僕は真の勇者だ! その9
今回は天上院古里視点です
僕、天上院古里は今、バラーガと一緒に酒場に来ていた。といっても、バラーガと違って僕は未成年だから、ご飯を食べるだけでお酒は飲まない。一応この世界では成人扱いされる年齢なのだけど、やっぱお酒は二十歳からだよね。
「それにしても今回の試験は災難だったな」
「ああ。まさか相手が『白き御旗』のメンバーだとは……。またタイミング見計らって受けるかな」
ご飯を食べ始めてすぐに、そんな会話が聞こえてきた。試験、僕も試験官をやっているランク試験のことだ。話している人たちは試験の予選とも言えるもので落ちたのだろう。
「強いと言えばさ、お前前回の武闘大会は見たか?」
「見た見た。うまいこと依頼の日程をあわせてな。見に行ってきたよ」
「あの優勝した男すごかったよな。なんてったっけ? その……」
「シャドウだよ」
シャドウ……その名前を聞くとは思わなかった。
シャドウという名前はメイという冒険者が使っている偽名なのだが、そのメイというのも実は偽名だということを僕は知っている。その本名は刈谷鳴。僕と同じように地球からこの異世界『バルム』に召喚された男だ。
刈谷鳴は、召喚当初何も『力』を持っていなかった。雑魚で足手まといなくせに僕の真那さんに付きまとい、あげく馬鹿な真似をして真那さんが王都から出て行ってしまうきっかけを作った男であり、どんなチートを使ったのかわからないけれど、この8か月で異常なまでの強さを手に入れていた。
「そうだそうだ。鬼人族のシャドウだ」
「え、鬼人族? 獣人族じゃなかったか?」
「お前ほんとに決勝見てたか? ファングさんとの戦いで外れたフードの下が見えた時に鬼人族特有の角が見えただろ?」
「あれ? でも、ファングさんがカウンターを使う前に獣人族かって言ってなかったか?」
「そういえばそんなことも言ってた気がするな」
僕は自分の試合の準備をしていて試合をあまり見ていなかったから知らなかったけど、そんなことがあったのか。あれ? でも、刈谷鳴はこの世界の人間じゃなくて召喚された人間のはずだし、獣人族や鬼人族ってことはないんじゃないかな? でも、実際に鬼人族の角が生えていたらしいし……。
「ねえバラーガ、一つ聞きたいことがあるんだけど」
「どうした? もうそろそろ飲み終わるから長引きそうな話なら宿に戻ってからにしてほしいが」
「そうだね。少し気になることがあったから聞きたかったんだけど、宿でいいや」
僕達はその後10分ほどで酒場を出た。
「ふむ、まったく違う種族になる種族か。いないというわけではないな」
「そうなの?」
「混合種と呼ばれる種族のモンスターや魔族ならばまったく違う種族に変身できる。他にも、他の国では体を動物やモンスターのものに変えて戦う一族もいるというしな」
「そっか……それは種族特有のものなんだよね?」
「そうだな。少なくとも、種族を変える魔法は知らない。しかし、どうして急にそんなことを聞いてきたんだ?」
「酒場で話していた冒険者の話が気になったんだ。シャドウ、刈谷鳴は僕と同じように地球から召喚された人間なのに、鬼人族や獣人族の姿になったりしていたみたいでね」
「ふむ、これまで『召喚の儀』で召喚された人間の中に姿形を変えるような人物はいなかったはずだ。もしかしたらあの男の『力』が種族変更なのかもしれないが、私には『力』のことはよくわからないからな。古里も自分の『力』についてしっかりと理解できているわけではないだろう?」
「そうだね。『?み?ちの勇者』として2文字目と4文字目が覚醒したときに『力』について2つは知ることができたけど、もう1つが何なのかわからないからね」
僕はこの世界に来た時に『????の勇者』という職業についていた。これは『鑑定』が使えるとわかって真っ先に調べてみて発覚した職業で、それ以上は何もわからなかった職業でもあった。なかなかレベルは上がらないし、後からなった剣士が今49レベルであるのに対して『?み?ちの勇者』は7レベル。ボスを倒したり、変異種や希少種を倒したときに上がりやすい傾向にあるらしいけど、ボスや変異種なんかそうそう戦えるような相手じゃない。そう考えると上がりにくいのも納得できなくもない。
僕の『力』でわかっているものは『全能力以上上昇』と『剣術の匠』。もう一つはおそらく光魔法関連の『力』だとは思うけど、はっきりとはわからない。
「しかし、やつの『力』だとするとどんな状況で自分の『力』を知ったのだろうな? まさか谷底に教えてくれる人でもいたわけでもあるまい」
「教えてくれる……人?」
「どうした? まさか心当たりがあるのか?」
僕は必死に思考をめぐらす。何かひっかかっていることが……。
「そうか! 悪魔だ!」
「悪魔? そういえば、たしか古里が召喚された日の報告にあった気がするな」
「そう、それだ! 僕は悪魔なんかの言葉に耳を貸さないでさっさと殺してしまったけど、きっとあいつのもとにも悪魔が向かっていたんだ」
「それはつまり、あの男は谷底で死にかけているときにやってきた悪魔の囁きに乗って、自分の『力』を知ると同時に悪魔から力を与えられたということか? さすがにそれは……」
「でも、谷底に落ちて助かる見込みはほぼ0なんでしょ? だけど、悪魔が関わっているならそれも可能性が出てくると思わない?」
「しかし、やはりあまりに無茶苦茶な理屈だと思うぞ。まあ可能性の1つとして考えておいてもいいかもしれないが」
「いや、間違いないよ。僕の勇者としても勘がそう言っているから」
僕は強い確信をもって自分の部屋に戻った。明日からはバラーガとは別行動だから話し合いはできないけど、なんとか確かめる機会があればいいな。
そして次の日、僕はサラとルーミ・アーカイブさんと一緒に試験官を務めるパーティが受ける護衛依頼の待ち合わせ場所に向かった。
どうもコクトーです
前回に続き別の人視点です。
次も天上院君です。
ではまた次回