キャラビーの物語です5
ご主人様が出発してから早くも2週間が経ちました。
私とユウカ様は今日、アンナを探して森の中を探索していました。
「アンナはいったいどこにいるのでしょうか?」
「なかなか見当たらないのう。気配も察知できんし、森のかなり奥まで入っておるか、メイが戻してしまっておるかもしれん」
アンナは、ほぼずっとこの館周辺の森にいることもあって忘れがちですが、れっきとしたご主人様の従魔の1体です。しかもご主人様の従魔は他の人の従魔とは違い、ご主人様の中に入ることができます。なので、ご主人様がなんらかの理由で戻してしまっていては、ご主人様が帰ってくるまで会うこともできません。
「どうしましょうか?」
「このまま森の中を探しても出会える気はせんし、アンナ宛のメモでも書いて、木に貼っておくのじゃ。アンナが気づいたら館の方に来るじゃろうし、もう何カ所かに貼っておこうかの」
「わかりました。紙は……すいません、持っていませんでした」
「安心せい、わしも持っておらん。普段紙など持ち歩かんからの。じゃから」
ユウカ様は腰に差した刀でそばに生えていた木を切り倒しました。そして、倒れてくるその木をさらに切って、1本の丸太を作りました。
「これを板状に切ってそこにナイフで文字を掘るのじゃ。わしは板を作るから、大変じゃが文章は任せてよいかの? 若干無理やりではあるけど」
「かしこまりました。すぐに書きます」
私は、ユウカ様から受け取った板に文字を掘り始めました。
それから、昼までに6カ所の木に板を打ち付けて館に戻りました。とはいっても、釘ももちろん持っていなかったので木片をユウカ様が若干無理矢理突き刺してとめてあるので、すぐに取れてしまうかもしれません。なんとかアンナが見てくれればいいのですが……。
昼ご飯を食べて、食器などの片づけを済ますと、ユウカ様は町に出かけていきました。何か入り用の物ができたのかもしれません。一方で私はというと、館の周辺で走り込みです。朝の鍛錬でも走り込みはするのですが、終わった途端にその場に座り込んでしまい、体力不足が大きく目立つ結果になっています。少しでも耐えられるように体力をつけるには走り込みが一番だとユウカ様も言っていましたし、頑張ります!
1時間ほどで走り込みを終えて、シャワーで汗を流した後はリビングでゆっくりと過ごしていました。しかし、晩御飯の時間が近づいてきたのですが、ユウカ様はまだ帰ってきていません。先に下準備を始めてしまいましょう。
「遅くなったのじゃ。すまんの、キャラビー」
晩御飯を作り終わり、お皿に盛りつけていると、ユウカ様が帰ってきました。見たところけがなどもありませんし、純粋に予定に時間がかかってしまったのでしょうか。
盛り付けた皿を2人で運んで、晩御飯を食べ始めて直に、ユウカ様が思い出したように話し始めました。
「つい先ほどのことじゃが、アンナが表に来ておったぞ。木板を見てくれたらしくての。板は6枚あると話したら、それを回収してまた来ると言っておった」
「かしこまりました。ですが、木板って結構広範囲に散らばってますよね?」
「そうじゃな。一応ほぼ全方角に散らして打ち付けたからの」
「それって今日中にやってくるのでしょうか?」
「……なんとかするじゃろう。アンナもさすがに夜中まで戻ってこんということはあるまい」
一気に不安になりましたが、そこはアンナを信じたいと思います。
私たちは、ご飯を食べ終わると、アンナを待つ意味合いもあって、リビングでお茶でも飲みながら過ごすことにしました。
それから待つこと1時間。館の呼び鈴が鳴らされました。どうやらアンナが戻ってきたようですね。夜中まで待つなんてことにならなくてよかったです。
私たちはそろって玄関の扉をあけました。
『夜分に申し訳ありません。昼間に気づければよかったのですが……』
「そう数を設置したわけではないからの。気づけんのも無理はないのじゃ」
『そう言っていただけると幸いです。それで、ご用件はなんでしたか? 私に聞きたいことがあると木板には書いてありましたが』
「聞きたいことがあるのはキャラビーじゃ。よいかの?」
『私で答えられることであれば何なりと』
アンナの瞳が私をじっと見つめます。アンナに見つめられると、なぜか見透かされているような気分になるんですよね……。
「はい。ここ数日で、何度か森の中に子アリを見かけたんです。彼らは、何者ですか?」
『何者、と言いますと、どういうことでしょう? たしかに、今このあたりの森には50ほどのアントたちが生息していますが』
「アンナの部下なのか、それともただのモンスターなのかということです。ただのモンスターなのだとしたら、館の安全のためにも狩りに行くことを検討せねばなりませんし、アンナの部下なのであれば、どこから連れてきたのかという問題があります。ご主人様に許可を得ているのかどうかもです」
私が心配しているのはあのアリたちがご主人様の敵かどうかという点のみです。もしもご主人様の敵であれば、それを知って放置しているのがなぜか知る必要がありますし、ご主人様に知らせずにいるならその理由を聞かねばなりません。ご主人様の奴隷として!
『全員私の配下のモンスターたちです。この館に来てから、ヒメ様の力を借りて生み出したのでどこかから連れてきたというわけではありません。ただ、主様はこのことは知らないと思います。伝えていませんから』
「それはなぜ?」
『知らせる必要がないからです』
アンナの言い方に若干の怒りを感じながら、私は問いただします。
「必要がないですか? そんなわけはないと思いますけど」
『いいえ、必要ありません。私は主様からこの館を守るように命を受けています。それを成すための手段として配下を増やしてはいけないとは言われていません。それに、この館周辺の森には数多くの動物、魔物が存在しています。それらから私1人で守れるわけではないということはおそらく主様も理解しているはずです。みぃちゃんやカルアを召喚してくれてはいますが、カルアは館にいつもいるわけではないですし、みぃちゃんはあなたについています。館に常駐できるのは私だけなのです』
「それでも、ご主人様には伝えるべきではないですか? 見かけた時に心配すると思います」
『そのあたりは徹底して隠れるように指示を出してあります。私の子たちですし、穴掘りは得意ですので、瞬時に地面に潜れば主様の気配察知には引っかかってしまうかもしれませんが、姿を見られることはありません。そもそも、知らせたとして、ご主人様にいったいなんと言えというのですか? まさか、私一人では館の周辺の管理が追い付かないので配下を増やしました。とでも言えというのですか? 冗談ではありません。そんなことを言えば、主様を無駄に心配させるだけです』
「それはそうかもしれませんが」
『あなたにもわかるでしょう? 私は、主様の足を引っ張ってしまうのが怖い』
アンナの言葉に私の体はビクンと反応しました。
『館の内部のことはあなたとブラウニーたちがなんとかしてくれているおかげで、私は外のことにのみ集中できるのです。だからこそ、私は、私という種の力を使って主様たちの平穏を守ります。それに文句を言われる筋合いはありません』
「……」
私とアンナはお互い無言で睨み合いました。それはどれくらいだったのかはわかりませんが、私には非常に長く感じました。
パンっ!
「そう身内同士で睨み合いなどするでない。一旦頭を冷やすのじゃ」
その静寂を終わらせたのはユウカ様でした。手を叩いて私たちの注意を引き、その言葉で私たちの緊張を解いてくださったのです。
「アンナ、子アリたちは敵に回ることはないのじゃな?」
『もちろんです。万が一、億が一にもありえません。子アリたちは私が生み出した、主様たちに害となる物を排除するための忠実なモンスターですから』
「そうかの。キャラビー、間違いなく子アリたちはメイたちの敵になることはないのじゃ。心配はいらん。それに、子アリたちはアンナが、己の力不足を補おうと考え付いた手段なのじゃ。それをお主は奪う気かの?」
「そういうわけではありません」
「ならよいではないか。現状、メイたちが子アリたちのことを気にしているわけではない。少しでも気になるようなそぶりを見せた時に伝えてやればよいとわしは思うぞ。報告や連絡は確かにとても大事なことじゃが、伝えないほうが良い情報というのも世の中には存在するのじゃ。そのことがわからないお主ではあるまい」
「……そう、ですね。わかりました。しかし、少しでも問題があった場合、私がご主人様に報告します」
『それで構いません』
「よろしい。これでしまいじゃな。キャラビー、風呂の準備を頼めるかの? わしは別件で少しアンナに話があるのじゃ。あまり聞かれたい話でもないのでのう」
「わかりました。すぐに準備します」
私はユウカ様のご厚意で一人風呂場に向かいました。
そこで私は、普段よりもゆっくりと時間をかけて準備を始めました。
どうもコクトーです
また遅れてすいません。
ここ最近全然かけない…なんでだろう…
たぶん次で間章を終われるかな?
たぶんだけどね!
ではまた次回