石碑の話です7
来た時同様、どれくらいの時間がかかったのかがわからないまま階段を上り続け、ようやく入り口の本棚と思わしき木材の壁が見えた。『探知』で壁の向こうにマナたちとアハトさん、職員さん、サン、ナナ、ハチの7人がいるのを感じ取れたが、そこから少ししか離れていない距離に他の反応があった。誰だ?
壁に耳を当てて向こうの状況を探ってみるも、本棚1つだけのはずが、思ったよりも声は聞こえず、向こうの状況がつかめなかった。こういうときにテレパシーとか使えたら便利なんだけどな……。ちょっとこの件が終わったらテレパシーを習得できそうなモンスターがいないか調べることを検討しよう。そんな都合よくはいないだろうけど。
それから5分くらい待っていると、離れていた反応が一旦近くなり、ナナとハチ、職員さんと一緒に部屋から遠ざかって行った。完全に『探知』の範囲外に出て行くまで待って、本棚の裏を数度ノックした。
すると、本棚がゆっくりと下に沈んでいき、入った時と同じようにアハトさんだけがこちらを向いた状態だった。すぐに部屋の中に入り、本棚がもとに戻る。
「サンたちが一緒に来たというのになかなか連絡がないから心配したぞ。無事でよかった」
「ありがとうございます。『探知』に知らない人の反応があったので、出ていいか迷っていました」
「配慮に感謝する。来た時にドムドムと話していた新人冒険者を覚えているか? 彼らが依頼を終えて戻ってきたはいいものの、誰も表にいなかったからと奥まで無断で入ってきてな。ドムドムを心配してのことだったそうだが、規則は規則でな。ナナとハチを護衛にしてドムドムに説教に行かせた。本来ならギルドカード剥奪の上に連帯責任でパーティ、及びギルドメンバー全員奴隷化なのだが、誰も表にいない時に奥への伝達手段を用意していなかったドムドムの落ち度だ。厳重注意で済ます。次はないがな」
そう言ったアハトさんの顔には呆れとも怒りともとれるような表情が浮かんでいた。
アハトさんの話が一区切りついたところで、マナたちの方に顔を向けた。
「マナたちは怪我とかないか? 特にキャラビーは危なかったけど」
「大丈夫だよ。みぃちゃんのしっぽの毛先が少し切れただけ。あとでしっかりとブラッシングしてあげてね」
「わかってるよ。キャラビーを守ってくれてありがとな」
「がぁぅ」
礼を言いながらみぃちゃんの頭を撫でてやると気持ちよさそうに目を細めた。そんなみぃちゃんに残りがわずかになってきたハニーベアの肉をあげて帰還させた。センとスロースの話はまた館に帰ってからにして、再びアハトさんの方に向き直った。
「石碑のことなのですが、最後のものもあの男に壊されてしまいました。バラバラに壊されて、文字も読めなくなっていました」
「予想はしていたがやはりそうなったか。別に責任をとは言わないから安心してくれ。むしろ、あの場に君たちがいなければサンもナナもハチも死んでいただろう。今日あの場所に行く予定ではなかったのだからな。そして私は数か月後にあの場所を訪れて、そこを住処にしてしまった周囲の森にいた魔物に殺されるのだろう」
「アハト様! それは」
「サン、考えてもみろ。お前を含めた8人全員、あの男から逃げ延びるだけの実力はない」
「しかし」
「お前に仲間が救えるか?」
「……いえ、失言でした」
「イチとツーが二人がかりで傷一つつけられなかったレベルの相手だ。仕方あるまい。メイよ、手の内を晒せとは言わんが、言える範囲でどう追い払ったのか教えてくれるか?」
「わかりました。とはいっても、追い払ったと言うよりは、迎えが来たというほうが正しいです」
「他の魔族が現れたということか。わかる限りで特徴を言ってくれ。サンにメモを取らせる」
「かしこまりました。ここにある用紙を使用してもよろしいですか?」
「これを使え。すでに終わった案件の裏紙だ。正式な書類はまたあとで作る」
「了解しました。メイさん、お願いします」
「スロースと名乗る魔族で、大きめの仮面をつけていたので顔は見えませんでしたが、耳は猫系の耳でした。もしかしたら猫獣人ではなく虎獣人かもしれません」
「耳だけで判断するのは同じ獣人だろうと難しい。猫系獣人で連絡は入れる。続けてくれ」
「背はセン・グーテン、あー、バラーガ・グーテンの体よりも小さく、細身な感じでした」
「その問題もあったな……。話の上ではセン・グーテンでいいぞ」
「ならセン・グーテンで。スロースがやってきたのはセン・グーテンが石碑を壊してすぐでした」
「最後の石碑は壊されていなかったのか?」
「俺が入った時に崩れ始めていたのでたぶんそうだと思います。他の物が壊れなければ壊せなかったという可能性はありませんかね?」
「詳しく調べて見なければわからんが、そういう仕組みは聞いたことがある。特定の順番で他を解除しなければ解除できない魔道具があるそうだ。最近のことで言えばグリムの町の第2段階がそうだろう」
「そういえばそうですね。話を戻しますが、スロースはやってきてすぐにセン・グーテンに攻撃を仕掛けたんです。透明な小型ナイフを死角から投げつけて」
「魔族同士で仲間割れをしたということか?」
「余計な手間をとらせたことへの八つ当たりみたいなことを言っていましたね。その後は置き土産と言ってロックジャイアントというモンスターのキメラを召喚してきて、その対処をしていたら逃げられてしまいました。近くに転移で逃げるための用意をしてあったそうです」
「転移で逃げられては追えんか。他に何か気になったことはないか?」
「そうですね……スロースがセン・グーテンと話していた中で聞こえてきたことなのですが、願いがどうとか言っていたんです。その願いが叶った時に魔王が動くと」
「願い?」
「スロースの願いがどうとか、ラースの願いがどうとか。何のことかは検討もつかなかったんですが、深刻そうな感じではありました」
「魔族の願いと言うと人間を滅ぼすことしか考えられんな。しかし、それから魔王が動くとなると辻褄があわない」
「個人的に何らかの願いがあるということですかね。ラース、スロース、何者かさえ特定できれば何かわかるかもしれないが、今のところ何もわからないのがな……。私を狙ってきたことと言い、各国に対して何もしていないことと言い、魔族側の思惑がわからんからどうしても後手に回ってしまう」
「個人の特定の話なんですけど、ちょっといいですか?」
アハトさんが悔しそうに拳を握りしめる中、ヒツギが控えめに手を上げた。
「何か思い当たることがあったのか?」
「その、荒唐無稽な話ではあるんですけど、『名も無き物語』の英雄たちって線はありませんか?」
「何?」
「以前メイがお話した狼獣人の魔族の特徴は『四つ魔の覇者』という物語の英雄に似ていて、ラースという龍人の強さは『万龍狩りの龍人』の英雄なら考えられると思うんです」
「いや、しかし、彼らは皆数百年以上前に存在していたとされる人物だぞ? 生きているはずがない。冒険者ギルドのギルドマスターという立場柄、6つの物語は全て聞いたことがある。『万龍狩りの龍人』『四つ魔の覇者』『神に近づいた女教皇』『深淵なる死を語る勇者』『城を盗んだ大泥棒』『アイを求めた魔王の娘』。すべての物語で彼らは英雄なのだ。モンスターから、魔族から、人々を守ってきた人物がなぜ魔族として人々の前に立ちはだかるのだ?」
「それは……」
「きつい言い方をしてすまないが、死者を蘇らせるなぞ、名前の残っていない4代目の勇者しか考えられない。その4代目の勇者が亡くなったことは資料として残っているし、当時の教皇が遺体の処理を行ったほどだから、蘇ることはありえない」
「そうですか……私の勘違いですかね。すいません」
「謝る必要はない。何も思いつかない我々よりもましだ。メイよ、他には気になったことはないか?」
「そうですね……俺からは何も」
「そうか。すまないが、これから王都に戻って幹部連中を再招集して会議を開かねばならなくなった。バラーガ・グーテンが敵に堕ちたのだ。国とも話し合わねばならん」
「俺たちはまだこの町にいたほうがいいですか?」
「いや、大丈夫だ。君たちを召喚された者として発表する気がない以上、できることはない。貴重な高ランク冒険者として、戦力としては期待させてもらうが、それくらいだな」
「わかりました。それでは、俺たちは家に戻りますね」
「馬車の手配が必要ならドムドムに言うといい。それくらいは依頼の報酬のうちだ。また、何かあったらドムドムを通じて連絡をくれれば、できることなら対応しよう」
「その機会があればお願いします」
俺たちは帰り際に、戻ってきたナナとハチを連れて戻ってきた職員さんに挨拶をして一旦宿に戻った。
どうもコクトーです。
『刈谷鳴』
職業
『ビギナーLvMAX(10)
格闘家 LvMAX(50)
狙撃手 LvMAX(50)
盗賊 LvMAX(50)
剣士 LvMAX(50)
戦士 LvMAX(50)
魔法使いLvMAX(50)
鬼人 LvMAX(20)
武闘家 LvMAX(60)
冒険者 LvMAX(99)
狙撃主 LvMAX(70)
獣人 LvMAX(20)
狂人 LvMAX(50)
魔術師 LvMAX(60)
聖???の勇者Lv15/??
薬剤師 Lv51/60
ローグ Lv31/70
重戦士 Lv39/70
剣闘士 Lv30/60
神官 Lv19/50
龍人 Lv2/20
精霊使いLv4/40
舞闘家 Lv4/70
大鬼人 Lv2/40
死龍人 Lv1/20
魔人 Lv1/20
探究者 Lv1/99
狙撃王 Lv1/90
上級獣人Lv1/30
魔導士 Lv1/90 』
いつも以上に遅れてすいません。
締め切りに追われていたのです。3月末に詰め込みすぎじゃないかなぁ…
4月は4月で忙しそうです。
ネット小説大賞5ですが、一次選考通過していました!
ありがとうございます!
二次選考の発表は感想で教えてもらうより早く気づけるといいな。
ではまた次回




