最悪の一日です5
最後の大罪、嫉妬。ヒツギは確かにそう名乗った。
周りにいるかつての仲間たちと楽しそうに、それでいて常に苛立ちを隠そうともせずに話すその姿は、俺達が知るいつも楽しそうなヒツギとはまるで別人のようだった。
ユウカや従魔たちと戦っていたはずのオルスたちがああして話しているのが少し気になったものの、体が動かないから視線だけをユウカたちが戦っていた方へ向けてみた。すると、それぞれが別々のキメラを倒しているところだった。おそらく色欲の使う転移の渦で呼び寄せたのだろう。大罪の名を冠するやつらとは明らかにレベルが落ちているから圧倒はできているようだが、1体1体を倒すのに時間がかかっている様子だ。
あたりの様子を探っていると、自身の異変に気が付いた。いつまで経っても回復が始まらないのだ。『再生』も
『自動回復』も『リジェネレイト』もまるで機能していない。
『スキル:再生LvMAXを習得しました。
リジェネレイトLv2を習得しました。 』
そんなことを考えていると、それに抗議するかのようにスキルレベルが上がった。この世界にやってきて最初に手に入って、最も頼ってきたスキルである『再生』もついに最大まで上がった。切り落とされた腕をくっつけたり、折れた腕をあっさりと治したりと強力な回復能力を持つ『再生』。それが最大レベルまで上がっても、一向に回復が始まる様子はなかった。
これまでの経験上、『再生』ができない状況は主に2つだった。1つはダメージが大きすぎて回復しきれない状況。死龍王ダムドレアスを相手にしたときのレベルアップによる体を作り変えられる痛みがこれだった。あの時は気絶してしまい、後から聞いたら天上院に殺されるところだったらしい。
もう1つは回復量をダメージが上回っている状態だ。正直、これを解決するには回復系のスキルのレベルアップを待つしかない。ダメージとなっている元を消すのも一つの手ではあるが、それができれば苦労しない。
だが、今回はそのどちらでもないような感覚だった。『再生』や『リジェネレイト』の発生自体が阻害されている感じがする。
「ヒール4」
回復が始まらない俺の様子に気が付いたマナが俺の方にヒールを飛ばした。しかし、それは俺の目の前に現れた渦に吸い込まれ、あらぬ方向へ飛んで行ってしまった。
「させると思いましたか? そこの男は厄介そうですし、あのままでいてもらいます」
「遊んでんじゃないわよラスト。それに勘違いしてるようだけど、一番厄介なのは鳴じゃなくて真那なんだから」
「そもそも魔法が効かなくて、自動回復系のスキルも持っていて、魔法も近接戦闘もこなす男であるからな」
「うへぇ、俺はやりたくねーな」
「鳴は私のモノなんだから他の誰にもあげないわよ。このまま持って帰って、ずっと一緒なんだから」
「俺は知ってるぞ。こういうのをヤンデレというのだな」
「愛が重いってか?」
「あんまり調子に乗らないようにね。エンヴィーはまだまだ本調子とは言えないんだから」
ヒツギが魔王たちと話す間にも自分の体を観察していると、右の脇腹あたりが白くなっているのに気が付いた。ヒツギの棺桶が直撃したあたりで、そのダメージのせいで感覚がなくなっていたために気づくのが遅れてしまった。
「鳴、鳴の弱点はよくわかってるからね。当然というか、もちろん対処はしてあるよ」
ヒツギの方からそう声が聞こえてきた。その声に合わせるようにしてだんだんと白い物質が体を広がり始めた。
「鳴!」
マナがこちらに向かって来ようとすると、渦を構えたラストがヒツギとともに間に入った。従魔たちやユウカも動き出そうとしているが、ラースたちが再び戦闘に戻ったために動けずにいた。完全に俺を孤立させに来ているようだ。
「鳴、さ、私たちと一緒に行こ?」
「ヒツギ……これを解除しろ」
俺の側までやってきて、地面に伏せる俺の頭を自身の太ももに乗せて膝枕の状態にしながら、ヒツギは俺の頭をなで始めた。
「強がっても無駄だよ? もう体の半分以上動かなくなってるでしょ?」
「なんでだ?」
「言ったでしょ? 鳴は私のモノだって。ずっとこの時を待ってたんだよ?」
「嘘、だな」
「うん、嘘。それを思い出したのはついさっきだからね。魔王が持ってたあの球は記憶の封呪って言ってね。昔私が作った記憶を封印しておくための呪玉なんだ。鳴がこの世界にやってくるまで私自身を封印する時に使ったの。でも、ずっと鳴と一緒にいたいって思いはほんとだよ?」
「魔王なんかに」
「鳴は魔王なんかって言うけど、魔王は魔王で苦労してるんだよ。私はその一端を知っているし、それを壊したいという魔王の思いも理解できた。だからこそ私は魔王と手を組んだんだよ。まあ、魔王が私の望むものを提供できたっていうのも大きいけどね」
「ヒツギが望むもの?」
「鳴に決まってるじゃない。900年前、私がこの世界に連れてこられて、心の底から臨んだ唯一の願い。私はね、鳴ともっと一緒にいたかったの。あんな馬鹿どもじゃなくて、ずっと鳴と一緒にいたかった。でも、地球には帰れない。そうなったら、鳴にもこっちに来てもらうしかないじゃない?」
「それでマナを巻き込んだのか?」
「真那まで来ちゃうのは予想外だったんだよ? 私が望んだのは鳴だけなんだから」
「マナに手を出すな」
「それは無理かな。まあ、さすがにこの場で私が手を下すのは嫌だからラストの渦で飛ばしてもらうけど、真那が私たちと一緒に来るっていうなら別だけど、真那は来る気配なさそうだし、仕方がないよね」
「ヒツギだろうと容赦しねえぞ」
既に体の半分が動かなくなってきた。それでも、俺はヒツギをにらみつける。
「怖いけど、鳴の弱点はわかってるって言ったでしょ? 追加しとこうかな。セイントスノウ」
ヒツギの手から俺に雪が降り始めた。しかもただの雪ではなく、聖属性を帯びた雪だ。『喰らう瞳』がその効果を発揮できず、俺の体はさらに動かなくなった。
「私はね、氷の上位である氷河、聖氷属性の使い手なんだ。この雪は聖氷属性の雪。鳴は聖属性を帯びたこの雪を喰らえない。もう私からは逃れられないよ」
「危ないな」
話を続けるヒツギめがけて飛んできたオルスを、渦で転移してきた魔王が受け止めた。オルスと戦っていたのは……ユウカか。
「わしをなめるでないのじゃ。加減などせんと言ったはずじゃぞ」
ユウカの体は初めて見た時の黄龍のように雷を纏っていた。ユウカが前に言っていた奥の手というやつだろう。
「神威解放だね。僕も初めて見た。さすがのオルスでも厳しいかな」
「申し訳ない」
「いいっていいって。向こうが神の威光を使うなら、こちらは悪魔、|悪魔を統べる者からの贈り物」
『対象:異世界人
個人名:魔王 ?????
属性:魔
以上全ての条件を達成しました。
職業:聖???の勇者の能力を一部解放します。
二文字目の封印を解放します。
職業:『聖???の勇者』が『聖魔??の勇者』に変更しました。
スキル:『魔獣強化(1)』を習得しました。
スキル:『魔力操作』が『魔操作』に変更しました。
隠しスキル:『幸運上昇』『王獣の誇り』『魔獣使役』『スキル上昇強化』が閲覧可能になりました。 』
魔王が使った強化魔法は七つの大罪の名を得た全員が対象だったようで、俺とコルクもその効果を受けていた。魔王もそれに気が付いたようで若干視線をそらしていた。でも、それの強化も、ヒツギの雪を振りほどくまでには至らなかった。
どうもコクトーです。
『刈谷鳴』
職業
『最大
ビギナー(10) 格闘家(50) 狙撃手(50)
盗賊 (50) 剣士 (50) 戦士 (50)
魔法使い(50) 鬼人 (20) 武闘家(60)
冒険者 (99) 狙撃主(70) 獣人 (20)
狂人 (50) 魔術師(60) 薬剤師(60)
神官 (50)
有効職業
聖魔??の勇者Lv17/?? ローグ Lv46/70
重戦士 Lv62/70 剣闘士 Lv49/60
龍人 Lv10/20 精霊使いLv17/40
舞闘家 Lv29/70 大鬼人 Lv11/40
上級獣人Lv7/30 魔導士 Lv23/90
死龍人 Lv1/20
非有効職業
魔人 Lv1/20 探究者 Lv1/99
狙撃王 Lv1/90 上級薬師Lv1/80
呪術師 Lv1/80 死霊術師Lv1/100 』
久しぶりに1週間で更新です!
3連休だと書く時間作りやすいなぁ…
ではまた次回




