僕は真の勇者だ!その12
今回はメイ視点ではなく、前半がバラーガ視点、
後半は天上院視点です。
時間も少しさかのぼっています。ご注意ください。
勇者とは、最高で、最強で、常勝無敗の勝者なんだ!
by天上院古里
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今現在、バラーガ・グーテンは非常に焦っていた。
冒険者ギルドからの依頼で、ランク昇格試験の試験官を勤めることになり、私たちはバラバラに冒険者を見ることになった。俺はアイリと『宵闇の月』を、ヴァルミネは『トルネリア』、マーサは『夜明けの光明』をそれぞれ担当し、『食道楽』の班に古里を入れることで、古里を1人にしないこと、そしてあの男のパーティにならないようにすることには成功したが、一緒にいたのがサラというのが間違いだったようだ。
決まってすぐは、古里に万が一のことがあった場合でも、サラがいれば回復も転移で逃走することもできると考えていた。しかし、もう一人がルーミア教大司教であるルーミ・アーカイブなのが問題だった。
サラはルーミア教の神、ルーミアに対しての信仰が強すぎる。一度神の子モードと我々が呼んでいる状態になってしまうと、手がつけられない。大司教なんて肩書きを持つアーカイブ殿と一緒なら余計に拍車がかかったことだろう。
俺たち二人宛に、冒険者ギルドを通じて手紙が届いたのは、護衛依頼の合格をギルドに報告しに行った時だった。
俺たちの心配の通り、古里とサラはミラの町で起こった事件を聞いて転移で向かってしまったそうだ。しかも、サラが目を離した隙に邪龍が襲ってきた方角へと向かってしまい、そこでランクS-のラムダ殿、火龍様と共闘、そして脚を引っ張ってしまったそうだ。そこで何があったのかは知らないが、意識を失い、今でもまだ意識が戻らないらしい。
俺とアイリも『宵闇の月』の試験が終わり次第すぐにグリムに戻ることにしたが、なかなか討伐依頼の対象となるモンスターが見つからず、時間がかかってしまった。本音を言えば、依頼など放り出してすぐにでもグリムに戻りたかったがそうもいかず、結局俺とアイリがグリムに着いたのは、連絡をもらってから2週間も後だった。
グリムに戻ってきて、俺たちはすぐにサラから連絡のあった屋敷に向かった。
屋敷はグリムの町の中でも中央に近く、尚且つあまり目立たないような場所にあった。周辺の家には人はほとんど住んでおらず、こういう非常時のために用意してある屋敷だから当たり前だが、意図的に近づきたくない雰囲気を醸し出しており、屋敷に近づくにつれて人通りが減っていった。
「サラ、古里は無事か!?」
「バラーガ! ようやく戻ったのですね」
屋敷についてすぐ、先に屋敷についていたヴァルミネが出迎えた。話を聞くと、すでにマーサもついているらしく、俺たち2人で全員揃ったらしい。
「ヴァルミネ、古里の様子は?」
「今はマーサがみているはずですわ。治療のできるサラを中心に、私たち3人で交代で看病をしているところです」
「……そんなに良くないのか?」
「いえ、サラが言うには、むしろ体調はいいそうですわ。私から見ても、顔色は非常にいいと思いましたし、寝顔も非常に落ち着いたものでしたわ」
「それならばなぜ目を覚まさないのだ?」
「私にはわかりませんわ。サラとマーサが言うには、肉体的にではなく、精神的にダメージを受けているのではないかと」
「つまり、ミラの町で何か精神的によくない何かが起こってしまったということか。火龍様かラムダ殿に確認は取れないのか?」
「どちらも話せることはない、と断られましたわ。私の実家から圧力をかけてもらおうとも思いましたが、ともにそう簡単にいく相手ではありませんし、あきらめました」
「他に話を聞けそうなやつはいないのか? その2名しか目撃者がいないわけではないだろう?」
「もう一人いますが、それはあの男ですわ」
「……刈谷鳴か」
「そうですわ。今はあいつもこの町にいるみたいですが、話を聞くのは厳しそうですし、どうせ古里さんを悪く言ってくるに決まってますわ」
「あたしはもともと死んでるって聞いてたし、合流してから多少話を聞いただけしかしらないけど、相当嫌ってるらしいね。王にも伝えてないんでしょう?」
「サラの提案だがな。そもそも殺すように指令を受けていて、それを失敗したは俺のミスだ。それをとがめられることは構わんが、王はもう一度確実に殺せと言うだけだろう。ならばきっちりと殺したうえで報告するさ」
「そうは言うけど、ほんとに殺せるわけ? あの身のこなしを見てると、とてもじゃないけど殺せそうにないんだけど」
「いくつか手は考えているが、正直厳しいかもしれん」
「バラーガ、何を言ってるの? あんな男私の魔法で燃やし尽くしてあげますわ!」
「そう簡単に言うけど、大っぴらにやるわけにはいかないでしょ? 町中でへたに魔法を使ったら大騒ぎよ」
「そこはダンジョンの中とか町の外でやりますわ。幸い、あの男は町の外に住んでいるようですし、町の外で魔法を使っても不思議なことではありませんわ」
「過激な話だねー」
「ちょうどよくそろってんな。古里が目を覚ましたぞ!」
3人で話していた時、屋敷の奥から慌てた様子のマーサが走ってきた。
「本当か!? すぐにいくぞ」
「今はサラがみてるけど、様子が変なんだ。すぐに来てくれ!」
俺たちはマーサを追って古里のもとへ向かった。
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僕は気がつくとベッドに寝かされていた。
「おお古里! 目が覚めたんだな!」
「……マーサ?」
「マーサさん、そろそろ交代を、あら?」
「サラ、古里が目を覚ましたんだ! あたいはヴァルミネを呼んでくるから見ていてくれ!」
「先ほどバラーガたちも戻ってきたみたいでしたからできれば2人もお願いできますか?」
「もちろんだぜ。いるとしたらリビングか倉庫だろうし、すぐに行ってくる!」
マーサが勢いよく部屋から出て行った。でもなぜだろうか。今の僕にはどうでもよく思える。
「古里さん、気分はいかがですか?」
「……僕は負けてない。僕が負けるなんてありえないんだ。僕があんなでくの坊みたいなモンスターなんかにやられるわけがないんだ。あの男が、あの男が僕に何かしたに違いない。僕は勇者なんだ。僕が負けるわけがないんだ」
「あらあら」
「あんな悪魔の力で手に入れた紛い物の力なんかに僕の光の勇者の力が負けるわけがないんだ」
『能力:?者の?りを獲得しました。
?者の?りの追加効果により、?み?ちの勇者の能力を一部解放します。
職業:?み?ちの勇者がやみ?ちの勇者に変更しました。
エラー:やみ?ちの勇者の条件が不達成です。能力の制限が解除されません。 』
「うるさい! 僕は勇者なんだ! 条件がなんだって言うんだ! 僕は、僕は最強の勇者にならなきゃいけないんだ!」
そうだ。僕は、ボクハ勇者ナンダ。勇者トハ、最高デ、最強デ、負けてはならナい。
「古里! 目を覚ましたって聞いたぞ!」
「古里さん大丈夫ですか!?」
「古里!」
部屋に続々と仲間たちが入ってクる。
「サラ、部屋の外の廊下にまで声は聞こえてきた。古里に何があった?」
「僕は負けてなんカイナい。ボクは勇者ナンだ。負けなんテ許されナイ!」
「……見ての通りです」
「古里……」
やメろ。そんな風ニ僕を見るナ。僕は勇者ダぞ? そんナ、そんな敗者を見るよウな目でボクを見るんじゃネェ!
「サラ、お前がついていながらなんでこんなことに!」
「バラーガ、サラを責めるのは違うわよ。転移や回復が使える彼女がそばにいたからこそこの程度ですんでいるとみるべきよ」
「わかっている。サラ、記憶の封印か精神安定の魔法は使えるか?」
この男は何を言っテるんダ? ボクにいったイ何をしようとしてイルんだ?
「ちょっとバラーガ!」
「こうするほかにないだろうが。今の状態の古里を表には出せない。使いたくない手ではあるが、こうするしか他に手がない」
「でも!」
「皆さん落ち着いてください。いいではありませんか。慎重に経過を見守ってきた種が、ようやく芽を見せたのですから」
皆の横を通りすぎて扉の鍵を閉めたサラが振り向いてそう言った。その顔には、これまで見たことないような恍惚とした笑顔が浮かんでいた。
どうもコクトーです。
遅れて申し訳ないです。プログラムのバグとりが終わらなかったのです。
フリーセルのことをなめてました…マジで。
今回は古里君たちの話でした。時間もだいぶ遡っていますのでご注意ください。
ではまた次回