最悪の一日です その裏で
「超高魔力反応……魔王発見しました!」
グリムの町、領主の館からそれほど離れていない、大きな広場のある小屋の中で、カラスの声が響いた。
「方角は?」
「南です。各地に飛ばしている私を戻しますか?」
「南はどいつだ?」
「タカが見ています」
「ムックとドリーは東西だな?」
「はい」
「ムックはここへ、ドリーはタカのところへ向かわせろ。超上空から魔法を叩き込む」
「私たちは準備できてるわよ」
「ルーミア様、我らを見守ってください」
「トーチ殿がいないのが響かないといいが……」
アハトの言葉に、3人のギルドマスターが答えた。
『白き御旗』のルーミ・アーカイブ。
『黒き翼』のドレアム・デス・ドリー。
『青き空』のスカイ・レインウォーカー。
今日というこの日、この時のためにアハトによって集められた、いずれも魔法のスペシャリストたち。ユウカやジョーのように近接戦闘のSランクではなく、遠距離戦闘のSランク。一人一人が軍隊ともまともに戦えるような存在。それが3人、この場に集まっていた。
「別の依頼があってベスティア獣神国にいるとのことだ。情報の真偽も不明だった以上、無理に招集はかけられない。冒険者は自由な存在なのだから」
「そう言う割には私は半強制的だった気がするけど?」
「たまたま依頼が続いただけだ。ギルドマスターからの直々の依頼だぞ? 通常の依頼よりも高額な報酬を出しているのだからそう邪険にしてほしくはないな」
「アハト様、タカから連絡がありました。魔王の配下と思わしき集団が転移してきたようです。森の中の広場にて現在戦闘中とのこと」
「南の森に広場なんてあったの?」
「しばらく前に気が付いたらできていたと報告があった。ユウカ殿の館の近くのようだから無茶な訓練でもした結果だろう」
「一体どんな魔法を使えばああなるのだろうか」
「私にはわかりかねますが、皆様なら可能でしょうか?」
「ここにいる者であれば皆可能だろうよ。というより、それくらいできてもらわないと困る。これから魔王を倒そうというのだからな」
「全力の一撃であっても倒せるかどうか怪しいところではあるけどね」
「そう弱音を吐くものではありませんよ。直属の部下である七魔将を含む、配下を名乗る者たちが暴れることはあれど、これまで全くと言っていいほど尻尾を見せなかった魔王本人がこうして攻撃できるような身近に現れたのです。その実力を知ることができればそれだけでも意味があったと言えるでしょう。偉大なる神、ルーミア様の力をお借りして討伐することができればそれが一番ですが」
「そういうことだ。このメンバーの全力攻撃で倒せない、あるいは傷一つつかないともなれば、倒す方法が限られてしまう。少なくとも魔法で倒すのであれば『魔法学園』の全面協力を仰ぎ、ランクなぞ気にせずに有望な魔法使いを全員集め、その総力を挙げた全力の一撃をもって葬るしかない」
「そうならないことを祈るしかなさそうね」
「皆様、ドリーがタカの元へ到着しました。ムックももうじきこちらへまいります」
「具体的な位置は?」
「門上空は超えました」
「ほんとにすぐなのね。戦闘の様子は? さすがにユウカを巻き込んだとあれば、王都でシーラさんたちに合わす顔がないわ」
「あの生涯現役爺さんか。丸くなったなんて話を聞いたりもしたが、ユウカのこととなりゃ話が変わるからな」
「ピヨー!」
全員が魔力を練り上げ続けながら雑談を続けていると、この場にいるカラスのうちの1体が声を上げた。状況が変わったのだ。
「カラス」
「メイ様の従魔がやられたようです。ユウカ様の時間切れも間もなくの模様」
「時間切れって……ユウカのやつ、神威解放までしてんのか!?」
「そうでもしないと倒せないって判断してるわけよね。魔王の強さはそれほどと言うことなのね」
「ああ神よ、ユウカ様をお守りくださいませ」
「……魔王ではありません。七魔将の一人の龍人の男です。黒い炎を纏ったその男が倒しきれない」
「配下の一人にすぎない者が神威解放状態のユウカを抑え込むだと? どんな冗談だそれは」
「冗談ではありません。それと、あまり時間がないようです」
「私たちは準備できているわ。外に出ましょう」
「頼んだ。カラス!」
「はっ」
アハトを除く全員が外に出る。3人ともSランクの名に恥じない、常人ならざる量の魔力を練り上げていた。
「メイ様、マナ様の両名が消されてしまいました。ユウカ様はタカが回収します。誰かを巻き込む可能性は0です」
「『混沌の闇よ、我が望みは抗うことのない死のみ。死の香だけを贈り物に。絶対なる闇の一撃で、我が敵に苦痛まみれの絶望を』コルポ・ネーロ」
「『我らを見守りし女神ルーミア様。あなた様のお力をお貸しくださいませ。醜き愚かな神敵に神々しき光の裁きを』ジャッジメント」
「『空はすべての者に平等だ。人にも、人ならざる者にも。だからこそ、俺は空を統べる王を目指そう。空の向こうにある景色を、俺は知りたいからだ。誰にも邪魔されず、大いなる空を!』ブラウ・ネビュラ!」
3人の最上級の魔法が小さな鳥に放たれた。セブンスクロウというモンスターの中でも、2匹1対で真価を発揮する特殊個体。魔法を中継するというその能力を使うために。
森の広場をタカが最高速で飛び、ユウカを攫う。その直後、セブンスクロウによって中継された3人の魔法が広場に落ちた。圧倒的な火力の光、渦に消えて誰もいなくなった広場に大穴を空けた。
「……かわされました」
「くそ! ユウカ殿は無事回収できたんだな? 回復を待って話を聞く。作戦は……失敗だ」
こうして、3人のギルドマスターを巻き込んだアハトの魔王討伐作戦は、失敗に終わった。
どうもコクトーです。
メイ視点ではないのでステータスはなしです。
先週は投稿できずすいませんでした。出かけるとやっぱり時間が足りなくなりますね。まあゲームの時間を減らせばよいのでしょうが、まだ金鹿学級で1週目なんですよね…タノシイ!
次回からはようやく次の章に入ると思います。『ヒメで遊ぼう』を閑話として1話入れようかとも思いましたが、展開的になんか違うなと…またどこかで入れます。
ではまた次回




