カテーネ・モスカである
私、カテーネ・モスカはコロイドの街の領主である。
このコロイドの街は私のものだ。下々の者共が日々私のために働いて私のために供物をささげる。実にすばらしいことではないか!
街のことは全てあのヘレンとかいう騎士に任せておけば問題はない。私は外の貴族とのつながりをうまくつくり出していくだけだ。私はこんなところで終わっていい人間ではない。いずれは王都にて権力をふるうべき存在だ。私は何でもできるのだ……と愛する息子のクダラから連絡だ。何々……どうやらまたあの3人組が捕まったらしい。何度捕まるのだろうか? まあ奴らは4大ギルドの一つ『赤の団』の一員。やつらに恩を売っておけばいずれ『赤の団』のほうから声をかけてくるだろう。そうすれば私はさらに上へ行ける!
そもそも冒険者ギルド、商業ギルドともに権力の介入は許可されていない、あくまでも独立した組織だ。だが、そこは金の力でなんとか愛する息子に強力な装備を持たせてギルドマスターにしたことで解決した。この街の冒険者ギルドは私の支配下にあるといっても過言ではない。もちろん商業ギルドのトップも私の手のものを送ってある。他国に知られないように工作するのが大変なのだがな……。
「おい、伝令」
「は。いかがいたしましたか?」
「例の3人組がまた捕まったらしい。釈放せよと連絡を入れろ」
「かしこまりました」
そばに控えさせていた者に命じて釈放させる。騎士連中め、余計な手間を……。いっそのこと彼らを捕まえないように命令をしておけばよいのでは……。いやさすがにそれはできないな。どうせあの男は無視してしまう。それであの男を処罰してしまうには惜しい人材だからな。いずれ王都に行くときには近衛兵として連れていってやっても良い。
さて私は部屋で新しく仕入れたモノのチェックでもしようか。今度はどんなモノが入ってきたか楽しみだ。ふふふふふ……。
そしてその日の夜、寝室で寝る前のリラックスをしていたところ、近衛兵の一人がやってきて私の側近の者に話しかけていた。心なしかそのものの顔は青く見えた。
そいつは終わったのか一礼して廊下を去っていた。
「領主様、少しお耳に入れていただきたいことが」
「先ほどの近衛を呼び戻せ。お前から聞くより本人のほうが詳しく聞けそうだ」
「かしこまりました」
側近は急いで呼びに行く。近衛兵も側近も使い魔を持っておらんからな……。やはり魔法使いを数人囲っておくべきか……。たしか息子からの報告でそこそこ使えそうな魔法使いが来たといっていたな。明日使いを出しておこう。
そうしているうちに側近が先ほどの近衛をつれて戻ってきた。
「し、失礼します!」
「さっさと申せ。急を要することなのだろう?」
「まだ確認が取れていない情報ですので領主様にお伝えするべきかどうか……」
「いい。私の命令に背く気か?」
「そんなめっそうな! 実は、さきほど騎士の詰所の様子が少しおかしかったので様子を見ていたのですが、なにやら魔物の群れが攻めてくるとのことです」
「この街にか?」
「はい。北東西の三方向から同時に攻めてくるそうで、東西はそれぞれ冒険者が、北は騎士が相手をするそうです」
「おい、私の荷物と金目の物を全てまとめさせろ。もしその話が事実であった場合すぐさまここを発つ」
「は!」
「話は以上か?」
「い、いえ。実はまだありまして……」
「なんだ?」
「このことをギルドマスターであるクダラ様はご存じない様子で……」
「なにぃ!? すぐにあいつにも荷物をまとめておくように連絡を入れろ!」
「は!」
「お前、名を何と言ったか?」
「は、近衛兵第2部隊所属、モカ・ニトーと申します!」
「ニトー家の者か?」
「はい。末端ではありますが……」
「ニトー殿にうまく伝えておこう。息子が危険にさらされるかもしれないのを救ってくれた礼だ」
「ありがたき幸せ!!」
「では下がれ。お前も荷物をまとめていくといい。そうだ、近衛兵の隊長2名と副隊長4名にも一応声をかけておけ。お前とその6名、それから側近のお前を連れていく」
「は! では失礼します!」
ふむ……魔物の群れか、本当にそんなものが来るのか? まあこの街がなくなろうと私には伝手がいくらでもある。どうってことないな。
そしてその日は眠りについた。
次の日の朝、館で目を覚ました私は荷物の準備が終わってることを確認していた。今日の仕事は全て後回しだ。王都に提出する書類なんかないし、誰かが訪ねてくる予定もない。どこかに出かける予定もない。
「領主様、騎士たちが北に集まりました。同時に南に住民の避難も行っています。このままでは人があふれて避難に支障をきたすかと……」
「ではすぐに出る。私の愛する息子にこの話は言っているのだろうな?」
「現在大慌てで準備中です。どうやら信じていなかったようで……」
「なんということだ……。近衛兵は私につくものを残して後全員で息子につけ。たとえ魔物が街に入ってきても傷一つ負わせるな。そのときは全員首が飛ぶと思え」
「すぐに行かせます」
館にいた兵士たちが続々と冒険者ギルドへと向かう。
私もここを出るために急いだ。
私の館は街の中心部にある。そのため、南の門まではしばらくかかる。馬車に乗り込むのと同時くらいに聞こえた戦闘音で、実際に魔物の群れが現れたのだと気づく。そういえば東西は冒険者が対応と言っていたが、なぜ愛する息子は魔物のことを信じていなかったのだろうか? もしや騎士連中が声をかけた冒険者だけで対応しているのか?
……まずい。この街に強い連中がいないことは私も十分わかっている。そんなやつら、しかも声をかけたやつだけという少人数で抑えられるわけがない。だが自分の命も大切だ。仕方ない。
「とりあえず私たちは先に隣の町へと行く。愛する息子には悪いが後から合流しよう」
「わかりました。では馬車を出します」
ガタゴトと揺れ始める。馬車はこの揺れるのが若干嫌なんだがな……。
今この馬車に乗っているのは私と妻と愛人数名、それから近衛隊長の男。残りの者たちは後に続くようにもう1台の馬車で来ている。後ろのは約20人の乗れる大きなものだ。近衛も副隊長クラスが数名いるから何かあっても大丈夫だろう。
馬車が南門に近づくにつれて人の数も増えてきた。ええい邪魔だ!
私に金を持ってくるためにいる庶民どもは、自然と道の真ん中を開けて私が通れるようにしている。だが、ところどころにいる小さい馬車をもっている者共はなぜかすぐにはどこうとしないものが多い。まあ私の名前を出せばすぐにどくのだが。
そうこうしているうちにかなりかかってしまったが南門についた。そこでは多くの庶民どもが集まっており、数名の騎士が指示をだして門のほうに行かないようにしている。だが門の前には馬車が数台並んでいる。
「おい、どうなっている」
私は御者をしている側近に尋ねた。
「みたところ門を閉鎖しているようですね。閉鎖と言っても騎士数名が長槍を組んで止めているだけのようですが……」
「まずはこの邪魔な馬車どもをどけさせろ」
「は!」
側近と近衛隊長が降りていき馬車の主を呼び出してすぐさまどけさせている。さすが優秀な部下たちだ。
完全に道が開いたので門の目の前まで行く。まだ騎士たちはどこうとしてなかった。
「どけ、この馬車にお乗りになられるのは領主様であられるぞ」
「今外は大変危険な状態にあります。魔物を抑え込めてはいますが、それが流れてこちら側に来ていないという保証はありませんので、領主様と言えどここを通すわけには……」
「私に逆らうというのか!」
「そ、そのようなことは」
少し怒鳴りつけてやるだけで多少構えが緩くなる。それでもどきはしないこいつらにとても腹が立つ。
「もういい。コロイドの街の領主として命ずる。そこをどけ。私は隣町に用があるのだ」
騎士たちは悔しそうに顔をゆがめながら道を開ける。最初からそうしておけばいいものを。
私たちは悠々と門を抜ける。南の森は門から約100mほどいったところだ。すでに森が見えている。
「私にはお前ら近衛兵がいるのだ。魔物など恐れるに足り んわ!」
もう少しで森というところで私の前を下半身と馬車の下半分が過ぎていく。
む? いったい……どう……な……て……
その時、馬車に乗っていた私たちの生涯は幕を閉じた。
どうもコクトーです
今回は領主様の話です
領主様のログインからログアウトまでです
鳴のステータスは今回なしです
ではまた次回