キャラビーの物語です1
今回から閑章、『キャラビーの物語』が始まります。
私、キャラビー・ファントムは今日も朝からブラウニーたちのいる屋根裏部屋にきていました。
「「「うにー!」」」
ブラウニーたちは、ご主人様が言うには、ずっと昔にこの館の主であった方が創りだした存在なのだそうです。私がご主人様の言葉を疑うなどありえないことですが、その方はすさまじい力の持ち主だったのですね……。
「ご飯の時間ですよ。1匹ずつ来てくださいね」
私の言葉を受けて、ブラウニーたちはワタワタと私の前に一列に並びます。屋根裏部屋は狭いので端に沿ってぐるっと円になるように並ぶのですが、毎度のことながらきれいに並んでくれます。横にはみだしたり、ぬかそうとする子もおらず、みんなまだかまだかとこちらを見てきます。かわいい。
「じゃあ順番にどうぞ」
私がしゃがんで左手を差し出すと、前から5人が進み出て、指にはむついてきます。猫獣人と言えども、多少毛深くはありますが、このあたりは人族と何ら変わりないのがうれしいですね。その昔に研究所で見た猫型モンスターと同じような手のひらだったら物をつかむのにも苦労しますし、こうやって一度に複数の子に魔力をあげることができずに時間がかかってしまいますから。ですが、肉球くらいはあってもよかった気がします。ご主人様にツンツンとして癒されてもらえば、私も気持ちよくて一石二鳥です。
ブラウニーたちは、自分が満足すると、すぐに指から口を離し、服の前掛けの様な部分で自分の咥えていた部分を拭きとって、私に一礼して部屋から出ていきます。布の手触りが非常によく、少しくすぐったいです。これがご主人様であればむしろくすぐったくしてほしいくらいですが、ブラウニーたちが次のブラウニーへの配慮としてやっていることですし、やめさせるわけにもいきませんので耐えないといけません。
それから3分くらいでしょうか。すべてのブラウニーが魔力を食べ終わり、最後の子が一礼して部屋から出ていくと、私も立ち上がってキッチンで朝ごはんの準備をする前に、お風呂を入れに行きました。
ご主人様たちがランク昇格試験のために町を出てからすでに4日。まだまだご主人様たちが帰ってくるのには時間がかかります。初日こそ、全員に魔力をあげた途端に魔力不足でふらふらとしてしまっていましたが、今となってはあまり問題にならなくなってきました。それというのも、2日目のご飯の時に魔力回復速度上昇Lv1というスキルを得たからです。急激に減った魔力を回復させようと、体が適応してくれたのだろうとユウカ様には言われましたが、いまいちよくわかりませんでした。しかし、瀕死の重傷を負った方が体力回復速度上昇や、自動回復のスキルを得ることがあるという話は聞いたことがあったので、おそらくそれに似たようなことなのでしょう。
「キャラビーよ、おはよう。よく眠れたかの?」
お風呂も入れ終わり、ご主人様が置いて行ってくれた食材で朝ごはんの準備をしていると、朝の鍛錬を終えたユウカ様がやってきました。ご主人様がいる間はご主人様と打ち合いの形式で行っていた鍛錬も、しばらくの間は素振りや走り込みだけにしているそうです。私も1日おきに参加させてもらっていますが、朝からやるにはかなり厳しい量でした。しかし、ご主人様に少しでも近づくためにも頑張らないといけません!
「おはようございます、ユウカ様。ぐっすりと眠れました」
「それはよかったの。わしは少し汗を流してくるのじゃ」
「お風呂はすでに入れてあります。ごゆっくりどうぞ」
「助かるのじゃ。やはりシャワーとお風呂では疲れの取れ方が違うからの。キャラビーも一緒に入るかの?」
「私は朝ごはんの支度がありますので」
「そうか。じゃあ、悪いが頼むぞ。しっかりと動いたからお腹がペコペコじゃ」
ユウカ様はそう言ってお風呂に向かいました。ユウカ様はそれほど長風呂をするタイプではないですし、朝の鍛錬の汗を流すだけなら20分くらいでしょう。これなら私もゆっくり準備ができますね。私は朝ごはんの準備に戻りました。
予想通り、20分くらいすると、ユウカ様がお風呂から出て、リビングにやってきました。そして、普段着として利用している紫の着物姿で、すでに準備の終わったテーブルの、私の対面にくるように座りました。座るときにぶるんと揺れた、いまいまし、いえ、立派な部分が支えになっており、脱げることはありませんが、その谷間が露になっており、ご主人様には目に毒です。
「今日も美味しそうじゃな。いつもありがとうの」
「いえ、私もお世話になっているので」
実際にお世話になっているのは事実です。町やダンジョンに出るときは必ずついてきてくれていますし、戦いともなればアドバイスもいただけました。私はあまり力がないですし、スピードを活かした戦闘方法を考えているのですが、なかなか思うようにはできません。
ユウカ様はもともと王都で騎士訓練所の所長を務めていたこともあり、様々な戦闘方法の人を教え導いてきた方です。その時の経験をもとに教えてくれるので非常にわかりやすかったです。スピードを活かした高速戦闘は、どちらかと言えば1発1発の攻撃力を軽視しがちな人が多いそうです。しかし、ユウカ様が言うには、それではだめなのだとか。
そもそも高速戦闘を選ぶのは、私のように小柄で力のない人が多く、だからこそ余計に手数で勝負しようとする人が多いそうです。現に、騎士訓練所でもそうしようとしていた人はかなりいたそうです。それらの人の多くは、他の騎士訓練生と戦った時に、手数は多くてもなかなか相手を倒せず、常に動き続けているために最終的に自分が先に疲れてしまい、隙をつかれて負けてしまうそうです。その理由は1発1発が雑になっているから。少しでも手数を増やそうとして雑になるらしいです。
高速戦闘を目指すなら、常に動き続けられる持久力、相手の隙や弱点を見抜く観察力、そして1発1発を正確に繰り出す集中力、この3つを鍛えあげる必要があるそうです。朝の鍛錬も、私が参加する日はそれらを鍛えるためのメニューにしてくれたりもしました。
「いただきますなのじゃ」
「いただきます」
私たちは朝ごはんを食べ始めました。
朝ごはんを食べ終わった私たちは、片づけを終えて、リビングで今日の予定を話し合っていました。
「今日はガンダのところに行く予定じゃったな。いつぐらいに行きたいのじゃ?」
「ユウカ様の都合がつきましたら、午前中にはいきたいと思っています」
「それじゃあ今から1時間後でどうかの? 冒険者ギルドに寄っておきたいのじゃ。今日はダンジョン攻略ではなく依頼をこなそうと思っての」
「わかりました。いつ頃出発しますか?」
「どれくらいかかるかわからないからの。早めに行くに越したことはないの」
「それでしたら、準備もかねて20分後はいかがでしょうか? ユウカ様もすぐに出るというわけにはいかないでしょうし」
「うむ。じゃあ20分後に出発とするのじゃ」
「はい」
私の返事を聞いてよしとうなずいたユウカ様は、準備のために部屋に戻っていきました。
私もすぐに部屋に今日使う布と愛用の短剣をとりに行きました。
どうもコクトーです
前回のあとがきで言っていたのはキャラビーのことでした!
何話になるかはわかりませんが、しばらくお付き合いください。
ではまた次回