邪龍襲来別視点です
今回はメイ視点ではありません。
前半はラムダ、後半は火龍です。
ご注意ください
いったい、いつ以来だろうか。
モンスターと人間の戦いを見るのは。
私は生まれつき身体が強く、戦闘面での才能もあった。
魔法、体術、剣術、色々な才能を発揮したが、その中でも私が最も才能を発揮できたのが剣術だった。
それだけではなく、私は環境にも恵まれていた。
特定の技術において、私よりも明らかな才能を発揮したものが周りにいたのだ。
その昔、勇者にその剣の腕前を認められ、剣聖と名乗ることを許可され、勇者から故郷にいた過去の偉人の姓だという、カミイズミという家名をいただいた貴族の御隠居。その方についてきた、千闘流という流派の道場の元師範代。ご隠居の護衛としてついてきた凄腕の魔法使い。
そんな濃い面々に鍛えられてきた私はあっという間に冒険者としてランクを上げていった。
ランクを上げていく途中で、シャーナルフィアと広兼という素晴らしい仲間に出会い、パーティとして活動範囲を広げ、気が付けばS-ランクにまで到達していた。世間一般における化け物のレベルに足を突っ込んでいたのだ。
しかし、私は正直Sランクにはならない。いや、なれない。
Sランクは私が言うのも何だが、化け物なのだ。もちろんいい意味で。一歩手前と考えられてるAランクが束になってもかなわないような相手を単独で討伐したり、1人で数万にも及ぶ敵を相手どったり、人知を超えた存在だ。私は、いわば才能と努力で補いながらここまでやってきただけだ。どれだけ頑張ってもここから先に進むことはできない。力が足りないのだ。
そして今、私の目の前でその化け物が正真正銘の化け物と戦っていた。
私は邪龍たちの死体の周囲のさらに外側、少なくとも1kmは離れた高台から遠見の魔道具を使って見ているのだが、正直私はあの戦いについていける気がしない。
メイの戦闘は長短距離の転移を使い分けながらの高速戦闘が基本のようだ。空中も地面も関係なく飛び回り、膨大な魔力で大量の魔法を放って牽制しながら、隙を見つけて切りつける。人のはずなのだが、いきなり狼獣人のような姿に変化したのには驚いたが、スピードを上げるための魔法なのだろう。私自身は初めて見たが、広兼の生まれ故郷には体を蛇に変えて戦う種族もいるというし、メイも同じような種族なのだろう。
しかし、相手の邪龍が一枚上手だったようだ。途中1発攻撃をもらい、そこから連続で攻撃をくらってしまっていた。さらに至近距離から邪龍のブレスを浴びた。あれは……もう助からないか。いや、転移しているみたいだ。しかし、かなりダメージを受けている様子。失敗したと町に伝えに行くできか?
そう考えていた時、邪龍の頭が爆発した。なるほど、ブレスを受ける直前で攻撃を仕掛けていたのか。なかなか思い切った判断をするな。町に倒したことを報告する前に回収しよう。あの様子では自力で戻ることはできそうもな……なんだあれは? さっきまで邪龍がいた場所とは違う場所にいきなり邪龍が復活した。どうなっているんだ?
復活した邪龍にメイは再び攻めていった。しかも途中で剣をしまった状態で。何を考えているんだ!?
しかし、それは杞憂だったようだ。
邪龍の腕が止まったと思ったら、その腕が弾き飛ばされ、その時に一瞬だけ見えたメイの姿が鬼人族のそれになっていた。今度はパワーを上げる変化魔法か。しかし、あの小さな体であれだけの巨大なモンスターの攻撃を受け止められるだけのパワーアップをさせる魔法となると、反動も相当きついのだろうな。
勢いのついた腕の振り下ろしや本気の噛みつきを片手で止めるほどのパワーアップだ。本来、強化魔法というのは若干の能力向上にすぎない。それは体が極端な強化には耐えられないといおう理由もある。一部の研究者によると、生物は無意識にリミッターがかかっているから100%の力を発揮することができないという。100%の力を使えば、体が耐え切れず、ぼろぼろになってしまうらしい。
私はこの理論を聞いて以来、強化魔法とはこのリミッターを解除しているのではないかと考えている。だからこそ、体が壊れない程度のパワーアップしかしないのだと。しかし、メイのあのパワーアップは、とてもではないがそんなレベルのパワーアップではない。下手すると100%のリミッターを外し、それでも耐えられるように体を変化させているのかもしれないな。
メイは再び邪龍の頭を吹き飛ばした。また復活する可能性もあるし、近づいて少し様子を見よう。
私はひょいっと高台から跳び下り、メイの下へと警戒しながら歩き出した。その際、見間違いかと思ったが、私の視界の端に、本来この場にいるはずのない、天上院古里が町にいた冒険者3人を引き連れ、彼のもとに向かっているのが映った。
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「水龍様、火龍様! よくご無事で」
私が死龍王ゾンビ・ダムドレアスがいた場所から離れて町まで戻ってくると、門のところで、水龍の部下であるセバスが仕切りながら冒険者たちがあわただしく動き回っていた。塹壕を掘る者、対空用に魔道具の準備をする者、町の冒険者ギルドのトップも出てきている。
水龍は拠点を築いている前線で降り、指示を出すようだ。一方で私は奥のセバスがいる位置まで飛び、背中の3人をおろして、駆けてきたセバスに状況を尋ねた。
「セバス、風龍と土龍は?」
「土龍様から今のうちに結界に魔力を注いでおくと連絡を受けております。風龍様からは何も受けておりませんが、おそらく風龍様も同様かと」
「すぐに連絡を取れ。町の防衛は中止だ。この町を捨てる」
「どういうことでしょう?」
「邪龍の長が敵の手に落ちた。進化を果たし、尚且つゾンビ化した。あれに勝つことはできん。Sランクを集めて勝てるかどうかというレベルだ。今メイがひとりで足止めをしている。様子を見るにラムダは様子見に行ったのだろう。あいつらが戻り次第ここを捨てる」
「しかし、現在援軍として数人の冒険者がすでに町にやってきています。それでも不可能でしょうか?」
「誰が来たとしてもかわらんだろう。Sランクでも来たか?」
「はい。『白き御旗』のルーミ・アーカイブ様がいらっしゃいました。そして勇者パーティの天上院古里様、サラ・ファルシマー様がいらしております」
「なんだと?」
「アーカイブ様は光魔法のスペシャリスト。サラ様も光魔法と時空魔法の高度な使い手だと聞いております。勇者様も強力な光魔法を使うと聞いておりますし、相手がゾンビであればなんとかなるかと」
セバスの言葉を聞いて私は思考を加速させる。
たしかに、ゾンビを含めてアンデッド系のモンスターは光魔法に対して極端に弱くなる。ルーミ・アーカイブはルーミア教の司祭の中でも歴代でトップとまではいかないが、上位に位置するほどの光魔法の使い手。以前この町にいた司教が話していたが、彼女はいずれルーミア教の中でも一部にしか伝わっていないという物語、『最も神に近づいた女教皇』の女教皇に匹敵するほどの力になるだろうと言われているらしい。さらに、サラ・ファルシマーは元王国国王直属魔法使いと聞いている。天上院古里に関してはそれほど話は聞いていないが、通常の光魔法より圧倒的に強力な光魔法を使うという。それならば可能性は……。
「3人は今どこにいる?」
「アーカイブ様とサラ様は門のところで、ギルドの者とともに冒険者に指示を出しております。勇者様は……」
「勇者は?」
「偵察に行くと近くにいた冒険者を3人ほど連れて出ていきました」
「なぜ止めなかった! 私と水龍が戻るまで待てばよかっただろうが」
「それが、お恥ずかしいことですが、私がそれを聞いたのはすでに出た後だったのです。仕置きは後で受けます」
「くそ、全員避難できるように指示を徹底しろ。水龍とアーカイブとファルシマーで門の守りを固める。お前は風龍と土龍にもそのことを伝えて指示を仰げ。まだ移動は始めなくていい。偵察に出てしまった勇者が戻ったら状況を聞け。私は一度戻って様子を確認してくる」
「はっ!」
セバスはすぐに動き出した。
本当は私も残って守りを固めたほうが良いのだろうが、先走って出ていった勇者を回収せねばならん。ダムドレアスの例があるように、魔王の活動が活発になってきている中、勇者を失うわけにはいかない。実力的には勇者よりもラムダやアーカイブの方がよっぽど上だろう。しかし、勇者という旗印があるだけで民の不安は和らぐ。もし勇者が死んだなんてことになれば、今回の魔王の動きと合わせて民の不安は相当高まるだろう。そうなればこの町にも影響が出る。それはごめんだ。
私は翼を広げてダムドレアスの下へ戻った。転移を使えるから大丈夫と言っていたが、逃げてきた様子はないし、おそらくなんとかしてダムドレアスを止めてくれているはずだ。あいつは育てればSランクにも届くだろう逸材だ。それを死なせはせん。
私の思いとは裏腹に雨足はどんどん強まっていく。なんとか耐えてくれ!
どうもコクトーです
今回はメイ視点ではないのでレベルはなしです。
次回も違う人の視点カモ。
ではまた次回