魔族の男です3
ラムダ視点です。
ご注意ください
「これはどういう状況だ、ラムダ? メイは無事なのか?」
私たちの頭上を覆った巨大な影の正体は火龍様だった。相当急いできたらしく、軽く吐息に炎が見え隠れしており、そのたびに雨が蒸発して蒸気が上がっている。
「あんたが火龍か。思っていたよりも大きいんだな」
「誠也、そんな落ち着いている場合じゃないと思うぞ」
「でもよ、結局は火龍である限り、リオの魔法の適応内だろ?」
「ラムダ、こいつらは何者だ?」
「魔族です。ダムドレアスとはまた別件のようです」
「ほう。捕えれば少しはおびき出せるかもしれんな。ラムダ、そこのキメラを捕えられるか? あとのはあたしがやる」
「善処します。ツンツン頭は厄介な幻術を使いますのでお気をつけて」
キメラ男が火龍様に対してローブ姿のリオという男がいるから大丈夫だと言い張っているのが少し気になる所ではあるが、私は剣を構えてキメラ男へ意識を向けた。
「あんた、いきなり来てなんなんだ? ラムダさんと話しているってことは、味方……でいいのか!?」
いざ戦闘再開といこうとしたとき、天上院さんが火龍様に対して声を上げた。しかし、どうにも現状を理解できないでいるらしい。
「誰だ?」
「僕は天上院古里だ!」
「知らんな。どこかで聞いた気はするが」
「火龍様、勇者です」
「そうか。邪魔だから下がっていろ。巻き込んで殺してしまってはまずいからな」
言い方はきついものの、火龍様は善意で言っているはずだ。実際、火龍様が全力で暴れるとなれば、私もこんな近くにいては確実に巻き込まれる。そうなれば6割方死んでしまうだろう。天上院さんであるならば、100%死ぬ。
おそらく火龍様がここに急いできたのは、足止めをしているはずのメイを回収にきたからだろう。実際には、足止めどころか討伐してしまったようだが、少なくとも火龍様にそれを知るすべはない。しかし、天上院さんがこちらに向かって行ったという情報は伝えられていてもおかしくない。火龍様は一度町に戻ったはずだし、セバスさんが指揮をとっていたのは私も確認した。それで情報が伝えられないはずがない。
「僕が邪魔? 僕は勇者なんだし、この程度なんてことないんだ。むしろあなたが退いてくれないか?」
「天上院さんは何を言っているかわかっているのか?」
む、いかん、本音が漏れてしまった。非常に小さい声だったこともあり、誰にも聞こえなかったようだが、そう思うのも無理はないと思いたい。いくら勇者といえど、相手は町の守護龍たる、属性龍の火龍様だ。王国全土で考えたときにははっきりとは言えないが、少なくともこの地域では火龍様の方が立場も強さも上だ。
いきなりぽっと出てきた、名前すら知らない勇者と、代を重ねながらとはいえ、何百年もこの地を守り続けた火龍様とではまるで違うのがわからないのだろうか?
「はんっ。あたしにはお前にそこまでの実力があるようには思えないが?」
「僕は勇者だと言っているだろう? 勇者がこの程度の障害、乗り越えられないはずがないじゃないか」
「精神論か。しかし、お前が死ぬとあとあと面倒だ。ラムダに任せてお前は帰れ」
「……何を言っても聞いてくれないのか。まあ実際に倒して見せれば何も言えなくなるかな」
天上院さんは聖剣を構えてキメラ男をきっとにらんだ。なぜこうなったのか。
「……ラムダ、死なないようにしてやれ。最悪生きてさえいれば構わん」
さすがに手足を切り落とされましたとかはまずいと思うのでできれば早々に気絶でもして戦闘離脱というのが理想なのだが、そうそううまくはいかないだろうし、臨機応変に動くとしよう。
それから、最初に動いたのは天上院さんだった。
まっすぐキメラ男めがけて走り、剣を振るって左腕を狙って斬りつける。しかし、それはあっさりとブルークラブの鋏によってつかまれ、力比べの様式になっている。しかし、キメラ男はまっすぐこちらを向いて警戒しているため、その隙をつくという形にはできない。その状態でも天上院さんを抑えてることを考えると、先ほどよりも大きく力が上がっているようだ。
「ホーリー」
「っと、それは危ねえ」
キメラ男はパッと鋏を開き、真上に跳んで天上院さんの魔法をかわす。空中にいる隙を狙って斬撃を飛ばしたが、スカイドラゴンの尾で払われてしまった。私は、着地の瞬間を狙って一気に駆け出した。
まずは機動力を奪うべく、囮で斬撃を飛ばしながら右足を狙った。強めに放った斬撃は、撃ち落としに来たブルークラブの腕を弾き、体勢を崩させることに成功した。完全に断つつもりで右足を斬りつけたが、スカイドラゴンの尾をばねにして後ろに跳んだらしく、半ばほどまでしか切ることはできなかった。
キメラ男は痛みに顔を歪ませながら、追撃をしようとしていた私と天上院さんに広げた糸を放ってきた。無理に追撃を仕掛ける状況でもなかったので、2人とも足を止め、冷静に切り落とした。
「こっち来んな誠也!」
「ラムダ、もらうぞ」
キメラ男が跳んだ先、そこは、必死に火龍様の攻撃をしのいでいたツンツン頭の目の前だ。ちょうどブレスのために距離をとったその空間に飛び込んでしまったのだ。ちょうどリオと火龍様との間でもあったため、リオは発動しようとしていた魔法を消し、違う魔法に切り替えていた。
好機とばかりに火龍様も標的をツンツン頭からキメラ男に変えたようで、そちらに超高温のブレスが吐き出された。
「だー、クソ! リオ!」
「お前はもう少し周りを見て動け。『ひかりまほう』」
リオが上下に合わせるようにかざした手の間に光魔法だとは到底思えないような真っ黒な球体が生まれた。それは、ひびが入ったかと思うと、火龍様のブレスめがけてキメラ男の前に飛び出していき、ブレスを呑み込んだ。
「サンキュー、リオ。助かったぜ」
「足は大丈夫か? まあ回復はできんが」
「なら聞くんじゃねえよ。力が入らないだけだからな。大問題だよ」
私たちはその光景に唖然としていた。
確実に決まると思った火龍様の一撃を、あの魔法だけで完璧に防いだのだから驚かないほうがおかしい。火龍様のブレスは、その属性から、他の龍と比べても火力は高い。それを完全に抑えきれる魔法など、それこそ他の属性龍様くらいしか使うところは見たことがない。さらに言えば、そのどれもが周囲に多大な影響を与えるような魔法であり、いったいどんな魔法なのかも見当がつかなかった。
「どうなってるのかわからないけど、僕の魔法は止められないぞ! ホーリーボルト!」
これまでのような広がるような魔法ではなく、一点集中の魔法が、魔法を撃ったばかりのリオに放たれた。
「そいつはだめだ。受け流しの構え」
ツンツン頭が魔法の前に出て、受け流しの構えで魔法を斜め後ろにそらした。若干そらし切れずにダメージを負っているようだが、何か様子が変だ。
「流し切れないか。でも、いいのかな? ただ見てるだけで」
「っ!」
ツンツン頭の言葉の意味は一瞬で理解できた。
私が今いる位置は、最初の位置と比べて、真反対の位置から少しずれたくらいの場所だ。そして、今魔法を放った天上院さんは最初の位置から少し前に出ただけであり、ほとんどかわらない。そこから放たれた魔法が斜めに流されたらそれはどこに行くのか。
そこには、1つの大きな岩があった。
「メイさん!」
そう、それは、私がメイを隠した岩だ。いくら大きい岩と言えど、あの魔法を受けたら間違いなく後ろに吹き飛ぶだろう。場合によっては突き抜けてもおかしくない。それを気絶しており、無防備な人間がくらったらどうなるか。それは想像に難くない。
防ぎに行こうにも、ここからでは間に合わず、ドン! と直撃した音が響き、砂埃が舞い上がった。
「弱ってるやつを叩くのは戦いの基本だからな。1人もーらい」
悪い笑みを浮かべるツンツン頭に殺意を抱きながら、わずかな望みを込めてメイのいた場所を見る。
「へ? あれ?」
雨で通常よりも早く晴れていく砂埃の中、岩を守るように、空中に浮かんだ魔方陣から一本のとても太い腕が伸びていた。
どうもコクトーです
最近全然執筆が進まないです…
遅れ気味ですいません。
戦闘はまだ続きます。
ではまた次回