マナの転移物語です4
今回もマナ視点です。ご注意ください。
「ビジネスの話をしましょう。これからの数日間、お互いの利益になるように」
トーチさんに浮かんでいる表情は、いつか見た、あの王都の魔法使いたちのように、研究欲にまみれていた。
「ビジネス?」
「そう、ビジネス。国王様の要望であるし、あなたをただの客としてここに置いておくことに何の文句もない。でも、それじゃ面白くないし、私にとって利益がない。今回の件では別に料金を取ったりはしないからね」
「それでビジネスということですか?」
「そう。まあ、国王様の顔をたてて、あなたを客として置いておくことにはこの際対価は求めないよ」
「ビジネスと言いますけど、それはお互いに提供できるものがあって初めて成り立つものですよね? メイだったらともかく、普段から使うものばっかりしか入れてませんから私が提供できる物なんてほとんどないですよ」
「いやいや、何を言ってるのさマナちゃん。私は4大ギルドを除けば最大手のギルド『魔法学園』のギルドマスター。Sランク冒険者なのよ? あなたが手に入れられる素材や魔道具程度なら、時間はかかるだろうけど私が手に入れられないことはないよ」
そう言ってトーチさんは頭に合わせて指を振った。確かに、私とトーチさんとでは冒険者としてランクがかけ離れている。ドルトムント国王がいた時との落差で忘れそうになるけど、目の前のこの人はユウカと同じSランクの冒険者なのだ。今の私とトーチさんではギルドなどで開示される情報もまるで違うだろうし、1パーティでしかない私達と違って『魔法学園』としての独自の情報網も兼ね備えている。人の数もまるで違うし、人海戦術でいろいろと集めることも可能となれば、本当にすべて手に入るのだろう。
「私個人の取引なら珍しい魔物の素材だとか、私自身の研究に使えそうな物で受けることもあるけど、これは私とあなたの取引、いえ、『魔法学園』と魔法使いの取引よ。それであればお互いの対価は1つしかないでしょう?」
「……魔法の知識」
「その通り! さっき軽く戦ってみただけでもいくつかの魔法を手足のように扱って、私の仕掛けたトラップもその場で対応して見せた実力。自分の使う魔法のことをしっかりと理解して、それを扱うための努力を重ねなければできない芸当だよね」
もちろん努力はしているけど、『魔法の才能』の『力』によるブーストがかかっているのは否定できない以上、そこまでべた褒めされると少し思うところがあった。
「そんなあなたなら、私がまだ知らない、さらなる魔法の深みを知っているに違いない! 私が提供できるのは『魔法学園』が集めたあらゆる魔法の資料。さすがに全部とは言わないけど、その知識によっては解禁するレベルを上げてもいいよ」
「取引に応じるとは言っていないんですが」
「のんのんのん。あなたはこの取引に応じる。間違いなくね」
「なんでそんな風に断言できるんですか?」
「もちろんあなたが魔法使いだから。と、そう言いたいところなんだけど、ほんとはただの状況判断かな。魔王が動き出したという情報と、あなたのような強い魔法使いが後ろの名前もわからないし、解析も跳ね除けるような強力な従魔を従えていて、それでいてお仲間、特にユウカがいるのに敗北したという事実ね」
話の中で私の後方、壁際で佇むコルクを指さしていたのが気になって少し視線を向けてみたけど、コルクは目をつむって腕を組んでいるだけだった。私を立てて、従魔としてのコルクを演じてくれている。
「それにさっきの渦の魔法。国王様に心配させてしまってもいけないから言わなかったけど、私が見たのはほとんど残滓のようなものだけだった。でも、その残滓を見ただけでもわかるくらい、あの魔法に込められた魔力は強大なものだった。まあグリムの町からここまで飛ばしてくるだけでもとんでもない魔力が必要なのは転移魔法使いを抱え込んでる私がよくわかってる。それを使ったのがたった一人だと言われても信じられないくらいにね」
「信じられないかもしれませんが、純然たる事実です」
「あなたが嘘をついていないのはわかってるから。私が問題視してるのは、あなたがそれだけ強大な魔力を使った魔法をみすみす使わせたということ。どういう状況だったのか実際に見ていたわけじゃないからまったくわからないけど、あなたほどの魔法使いが魔力をためているのに気が付かないなんて思えない。そうなると、魔力をためているのを止められなかったと考えるべきだよね。例えば、その魔法を放置せざるをえないほど追い込まれていたとか」
トーチさんがここまで聞いてきた情報を頼りに想像で話す光景は、私が体験した戦いの様子とそう遠くないものだった。メイの従魔達という規格外についてはほとんど話してないから抜けているけれど、ここまでの話でよくこれだけわかるものだ。魔法使いでSランクにまで至ることができたのにはそのあたりの頭の良さと言うのもあるのかもしれない。
「あなたが否定をしないってことはここまでの想像はそれほど大きくは外していないってことで話を進めるね。いくら魔王本人と、その直属の配下が相手だったとはいえ、あなたたち『マツノキ』は敗北した。そんな状況で、あなたはただ待つだけでいいの? いや、よくない。運よくあなたはここに転移させられた。この世界で、魔法使いが己の実力を高めるのに最も適した場所。『魔法学園』へ」
ドンッとあるはずのない文字がトーチさんの背景に見えた気がする中、トーチさんは立ち上がり、両手を広げてそれぞれの手に魔力を集めだした。
「あなたが取れる選択肢は2つよ。1つは現実から目を背けて次の国王様との会合まで与えられた客室でじっと過ごす道。もう1つは私の手を取り、私の知らぬ知識と引き換えに、この『魔法学園』が集めた膨大な資料で自分を高める道」
右手に風、左手に炎の魔力を掲げながら、私の方に突き出した。
「先の道なら風を、後の道なら炎を。あなたが望む道を選びなさい」
研究欲にまみれながらもまっすぐな瞳でこちらを見つめるトーチさんに対し、私は水の魔法で炎を消した。
「そこまで焚きつけられて何もしないなんて私にはできませんね。でも、やるなら徹底的にやります」
私が炎を消したのを見て風を散らしたトーチさんは、パンと手を慣らしてソファーに戻った。
「OK! でも、徹底的にって言っても何をする気かな?」
「ここの資料を全部見たいです。一般のギルドメンバーが閲覧できるようなものから、あなただけが見れるような特別な資料まで、文字通りすべてです」
「……あなた、どれだけ無茶苦茶なことを言っているか理解してる? ギルドメンバーの誰にも閲覧許可を出していない資料を、ギルドメンバーですらないあなたが見る。それが許されるとでも思ってるの?」
「私があなたに提供できる知識にはそれだけの価値があると確信しています。ここから先はあなたが選んでください。私の手を取るか、取らないか。私の知識の中には、この世界でも極一部の人間しか知らない魔法の知識がある。それを知らないまま終えるのか、それとも、知りたいと願い、さらなる高みを目指すのか」
私は先ほどのトーチさんとまったく同じ状況を作り上げた。右手に風を、左手には炎を。
私の、そしてコルクの持つ魔法の知識。あらゆる書物から姿を消してしまった、古代からある魔法。各種属性の上位魔法の知識を武器として。
どうもコクトーです。
マナ視点ですのでステータスはなしです。
遅れてしまいすいませんでした。最近PCの調子があまりよくなくて…突然のエラーで全部消えるのやめてほしいなぁ。
普段からハーメルンというサイトを執筆に使っているので自動保存はあるんですが、やる気は保存されないのですよ。
ポケモンは無事殿堂入りしてザシアンまでゲットできました。359匹まではゲットできましたが、これ以上は一人だと厳しいか…デモタノシイナー
ではまた次回




