キャラビーの物語です7
今話から9章に入ります。
今話はキャラビー視点です。ご注意ください。
「うぅ……」
気が付くと、私は自分のベッドの上で寝ていました。いつの間にか寝てしまったみたいです。
まだ若干頭が寝ているような気がしますが、そのぼやけた視界で自身を見てみると、いつも寝るときに着ている服ではなく、普段から着ているような服装。腰元にいつもの袋や短剣はなく、靴も履いていません。ですが、まるでこれからダンジョンにでも行くような恰好でした。
「っ! ご主人様!」
だんだんと頭が働くようになってきて、ようやく何があったのかを思いだしました。
あの時、私は何もできなかった。できたのはアンナの陰から、その戦闘を見ていることだけ。しかも、結局それも最後まではできず、何が起こったのかすらわかりませんでした。
もつれる足をなんとか動かして私は部屋から出ました。悪い夢でもみたんじゃないか。降りたら今迄みたいにご主人様やマナ様、ヒツギ様とユウカ様。みんなが仲良くリビングで私が起きてくるのを待っているんじゃないかと。
「ユウカ様!」
「起きてきたのじゃな。悪いが朝食は自分で頼むのじゃ。出来合いの物でよければわしが持っているものでな」
リビングに降りてくると、ユウカ様が一人パンを食べていました。普段露わになっている首元には包帯が巻かれ、おそらく服の下も同じようなことになっているのでしょう。
「まあパンと軽食くらいしかないから期待はせんでの?」
「ご主人様たちは?」
「おらん」
ユウカ様は、私の質問を予想していたように即答しました。
「……あの後、何が起こったのですか?」
「先に言っておくのじゃが、わしもすべてを知っているわけではないし、そもそもお主がどこまで見ておったのかすらわからん。それくらい余裕がなかったからの」
「私は、ご主人様がヒツギ様……嫉妬から逃れたのを見たところでアンナの手で意識を失いました。あの後、ご主人様は、マナ様はどうなったのですか?」
「ふむ、そこまでなのじゃな。つまりはわしのあの無様な様子も見ておったということか」
「無様だなんでそんな」
「無様この上ないじゃろうて。めったに使わんというか使えん奥の手まで使ったのにも関わらず、敵の部下一人倒すこともかなわず、時間切れを起こしてその場に倒れ込む。情けをかけられて止めを刺されることもなく、アハトの作戦で用いられた攻撃をよけることもできず、カラスに助けられる始末じゃ。Sランク冒険者の名が泣くの」
「あの龍人はただ者ではありませんでした。仕方ありませんよ!」
「仕方ない、で済めばわしらSランクはただの厄介者でしかないのじゃよ。わしらは大きな功績をあげたことでSランクになっておる。その特権や扱いは一つしかかわらんはずのA+ランクのそれとはまったく違う。それじゃから、『相手が強かったから勝てませんでした』は許されんのじゃ」
「でも……」
「わしから始めた話ではあるが、こんなことはどうでもよいことじゃの。話を戻すのじゃ」
「……お願いします。ご主人様たちがいないことに大きくかかわるんですよね?」
「そうじゃ。メイとマナ、2人は色欲の使った渦の魔法で飛ばされてしもうた。本人が語っておったが、どこに飛ばされてしまったのかはまったくわからん。完全にランダムだそうじゃ。場所も、距離も、高さもの」
「……ご主人様を探しに行かないと」
「待つのじゃ。まったく、何の手がかりもないまま、世界のどこにおるかわからん2人を探すつもりか? それは無謀としか言わんのじゃ」
「ですが!」
「言いづらい話ではあるが、そもそも2人が生きているかどうかすらわからん状態じゃ。あれが魔法である以上、マナは何とかしておる可能性が高いが、メイはまったくもってわからん。それはお主が一番わかると思うがの」
ユウカ様は悔しそうな表情を浮かべたまま、私に見せつけるように自分の首をとんとんと叩きました。
「首……あ」
今の私には、そこにあるべき『物』がありませんでした。
生まれてからずっとそこにあり、ずっと忌々しく、苦しみの証明でもあり続けた『物』。ある時を境に、それは変わり、私が、私であるという証明に変わり、ご主人様と常につながっているということを示す『物』。
そこにあるのが当たり前で、いつの間にか気にすることもなくなっていたそれがなくなっていました。
「首輪が……ない」
奴隷の首輪は、奴隷がその持ち主の命令に逆らわないように首を絞めるための道具であると同時に、その持ち主の命とリンクしており、その奴隷には持ち主がいるということの証明にもなります。
稀に所有者の命令をうまくかいくぐり、逃げ出してしまう奴隷もいるそうですが、持ち主が死なない限りその首輪は取れません。奴隷商人の使う魔法であれば取ることもできるということですから、ご主人様たちであれば特に苦労もせずにあっさりと取ってしまうのかもしれませんが、通常の奴隷にはそれは無理です。そしてそれは私にもあてはまります。
「お主の首輪が取れたということがどういうことか。それを理解できんお主ではないじゃろ?」
「そんな……そんな!」
「メイは死んでも死にそうにないが、何にしてもその首輪が外れるような状態に陥ったのは事実じゃ。今どこで何をやっておるのか、まったくわからん」
「……そうだ、アンナなら!」
「キャラビー!」
私はユウカ様が止めるのも聞かずに館の外へ飛び出しました。アンナ自身があの場を離れるとは思えませんし、そもそも私の部屋に入れるサイズではないですから、おそらく私を連れだしたのはその配下のアントたち。ただのアントでは無理かもしれませんが、2体いるという、女王種のアントならアンナと連絡を取ることは可能でしょう。そしてアンナならばご主人様の安否がわかるはずです。
「アンナ! いるなら出てきなさい! 聞きたいことがあります!」
館を出た私は、森に向かって叫びました。ユウカ様も遅れてできて、5分ほどが経ちました。すると、アンナが森から出てきました。
『お呼びでしょうか?』
「ご主人様は無事なんですか!?」
口頭一番、私はアンナに聞きたいことを叫びました。
『……今の私に主様やヒメ様との繋がりを感じることはできません。怪我を癒してるのでこの場にはいませんが、みぃちゃんもカルアもそうです』
「くわー」
アンナの後ろからカルアが姿を現しました。その様子にいつもと変わったところはありません。
『なので、私達にはキャラビー、あなたの聞きたいことに応えることはできませんね』
「そうですか……」
「一つ聞いてよいかの? お主らはもともとメイの魔力で作られたと聞いておる。繋がりがないと言っておったが、それは大丈夫なのかの?」
『魔力の供給を受けられませんので、今まで見たいに復活はできなくなっていますが、問題はありません。今の私たちは普通のモンスターと変わらない状態ということですね』
「……なぜそんなに落ち着いていられるのですか? ご主人様の安否すらわからないんですよ!?」
『主様は『約束を果たせ』と、そうおっしゃいました。私たちはその命令に従うだけです』
アンナははっきりとそう言い切りました。
どうもコクトーです。
キャラビー視点なのでステータスはなしです。
今話から9章に入ります!
最初はキャラビー視点ですね。9章は予定では視点がコロコロ変わります。
まああくまで予定、予定は未定です。
気づけば『俺が勇者じゃ救えない!?』を書き始めて5年が経っていました。
2話くらい気づかなかったのはナイショです。
いつも読んでいただきありがとうございます。
これからもよろしくお願いします!!
ではまた次回




