試験後の訓練場
前半はマナ視点、後半は別視点ですのでご注意ください。
「あ、おかーり。試験はどんな感じ?」
あの場にとどまっていてもいいことはないだろうし、変に噂が広がる前にと言うことで速足で書庫のマイさんのところまで戻ってきた。マイさんは奥の部屋の中で何やら書類仕事をしている最中だったが、私たちが戻ってきたのを見て、その手を止めた。
「ただいま戻りました。文句なしの合格よ。これから忙しくなるわね」
「あんまり何度もお願いするようなことがないようにしますので」
「その辺は気にしなくていいよ。変に気を使ってもらった結果で資料が傷ついたりなくなりました、なんてことが起こるよりはましだし。そういえば、試験って何やったの? 私が言えることではないと思うけど、無茶なことやらせたんでしょ? あそこはいつもサーフェスがいるし厄介なことにならなかった?」
「そんなたたみかけるように聞かないで。前にあなたも失敗したやつよ」
「うぇー。マナちゃんあれクリアしたの? どうやって?」
「あーもう、それは後からマナちゃんに聞いてよ。サーフェスでもいいと思うけど」
「あれには聞きたくないかなー。マナちゃんに聞くよ。それで私もクリアして見せるんだから!」
さっきの金髪の話が出てくるのを意外だとも思いつつも、考えてもみれば幹部候補だって話だし、幹部である彼女たちがよく知っているというのも当たり前なのかと自分で納得していると、2人が私のその視線に気が付いたようだった。
「サーフェスのことだったら心配しなくていいですよ。あの場ではあんな風に喧嘩じみた感じで話していたけれど、私もお姉さまも彼のことは認めていますから。伊達に幹部候補に名を連ねていませんよ。今頃はマナちゃんの魔法について講義でもしてるんじゃない?」
投げやりに、どこか興味深そうに、そして胸を張って、ミイさんはそう言った。
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その光景を目撃し、観察し、確認した私は、ミイ殿の思惑を理解した。いえ、理解させられた。
一見すると、ミイ殿がやろうとしていた試験とやらは、ただお客人という彼女に対する嫌がらせにしか見えない。抗魔鉄なんていう『魔法学園』が誇る最高傑作の1つ、それを利用した、彼女が望む出来事をやらせないための試験。
だからこそ、私は彼女のことを諫め、『魔法学園』がお客人に対して嫌がらせをするという危険な事態を避けようとした。だが、それは考えが甘すぎるとしか言えなかった。そもそも、彼女は私が思うほど弱くないし、愚者ではない。彼女の実力を何も見抜けずにそんな心配をしてしまった私の方がよっぽど愚者と言えるだろう。そして、そんな愚者たる私に役割を持たせてくださったミイ殿に対し、感謝と同時に恐ろしさすら感じた。どこまでギルドのことを考えているのだろうと。
「サーフェス様、いかがなさいますか?」
尋ねてきたのは私の側近ともいえる男。そしてその後ろにはミスをしたと見せかけてお客人に魔法を向けさせた若いメンバーがオドオドとしながら控えていた。まんまと利用されてしまったものの、お客人に魔法を放ったという事実は変えようがない。私の立場上、罰則を与えないというのもまずい話だ。
「そうですね。お客人がうまくやってくれたおかげで結果的に怪我人は出なかったということで火魔法の練習を罰として命じておきましょう。私が立ち会いますから」
「そんな恐れ多い!」
「ただ闇雲に魔法を撃つだけより、指導を受けながらと言う方が彼のためになるでしょう? ただ、その前に1つ講義をしてからにします。準備をお願いできますね?」
「それはよろしいですが、火魔法の講義ですか? それなら的が必要ですね」
何度も行っているだけあって、講義の準備を快諾してくれる。彼への罰が火魔法の練習というところから講義の内容を推察し、提案をしてくれる側近は非常に優秀であると言えますが、今私がするべきなのはそうではない。
「いえ、これから行うのは先ほどのお客人の魔法に関する考察です」
私自身、あの魔法を完全に理解できていない。あれを理解するには、まだまだ自己研鑽が足りない。でも、あれを見ていたギルドメンバーたちよりは理解できている自負がある。知識が豊富とか、実力が上とかそういう話ではない。愚かにもミイ殿を諫めようと近くまで寄っていた私は、他のメンバーよりもよっぽど近くであの魔法を見ることができただけだ。
「あなたもあの魔法を見ていたのであればあれがいかに高次元のことをやっていたのかよく理解できているでしょう?」
「……恥ずかしながら、氷属性のアイシクル・ピアースを変形させた魔法というところまでしかわかりませんでした。回転の要素を加えていると推察しますが、はっきりと断言はできません」
「既存の魔法に要素を加えた変形魔法であることが理解できていればよいのですよ。ですが、あなたですらそうなのです。他のメンバーならさらに疑問符が浮かんでいることでしょう」
側近は私の言葉を受けてすぐ側のメンバーに視線を向けた。その先にいた男も、苦々しい表情を浮かべてこくりと頷く。ここにいる人間は全員が魔法使いだ。『魔法学園』に所属しているわけでもない、ただのお客人が使用した魔法を理解できない。そのことを認めたくないという思いもあるのでしょう。
「いいですか、わからないことは罪ではありません。わからないことに対し、行動を起こさないことこそが罪なのです。あの魔法を見た者は可能な限り全員を参加させなさい。どれだけすごいことをしていたのか、そしてどうすれば少しでもあの魔法に近づくことができるのか。それすら理解しないままでいるなんてもったいないことはない」
これはお客人の実力を見極められず、ミイ殿に対して傲慢な態度をとってしまった私に対するミイ殿からの罰であり、挑戦状だ。あのお客人の使った、たった1発の魔法。それを私の手で、『魔法学園』に還元して見せろと。あの試験に合格したことで『魔法学園』がお客人に何を提供するのかは知らない。でも、与えるだけで終わるような真似はさせるなと。そういうことでしょう。
「それでは準備と呼びかけをお願いします。私は先に講義の内容をまとめておきます」
「「はっ!」」
側近の指示のもと、数人が動き出す。その光景を見ながら、私はあの魔法の一部でしかない、理解できた内容を頭にまとめ始めました。
どうもコクトーです。
今回はマナと別視点ですのでステータスはなしです。
先週は更新できずすいませんでした。日曜から今週いっぱいずっと頭痛でダウンしておりました。
どうも副鼻腔炎にかかってしまったようで、そのせいで頭痛が延々と続いておりました。一週間丸っと仕事休んだの初めてですよ…。日中はほぼずっと寝ていたのに夜も寝られることに恐怖を感じていました。でも寝てないと頭痛でつらいんですよ…。
土曜になってようやく落ち着きましたので書けました。ヨカッター。
次回はまたマナ視点に戻る予定です。ただ予定は未定、あくまで予定。
ではまた次回




