召喚されました
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「……………」
現在、『召喚の儀』が行われていた。
わが国『デルフィナ』だけでなく、この世界『バルム』では異常事態が起こっていた。
魔王の誕生だ。
これまで、『ダンジョン』と呼ばれる迷宮は世界のあちこちにあった。それでも、そこから魔物が出てくることはなかった。しかし、ある時から急にそこからはこれまでほとんどみなかった魔物が姿を現した。それによりいくつかの村が滅んでしまった。防衛の施設のなかった村。施設はあっても人員の足りなかった村。他にも多くの村が滅んだ。
そんな状態を打開するべく、人々は古い文献を片っ端からあさった。過去に魔王が現れた時にどうやって倒したのか。それを調べるために人員を総動員した。そしてそれは見つかった。
『そのもの、異なる世界より舞い降りて彼の世界を救いたり』
そしてその文献ではデルフィナの一角にある祭壇で過去に『召喚の儀』が行われたことも書いてあった。実際には召喚の儀は、魔王が現れて以来何度も行われたがそのことを記したものはなかった。そこですぐに必要なものを集め始めた。それには1か月の月日がかかり、ついに集めることができた。
そして今日、召喚の儀が行われた。この場にいる人物は全部で10名。王族などの国の中心にいるような人物たちと騎士だ。
10人のうちの1人で、巫女として選ばれたのはこの祭壇に仕える少女アリス。非常に優秀な巫女として好まれてきた少女だ。
そして召喚の儀が始まってしばらくたつと、ついに魔法陣が光り始めた。
「おぉ! これで勇者が!」
「世界は救われるのか!」
「神様ありがとう!」
周りで見ていた者は大いに沸き上がる。
そしてそこに現れたのは二人の男女だった。
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光が収まって視界がクリアになってきた。そこに映っていたのは……
「ここどこだ? 真那、大丈夫か?」
「んーなんもないっぽい。それより鳴は?」
「俺の方も問題ない。つかここはどこなんだ? たしか部屋にコントローラー取りに行ったと思ったんだが……」
何度見回してみても目に映るのは見たこともない景色と俺たちを囲み騒いでいる人間たち。それから地面には魔法陣っぽいのが描いてある。ゲームとかでしか見たことなかったんだがこれ本物か?
「おぉ勇者様方。よくぞいらっしゃいました」
どんな状況かわからず、周りを見渡していると、俺たちの方になんか初老っぽいおっさんが近づいてきた。勇者? なにを言っているのだろうか、このおっさんは。
「勇者ってなんだ? それよりここはどこなんだ? どうして俺と真那はここにいるんだ?」
「それには私がお答えします」
おっさんに代わってなんかよさそうな鎧を着込んだ騎士みたいな人が来た。
身長はおよそ185cmくらいで体格のいい男。俺自身は170くらいで体格がいいとはお世辞にも言えないから、比べてみるとよけい体格がよく見える。剣や鎧なんか見たこともないけれど、見る限りでは鎧や腰にさげている剣もいいものだと考えるべきだろう。奥にも騎士はもう2人いるが1人は目の前の人のよりは劣っていそうな鎧で、もう一人はなんでここにいるのかわからないくらいそわそわしてる。
「今私たちの世界は危機に瀕しています。どうかお助けください」
「突然んなこといわれても俺たちはいたって普通の高校生だぞ? それがいきなり勇者だとか世界の危機だとか言われても意味わかんねえよ」
「あなた方は我が国に伝わる『召喚の儀』によってここに召喚されました。それこそが勇者の証とも言えるのです」
「だから話聞けよ。俺達には特別ななにかとかまったくないんだっつの。俺はともかく真那まで巻き込むんじゃねえ」
「鳴、あんただけでやらせるわけがないでしょ? 私としてはあんたと一緒でよかったんだから」
「あの……お二方はおそらくここに召喚された際になにか力を受け取っています。過去の例をみると剣術に目覚めたり、魔法の技術を身につけていたりといった方もいらっしゃいました。そこでお二方にも魔法を使っていただきたいと思いますがよろしいでしょうか?」
「いやよろしくねえよ。さっさと帰してくれ。なんでわざわざ見ず知らずのあんたたちのために危険なことしなきゃいけないんだ?」
「ですからあなた方は世界を救う勇者として」
「それがそもそもおかしいだろうが。あんたらがしてるのは現状ただの一般人拉致して、ろくな説明もせずに力があるとかいってるだけだかんな」
「……」
俺の責める言葉におっさんは黙り込む。まさかこいつ、頼めばなんでもやってくれるとでも思ってんのか? 甘すぎだろ。俺はふつふつと苛立ちがつのってくる。
「まあまあ鳴、とりあえずやるだけやってみない? 魔法とか面白そうじゃん。別に世界が云々とかに関わる気はないけどね」
「……私どもにはあなた方を帰す方法がわかりません」
真那が俺をなだめようと言葉をかけてくれる中、おっさんが衝撃的な発言をした。
「おい……わからねえとはどんな冗談だ?」
おっさんの胸ぐらをつかんで言い寄る。自分で見えないからなんとも言えないがおそらく今の俺はすごい顔をしてるに違いない。
「も、申し訳ありませんが、呼び出す方法は記されていたのですが……」
「ふざけてんじゃねぇよ!!」
「過去にこの世界にやってきた勇者たちは皆魔王を倒した後にこの世界にとどまり、この世界で亡くなられたのです。そのため帰る方法は……」
「チッ。……魔法とやらはどうすればいい」
「おお! 助けてくださいますか!」
「勘違いすんな。俺たちは魔王討伐なんかにはいかない。ある程度の力を手に入れられたらその場でどっかに引っ越して二人でのんびり暮らす。帰すことができないなら呼ぶなよ」
「ではさっそくやりましょう。ヤーハ、来なさい」
こっちの話聞いてねえんじゃねえのかと思うようなスルーっぷりを披露したおっさんは、奥に控えていた一人の青年を呼んだ。杖を持ち、ローブを羽織った、見た目は好青年って感じだ。
「はじめまして。私はヤーハともうします。それでは私が魔法を一度使いますので見ておいてください」
ヤーハは少し離れた位置に設置された的を見据えて、それから杖を構えた。
「『炎がその身を焼き付くさん』フレア」
呪文を唱えると、杖の先に生じた火の玉が的に向かって飛んでいき、見事的に命中して的は燃え尽きた。
「今のは炎系統の初期魔法フレアです。ではやってみてください」
俺たちに杖を渡しながら微笑みかけるヤーハ。俺たちは杖を受け取ってその先を的へ向ける。
「「『炎がその身を焼き付くさん』フレア」」
先程のヤーハの放ったものとは比べ物にならないくらいの炎が飛び出る。……真那の杖だけから。
その炎は的を突き破り、そのまま奥の壁まで飛んでいき、壁をこがして消えた。皆そちらをみて唖然としている。ちなみに俺の方は一ミリたりとて炎は出ていない。まじか……。
「ま、真那様は魔法の才能を開花させたようで。私はこれほどの威力の魔法を私はみたことがありません。鳴様も落ち込まないでください。過去の例にも魔法の使えない勇者はいらっしゃいました。ですのでここで騎士団のメンバーと模擬戦でもしてみましょう」
そういって木剣を渡してくるさっきの鎧姿のおっさん。騎士団とか言っていたしやっぱ騎士なのか。
「おいランジ、相手をしろ」
「はい! よろしくお願いしまっす!」
元気のいい若い騎士が出てきた。奥でそわそわしてた騎士の人だ。向こうも同じように木剣を構えており、いつでも始められるようだ。
「そうだ。木剣といえど怪我をする可能性はあります。真那様は魔法の才があるようなので回復魔法を教えられてはどうですか?」
「それはいいアイデアですな。真那様が無事回復魔法をつかえるようでしたら、怪我をした兵士の治療を行ってもらいましょう。こちらへ」
真那はさきほどの魔法使いの人のところへ行く。俺はそれを見送ってから渡された木剣を構えてみる。剣術に目覚めた勇者とやらもいるみたいだが、俺は特に変わった感じはしない。
「でははじめます! はぁあ!!」
ランジが上段に構え向かってくる。俺はそれを左にステップしてかわし、それから逆に上段から切りつける。しかし、あっけなく弾かれて胴に木剣が叩き込まれる。それをまともにくらい、俺は宙を舞った。
ドサッ。
受け身も取れず、地面に背中から落ちて体中に痛みが走る。手加減してくれていたのかわからないけど、痛みの割にはそんなに大きなけがはなさそうだ。
「大丈夫、鳴? 『慈愛の光がその身を癒す』ヒール」
真那が教えてもらったばかりの回復魔法をかけてくれた。それによって痛みが完全に引く。すごいな、さすが魔法といったところか。
「大丈夫ですか鳴様。本日はこちらで宿を用意しますのでお休みください。明日また迎えにあがります」
真那の魔法を見て、俺に怪我がないことを確認した騎士のおっさんは、それだけ言うと近くの若い騎士に案内を任せて、自分は一足先に出口に向かっていった。
「ではこちらにどうぞ」
「鳴、いこ?」
案内の騎士と真那から催促されて宿屋へと向かう。このときはまだ、俺は自分の『力』を理解していなかった。
「国王、此度の勇者なのですが」
「わかっておる。女のほうはすばらしい逸材だ。初めての下級魔法でさえあの威力。上級ともなればその力ははかりしれん。なんとしてでも確保しろ」
「はっ。しかし……男のほうは……」
「……はずれだな。魔法も使えない。剣術もまともにできない。打たれ強さもない。国もそんな男にかけていられるような状態じゃあない。もう一度『召喚の儀』を行え。必要なものはあと一回分はあるだろう」
「かしこまりました。既に準備は済ませてあります。すぐにでも新たな勇者を呼べるでしょう」
「あとあの男は殺しておけ。邪魔だ」
「は!」
そんな会話がなされていた。
どうもコクトーです
まだもう1話投稿します
ではまた次回