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違う人も召喚されました

 次の日、俺は見覚えのない天井をみながら目を覚ました。というかここは……あーあれだ。なんか召喚の儀とかいうふざけたもので召喚されたんだった。

 ここは『旅の園』というよくわからない名前の宿屋の二階の一部屋だ。昨日は騎士に案内されてこの宿屋に来て、ベッドに寝転がった途端どっと疲れが来てしまい、寝てしまったのだ。

 普通にベッドから起き上がり、体を動かす。昨日の疲れとか後遺症とかはなんもない。極めて好調だ。


「あ、鳴もう目覚めてたんだ。起こしに来たけど無駄になっちゃったかな?」


「おはよう真那。別に無駄でもないさ。今からそっち行こうと思ってたところだしな。そろそろ騎士団とかがくるだろ。腹減ったし」


「ならたしか下でご飯食べられるはずだよ。一緒にいこ」


 俺たちは下に降りていき、召喚される前には見たこともない食材だが、やたらと美味い朝飯を食べて、そのまま二人で談笑をしていた。

 そこへ、昨日案内してくれた若い騎士が慌てた様子で駆けてきて、俺たちに告げた。


「お二方、大変でございます。また新たな勇者が現れました」


「は?」


「どういうこと?」


「理由はわかりませんが、あの後、召喚をした巫女が後片づけをしていたところ、突然魔法陣が光りだして新たな勇者が現れたとのことです。すぐに来てください」


 どういうことかいまいち理解できないまま、俺たちは昨日の広間のような場所に連れてこられた。そこでは、新たに召喚されたらしき一人の男と昨日のおっさん騎士が戦っていた。


 俺と戦ったあの若い騎士とは比べ物にならないくらい、攻撃の1つ1つは鋭いものの、おっさん騎士の攻撃は悉くかわされ、逆に男の方の攻撃はすべてあたっていた。木剣ということと、おっさん騎士の方が鎧をまとっていることからダメージはほとんどなさそうだ。そしてついにおっさん騎士の剣が弾かれ、その首筋に木剣が当てられた。


「……参りました」


「あなたは強かった。でも僕は勇者だからね。負けるわけにはいかないんだよ」


 木剣を突きつけながらそう告げたのは爽やかボイスのイケメン君だ。なんでだろう……いらだってきた。


「あの方が新たな勇者、天上院古里様です」


 彼は俺たちの視線に気づいたのかイケメンスマイルでこちらに歩いてくる。


「やあ! 君たちが昨日召喚されたっていう二人かい? 僕は天上院古里。よろしく!」


「刈谷鳴だ。でこっちが」


「高坂真那だよ」


「鳴に真那か。これから力を合わせて魔王からこの世界を救おうじゃないか!」


「俺たちはんな危ないことに参加する気はない。ある程度生活できるようになればすぐにでも引っ越してのんびり暮らす」


「なぜなんだい!? 僕たちがやらないとこの世界は」


「もともと俺たちは地球の、ごく普通の高校生だ。この世界には関係ない。なのになんでわざわざ危険なことに挑まなきゃいけないんだよ」


「君には勇者としての志はないのか!」


 俺の勇者として動くことに消極的とも言える言葉に対して、怒りに顔を歪めて怒鳴る古里。なんでこんなに熱くなってんだよ。


「そんなもの欠片もない。世界が救いたきゃ一人でやってくれ。俺は危険なことに真那を巻き込みたくないし、俺自身も巻き込まれたくない」


「そんなこと言って、この世界の人はどうするんだ!!」


「もともとこの世界の奴らの問題だ。この世界の奴らでなんとかしてもらわないと困る」


「ふざけるなぁぁあぁああ!」


 突然殴りかかってくる天上院。俺はそれをよけられずまともにくらってしまった。つってもよけられるような速度じゃなかった。たぶんこいつは近接格闘とか戦闘系の力をもっている。想像だけど……。

 殴られたことにより宙を舞った俺はそのまますぐ近くの壁にぶつかる。


「鳴! 『慈愛の光がその身を癒す』ヒール!」


 真那が駆け寄ってきてヒールをかけてくれた。痛みが引いていく。


「なにするのよ!」


「そいつが悪いんだ! 僕は正しいことをしようとしてるのに」


「落ち着いてください! 古里様はこちらへいらしてください。そこにいる騎士が案内します。お二方は私とこちらへ」


 おっさん騎士が介入して無理やり止める。つか正しいことって……あいつ絶対自分がすべて正しいとか思ってんな。たぶんだけど自分が主人公だとか思ってるタイプだな。


 天上院とわかれてからしばらくたって、俺たちはおっさん騎士を含めた5人ほどの騎士とともに街を出て森を歩いていた。なんでもこの世界の生活に慣れてもらうためということで、今日は依頼を実際に体験してもらうんだとか。


 この世界ではいくつかのグループがある。

 例えば、王国に所属する騎士団と魔法使いのグループ。これらは国から命じられた任務をこなしていき、国からお金をもらって生活をしているグループだ。普段は訓練や、門番などの割り当てられた警備の仕事をしているらしい。

 他には商人ギルドと呼ばれるグループ。その名の通り商人が集まって結成されたグループだ。毎年ギルドにいくらかのお金を払わなければならないが、店を開くときに便宜を図ってもらったりしながらそれぞれが自身が出した利益で生活しているグループ。

 そしておそらく今後俺たちが生活する上で最も関わるであろう冒険者ギルドというグループ。この世界にはもともと多くの魔物が存在する。1匹もいない森などほぼ存在しないくらいらしい。ダンジョンができてからはその活動が活発で、討伐依頼や護衛依頼が数多く集まる。それを取り仕切り、仲介者として仕事を紹介し、達成したときはそれ相応の金を払う。そうやって依頼をこなして生活するグループだ。小さな村や町では冒険者ギルドが街を襲う魔物の対応をしなければならないという義務があったりもする。その場合、その場にいた冒険者はランクE+以上は全員参加。ただしモンスターの強さにもよるらしい。

 冒険者はランクが指定されており、ランクFから始まって最終的にはSランクまで決められている。しかし、そのSランクも現在12人しかおらず、うち1人は現在休業中らしい。


 そんなことを思い出しながら森の中をしばらくいくと、深い谷にきた。


「えっと、今回の依頼であるダリル草はあそこに見える橋を渡った先にあります。ダリル草は麻痺消しの薬を作る材料にもなるので、収集依頼は常にあります。今回は20束なのでそれ以上とれた場合はそれぞれが持っていって構いません。道具屋に売ってもいいしギルドの本部でも買い取りは実施していますのでそちらでも大丈夫です」


 ダリル草ってそんなものだったのか。参考になった。なんでもダリル草の群生地帯はこの谷の向こうで昔騎士団が発見して、利益になるからと当時の王が判断して、慌ててここに橋を作ったんだとか。今もその吊り橋は補修に補修を重ねてその形を保っているらしい。


「では橋を渡りますが、念のため騎士が二人先行して確かめてから私と鳴様、残る二人と真那様の順にいきたいと思います。よろしいですか?」


「ああ、お願いします」


「よろしくお願いします」


 二人揃って頭を軽く下げる。普通に考えて一番危険なのは最初にいく二人だ。つい先日定期点検と補修をしたばかりだそうだからおそらく大丈夫だとはいえ、ちゃんと安全だって保証なんかない状態で行くんだからな。


「おい、頼むぞ。危険だと判断したら戻ってこい。大丈夫なら向こうで合図をだせ。安全を第一とせよ。命令だ」


「「はっ!」」


 二人の騎士はゆっくり慎重に橋を渡る。所々で橋を吊っているロープを確認しながら確実に進んでいく。そして1分後、渡りきったみたいで、なにやら話し合っている。安全か安全でないかの話し合いのようだ。二人いれば感じ方も二通りある。片方が安全だと感じてももう片方は危険だと言う場合もある。一人でも危険と感じたらそこは通らないようにしているため、どうなるかわからない。

 と、話し合いが終わった。頭の上で丸をつくっている。安全ってわけだ。


「よし、では行きます。安全だとしても注意は怠らないようにお願いします」


「わかっている。じゃあ先に向こうで待ってるからな」


「はいはーい」


 そして俺とおっさん騎士が橋を渡り始めた。歩く度にぎしぎしと揺れる。これ……安全か?

 そんなことを思いながらもゆっくりと進んでいた。


「そろそろか……」


 3分の2くらいいったとき、おっさん騎士がなにか呟いた。そろそろ? なんか時間でも気にしてるのだろうか。


「っ!!」


 そして一歩踏み出したとき、床が抜けた。俺は咄嗟に橋をつかむ。左手はからぶったが右手はなんとかつかめた。危機一髪だ……。


「大丈夫か!」


 騎士のおっさんが大きな声で叫んで手を伸ばす。辛うじてつかんでいる指先に(・・・)


「王の命令だ。勇者は他の二人がいれば十分なんでな。ここでリタイアしてくれ」


 ナニをイッテルンダ? 助けるために手を伸ばしてんじゃねえのか?


 そして、おっさんの手が俺の指を橋から剥がした。支えを失った俺の体は重力に従って落下を始める。


「鳴!!!!」


 真那の声がかすかに聞こえる。なんでだろうか……ひどくゆっくりと落ちている感覚がする。浮いているのではないかと錯覚してしまうほどに。

 だが現実はそんなことはなく、俺の体は谷底へと落ちていった。








「鳴! 鳴! 鳴! なんで!? なんで鳴が!」


 叫び、今にも後を追ってしまいそうになる真那を騎士は必死に止める。

 真那の目は血走っており、涙がこぼれ落ちる。


「落ち着いてください! あなたまで落ちてしまっては」


「離して! 鳴を助けにいくんだ! 私が!」


「おい、引き上げろ! 今ここにいるのはまずい!」


 リーダーのおっさん騎士が真那を肩にのせて走り出す。他の騎士も谷を見ることなく走り出す。


「いやぁぁあああ!! 鳴ぃぃいいいいい!!」


 真那の叫びをよそに騎士たちは走り続ける。

 真那は気付いていなかった。

 助けられなかった。そのはずなのに悔しそうな顔をするものがいないことに。そして……騎士の顔には笑みが浮かんでいることに……。





 そしてその後、鳴を助けに谷に向かうものは誰もいなかった。

どうもコクトーです


3人目もきました

天上院古里。

ちなみに『こさと』と呼びます

特別な読み方とかはしないよ?

この世界では冒険者はギルドで依頼を受けてそれをこなすことで生計を立てています



ではまた次回

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― 新着の感想 ―
[良い点] 早くざまぁしてほしいw
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