作戦は、わざと1か所だけ穴を作りそれ以外のところから数の暴力で攻め立てる。残った穴のところに人々は逃げてくるだろうからそこを自身の手で潰して退路を断つ。あとは全方角から攻めて完全に人間どもを追い詰める。それでこの町を壊すというものだった。

 先日森に来た偵察の奴を見逃したのも(ここ)は安全だと思わせるためにわざとしたことだ。案の定この場所に最低限の騎士がいるだけ。しかも彼らは住民の避難の対応に追われている。

 作戦がうまくいっていないようだが、もともと自分一人でも十分可能な作戦だと思っていた彼は迷いなく馬車を燃やし尽くして町のほうへと歩を進める。


「まずはこの邪魔な壁だな。門が狭すぎてこいつを通すのにつっかえても面倒だし」


 門まで100mほどになった時、彼は剣を両手でしっかりと握り剣に魔力を集め始めた。


「これくらいで十分だな。ブレイク!」


 剣をふるって魔力の塊を門めがけて飛ばした。

 それはエアロほどの速さはないものの、まっすぐ確実に門へと近づいていく。そして門にあたって爆発を起こし、壁を壊すつもりだった。



 ドォオオオン



 彼の視線の先で魔力の塊が爆発する。

 黒い煙が上がりその先がどうなっているかは見えないが間違いなく直撃したんだと笑みを浮かべる。


「さーて、門の様子はっと……ん?」


 黒い煙の向こうにかすかに見えているのは無傷(・・・)の門の姿。それどころか、煙は門よりけっこう手前から発生していた。

 おかしいと思いながらも再び剣を構えて進んでいくと、突如煙が一か所に集まりだした。


「これくらいじゃ私のこれは壊せないよ。というかどうやっても壊れないんだけどね」


 煙の中心から声がする。しかしその姿は見えない。

 球体になった煙の向こうに立っているものを見て彼は訳が分からなくなった。


「棺桶……?」


 球体の煙の前に真っ黒な棺桶が2つ立っているのだ。そのうちの1つのふたがゆっくりと開き、煙を吸収して閉じる。その二つの陰に隠れていた女性が前に出てきた。


「メイの言ってたとおりね。さすが私のメイ。まあこれくらいならだれでも考え付くかもしれないでしょうけど……でもメイのお手柄よね」


「おい女。貴様何者だ?」


「人に何か尋ねるときはまず自分からじゃない? 魔族さん」


「ふ、気づいたか」


 彼は魔族だ。魔族とは、上位種の魔物が突然変異によって更なる力をつけたものだとか、かつて魔王に力を与えられた者たちの末裔とか、人間が悪に染まって魔力を手に入れたものだとかいろいろな説があるが、確実にわかることは人類の敵であるということ。中には友好的な個体もいないこともないが、そういうのはごく稀で、魔族の中でははぐれものとか変人に位置するようなものたちだ。

 なぜその女性が彼を魔族だと判別できたのかと言えば答えは簡単で、かつて魔族にあったことがあるからとしか答えようがない。


「俺は魔王様直轄の魔将の一人暴食(グラトニー)ガルアだ」


「そう。魔王の手の者ってことね。メイたちが呼ばれた原因でもある存在……。私はヒツギ。メイを愛するただの冒険者よ」


 誰も見ていない中、町を襲う侵略者とヒツギの戦いが始まろうとしていた。




---------------------

 私は今、門の上で待機していた。

 メイから頼まれたことだ。私もなんとなくそうだろうなとは思っていたけど、北東西から襲ってくるオークたちは捨て駒であり囮だろう。本隊が南から来る可能性が高い。だから私が南の門のところで構えておいてほしいといわれていた。

 メイもマナちゃんも1人で多くのモンスターを相手にするつもりであることを知っているから、どちらかについていたほうがいいとも思ったけど、南に戦力はいないためもし襲われたら即侵入になってしまい被害はどんどん拡大していくだろう。それを考えたら断る理由はなかった。

 門の上に座っていたらさすがに目立つだろうとのことでステルスの魔法をつかって透明な状態で座っていた。

 そのすぐ下で領主が騒いでいるのを、ばかなことをしてるなーと聞き流しながら森のほうをチェックしていた。その視界の端から馬車が2台森に向かって走っていく。あー逃げるんだなーと思っていた時、馬車が崩れた。

 それを見た瞬間、一気に緊張の糸を張り巡らした。町の中が大騒ぎになるがそれは無視して門の上から敵を発見する。一目見て魔族だとわかった。すぐに門から降りて敵に近づいていくと、魔力を剣に集めているのが見えた。私は棺桶を壁のようにしてそれを防いだ。その魔力と煙を吸収して運よくとあるスキルもゲットできたけど今は放置。試してる時間なんかない。

 それから少ししてお互い名を名乗って武器を構える。


 私の、およそ900年ぶりの魔族との戦いが始まった。


どうもコクトーです


1日のうちには投稿するつもりが少し間に合いませんでした…

次回はヒツギの視点です


誤字脱字報告ありがとうございます


ではまた次回


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