最悪の一日ですーマナsideー
「うぅ……」
「頑張ってヒツギ! 負けちゃダメ!」
メイとユウカ、それからヒメちゃんたち従魔組が頑張って魔王たちを相手取っている間、私はいまだにうなされているヒツギに回復魔法を当て続けた。以前風龍様が受けた龍殺しの呪いを解くために作ったイレイズヒール、その効力をさらに高めたイレイズヒール改を使っても、魔王の放った呪いは解くことができなかった。メイが『喰らう瞳』の『力』を使って呪いを自分の体に移す形で喰らったものの、ヒツギが苦しそうなのには変わりはない。
そもそも、呪いというものは、魔法でもスキルでもない、まったく異なる力なんだそうだ。
この世界に来たばかりの頃、あの王都の広場に集まってくれた魔法使いの1人が教えてくれたことだけれど、私が『力』を使い、魔法というものを知れば知るほどそれは確かなことだったと確信できるようになっていった。
魔法とは、属性を持たない純粋な魔力を、魔法陣や文字、詠唱などの手段を用いて特定の属性へと変質させて使うものだ。あくまでも変質させた魔力そのものであることには変わりないから、体質なんかの問題でその大元である魔力を操ることができないキャラビーみたいな人間には使うことができない。それに、効果の発動した魔法でも、魔力をうまく散らしてしまえばそれを消すこともできる。状態異常魔法とその解除がまさにその理屈だった。
一方で、スキルは魔力を変質させるわけではない。自身の体に宿る魔力を消費することで、特定の効果を持つ物質を発現させているようだ。だからこそ魔法ほどの自由さはないし、その優劣は消費した魔力の量と、スキルそのもののレベル、そして本人の能力が大きくかかわってくる。メイが手数を増やすために同じスキルをいくつも同時に使っているのはこの辺りが理由だと勝手に思っているけど、本人にもわかってなさそうだからね。
話を戻すが、呪いはそのどちらにも該当しない。
別に自身の魔力を消費して効果を発現させるわけでもないし、魔力を呪いへと変質させているわけでもない。発動させるために魔力は必要ではあるけど、発動してしまえばそれは既に魔力ではなく呪いとなる。魔法であれば魔力を散らすことで効果を消すことはできるけど、呪いそのものを散らすことはできない。呪いを消すには、魔法にもスキルにもない、核を消すしかない。
ヒツギが受けた呪いは、私がいくら『視て』もわからない。呪いは魔法じゃないのだからしょうがないとは思うけど、あの龍殺しの呪いはきちんと『視る』ことができていたのだ。どこに核があり、その核を取り除くにはどこを残してどこを消せばいいのか。そのすべてが理解できたからこそ龍殺しの呪いを解く魔法をつくることができた。しかし、ヒツギが受けた呪いはまったくと言っていいほど理解ができなかった。
想像することはできる。あの魔王が放った球が核になっているのは間違いないと思う。でも、すぐにヒツギの体を見た時に既にその球は見られなかった。呪いがヒツギの全身を覆っているのはわかっても、その核は消えていた。呪い自体はメイが喰らったからいいものの、その謎が残っているから多分ヒツギは目を覚まさないのだろう。呪いは消えても、その核は消えずに今もヒツギを蝕み続けている。それをなんとかして消し去ればヒツギの苦しみも消えるはずだ。
「サーチ……イレイズヒール改……サーチ……ディテクトマジック……サーチ」
様々な回復魔法を使い、そのたびにヒツギを蝕む核を探す。ヒツギの全身に魔力を流して滞るところがないか。魔法の効果が薄いところはないか、あらゆる可能性を探す。
23種類目の回復魔法を試したところでついに核の一部と思えるものを見つけた。それはヒツギの頭の中に、隠れるようにして残っていた。何度も使った魔法が効果があったのか、それとも時間が経っただけなのかは判断つかないけど、もはやミリ単位の大きさしかないそれがヒツギを苦しめる原因であるのは間違いない。それを消し去れば!
「ヒール5!」
私はその一点に集中して最大威力の回復魔法を送り込む。少しずつその核が力を失っていくのを確かめながら、私は確実にそれに魔法を送り続けた。
「……消えた!」
そしてついにその核が消え去った。うなされていたヒツギも心なしか表情が和らいだように思える。
「う……私」
それから1分も経たないうちにヒツギが体を起こした。呪いの影響はもうないみたいだ。
「よかった。ヒツギ、目を覚ましたのね。動ける?」
「うん。大丈夫。もう……大丈夫だから」
ヒツギはそう言って立ち上がると、すぐ側に倒れていた自身の棺桶に手を伸ばした。
「今はメイとユウカが魔王たちを止めてくれてるところ。メイの動きもどこかぎこちないし、逃げるためにも私も加勢しに行く。キャラビーたちのところまで棺桶を盾にして下がれる?」
「大丈夫よマナ。もうじき終わるから」
「……ヒツギ?」
私は自身にエンチャントと結界を貼り直し、魔王相手に苦戦しているメイのところに向かおうとしたが、ヒツギの言葉に違和感を感じて振り返った。
「えっ?」
気の抜けた声が漏れた。そんな私の結界にギュリギュリと音を立てて鎖が巻き付いていく。
「何を」
「硬いわね。やぁ!」
鎖は既に何重にも巻き付いていて、その数が増えるごとに結界を締め上げる力も増えていた。しかし、いくら幕力が増しても、私の結界を砕くところまではいかないみたいだった。ヒツギもそれを感じたようで、鎖の先端について回っていた棺桶が急に向きを変えて私の方に迫ってくる。あれは間違いなく結界を貫く威力だ。
「マジックハンマー・ノーブル」
私は足元からマジックハンマーを生み出して、そのハンマーに乗って上に逃げる。直後に、残された結界を棺桶が貫き、巻き付いていた鎖が地面に落ちる。私自身はそのままハンマーに乗って後ろに下がった。
「そんな変な魔法の使い方……ああ、私がやったんだっけ」
「どういうつもりなの? ヒツギ」
棺桶を手元に引き戻して頭上で回転させ始めたヒツギに問いかける。その表情はいつもの笑顔じゃなく、ひどく不機嫌そうにしながらもとても真面目なように見えた。
「どういうもこういうもないよ。私はただ思い出しただけ。自分の立場と、その役割を」
「思い出したって、まさか」
「マナはわかってたんだね? いや、鳴もかな。わかってても口には出さなかった、いや、出したくなかった。思いたくなかったっていう方が正しいよね。さすがにそれくらいもわからないなんて言うつもりはないよ」
「……今までの、今日までのこの生活は嘘だったとでも言う気なの?」
「嘘だなんて言わないよ。楽しかったもん。鳴と真那と一緒にいられて、本当に楽しかった」
「だったら!」
「でも、それはこれからも続くよ。鳴は、私の弟だから」
ヒツギが突然視線をメイの方へと切り替えた。
「メイ! よけて!」
私の声に反応してメイは魔王の攻撃を防ごうと構えた。
「違う!」
ヒツギの回す棺桶がメイの右側を捉えた。魔力が込められた一撃でメイがおもちゃみたいに吹き飛んでいく。
「なんで……なんでなの! ひつ姉!?」
私を攻撃するのはともかく、メイを攻撃したのを見て思わず声が出た。
「……」
無言のまま棺桶を引き戻し、そのまま魔王の方に歩いて行った。
「おお、ようやくそろったわけであるな!」
「だーからお前は黙ってろセン」
「はぁ。またこの馬鹿との付き合いが再開しちゃうんだなぁ」
「大変そうだね」
「なんでまたこんなやつまで……。鳴、真那、ユウカ、キャラビー、ごめんね」
昔の仲間と話すヒツギがこちらに振り返った。先ほどまでの不機嫌そうな顔とは違い、どこか寂しそうに感じた。
「私の名は刈谷柩。魔王直轄の魔将の1人。この場にいない傲慢を除いた最後の大罪。嫉妬よ」
ヒツギ、エンヴィーは両棺桶を左右の地面に突き立ててそう名乗った。
どうもコクトーです。
マナ視点なのでステータスはなしとなっております。
とりあえず、遅くなってすいませんでした。気が付けば1月たってしまった…。
体調不良、用事が長引く、データが消えると様々あり、遅れてしまいました。
平日に無理しすぎてそれが週末にまとまってきてるんですかね……残業したくない…(´・ω・`)
ではまた次回
 




