Sランク会合じゃ5
男が青白い炎を放ったことで戦闘が始まった。その炎をよけるように左右から連中が押し寄せる。その場に残っておる連中は魔法の詠唱だったり、弓を引き絞ったりしておる。
バシュ
「「え?」」
しかし、その次の瞬間には炎はかき消され、それを放った自称次期Sランクの男と、たまたまその後ろにいた男の頭を何かが貫いていった。男たちは何が起こったかもわからずに崩れ落ちる。
「ひっ!」
その様子を見て、何人かが無意識的にじゃろうが詠唱を中断して後ずさる。わしはそうした連中に狙いをつけて斬撃を飛ばした。面白いように首が飛び、残った連中も若干動きが鈍る。わしらを殺そうというにはあまりにも弱く、余りにもお粗末じゃな。
「ガァアア!」
崩れ落ちる死体の1つの足をつかんで、キメラが棍棒のかわりとばかりにわしに向かって振り下ろしてきた。人間の体は棍棒とは違い軌道が読みにくい。即座に後ろに下がったが、思ったよりも遅れて地面にたたきつけられた。たたきつけられた衝撃で傷口から真っ赤な血の塊が飛び出すさまは食事の後には見たくなかったのう。前も嫌じゃが。
「隙あり!」
その光景に眉をひそめておると、横合いから短剣を構えた女が突っ込んできた。しかし、後ろから飛んできたモモの矢に射抜かれて、それは失敗に終わる。わしは追い打ち代わりにそいつに斬撃を飛ばして止めを刺す。一応キメラから意識を離さずにおるが、キメラはさっきたたきつけた死体を放り捨てて、近くに落ちていた短剣を拾い上げる。オークがベースになっていることもあり、2m以上あるその体躯で短剣ではまるでサイズがあっておらず、非常に扱いづらそうじゃ。
「アイスショット!」
最初に詠唱を始めていた連中の魔法が上から降ってくる。しかし、そのすべてが魔法の得意なドレアム、トーチ、スカイの3人の魔法に相殺された。火、水、風、土、氷、光、闇と複数の属性があったのじゃが、風、闇、火の3種類の魔法ですべて相殺するあたりさすがじゃの。
自慢の魔法を撃ち消され、すぐに次の魔法の詠唱を始める連中じゃが、正確に放たれるモモの弓と、気づかれんように近づいておったカラカリの攻撃で次々死んでいく。
「てめえよくもカンナンを!」
連中の一人が魔法使いの女を殺したカラカリを真横に切り裂いた。しかし、そこにはすでにカラカリはおらず、カラカリの幻影が消えるだけじゃった。「ざーんねーん」とからかうような声をあげながらカラカリがそいつをしとめる。そのカラカリに槍が突き刺さるが、それもまた幻影。その隙をついてロイドが下からアッパーをかまして天井にそいつを埋める。
前衛に出てきたやつらを片っ端から切りつけるわしとセンガ殿とリエーフとジョー、後衛を潰すロイドとカラカリ、全体をフォローするトーチとモモとドレアムとスカイ。なぜか短剣を拾ってから動きのないわし用のキメラ、それに他の皆用に用意されたというキメラがあまり動いておらんのが気になるが、戦場はすでにわしらの支配下にあった。
頃合いとみて、わしは一気にキメラとの距離を詰めて、その体を横合いに一閃した。短剣を握ったまま動かないキメラはあっけなく上下に分かれた。しかし、その感触がおかしかった。
「ガァ!」
上下に切り裂かれたキメラの上半身が、わしを上から噛みつこうと降りかかる。それを切り上げて真っ二つにするが、切り裂かれた上半身にそれぞれ口が現れ、左右から同時に噛みつこうとしてきた。
「なんじゃこやつは!」
わしは切りつけても無駄と判断し、刀の柄と蹴りで下半身を巻き込むように飛ばした。キメラは、そのまま地面を転がり、少しの間動かなくなったが、上半身がもぞもぞと動き出して下半身と合体した。そして立ち上がった姿は、先ほどの無傷の姿のままだった。
「なるほど、わし用のキメラはスライムということか。しかも斬撃の効かんタイプ。核を狙おうにもどこにあるのかわかりづらいときた。面倒じゃのう」
「敵はキメラだけじゃないって忘れてるんじゃないか?」
わしがキメラを見て考えておるのを隙ととらえたのか、奥で様子をうかがっていた男の1人が素早い動きでレイピアを突き出してくる。それを伸びた腕の根元から切り落とし、逆にレイピアをつかんでそやつの喉に突き刺して蹴りつけた。嘘だろ? とでも言いたげな表情のまま壁に打ちつけられて崩れる男を視界から外し、キメラのもとへ走る。その際にちらっと見えたが、他の皆もすでに冒険者連中は奥におった数人を除き片付け終わり、各々のために用意されたキメラと戦っておった。わし用のキメラときっちり戦っておるわしの言えることではないが、戦う相手を変えれば何も苦労はしないんじゃないかのう……。
「わしの魔力を喰らうのじゃ業堕」
わしの言葉を受けて刀がわしの魔力をすごい勢いで吸い上げる。その吸い上げが止まると、刀身の色が真っ黒になる。相変わらず大喰らいじゃのう。
わしはその刀で先ほどのようにキメラを真っ二つに切りつける。キメラは先ほど同様、切れた上半身だけで噛みつきに来るが、それの首をはねる。すると、キメラはわしに噛みつくことなく体が消失した。それに合わせて業堕の色が元に戻る。そしてわずかながら魔力がわしに返ってくる。スライムの特性を得たが故の敗北じゃな。
妖刀業堕は魔力を吸い、その魔力の一部を宿主に返す呪いを持った刀じゃ。まあ、それだけ聞くと便利そうなものじゃが、妖刀というだけあってそんな便利なものではない。能力を発動させるのにはその数倍もの魔力が必要じゃし、少なくとも対象を数度切り、刀に魔力を覚えさせる必要がある上に、必要な魔力が足りなければ宿主を殺そうとしてくる。わしが知っているだけでも17人が食い殺されておる。わしはこの刀に認めてもらっておる様じゃから今のところ吸い殺されてはおらんが、いつ殺されてもおかしくはない。本来の能力は呪いを解いてみんことにはわからんが、少なくとも『見透かす瞳』で見た限りでは宿主を殺すような能力はしておらん。呪いのことをむやみやたらと話すのもあまり好まんし、ダンジョンのボスが解呪の魔道具を落としてくれることを期待するしかないの。
刀をしまって周りを見ると、すでに皆戦闘を終えておった。仕留め損ないは当然なし。キメラに苦戦したのか多少疲労が見える者もおるが、職員まで含めて全員無傷なのじゃからよいじゃろう。
「皆ご苦労だった。守ってくれてありがとう。おかげで全員無事に済んだ」
「いえ。うちのメンバーも混じっていたからな。少し調べないといけないことができた」
「そうだな。一回うちも全員集めて話をした方がいいかもしれん」
「それは無理じゃないかしら? 今の襲撃で私たちが何人殺したと思ってるの?」
「そうじゃのう。全部で90。ピンからキリまでおったとはいえ、多少は腕の立つ者もおったのではないか?」
「最近売り出し中の若手に、古参の高ランク冒険者、低ランクのやつも多かったが、それ以上に高ランク、しかも地方で活動してたやつらが多かった。全員把握できたわけではないが、何人か印象に残っていたやつらは確認できた。しばらくはあちこちで依頼が滞ることになるだろうから、そんな状況で地方から人を引かせるのは困る。自然と強制依頼が増えかねないからな」
「今受けてるのはそんなに放置されてなかったものだから掲示期間が長い依頼を調べなおそうかしらぁ」
「モモは偉いのう。わしはあまり依頼を受けておらんから、申し訳なくなってくる」
「僕のところで受けられる分は受けようじゃないか」
「そうか。頼もしいな。実はパイロヒュドラの討伐依頼がずっと受けてもらえていないんだ」
「そ、それはうちでは厳しいかなぁ……」
そんなことを話ながら、腰を抜かして動けない職員たちに変わり、死体の処理に移った。キメラは全て解析に回されるとして、残りの死体は指揮を執っていたと思われる数人を除いてすべて焼くことになるじゃろう。この部屋をまた使えるようにするにはしばらくかかるじゃろうが、そこはギルドに頑張ってもらうだけじゃな。
こうして、血なまぐさい結果になったが、Sランク会合は幕を閉じた。今回のようにSランクが狙われたということに危機感と違和感を感じつつ、わしは自分の館に帰ることにした。
どうもコクトーです。
遅れて申し訳ありません。
これにてユウカ視点は終了です。
もう別の話を1話挟んでメイ視点に戻ります。
ではまた次回