ラースの報告
メイ視点ではなく第三者視点です。
ご注意ください。
ラストの魔法の渦で城に戻ってきたラースは、魔王に報告をするため、ラストと2人で長く暗い廊下を進んでいた。その途中、後ろから声をかけられた。
「あ? 珍しいな。お前らが二人で歩いてるなんて」
「スロースですか。魔王様のもとへ報告に向かっているところですよ。特に意味はありません」
「そうかい。じゃあ俺も一緒していいかい?」
「あなたも何か報告することが?」
「ないけど?」
「なら行く必要はないのでは?」
「今この城に俺たちと魔王様のペットしかいないのはお前も知ってるだろ? グラトニーが死んで、ゴブ助も魔王様の八つ当たりで死んじまって、今仕事がないから暇なんだよ」
「それなら近くのダンジョンに挑んでみてはどうですか?」
「どこのどいつが斥候だけでダンジョンなんか挑むかよ。どうせならラース、一緒に行かねえか?」
「私は報告が終わったら次の仕事があるかもしれんからな。何もなければよいぞ。いい刀が見つかればいいが」
「いやダンジョンで刀は出ねぇだろうよ」
「出ないでしょうね」
「ヤマト大国のダンジョンならあるいは……」
「そこまでお供する気はさすがにねえぞ?」
「私も渦ですぐ行けるとはいえ、そこまで迎えに行くのは遠慮したいですね。魔王様の魔力もそこまで離れてしまっては感じられないでしょうし」
「ラストは魔王様一筋だねぇ」
「それこそが私が色欲たる所以ですから」
「そうかい。で、結局報告はいいのか?」
「そうでした。行きますよラース」
「ああ。スロース、お前も来い」
「あ? まさかついてくって言ったの本気にしたわけ? 冗談のつもりだったんだけど」
「お前に関係することが一つあったことを思い出した。どうせ後から例の玉の話をお前から聞くつもりだったし、ついでに来い」
「俺が関係することねぇ……。どうせ行かないと話す気ないんだろ?」
「まあな」
「なら行くよ。ラストならわかるかもしれねぇが」
「魔王様は今食後の休憩中よね? 当然わかっています。玉座の間に向かいますよ」
「正解だ。さっさと行こうぜ」
こうして3人は魔王のもとへ向かうべく、玉座の間に向かった。
「3人がそろうなんて珍しいね。ラストとラースは報告で、スロースは暇でついてきたってところかな?」
玉座に座って、膝に乗せたブロックスライムを撫でながら魔王である少年は笑顔でラースたちと向かいあった。対して、ラストは膝をつき、2人は立ったまま、話し始めた。
「ラースより、玉を追っていた件で報告があるということで連れてまいりました。」
「あれ? それはスロースに確認してきてもらったからもうおしまいってことになってなかったっけ?」
「ラースはスロースの報告を聞いていませんでしたので、伝わっておりませんでしたので」
「あー、そっか。あの時話を聞いてたのは君と僕と彼女だけだったっけ?」
「はい。私は敵のダミーを潰すのに忙しかったもので」
「向こうもなかなかだよね。狙われてるってわかってすぐに別の対応策を用意するんだから。その様子だと、今回はあたりがあったのかな? 前回は全部はずれって言ってた気がするけど」
「はい。コアそのものは確認できませんでしたが、おそらくコアを運んでいると思われる冒険者と交戦いたしました」
「直接見てないってどういうことかな?」
「戦闘中に事情が変わり、ラストに迎えに来てもらいました」
「その事情ってやつが報告すべきことだったというわけだね」
「はい。今回も片っ端から連絡のあった商隊や冒険者パーティなどを襲って確認をしていたのですが、その中の1組が、以前魔王様がおっしゃっていた、現暴食の率いる冒険者パーティでして、はじめはそれに気が付かず、戦闘になりました」
「そういえば見に行くとか言ってそのままにしてたっけ。それがコアを持っていたの?」
「おそらくはそうかと。他の組と比べた時に、明らかに警備が強固でした。気配を消した状態の私の接近に気が付き、殺す気がなかった一撃とはいえ、初撃を防がれたのはあの組が初めてです」
「それだけで判断するのはよくないんじゃない? 手加減してくれた一撃ならゴブ助だって防いでいたし」
「魔王様、あのゴブリンを普通と考えるのはおやめください。このラースがいなければ間違いなく憤怒の筆頭候補と呼べる実力をつけていたのですから」
「そんなに強くなってたっけ? あの時は頭に血が上ってたとはいえ、だめなことしたなぁ……」
「気持ちを落とさないでください、魔王様。ゴブ助がいなかったらさらに酷いありさまになっていたでしょう」
「僕のせいでね……」
目に見えて落ち込む魔王を見て、ラストがワタワタと慌てる中、のんきにあくびを浮かべるスロースと、やれやれといったように頭を振るラース。
「あー、ごほんっ! 報告に戻ってもいいですか?」
「あ、あ、ご、ごめんね。続けて続けて」
「初撃を防がれた後、彼らとの戦闘になりまして、もう少し戦っていたらおそらく憤怒の力を使う羽目になっていたでしょう」
「……そんなに強いの?」
「はい。少なくとも暗黒魔法の使い手と獄炎魔法の使い手がいることは確認しました」
「刈谷鳴が召喚された異世界人だとは聞いていたけど、もう一人いたのかな?」
「はい。名前はマナと呼ばれていました」
「おそらく高坂真那という、同時期に呼ばれた少女でしょう。王都にいる手下から、天上院古里をかばって死んだという噂が立っていると、以前連絡がありました」
「大方、その子も国が見捨てたか、国を見捨てたかのどちらかだろうね。死んだことにした方がちょうどいいって。……何年経ってもどうしようもないね、あの国は」
「魔王様……」
「続けます。……彼らの仲間に柩がいました」
「!!」
ラースのその発言に一番反応を示したのは、話を聞くのに飽きてうつらうつらとしていたスロースだった。先ほどまでの軽い雰囲気とは一変し、厳しい表情でラースのことを見ていた。
「予想外の攻撃で私の正体がばれてしまい、その場で撤退しましたが、その少し前、刈谷鳴が気になることを言っていました」
「気になること?」
「『アントホーム』に別の何かがあったから、とのことで、おそらく玉について知っていると思われます」
「そう。でも、玉はスロースが粉々になった破片を見つけたからもう大丈夫だよ」
「あ、ああ。完璧に粉々に砕かれたと思うぜ。部屋の隅の方にほんの小さな破片が落ちてて、よく調べたら粉々になった玉と思わしき粒が残ってたからな。ダンジョンコアの機能が回復したらすぐにでもなくなるだろうよ」
「そうなれば二度と使われることはないだろうね」
「御迷惑をおかけしました」
「ラストが気にすることじゃないさ。君のお父さん、4代目の魔王が作った擬似コアの最後の1つ。使えればラッキーくらいの考えだったんだから。むしろ完全になくなったことが知れてよかったじゃない。解析されて敵に使われないんだし」
「申し訳ありません」
「さて、玉の件は片付いたし、ラースももうコアを追わなくていいよ。そのかわりというわけじゃないけど、ちょっととってきてほしいものがあるからスロースと2人で行ってきてよ」
「俺もっすか?」
「いやぁ、お目当てのモンスターがダンジョンにいることは見つけたんだけど、ダンジョンなら罠もあるじゃない? 戦闘はラースが、罠解除はスロースがやればそんなに時間はかからないと思うんだ」
「わかりました。すぐにでも行ってまいります」
「わーりました。暇だしちょっくら行ってきますよ」
「ありがと。場所はベスティア獣神国にある、『リオンの塔』ってダンジョンの上の方だから、気をつけてね」
「「それでは」」
ラースとスロースは後ろを向いて入ってきた扉から出て行った。
どうもコクトーです。
今回はメイ視点ではないので職業レベルはお休みです。
今年も終わりが近づいてますねー。
年内にあと1話なんとか書き上げたいです。
ではまた次回