アンナの森の日常です
今回はアンナ(アンセスタークイーンアント)視点です。
アントたちが普通に話していますが、本来は人の言葉を話せるのはアンナだけです。
私の名はアンナ。偉大なるヒメ様と主様の配下です。
お客様と知らず、いつものように警戒していたところ主様から止められてしまいました。スナイプアントたちは遠見によって遠距離が見られるので警戒させるのに便利なのですが、あの老龍のように敵意と感じる方もいるようですし、別方向で警戒が可能な子を増やした方がいいかもしれませんね。
主様に私自身の強化と新種の開発のために龍の素材をお願いしているところ、二匹のアントから連絡が途絶えました。正確には、一体の連絡が途絶え、それから少し経ってもう一体。
私は、私が生んだ子達の中でもモデルクイーンアントたちがまだ生むことのできない子達とはリンクを繋いでいました。そのリンクを繋いでいた二匹。モデルクイーンアントたちには私の目の前以外で新種の配下挑戦はしないように命じてあります。つまり彼女たちではない何か。直接向かいましょう。
私が連絡の途切れた地点に向かうと、あり得ない光景が目の前に広がっていました。
「ギィギィギィ」
「ギィギ?」
「ギィイ」
地面に横たわるのは森の北側の警戒の任につけていたハイレーダーアントと、その護衛のフルバリアアント。そして、フルバリアアントが身に付けていた護衛用の魔剣を自分のだと言って取り合う10匹のアーミーアント。どの個体もあの魔剣には劣るが、きちんと手入れされた、見覚えのある剣を持っていた。
『何をしているのですか?』
「誰だ!」
私の問いかけに全員が振り向いた。
「なんだ、大御所ですかい。何の用で」
『その足下の2体をやったのはあなたたち?』
「ええ、そうですが?」
目の前のアーミーアント、いえ、アーミーアントリーダーは当たり前のようにそう言いました。
『あなたたちを生んだ彼女たちですら打ち破れない防御障壁をあなたたちが? とても信じられない』
フルバリアアントは防御に特化した特殊個体。主様の『全方位結界』をもとにして産んだ、ハイレーダーアントを守るための個体だ。そのバリアは主様のものよりもマナ様の結界のような性能を持っており、物理攻撃だけでなく、魔法も防ぐことができる。攻撃さえ受けなければ丸一日くらいならば発動したままでいられる。見た感じの彼らの実力であれば、たとえ攻撃を受けていたとしても20時間はいけるはず。それだけの時間、私とモデルクイーンアントたちみんなに連絡すらないというのはありえない。
「まああの野郎の結界はたしかに俺たちじゃ突破できない」
「でも、まあ出させなければいいだけの話よ」
「後ろからさっときて、気づいていないところをブスリとな」
「剣が4本も刺さってるのに、反撃してくるどころかもう一体に覆い被さって、必死に出せもしない障壁を張ろうとするんだもんな。あそこまでいくと滑稽だった」
笑いながら自分たちのやったことを自慢げに語る彼ら。しかし、1つ間違いを指摘するならば、ハイレーダーアントとフルバリアアントはともに彼らの存在には気づいていたでしょう。しかし、気づいていて、あえて何もしなかった。なぜなら、彼らはモデルクイーンアントから生まれた同胞なのだから。これが他のモンスターや人間であればフルバリアアントはすぐに防御に移っていたでしょう。しかし、アントだったからこそ結界を張らず、防御態勢をとることもなかった。考え方によっては油断と言ってもいいのかもしれない。
別にそのことを責めるつもりはない。普通に考えれば、私かモデルクイーンアントかの違いはあったとしても、同じ群れのアントである彼らに襲われるなんてことはあり得ない話なのだ。まして、目の前の10匹のアーミーアントたちはこの森の見回りで、ある程度自由に行動することを許されている。連携をとる目的だったり、報告の兼ね合いで10匹全員が揃うこともあると聞いている。今回もそうだと考えたのでしょう。
『なぜこのような真似を?』
「なぜ? これ以上あんたの元で働く気がしなくなったからだよ」
「人間なんかを主と言って頭を下げて、あんな小さいモンスターに付き従う。そんなやつが俺たちの頭だと思うと反吐が出る」
「俺たちは俺たちの道を行く。だが、それには力が必要だ。武器っていうのは一番簡単な力だ。ということで、これは俺たちがもらっていってやるよ。こんな腰抜けが持っているのは宝の持ち腐れだからな」
そう言ってフルバリアアントの頭を蹴飛ばした彼らは、いまだにフルバリアアントに刺さったままだった剣を抜き、私に背を向けて歩き出しました。
「それじゃあまずはあの人間たちを襲おうぜ」
「誰からやる?」
「あの猫みたいなやつだろ」
「そりゃそっか」
『キャラビーのことを言っているのですね』
「そんな名前だったのか。ま、なんだっていいけどな」
『ええ。たしかにどうでもいいですよね。もう死ぬんですから』
私は一番近くにいたアーミーアントの首を手刀で刎ねました。
ぽとりとその首が落ちるとともに、残りのアーミーアントたちが一斉に振り返りました。その瞳に恐怖の感情を浮かべて。
「いったい何を」
『黙りなさい』
口を開いた近くのアーミーアントの首も刎ねます。ほかのアーミーアントたちの恐怖の色がさらに濃くなりました。
『面と向かって敵になる宣言をしたあなたたちを生かしておくだなんて、なぜそんな甘い考えができるのでしょうか? あなたたちにはわかりますか?』
私は今になってようやく表れたモデルクイーンアントたちに問いました。ここから屋敷を挟んでほぼ間反対の位置にいたと考えるとそれなりに早く来たと言いたいところですが、この場においては遅すぎましたかね。
「「申し訳ありません」」
『あなたたちが謝る必要はありません。ただわからないだけですから』
「すべての責任は私たちがとります」
「く、クイーン様!」
すがるような声を絞り出すアーミーアントたちに2体のモデルクイーンアントたちは微笑みかけます。そして、両手でそれぞれ1匹ずつを殺しました。残された4体は顔を真っ青にしながら地面に両手をついて懇願します。
「二度とこのような真似はしません! 心を入れ替えて働きます! 命だけは助けてください!」
「お、お願いします! 次からはもう逆らったりしませんので!」
頼りにしていた彼女たちに4体が殺されたのを見て恐怖が振り切ったのでしょう。先ほどまでの余裕は完全になくなりました。
『あなたたち、武器を回収して武器庫にしまわせておいてください。あと、死んだハイレーダーアント、フルバリアアントの二体の弔いの準備を。弔いが済んだらすぐに次代を生みます。そしたら彼らに挑戦しなさい。1体ずつしか生む気はありませんので、どちらがどちらに挑むのかは決めておくことです』
「「はい」」
指示を出してすぐに彼女たちは動き出しました。少し遅れて地面にへたり込んだままだった彼らも立ち上がり、彼女たちの後についていこうとします。
『さて、準備をしないといけませんね。ですが、その前に』
私は空に向かって3発酸弾を放ちました。それは空中で急に進む方向が変わり、3体のアーミーアントたちに直撃しました。
「「「ぎゃあああああ」」」
酸に焼かれる痛みに苦しみながら、そのまま彼らは死にました。そして、最後に残ったアーミーアントリーダーは意味が分からないといった表情を浮かべてこちらを見ます。
「な、なんで……許してもらえたのでは」
『一度裏切った者に次はないんですよ』
私はマナ様より教わったサンドホールという魔法を彼の足元に放ちました。中心に穴が開いた砂の渦が出来上がり、それに飲まれて少しずつ地面に沈んでいきます。
『そこには新しい蟲たちがいます。頑張って生き残ればチャンスはあるかもしれませんよ?』
穴の中に消えていくアーミーアントリーダーを見ることなく、私も次を生むために屋敷の方に向かっていきました。
そして、穴が完全に消えた後、断末魔が響きました。
どうもコクトーです。
今回はアンナ視点だけなので職業レベルはなしです。
ニュースを見るたびに大雨で大変だとやってますね。自分のところは電車が止まる程度で済みましたが、自然災害とはやはり怖いですね……
残業も少しずつ入るようになり、こちらよりもやらないといけないのが全然進んでいないこともありまして、次の更新は2~3週間後になりそうです。平日に10時帰宅で11時半ごろ寝るとなると書く時間がないんだよぉ……
ではまた次回




