Sランク会合じゃ1
今回もユウカ視点です。
ご注意ください。
冒険者ギルドから呼び出しを受けたわしは、会合のためギルドに向かった。
王都の冒険者ギルドは、グリムの町の冒険者ギルドと比べると比較的おとなしい感じの冒険者が多い。もちろん、荒くれと呼ばれるような連中がいないわけではないのじゃが、大国であるデルフィナの王都という土地柄、あまり派手に目立つとすぐに目をつけられるからというのが大きな理由じゃろう。いい意味でも悪い意味でも。たまに、他の町や村なんかで周りに強者がいなかったことでいい気になっておった輩が、ろくに考えずにそのままの気分でやってきて、貴族を敵に回して奴隷落ちするのを見かけることがある。騎士候補として貴族を何人も鍛えてきたわしとしてはやるせない気分じゃな。
そうはいっても、実際にある程度の実力を見せて貴族に抱え込まれる者もおるから、そうした連中はそれを夢見てやってくるのじゃろう。しかし、そうした考えの者たちは根本的に間違っておるとわしは思う。たしかに、王都、カシュマ王国は近くにダンジョンはあるが、『タイラン』以外の2つはすでに管理下に置かれておるし、ミラの町のように近くに強力なモンスターの住む土地があるわけでもない。ましてアーディアとの国境沿いにあるゴーラの町のようにいつ侵略があるかわからないような土地でもないため、そもそも己の力を見せる機会が皆無なのじゃ。唯一の手段として、この数百年攻略が進んでおらんという『タイラン』の26層を攻略するという手があるが、そんなことができるならば他の場所に行って己で一財産築いた方がよい。罠にさえ気をつければダンジョンの1つや2つ簡単に攻略できるじゃろうしの。
冒険者ギルドに入ると、一部の者の視線がわしに向く。すぐにわしが何者か気づいて視線を逸らす者、気づいて目礼をする者、なぜか姿勢を正したり、前かがみになるもの、何者かは気づかなくとも、周りの反応をうかがう者など様々じゃが、今日はあまりついていないようじゃ。
「嬢ちゃん、ここは冒険者ギルドだぜ。商人ギルドと間違ったか?」
大柄な男が声をかけてきた。周りの連中よりも頭3つ分くらい大きい。巨人族のハーフじゃろうか? わしはマナたちとそれほど変わらんくらいじゃから、ほぼ倍近い大きさじゃな。しかし、言葉では親切そうにしておるが、表情や視線でその下心が丸見えじゃ。
「間違ってはおらんよ。きちんと冒険者ギルドに用があってきたのじゃ」
「へえ。依頼でも見に来たのか? なら、俺たちと一緒にダンジョンにでも行かないかい? 俺たち、リーダーが用事があってへたに依頼を受けたりできないから、今日は俺たち暇なんだよね」
そう言いながら男はニヤニヤと近づいてきて、わしの肩に手を回そうとしてきた。
「オーガスタ!」
ギルドの奥の方から大声が発せられた。その声にビクっと男が反応して、わしの肩に回そうとしていた手を戻した。
声のした方にいた冒険者たちが一斉に道を開け、その奥から声の主である男がやってきた。
「ジョーの兄貴、急にそんな大声で呼ばれたらびっくりしやすぜ。今日1日かかるかもって言ってやしたけど、もしかして用事は終わったんですかい?」
「……オーガスタ、前のとこから『ガルチア』に来てどれくらいになる?」
「急にそんなこと聞いてどうしたんです?」
「いいから答えろ。てめえが『ガルチア』に入ってからどれくらいだ?」
「コラプトの町で入って以来ですからだいたい1年くらいですね。それがどうかしやしたか?」
「そうか、1年か。お疲れさん。ここでてめぇは脱退だ。二度と『ガルチア』の名を名乗んじゃねえぞ」
「へ? どういうことですか兄貴?」
「兄貴って呼ぶんじゃねえよ。お前はもううちのメンバーじゃねえんだから」
「ちょっと、何を言ってるのかわからねぇんですが……」
「なら簡単に言ってやる。クビだ。1年経ってその程度ならお前はもう伸びしろはない」
「そんな! なんでそんな急に」
「俺はこの1年お前に情報の大切さと周りの状況を把握することの大切さを嫌というほど語ったよな?」
「それがいったいなんだっていうんですかい?」
「それがわからないからクビだって言ったんだよ。どけ」
ジョーがオーガスタを押しのけてわしの前にやってきた。そして、わしに向かって軽く頭を下げた。
「すまねえな、ユウカ殿。元うちのが迷惑かけちまった」
「お主のところのメンバーは傘下も含めて礼儀正しい連中じゃと思っておったのじゃがな」
「他の連中と一緒にしないでくれよ。あいつらはいいやつらだ」
「わかっておるよ。ちょっとした冗談じゃ。久しいの、ジョー」
その男、ジョーはわしの差し出した手に苦笑いをしながら答えた。
ジョーは、今回わしと同じようにギルドから招集を受けたSランク冒険者の一人じゃ。ジョーが作ったパーティと、その傘下に入ったパーティ7つからなる中規模ギルド『ガルチア』のギルドマスターで、通称ジョーの兄貴。己の拳を武器とし、ケンポーギという魔装を纏った、一見いかにも脳筋のような男じゃが、実際には、そそくさと出て行ったオーガスタという男に言ったように、情報収集と周囲の状況判断、そして前準備を何よりも大切にし、ギルドのメンバー全員にそれを叩き込むという、冒険者としては手本とすべきじゃと思う男じゃ。
「しかし、お主ともあろう男が1年かけて手元に置いておったのに教育をしそこなうとは珍しい物よの。若いのに耄碌したか?」
「そんなんじゃねえよ。手元に置いたからこそ失敗したって感じだな。多少のミスなら他の奴らがフォローしちまって、結果としてうまくいくから本当に大事だと気づけねえ。あいつは魔物の集団に襲われて壊滅したパーティの生き残りでな。同じ思いをさせねえために鍛えていたはずが、ただ甘やかしていただけなのかもしれねえな」
「人を教えるとは難しい物じゃ。よい教訓になったじゃろう?」
「やな経験だよ」
「あーらぁ。ユウカちゃんじゃなぁい。ジョーちゃんが急に戻っていくから何事かと思ったわぁ」
わしがジョーと話しておると、その後ろから先ほどのオーガスタを5周りほど大きくしたような、筋骨隆々な全身ピンク色の女性が長い桃色の髪を揺らしながら現れた。
「モモ、お主も来ておったか。あいかわらず目に優しくない色をしておるの」
「これが私なんだから仕方ないじゃなぁい。それより、何の話をしていたのかしらぁ?」
「俺が教育をミスったって話だよ。それより、お前まで来たら場が混乱しちまうだろうが」
「あらまぁ。んー、でも、みんな不合格ぅ。おいたはダ・メ・よ」
モモが周りの冒険者たちを見渡して、彼らにウインクをした。すると、彼らは皆正気を取り戻し、それまでモモに向けていた恋するような表情を一転させ、真っ青になって壁際に逃げ出した。
「ほら、魅了も解けたならさっさと奥に戻るぞ」
「んもぅ、ジョーちゃんってばダ・イ・タ・ン。ねえ、今夜どぅ?」
「やめとく」
「いけずねぇ。そんなところもすごくいいわぁ」
モモがジョーの後に続いてギルドの奥に戻っていく。周りの冒険者たちはまるで嵐の後のように呆けておるが、それも無理はなかろう。
モモはそもそも人間ではない。きちんとした自我を持ったモンスター、サキュバスの変異種じゃ。とてもサキュバスとは思えん並外れた筋力を持ち、仲間を傷つけんために人里離れた山奥でひっそりと生活しておったのを『赤の団』のリエーフが見つけ、説得を重ねて冒険者になった変わり者。無意識に強力すぎる魅了の力を放っておるからあまり人前には出てこないが、他人思いの優しい奴じゃ。
固まって動かない冒険者たちを後目に、わしは2人を追ってギルドの奥へと進んだ。
どうもコクトーです。
今回も職業レベルはなしです。
今回で文字数が888888を超えましたね。
だからなんだという…
ではまた次回