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町の様子です2


 ヒツギが発見したのはぼろぼろになった風龍様だった。右腕はちぎれ、左足はおかしな方を向き、全身から血をにじませていたのだ。なんとか生きているようだが、意識はなく、あと一撃もらったら死にかねないような状態だ。


「風龍様、すぐに回復させます。ヒツギは周りの警戒をお願い」


「わかった」


 棺桶を背から降ろし、そこからもう片方の棺桶も取り出して、背後にいる私を守るようにどんとおいた。

 私はヒール5を風龍様にかける。ほんとはもっと強力なヒールを使えればいいのだけど、グリムの町についてからは獄炎魔法を含めた攻撃魔法の研究にかかりきりで、回復魔法を改良している余裕はなかった。これまでヒール5以上の回復を必要とする機会がなかったのも原因かな……。

 多めの魔力を込めたヒールの光が風龍様を包み込む。ヒール5なら骨折くらいはすぐに治せる。右腕はちぎれた箇所がもはや原型をとどめていないから、断面を塞ぐだけになるし、結構ひどい骨折のようだから少し時間はかかりそうだけど、それら以外の切り傷や打撲はすぐに治せるはず。


「え、なんで!?」


 私の予想とは裏腹に風龍様の傷はまるで治る気配がなかった。いや、正確には、治っている傷もある。しかし、それはどれも軽いものであり、わずかな差に過ぎなかった。


「どうしたのマナ?」


「わかんない。何かはわからないんだけど、その何かが回復を阻害していて、全然傷が治ってくれない!」


「落ち着いてマナ。呪いとかそういった類の物なの?」


「そいつはもう治らないぜ。なんたってあたしの攻撃を受けたからな」


「誰?」


 私たちと風龍様以外には誰もいないはずの庭で、女性の声が聞こえた。最大限に警戒しながら辺りを見渡すもそれらしい人は見当たらない。しかし、声は明らかにこの庭のどこかから聞こえてくる。どこにいるんだろう?


「ま、マナ、見つけた」


 ヒツギが顔をしかめながら指をさした。しかし、そっちには誰かいるようには見えなかった。男女合わせて7つの死体はあるけど、女性の死体は3つ。頭と体の離れた死体と、首が90度横を向いた死体、それから体が縦に真っ二つになっている死体だ。中身が零れ落ちている様子はあまりまじまじと見たいものじゃないね。


「あの、真ん中の首。あれがしゃべってた」


「首って……体とつながってないのに?」


 ヒツギが告げた首というのは、この場にある唯一の龍人(ドラゴニュート)の女性の首だ。女性の龍人の頭部は、男性の龍人とは違って、比較的人間に近い容姿をしており、それが余計に見たくないという気持ちを増加させる。


「首がつながってないからって話せないってのは常識にとらわれすぎだ。現にこうしてあたしは喋れてるんだからな」


「ひっ」


 口元と首の断面から、血がボタボタと流れていながら、しゃべる生首というのは正直怖い。これを見ていると、アンデッドモンスターとかほんと無理かもしれないと思ってしまう。メイに慰めてもらおう。


「あたしの攻撃は全て親父の属性が付与されてんだ。牙も、爪も、魔法も、全部」


「お父さんの属性? それがこの状態に関係あるってことは……ダムドレアスの娘?」


「親父を呼び捨てにするんじゃねえよ。親父はてめえらみたいな矮小な存在が名前を出していいような存在じゃねえんだよ。親父は、あたしたち山に住む龍たちの長だ。人間が手出ししていいような存在じゃねえんだよ」


 興奮しているからか、口から盛大に血を吐く。頭だけになっているため、新しい血を補給する術はなく、顔色はどんどん悪くなっていく。敵であることは間違いないし、放っておいても死にそうな感じね。

 ヒツギが片方の棺桶を手繰り寄せ、自分のすぐそばで回転させ始めて尋ねた。


「それで、あなたは何がしたいの?」


「あたしの目的はそれの死体だけだ。属性龍の成龍の死体だからな。親父の代わりとしてあいつらも満足して親父を解放するはずだ。と言っても、あたしはもう動けそうにないからな」


 本気でそう思っているのか、その目からは必死さが滲み出ていた。


「『偉大なる死龍が王、ダムドレアスが眷属、黒龍オルフェウスの名において命ずる。哀れな風龍の身を彼女のもとまで届けよ』ギミックドール」


 血の気が失せた真っ青な顔で、機械的に告げたその魔法によって、数ある死体の中でも比較的損傷の軽い死体がすくっと起き上がる。損傷が軽いと言っても、腕がなかったり足が折れてるのは当然で、先ほどの首が90度まがった死体も起き上がっている。


「あーあ、もうこれだけしか動かないのか。まあそれ(風龍)に味方した自分を恨むんだな。デスボー」



 グチャッ



 口を開き、なけなしの魔力を集めていたところで、上から振り下ろされたそれ(・・)に押しつぶされて脳漿がはじけ飛ぶ。それと同時に、起き上がっていた死体も糸が切れたかのように全てただの死体に戻り、地面に崩れ落ちた。


「危なそうだったし、使う前に倒しちゃったけど……よかったよね?」


「うん。ちょっとその下がどうなってるのかは見たくないけど、よかったと思うよ。それに、少しだったけど見えた(・ ・ ・)からね。大丈夫」


 私は両手で2つの魔方陣を起動させる。左手の魔法陣はイービルヒールという状態異常を回復させる魔法のもので、右手の魔方陣は今の(・・)魔法のものだ。


「えっと、ここの部分が属性付与に関する部分だから、付与された属性を示す部分は……」


 私は、何をやっているのかわからなさそうにしているヒツギをよそに魔法の解析を進めた。見た魔法を使用可能にする『魔法の才能』。一度でも見てしまえば、その解析に時間はかからない。あの魔法そのものはただの上級の闇魔法だし、どこが付与に関係しているのかは一目瞭然だった。


「……あとは、ここを加えてやれば、よし!」


「終わったの? 風龍様はどうにかなりそう?」


「任せて。火龍様が言ってたみたいに、種族特性としての龍殺しなら私には手の打ちようがなかったけど、魔法による属性の付与ならば、太刀打ちする方法はいくらでもあるよ。きちんと魔法を見させてもらったしね」


 私は念のためにヒツギに離れるよう伝え、たった今作った(・ ・ ・)魔法を唱える。


「『希望の光がその身を蝕む龍殺しの力を消去する』イレイズヒール」


 対龍殺しのみに特化した回復魔法。その光が風龍様の回復を妨げていた力を消していく。

 そして、龍殺しが完全に消えたのを確認し、私はヒール5で傷を回復させる。今度はきちんと治る。


 こうして風龍様は一命をとりとめることに成功した。私とヒツギは、風龍様を風の館に運び込み、意識が戻るのを待った。




どうもコクトーです


少し間に合いませんでした…


ここで一旦マナ視点は終了です。

次回は戦闘に戻る予定です。


ではまた次回

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