キャラビーの物語です4
ユウカ様とみぃちゃんと『貴の山』に挑み始めて5日目になり、私たちは15層の転移陣の前にいました。
ご主人様たちと挑んだ時よりはゆっくりですが、それでもかなり異常なペースで進んできたこともあり、私の体力がもたなかったのです。
「すいません、ユウカ様……」
「なに、気にするでない。たった5日でここまで来れたのじゃ。むしろそれを誇るがよい」
そう言うユウカ様ですが、ユウカ様はまだまだ余裕そうです。交代制という形にはなっていましたが、ユウカ様はこの4日間完全に徹夜をしています。私が夜警中も寝るふりをして起きていたのを気づいていないと思っているのでしょうか? それを指摘しない私も私ですが……。
『貴の山』では、安息所は各層の切り替わりの部分にのみ存在します。そもそも、『貴の山』では層の概念が若干他のダンジョンとは違います。ダンジョンに入る時を除いて、他のダンジョンのように、次の層に行くのに扉をくぐったり、階段を使う必要はなく、階層の分かれ目に山1周をぐるっと囲むように結界が張られていて、その結界を超えれば次の層になっています。かと言っても、山という地理の問題で1つ前の層から次の層を把握できるわけではないのですが、頂上までは木々の間にまっすぐに整備された道が伸びているので、冒険者の多くはそこを進むのです。モンスターも多く、トラップも多いので森の中を進む冒険者もいるみたいです。その分足元もおぼつかず、視界も悪いのですが、ユウカ様も普段はそちらを選んでいるそうです。残念ながら転移陣は整備されている道にしかないので、ユウカ様も町に戻る時はそちらに向かわないといけないから面倒だと嘆いていました。
私たちは、転移陣でダンジョンを出て、館に戻る前にどこかでご飯を食べようという話になりました。たしかに、この疲れた状態でご飯を作るのはつらいですし、ユウカ様もダンジョンに潜っている間は保存食でしたからしっかりとしたご飯が食べたいと思っているでしょう。昔は何であろうと食べられるだけでうれしかったのに私もだいぶ変わりました。このままではご主人様に贅沢なことを要求してしまうかもしれません……。気をつけないといけませんね。
ご飯を食べた後は特に寄る所もなく、私たちは館に戻ることにしました。今日はもうブラウニーたちに魔力をあげて休みたいです……。
そんな中、向こう側から歩いてくる一人の女性が目につきました。
「む、あれは……」
「こんにちは、ユウカ様。そして久しぶりですね、キャラビーさん」
「サラ様」
前から歩いてきた方はサラ様でした。私は無意識的に一歩下がってしまいました。それに気づいたユウカ様の私の手を握る力が強くなるのを感じながら、私はどうしたらいいかわからなくなってしまいました。
「サラ・ファルシマー、何用じゃ? というか、お主は今ランク昇格試験の依頼の真っ最中ではなかったかの?」
「それなら大丈夫ですよ。しっかりとこなしてきましたから。ここには昨日転移で戻ってきました」
「そういえばお主は転移魔法の使い手じゃったの。しかし、お主が担当した者たちはずいぶん優秀だったんじゃな。たった1日で全員がクリアしてしまうとは」
「逆ですよ。護衛依頼で失敗したんです」
「それは……なんとも言えんの……。しかし、ずいぶん急いだものじゃな。他のメンバーはまだまだ戻らんじゃろうに」
「ミラの町の件で古里さんと話さないといけないと感じまして。他のメンバーが戻る前に話しておきたかったのですが、目を覚まさないのです。けがなどはもうないですし、いつ目を覚ますのか待っているのも退屈なのです」
「ちょっと待つのじゃ。ミラの町の件とはなんのことじゃ? ここ数日ダンジョンに潜っておってな。何が起こったのか知らないのじゃ」
「あまり大きな声で言えるような話ではないのですが、ミラの町を大量の邪龍たちが襲ったんです。すでに『レーザー』のラムダ、『黒き翼』のドリー姉妹、それからあなたの今の主であるメイさんたちが中心となって撃退したそうです」
「そうか。全員無事なのじゃな?」
「私が知る限り、『マツノキ』の皆さんにけが人はいませんよ」
「そうか。キャラビー、お主の主は無事なようじゃぞ?」
ユウカ様が話しかけてくれますが、私はいまだに体が動くことを拒否しているかのように固まったままです。
「キャラビー、そう怖がらなくてもいいですよ。今私たちがあなたをどうこうしようとは思っていませんから」
「う、嘘です」
「正確にはその余裕がないといった感じでしょうか。今は古里さんの完成が最優先です」
「完成とはまた不思議な言い回しじゃの」
「今回の一件で古里様には足りないものがたくさんあることがわかりました。それを補っていくのを完成と呼ぶのはおかしなことでしょうか?」
「構わんと思うぞ」
「そうですか。それではそろそろ失礼しますね」
サラ様はそうして私たちの横を通り過ぎていきました。私たちも館に向かいましたが、ユウカ様に手を引いていただかなければしばらくそこでじっとしていたかもしれません。
私はそのまま館に着くまでずっとユウカ様に手を引かれていました。
ダンジョンでの疲れからか、次の日の朝、私はユウカ様に起こされるまで起きられませんでした。目を覚ましたときに目の前にユウカ様の顔があって非常に驚きました。以前であれば確実に折檻ものです。起きて真っ先に土下座したのは必然だったと思います。
朝ごはんを食べると、ユウカ様は、ご主人様たちが関わっているというグリムの町の一件について冒険者ギルドに聞きに行くと言って町のほうに向かいました。私は疲れをとる意味合いもかねて今日は館でお休みです。昨日は結局あげられませんでしたし、ブラウニーたちに魔力をあげたらみぃちゃんの毛づくろいでもしましょう。そして残った時間は刻印の練習ですね。
私はご飯の後片付けをするとブラウニーの下に向かいました。
ブラウニーたちに魔力をあげていると、5日間あげていなかったこともあり、みんないつもより少し多く魔力を吸われました。最後の方で魔力回復速度上昇のレベルが2になりましたが、みんなが食べ終わった後しばらく座り込んでしまいました。もう少し早く上がってほしかったです……。
少し休憩した後、桶やブラシなどの道具を魔法袋に入れて外に出ました。運よく、みぃちゃんは玄関のすぐそばにいたので探す時間を省けました。しっかりと毛づくろいをしましょう。みぃちゃんは水を怖がったり毛づくろいを拒んだりはしないので楽ですね。私は寝ころんで気持ちよさそうにするみぃちゃんを丁寧に毛づくろいしはじめました。途中でまた森の中に子アリを見たような気がするので今度ユウカ様と一緒に調べてみましょう。
私はみぃちゃんの毛づくろいが終わると、刻印の練習をしに部屋に戻りました。
どうもコクトーです
twitterの方では言っていましたが、遅れてすいません。
データが…データが消えたんです…
あと2話くらいで間章も終わりかな?
ではまた次回