魔族の男です2
今回もラムダ視点です。
ご注意ください
田中誠也が天上院さんに向かって行く。天上院さんも迎え撃つべく剣を構えた。他の2人も杖と剣を構えて天上院さんの方を向く。私には興味がないのか? まあ好都合ではあるな。
私は警戒しながらそっとメイを引き寄せ、小脇に抱えた。どうにかして距離をとって一旦メイを下げなければ、私が動けないからな。
「『光の奔流よ、我が敵を討つため荒れ狂え』ホーリーストリーム!」
天上院さんの魔法がキメラ男に迫る。それに向かってローブの男が魔法を放った。
「魔法は俺の専売特許なんですよね。『かぜまほう』」
キメラ男の横を追い越すように白い塊がホーリーストリームに直撃する。相殺するつもりなのかと思ったその時、突如として魔法が消し飛んだ。
「なっ!?」
「驚いてる暇はねえぜ、勇者さんよ!」
驚いている隙にキメラ男が天上院さんとの距離を詰める。そしてクラブ種の大きなはさみで襲い掛かった。天上院さんもやられるわけにはいかないと剣でそれを弾いて応戦しているが、動きがいちいち大きいうえに、相手の腕が4本あるということもあり、防戦一方になっていた。
その間、私はと言えば、残る2人を視線のみでその場に釘づけにしていた。
すり足で少しずつ距離をとりつつ、殺気を込めて剣を構え、動けばすぐにでも殺せるというアピールをしているわけだ。そうでもしておかなければ、この2人はすぐにでもキメラ男の援軍に動き、天上院さんは負けるだろう。キメラ男のいうことが正しければ、この2人も何かしらの能力を得ているはずだ。ローブの男は魔法系の力で間違いないとは思うが、もう一人は完全にわからない。武器は間違いなくその手にある剣だろう。しかし、メイのように剣を持ちながら魔法を主体で戦うものもいるし、そう決めつけるのは早計だろう。
「おらぁ!」
キメラ男がコング種の腕で天上院さんを大きく殴り飛ばす。剣で受けていたし、殴られる瞬間に後ろに跳んで勢いを弱めていたしダメージは小さいだろう。
天上院さんはそのままバックステップで距離をとった。キメラ男も特に追い打ちをかける様子もなくその場に立ち止まっている。
「大したことねえな。これならすぐに終わらせられるぜ」
「なんだと!」
「俺はまだ能力を碌に使ってねえんだぜ? それなのにあんたは攻撃に転じられないでいる。この状態で負けるはずがない」
「おい誠也、調子に乗りすぎだ。今のお前はどう見てもやられる側だぞ」
「ラノベの世界じゃねえんだから。お前バカじゃねえの?」
ツンツン頭がキメラ男に油断しないように告げているが、キメラ男は相手にしていない。その間もツンツン頭はこちらの様子をうかがっていた。気を抜いてくれればかなり移動しやすいのだが。
「そうだ、いいものを見せてやるよ」
キメラ男が突然腕を誰もいない方に向けた。
「何をする気だ?」
「なに、俺の能力を見せてやろうってんだ。感謝しな」
コング種の腕からきわめて細い何かが飛び出した。あれは……糸か?
「アイアンスパイダーコングの鉄の糸だ。それなりの重量なら余裕で耐えきることができる」
アイアンスパイダーコングとは、体内に鉄の糸を作りだす特殊な臓器を持ち、手のひらや口から糸を発射するモンスターだ。鉄でできているものの、粘り気のある糸とワイヤーのような糸の2種類があり、それ使い分けて攻撃してくる厄介なモンスターだ。しかし、その影響からかコング種特有の強力な腕力を持っておらず、器用でもないため、ランクは低く、C-にとどまっている。上位種であるスチールスパイダーコングならば糸が剣のような鋭さを持つためランクB+と跳ね上がるのだが、キメラ男自身がアイアンだと言っていたし、問題ないだろう。
キメラ男の発射した糸が戻ってくるとその先には1体のスカイドラゴンがいた。頭に穴が開いて死んでいる様子から、メイの仕留めたものだろう。他の4人の攻撃ではああはならないはずだ。しかし、誰もいない方に糸を飛ばして何をするのかと思えば死体を引き寄せるためだったのか。
キメラ男は、糸で手繰り寄せたスカイドラゴンののど元を右手でつかみながらい、やらしい笑みを浮かべて言った。
「俺の『混合多獣魔人』はモンスターの能力を自身の体に反映するキメラの力だ。つまり……」
キメラ男がつかんでいたスカイドラゴンが光の粒子に変わった。そして大きく開いた口に吸い込まれていく。
その間皆の視線がキメラ男に向いていたおかげで、ちょうどいい大きさの岩のところまで下がることができたのはラッキーだった。とりあえずメイをその岩陰に隠し、ゆっくりと近づきながらキメラ男の様子をうかがう。
スカイドラゴンの大きさが大きさだけに、完全に吸い込まれたのは20秒ほど経った後だった。そして、キメラ男がゲェプと息を吐くと、その体が光りはじめた。
「すげぇすげえすげえ! 力があふれてくるぜ! さすがドラゴンだ!」
光が収まったキメラ男は、腰のあたりにスカイドラゴンのものと思われるしっぽが生えていた。
「前のブルークラブの時は腕が増えたが、今度はしっぽか。バイトスネークの頭が生えてきた時やマッドバットの翼が生えてきた時もそうだったが、増えた時は力がだいぶ増すみたいだな。頭がブロンズタイガーの頭に変わっちまった時や足がレッドベアのに変わっちまった時はそうでもなかったし」
独り言なのか、キメラ男はペラペラと自分の情報を話すが、その話を聞いていくにつれて、キメラ男の脅威度がどんどん下がっていった。
たった今吸収したスカイドラゴンはランクが高いが、それ以外のモンスターは全て高くてもC-ランクというありさまだ。ブルークラブに至ってはランクE。キメラは取り込んだモンスターの数で強くなるというのも事実だが、取り込んだ種類が弱いものばかりなので大丈夫そうだ。
「あんたの準備も終わったみたいだし、勇者を殺す前に準備運動といくか? お前らもつっ立ってるだけじゃなくて俺の援護に回れっての」
「そうは言われてもな。下手に動けば俺たちはあの男にやられていたよ」
「何者か知らないけど、かなりの使い手だ。それに、援護と言っても俺は動けないだろうが。お前ごと巻き込んでもいいなら別だが」
「お前の魔法はえぐいからいやだ。俺は耐性ないんだよ」
「じゃあ文句を言うな。ここからはさらにあの男も動いてくるはずだ。出し惜しみはなしでいくぞ。多少巻き込むのもやむを得ないと思えよ」
メイを降ろしたことでさらに警戒されてしまったか。相手が私のことを知らないというのは好都合だが。
「さっそくいくぞ『やみまほう』」
ローブの男が黒い球を飛ばしてくるが、横に跳んでそれをかわした。詠唱が独特で、尚且つ魔法名を口にしないのは厄介だが、当たらなければどうということもないだろう。
私も剣を振るって斬撃を飛ばして攻撃するがあっさりとかわされてしまった。様子見ではあるが、かわされるのは少し癪だな。
私はゆっくりと息を吸いこみ、ツンツン頭めがけて力強く踏み込んだ。
ツンツン頭も迎え撃つべく切り返しの構えのスキルを使って構えたが、見るからにスキルに頼り切っているみたいだな。
「ほへ?」
私は一閃でツンツン頭の体をその剣ごと切り裂いた。スキル頼りは別に悪いことではない。確実に発動できるし、威力もある程度保証される。しかし、それは相手がそのスキルの動きを知らなければの話だ。剣のスキルは私は当然ほとんど習得しているし、技術に昇華もしている。今の切り返しの構えは攻撃を剣で受け、剣の上を滑らして相手に切りかかるカウンター系のスキルだ。剣で受けさせなければそもそも発動を回避できるし、滑らせて攻撃をかわさせなければただの棒立ちに変わる。
しかし、思ったよりもあっけなかった。剣技の中で中くらいの威力である一閃で体も真っ二つにすることができたしな。
「はー、あぶな。普通に切られたんだけど」
その声のした方に視線を向けると、そこにはツンツン頭が立っていた。確かに切り裂いたはず……。
そう思って真っ二つになったツンツン頭の死体を見ていると、それがゆらゆらと波打つように揺れ、そのまま薄くなっていき、完全に消え去った。実体を持った幻覚というやつか。
「『やみまほう』」
油断していると思ったのか、ローブの男が魔法を放ってくる。私は後ろに跳んで距離をとってかわした。
その時、私たちの頭上を巨大な影が覆った。
「これはどういう状況だ、ラムダ? メイは無事なのか?」
巨大な影の正体は、火龍様だった。
どうもコクトーです
最近3日で上げられていない…
これからテストやレポートで忙しくなるのに…
次回はまたメイ以外の視点の予定です。
ではまた次回