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マナの転移物語です5

今回もマナ視点です。ご注意ください。


 先ほどトーチさんにされたのとまったく同じ状況を作ってトーチさんに問いかけた。研究欲にまみれた彼女がこの誘いを完全に蹴ることはないだろう。全部を見させてほしいというところは無理だろうけど、大部分を読むことはできるだろう。あとはそこからどうやってその量を増やしていくか。

 私の確信に近い思いとは裏腹に、トーチさんは随分と熟考している様子だった。時折私の左手に灯る炎に手を伸ばしかけてるから熟考というよりは葛藤なのかもしれないけど、本当のところは本人にしかわからない。


 結局トーチさんはそれから1分くらい悩み続け、魔力の無駄というのもあってそろそろいったん魔法を消そうかと思ったところでようやくトーチさんが決断をした。私がやったように水の球を浮かせて炎を包み込む。


「あなたの提案、飲ませてもらうね。でも、さすがにすべての資料っていうのは無理。二級資料までは私の権限でどうとでもなるけど、一級だと3人、禁級だと幹部クラス全員の承認が必要なのよ。その全員の中にはさっきまで会ってた国王様も含まれる。あなたの話を聞くために来てくれることは決まってるけど、普通は国王様と謁見できるのは年に数回あればいい方。以前来ていたのはもう数カ月前だしね」


「運よく次にいらっしゃるのは決まってるわけですし、そこまでに他の全員の承認を得ます」


「……簡単に言ってくれるけど、どうするつもり? さすがに見ず知らずの人に承認を出すほど馬鹿な連中じゃないよ。ましてマナちゃんは『魔法学園』に入ったわけでもないし、あなたに会うために時間を割くようなことをしてくれるとは思えない。言っておくけど、時間がある時に承認をもらうのについていくのはいいけど、あなたのために彼らに時間をとらせたりとかするつもりはないよ。彼らも研究があるんだから」


「研究で忙しいから時間がとれないってことですか?」


「研究だけじゃないけど、研究にかなりの時間がとられてるっていうのは間違ってないよ。私も含めて、自分の担当している研究、他のメンバーがやってる研究の補佐、個人的にやってる研究があってそれだけでかなり時間をとられてる。そんな中でも自身の鍛錬、部下の指導、ダンジョン攻略にギルドからの依頼もこなしてるんだから」


「それは大変ですね」


「他人事みたいに言ってくれちゃって。そんな忙しい幹部全員から許可を得るって言ってる人のセリフじゃないよね」


「忙しいのならその大元を取り払ってしまえばいい」


「研究を手伝うってこと? それも無理だよ。研究中の資料はそれぞれの研究の責任者の管理になっていて、研究にかかわるメンバー以外は見れないんだから」


「研究タイトルと概要もダメですか?」


「タイトル? それくらいなら個人の研究じゃなければ一覧があるよ。うちが主導でやっている研究だけだから全部ってわけじゃないけどね。新しく入ってきた子に入ってもらう研究を選ばせる時とか、出資を募る時にこんな研究をしてますよーって見せる時とかいろいろ使ってるやつ」


 そう言うと、トーチさんは壁際にあった戸棚から紙の束を取り出してきた。そこには『魔法学園』で行われている研究がずらりと書き出されていた。さすがにさっき話していた個人の研究とかはなさそうだけど、研究タイトル、研究の概要、状況なんかが書かれており、後半に行くにつれて止まってしまっている研究もあるみたいだ。


「まあうちの状況を知りたいってのはいい傾向だと思ってるけど、さすがにそこに参加するって言うんならギルドに加入してもらうからね」


「これってちょっと書いてもいいですか? この余白とかに」


「うん? それ自体はいくつもあるコピーの一つだから別にいいけど、どうしたの?」


今の(・・)私の知識でできるものがいくつかあるなって思ったので選別していこうかと」


「選別?」


 許可も得たので、私は紙の余白にチェックを入れていった。この紙だけだと情報が足りないものには三角印、知識が足りないものにはバツ印、できるかわからないものには四角印、そして今すぐにでも作れるものには丸印を。

 すべてにチェックが入れ終わってから改めて見直してみると、仕方ないけど丸がついているのは新しい魔法の作成系の研究ばかりだった。逆に魔道具の作成はすべてバツ。ヒツギはこの手の分野に精通していたみたいだけど、私はそうじゃないからね。


「こんなものかな」


「どれどれ……何十年も前に凍結しちゃった魔法研究にも丸がついてるみたいだけどこれはどうなの?」


「どれでしたっけ? ……『トレントと通常の樹木の違いを識別する魔法』ですか。ダンジョン探索で必要だったから作ったんですよ。『明の森』で実際に使ってますから、少なくともそこでは識別できるのは間違いないですね。まあ識別した後に出現したりとかはさすがにどうしようもないですし、常に使っていられるような魔法でもないですけど」


「じゃ、じゃあこっちは? 『龍種への特殊効果を持つ強力な呪いを解呪するための術式の研究』。ずっと昔から風龍様たちの援助を受けて研究されていたものなんだけど」


「風龍様ってミラの町の風龍様ですか?」


「人から様付けで呼ばれるような関係性の風龍はその方だけだねー。知ってるの?」


「ランク試験の場所がミラの町だったので。その時に龍殺しの呪いの解呪魔法は作りました。風龍様を筆頭に何名かの龍と龍人(ドラゴニュート)に魔法も教えましたから、間違いないかと」


 火龍様の元で仕事の手伝いをするにあたり、私が担当した1つがその魔法の伝授だった。龍殺しの呪いを持っていた死龍王ダムドレアスはメイが討伐したけど、風龍様が言うには、あの龍には娘がいた。その娘もあの戦いの中でゾンビとして使われていたみたいだけど、ダムドレアス以外が龍殺しの呪いを使えるかもしれないというのは、龍族にとっては脅威以外の何者でもない。それを使える1人がメイであるのは笑えない話だけど。

 風龍様と土龍様、それから水龍様のもとにいた龍人の1人が覚えられたし、その後も伝えていくという話だから多少は脅威は減ったと思いたい。


「実際にそれをみたわけじゃないけど、当然見してくれるのよね? できます。はいわかりました。じゃ済まないよ?」


「それで承認に繋がるならもちろん構いませんよ。風龍様からも対価をもらってるのにただとはいきませんからね」


 風龍様からはあの町に伝わる『名もなき物語(ネームレス・テイル)』と、龍の使う魔法について教えてもらった。当時はふーん、としか思ってなかったけど、今にして思えばあれは憤怒(ラース)の過去を歌っているのだろう。ヒツギのかつての仲間であり、神の力を宿したユウカと真正面から切りあえる実力者。片角の龍人というのも一緒だし、バルの町の吟遊詩人の詩が暴食(グラトニー)だったことを考えると尚更ね。


「この研究に取り組んでる子なら許可ももらえるかもね。というか、この丸が打ってある研究全部終わらせられるならそれだけで大半の幹部は許可だしそうかな? さらに知識を付けて、研究に反映してくれるならそれでよし。自分たちが習得に至れなかった魔法の数々を使う光景が見れれば尚よしって感じで」


「一級、禁級の魔法はトーチさんでも使えないんですか?」


「無理ね。そもそも私には読めない言語だったし、解読するためにおいそれと他の人に見せることもできない。他に資料もないから照らし合わせていくこともできないし、参っちゃった」


 もしかしたら日本語かもしれないと思ってみたけど、さすがにそこまで都合よくはないだろう。過去の召喚者が残した書物だったらわからないけど。


「って、なんかもう見せる前提で話が進んでるけど、対価となる魔法は先に教えてもらうよ。教えてもらっておいてやっぱりなんてことは言わないから」


「理論とか細かい話になると時間がかかりますし、私自身完全に理解できているとも言えないのでまずはさわりだけでもいいですか? トーチさんも予定があるでしょうし」


「それなら今晩が本番かな。今日の夕飯は会合も兼ねたものだから無理として、その後。9時くらいになるね」


「ならそれまでに話をまとめておきますね。じゃあさわりだけと言うことで。ヘルファイア」


 私はさっきまでと同じように左手に通常の炎を出した後、右手に獄炎魔法の炎を灯した。

 トーチさんは若干懐疑的な様子を見せた後、すぐにその表情が一変した。正直、これで理解ができないのであれば伝えようにも伝えられなかっただろうし、そういう意味では楽ができそう。


「属性は炎……いえ、ただの炎じゃない? かといって複合属性、特殊体質による焔でもない。闇の属性を帯びてるけどそんな弱いものじゃないし、そもそも闇とは構成が違う。こんなの…」


「おしまいです」


 本格的に思考の渦に入りかけていたトーチさんを止める意味合いでも私は炎を消した。


「ああ!」


「どうですか? 概要はこれくらいで充分ですよね」


「マナちゃんのイジワル! こんなのを見せられて数時間も我慢しろっていうの!?」


「何とでも。一級と禁級はまだ我慢しますけど、それ以外は見てもいいですよね?」


「もちろん! あれでもまだ未完成なんだよね? もしかしたらうちの資料を見てさらに発展するかもしれないなんて楽しみすぎるよ!」


 そう叫ぶと、興奮冷めやらぬ状態のトーチさんは私の手を引いて部屋から出た。



どうもコクトーです。


今回もマナ視点ですのでステータスはなしです。

またも遅くなりすいません。夜勤とか体調不良とかいろいろありまして…


今年ももう終わりですねー。年内もう1話を目標に書いております。

間に合うかどうかはわかりませんが。


ではまた次回

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