道中の襲撃者です2
最初に動いたのはこちらだった。こっそりとはるか上空に待機させておいた『黒槍の雨』をラースに向けて撃ち下ろす。それに合わせるようにして『ダークネスランス』『ダークネスチェーン』を撃ち、後方からマナがヘルフレイムを放った。ヒツギの動きがよくないみたいだが、それでもキャラビーが馬をこの場から離すのを手伝っているみたいだし、そのままキャラビーについてもらおう。
やつは迫りくる大量の魔法を前に、『黒槍の雨』の範囲から外れるように後ろに跳び、向かってくる黒い槍を切り落とし始めた。『ダークネスチェーン』の動作に集中するためにほとんど操作していないとはいえ、自分に当たらないものは見向きもしないのはすごいな。すべてを切り落とされた頃に遅れて到達した『ダークネスチェーン』でやつの右足を掴むのに成功した。そのために足が止まったやつをヘルフレイムの黒い炎が襲う。
「暗黒魔法に獄炎魔法。まだ使い手が残っていたとは驚いた。しかし、チョイスが悪い」
『ダークネスチェーン』から感じられる抵抗がなくなった。やつがだらりと力を抜いたのだ。理由はわからないが、その隙を逃すつもりはなく、『ダークネスチェーン』でやつの体の自由を奪っていく。
「『怒れる焔よ、我が身を覆い尽くせ』焔の龍鱗」
ヘルフレイムがやつに当たる直前、やつの体を同じような赤黒い炎が覆った。それは直撃したヘルフレイムの炎を吸収したように勢いを増し、体を封じている『ダークネスチェーン』を焼き切った。ついでとばかりに鎖の切れた部分を伝って俺に向かって炎が走る。慌てて『ダークネスチェーン』を解除すると、鎖を走っていた炎はその場で地面に落ち、たまたまそこに生えていた草を燃やし尽くして消えた。
「憤怒の力の根源にあるのは熱い怒りの炎。この程度の火では私を焼くことはおろか火傷すら負わすことはできん」
「ダラダラと話している暇はないぞ。10連『ハンドレッドナイフ』」
1000本のナイフを空中に展開させた。それらを『ロックオン』でやつに狙いをつけて一斉に放った。前後左右、あらゆる角度からやつに向かってナイフが飛んでいく。やつはその身にまとっていた炎の一部を刀に移し、大きくふるって炎を飛ばすことでまとめて撃ち落としていた。
ダメージを与えることこそできなかったが、一時的に視界は奪えた。その間にマナがガード、スピード、パワー、マジックの4つのエンチャントをかけ、俺は俺で剣閃龍の直剣をしまってステュラを『魔宝刀』で強化する。さっきやつの刀を受けた感覚だと、あの刀自体はそれほど強力なものでもないだろう。『上位鑑定』をしてみても、ユウカの刀のようにやばそうな感じはない。いい刀ではあるが、それだけだ。
すべてのナイフが落とされたのと同時に、やつは炎を消して地面を強く蹴ってこちらに向かってきた。俺はステュラで受けるも、先ほどの一撃と違って軽い。そう思ったのもつかの間、次の一撃が反対の腕に向かって放たれていた。ステュラでは間に合わないと判断し、やつの刀の側面を裏拳の形で弾いてステュラで切りつける。やつもそれは予期していたのか、すぐに刀で受けて攻撃に移った。
そこから、やつの攻撃は手数重視のそれへと変わった。1撃1撃は『不動明王』を使わなくても腕を少し切ることができる程度の威力しかないが、いかんせん攻撃の間隔が早すぎた。受けられる保証はなかったが、剣閃龍の直剣をしまったこと、そしてやつがナイフを撃ち落しているうちに『強鬼化』から『獣化』に切り替えなかったことを後悔した。
『強鬼化』は習得してからそれほど日が経っておらず、まともに戦闘で使うのはこれが初めてといってもいいくらいだ。あくまで『鬼化』の上位である以上、同じような感覚で使えると思っていたが、この状況を考えるとそうもいかないらしい。『強鬼化』は、『鬼化』を使っていた時と体格は変わらないが、それ以上にパワーが強化され、体も頑丈になる。しかし、その分スピードと器用さはさらに落ちてしまっていたのだ。
右から左へ、左から右へ、そして上から下、下から上と、止まることなく攻撃をしかけてくるやつに対して、ステュラ1本での対処では間に合わず、止むを得ずダメージ覚悟で『ダークネスナックル』を反対の拳に纏って対応していた。『ダークナックル・纏』と違って、完全にコントロールできているというわけではないため、魔力に耐えられずに手にダメージがある。『強鬼化』で頑丈になったことでなんとか、『再生』で間に合うダメージ量になっているだけましだが、弾き損ねた時のダメージを回復できるほどではないから、少しずつ傷が増えていく。
俺の体を目隠しにしながらマナのマジックソードやマジックハンマーがやつの死角から襲い掛かるが、それもしっかりと対処したうえでこれなのだ。なんとかして『強鬼化』を解いて立て直す隙を作らないといずれ詰む。これを乗り越えられたら瞬時に鬼から虎へと変われるように練習しないと。
「く、そが!」
埒が明かないと判断した俺は、意を決して『ダークネスナックル』を解除し、ダメージ覚悟でやつの刀を手の平で受けた。刀が手のひらにめり込み、血が噴き出るも、引けないように強く握りしめる。やつがそこまで力を入れて攻撃していなかったせいか、俺が握っている刀を引き戻すことができず、ほんの少しの硬直が生まれた。その硬直を逃さずにマナのマジックハンマー・ノーブルがやつの腹を捉えた。当たる瞬間に俺が手を離したことでやつはハンマーの衝撃で後ろに飛ばされた。俺も『小規模ワープ』で後ろに跳び、『強鬼化』を解除した。
やつは刀を地面について勢いを殺し、そう距離が開くことなく着地していた。しかし、俺が『強鬼化』を解除して人の姿に戻っているのを見て、すぐに仕掛けてくることはなかった。
「ヒール5!」
後ろからマナが飛ばした光が俺にあたり、左手の傷もすぐにふさがった。ちらっと骨が見えてたからほんと危なかった。『再生』なら切れててもくっつければ治るが、魔力はかなり消費するし時間もかかるから、すぐに治せるような回復魔法の恩恵は計り知れないな。
「ふむ、なかなかやるな。久しぶりに楽しめる相手だ」
「こっちは楽しくなんてないがな。1つ聞かせてくれないか?」
「なんだ?」
「お前らの狙いは本当にダンジョンコアか?」
「む?」
俺の言葉にやつは突如として黙り込んだ。何を言ってるのかわからないというよりは、どう反応してよいのかわからないのだろう。
「お前らははじめに『アントホーム』のダンジョンコアを狙った。それは、『アントホーム』に別の何かがあったからじゃないのか?」
「……」
「こころあたりがありそうだな」
「ただ当たりかとも思ったが、とんでもない大当たりだったわけ、がっ!?」
やつが話している最中、突如上から何かに殴られたかのように頭を地面に打ち付けた。その拍子に仮面もとれており、少し離れたところに飛んでいくのが見えた。
「くえー!」
「よくやったカルア!」
そう、これをやったのはカルアだった。
やつの目の前で戻したヒメとは対照的に、俺はカルアにはるか上空に退避して攻撃の機会を待たせていた。出来るなら気絶させたかったが、どうも隙をつくるのは無理そうだったのでこうしておしゃべりという手段をとったわけだ。やつも完全に意識の外だっただろう。
「やってくれたな」
結構な威力で撃っていたのにも関わらず、ダメージも特になさそうに立ち上がったやつは、憤怒の名の通りの表情を浮かべていた。早まったかな?
「こうなったからには、お前たちを捕まえて連れていく。洗いざらい話してもらうぞ」
そう言ってやつはさきほどまで使っていた刀を置き、違う刀を腰につけていた魔法袋から取り出した。『上位鑑定』によると、『龍滅刀』という刀のようだ。やばそうな雰囲気がぷんぷんする。
無意識にごくりと唾を飲み込んだ俺の横から、それまで離れたところでキャラビーのそばに控えていたはずのヒツギが前に出た。
「ヒツギ、なにしてんだ。下がってくれ」
「声を聞いてもしかしてって思ってたけど……やっぱり間違いなかった」
俺の言葉が届いていないのか、歩みを止めないヒツギ。向かい合うやつも、表情が怒りのそれから、驚きのそれに変わっていた。
「どうして? ねぇ、どうしてここにいるの? 答えて!」
ヒツギの叫びとも思える言葉に、やつはそっと視線を外した。
「答えてよ! オルス!」
ヒツギの口から出たその名は、900年前、この世界でヒツギが共に旅をしたという、龍人の名前だった。
どうもコクトーです。
『刈谷鳴』
職業
『ビギナーLvMAX(10)
格闘家 LvMAX(50)
狙撃手 LvMAX(50)
盗賊 LvMAX(50)
剣士 LvMAX(50)
戦士 LvMAX(50)
魔法使いLvMAX(50)
鬼人 LvMAX(20)
武闘家 LvMAX(60)
冒険者 LvMAX(99)
狙撃主 LvMAX(70)
獣人 LvMAX(20)
狂人 LvMAX(50)
魔術師 LvMAX(60)
聖???の勇者Lv15/??
薬剤師 Lv51/60
ローグ Lv31/70
重戦士 Lv39/70
剣闘士 Lv30/60
神官 Lv19/50
龍人 Lv2/20
精霊使いLv4/40
舞闘家 Lv4/70
大鬼人 Lv2/40
死龍人 Lv1/20
魔人 Lv1/20
探究者 Lv1/99
狙撃王 Lv1/90
上級獣人Lv1/30
魔導士 Lv1/90 』
思った以上に執筆の時間がなく、遅れてしまいました。すいません。
年内は後2話か3話くらいになるかなぁ……
ではまた次回