石碑の話です3
次の部屋の石碑の前に来た。さっきと同じようにマナがサイレンスの結界を張ったが、さっきと違う点が1点だけあった。それはアハトさんがいないということだ。
「私はロクとここで待っている。私はニホンゴを読むことはできないからな」
次の部屋に入ってすぐ、アハトさんは俺たちに向かってそう言った。
「いいんですか?」
「構わん。今回私がお前たちを連れてきたのはセン・グーテン殿の忠告を受け入れた結果でもなければ、その真意を探るためでもない。たまたまなのだ。結果として私という王族と、君というニホン人がそろってこの場に来たわけだが、それは君たちを現国王である兄が迫害、もしくは蔑ろにした結果だ。忠告をきちんと受け入れなかったこの時代の王族が読んでいいものじゃない。少なくとも、私はそれを知ろうとは思わない」
その表情から本気だとは思うが、変なところで真面目だな……。ほんとにいいのかと2、3度確認したものの、アハトさんの意思は変わらなかったこともあり、俺たちは3人で石碑を見ることになっていた。
2枚目と3枚目の石碑には、セン・グーテンが石碑を残した時代のことが刻まれていた。
当時は今のように中心にデルフィナ、北にアーディア、西にヤカリ森国、南にベスティア獣神国、東にヤマト大国という構図ではなく、中心のデルフィナと東のヤマト大国こそ変わらないが、南にはベスティア獣神国はなくメルンという小さな国を中心に、大量の獣人の集落があり、西も同じような感じで、大きな森にいくつもの集団が暮らしていたようだ。いつだったかヒツギがヤカリ森国に反応を示していた気がするが、当時からあったわけではなかったのか。
そして、1枚目に書かれていた王の話にも関わるのだが、この時代、魔族の国であるアーディアはない。刻まれていることが確かなら、その数十年前に魔王が討伐され、メルカディアという魔族の国は崩壊。そして、ヤマト大国とデルフィナの協力の元討伐軍が組織され、魔族を片っ端から駆逐した結果、魔族は歴史上滅んでいるのだ。その後、少しずつデルフィナが北に侵攻し、領土を広げていたそうだ。
しかし、魔族が滅んだとされる当時の世の中はそうそうあまくはなく、侵攻によって恩恵を得ていたのは中央と北方に位置する地域のみだったらしい。侵攻軍が使う物資の調達などで北方は活気づき、中央はその利益をかすめ取っていく。南の地域は、ただでさえ侵攻のためという名目でわずかな金で物資を持っていかれているのにもかかわらず、中央の貴族は自らの利益を増やすために搾取を続けたそうだ。石碑にも当時の貴族はゴミよりもひどいとあった。人にもよるのだろうけど、これをその貴族のトップである王族の前で読むなんて日本人にできるのかな?
この時期に西側の地域に北から逃げ出したモンスターが流れ込んだ影響で東の守りが薄くなっていたこともあり、東の地域でもモンスターの被害が増えてきたともあった。
しかし、彼の晩年に起こったある事件によって、国内は大打撃を受けてしまい、侵攻をしている場合ではなくなったために、結果的に国内は安定したのだそうだけど、その事件の内容は刻まれていなかった。
そして次の部屋、いよいよセン・グーテンが他人に伝えてほしくないとしていた4枚目の石碑の前まで来た。なんとなく読むのに気構えてしまうな。
4枚目の石碑は、これまでのものにはない特徴として、ところどころが変な感じになっていて文字が消えていた。どれも数文字くらいの部分が削られており、文章の流れを見る限りすべて名前のようだった。
『さて、ここから先は自身の胸の内にしまっておいてほしい。
これから刻むのは私が仲間たちとともに旅をした時の話だ。
私はもともとバーナ王の命令でニホン人の監視と管理を目的として旅に出た。そのニホン人の名前は――――。がさつで、変人で、まるでコング種の様な女だが、私が心底尊敬する人物の1人だ。
――――は、召喚されてすぐは、いや、私が知る限り、終始現実を受け入れられないでいた。本人曰く向こうに愛する人がいるとのことで、もう会えないことを受け入れられないようだった。こちらの世界でも仲のよい男はいくらでもいたが、恋仲にまで発展したやつはいなかったと思う。
――――は、召喚されてすぐにその異常性を示した。召喚されたときに入っていた、かなりの重量のある棺桶を軽々と振り回す怪力。戦闘とはまるで無縁にあるはずの世界から来たにしてはあきらかに高すぎる戦闘適性。貴族たちはこぞってその力を利用しようとした。だから、バーナ王は私を遣わした。
元の世界に戻る方法を探すという名目で、バーナ王は――――と私、そしてある貴族から取り上げたというエルフのメイムの3人で旅に出て、私は――――の異常性をさらに理解することになった。それは、成長する棺桶もだが、私の成長に与えた影響についてだ。
――――と旅をするようになってから、私は急激に力をつけていった。私が団長を務めていた当時は20レベルの重騎士だった。生まれてから30年間、騎士としては20年間鍛えてきた私だが、旅を始めて1年でそのレベルは倍になった。決してかないそうにないような高ランクのモンスターを相手にしていたわけではないし、かなり過保護に旅をしていたにもかかわらずだ。このことをすぐに王に連絡した。すると、過去の勇者のパーティに同じ傾向があるということがわかった。つまり、異世界人は周りの成長を急激に促進する力があるということだ。
たとえ、この時点で友好的な関係をきずいているとしても、このことを知った国が何をするかは想像に難くない。今いる仲間は皆取り上げられ、見知らぬ騎士、貴族、王族とダンジョンに潜らされ、誰かが死ぬごとに仲間を殺されるだろう。
』
セン・グーテンの懸念はおそらく正しいのだろう。正直、周りの成長の促進と聞いて、思い当たる節があった。それはもちろんキャラビーのことだ。彼女はいくら俺がファントムの血の呪いを解いたことが影響しているとしても、成長が早すぎる。呪われていた時とはいえ、キャラビーは天上院のパーティで戦闘についていけていなかったと聞いていた。しかし、今は俺たちの戦闘に、高ランクであるみぃちゃんとペアになった上でついてきているし、武闘大会のころの天上院と戦ったらおそらく勝てる程度には強くなっている。
もしそれが高ランクの冒険者だったり、騎士の中でも高位の騎士だったらどうか。猫獣人じゃなく、獅子獣人や龍人、狼獣人や熊獣人などの戦闘に特化した種族ならどうか。国がそう考えるのは自然だろう。アハトさんがどう考えていようと、冒険者ギルド全体として考えた時、誰かを鍛えるという指名依頼が発生するのは避けられないだろう。当然、断ったらばらすという言葉とともに。
5枚目、6枚目、7枚目、8枚目と、セン・グーテンの旅の話は続いた。名前は削られていたが、その特徴から、龍人のオルス、猫獣人のエルギウス・ファントム、犬獣人のシルフィード。そして、なぜか唯一名前の削られていないエルフの少女、メイム。それぞれがヒツギと旅をする中で見せた異常性が書き連ねてあった。
そして、最後の9枚目の石碑を読むために、次の部屋に行こうと結界を解いてすぐ、奥の扉が破られるのではないか思うほどの勢いで開かれ、向こうから血だらけで真っ青な顔をした男が倒れこんだ。
「アハト様! お逃げください!」
「イチ! 何があった!?」
「すぐに、逃げてください! もうもちません!」
わけがわからない状況の中、扉の向こうからは戦闘音が聞こえていた。俺たちもすぐに武器を出して構える。
「全員俺の後ろに! マナ、補助!」
嫌な予感がし、俺はすぐにステュラを構えて『強鬼化』『不動明王』『ダークネスソード』などなどスキルを発動させる。なんとかマナたち3人が俺の後ろに隠れた次の瞬間、扉の向こうから2人の人間を巻き込んだ強力な斬撃が一直線に向かってきた。
その斬撃は、先ほどまで読んでいた頑丈な石碑をやすやすとばらばらにし、そのまま俺に向かってきた。ステュラを両手でしっかりと握り、『怒り』や『魔宝刀』なんかもフル稼働でそれを受けとめ、何とかして上空に跳ね上げた。天井を切り裂いたことで降ってきた瓦礫はマナが魔法で防ぎ、そこから見える空に斬撃が消えたのを視界の端で確認して俺は扉の向こうをにらんだ。
そして、その扉の残骸の向こうからやってきた人物に俺たちは驚かされることになった。
「貴様、ここで何をしている? ここは王族のみが来ることを許された場所だ。そして、今お前がやっていることは王族に弓を引くことと同義だぞ?」
「……」
アハトさんが大声で問いかけるも、その問いに表れた男は答えない。
「なんでお前がここにいるんだ。バラーガ・グーテン!」
アハトさんの叫びに答えることなく、行方不明のはずのその男はにやりと笑みを浮かべた。
どうもコクトーです。
『刈谷鳴』
職業
『ビギナーLvMAX(10)
格闘家 LvMAX(50)
狙撃手 LvMAX(50)
盗賊 LvMAX(50)
剣士 LvMAX(50)
戦士 LvMAX(50)
魔法使いLvMAX(50)
鬼人 LvMAX(20)
武闘家 LvMAX(60)
冒険者 LvMAX(99)
狙撃主 LvMAX(70)
獣人 LvMAX(20)
狂人 LvMAX(50)
魔術師 LvMAX(60)
聖???の勇者Lv15/??
薬剤師 Lv51/60
ローグ Lv31/70
重戦士 Lv39/70
剣闘士 Lv30/60
神官 Lv19/50
龍人 Lv2/20
精霊使いLv4/40
舞闘家 Lv4/70
大鬼人 Lv2/40
死龍人 Lv1/20
魔人 Lv1/20
探究者 Lv1/99
狙撃王 Lv1/90
上級獣人Lv1/30
魔導士 Lv1/90 』
少し長くなりました。
前回に引き続き、ニホン人やニホンゴは誤字ではありません。
ではまた次回