怒涛のティラノスのボス戦
今回はメイ視点ではありません。
とあるパーティのリーダー視点です。
「どりゃぁあああ! ギガハンマーァアア!」
スキルによる強化で淡く光り、一回り大きくなったハンマーをウッドルートの魔法と光重結界で動きの止まった真ドン・グロウモンキーの腹に叩き込む。まともに入ったこともあり、今のは結構なダメージがあっただろう。
今、俺たちのパーティ『怒涛のティラノス』は、グリムの町の周囲4つのダンジョンの中で、いまだ攻略されていない唯一のダンジョンである『貴の山』の50層のボス、真ドン・グロウモンキーと戦っていた。
『怒涛のティラノス』は、このグリムの町では事実上のトップパーティだ。
もともとは『ティラノス』という名前で王都で活動していたが、パーティランクがBになった時にこの町に来た。それと同時に二つ名として『怒涛の』という名前がパーティについたのだ。実際、二つ名がつくというのはそれだけ有名である証だからな。そのままでいい。
現在のパーティランクはA-。メンバーのそれぞれのランクを見ても、ドワーフの重盾兵のドムと、虎獣人の両手剣使いのラクラがBー、人族の神官のキリスと魔法使いのモモンがB、エルフの弓使いのネロロがB+、鳥人種の罠師のフロウと、このパーティのリーダーであり、エースでもある巨人族の俺、ダルエムがAだ。
すでに『生の草原』と『明の森』は攻略し終えていて、『善の洞穴』は45層の転移門を使えるようにしてある。ここを攻略して、少し間を空けて『善の洞穴』も攻略して完全攻略を成し遂げる予定だ。
真ドン・グロウモンキーは5mを超す大猿のモンスターだ。この『貴の山』の20層から49層までの広い範囲で出現するグロウモンキー系の最上位種のモンスターだ。グロウモンキーは群れで行動するモンスターで、階層が上がるほどそれは顕著になる。このボスも戦い始めた時には周囲にエルダーグロウモンキーやグロウモンキー、他にも、49層までで遭遇した各種グロウモンキーたちを従えていた。
初っ端に俺とモモンとネロロが放った範囲攻撃で下位種は全滅。他のもダメージの大小はあるが、無傷の者はいなかった。今考えてみれば、この時にたまたまボスの目に矢が刺さってくれたのが今俺たちが優勢を保っていられる最大の要因だったかもしれないな。
「キィヤアアアアア!」
真ドン・グロウモンキーの雄叫びが響く。体の芯から冷えそうになるがなんとか耐えた。これももう4度目だ。こいつの叫び声には、俺たちに恐怖を与える効果があるらしく、キリスの抵抗魔法などのおかげでかなり軽減できているが、一度フロウが抵抗に失敗して、足を止めてしまっていたし、なかなか恐ろしい攻撃だ。
「『癒しの雨が我らに降りかかる邪悪を振り払う』イービルヒール!」
すぐにキリスのイービルヒールが俺たち全員にかかり、雄叫びの効果を打ち消す。キリスには、雄叫びと同時に詠唱を始めさせていたのだ。キリス自身は非常に状態異常への耐性が高い魔道具を装備しているし、本人も魔法で強化しているので戦闘中一度も恐怖に陥った様子はない。ほんと頼りになるぜ。
雄叫びへの対処はキリスに任せて、俺たちは攻勢に出る。
ネロロとフロウが弓で牽制し、攻撃はドムか俺が受けてキリスが癒す。それに合わせて3人の高火力で攻める。それが俺たちの戦法だ。
激しく動き回る真ドン・グロウモンキーののどにネロロの分裂弾の1発が突き刺さった。慌てた真ドン・グロウモンキーは矢を抜こうとして足を止めた。しかし、しっかりと刺さっているようで、なかなか抜けない。このチャンスを逃すわけにはいかない。
「てめぇら、気合入れろよ! ここで仕留めきるぞ!」
「防御はオイに任せておけい! 挑発、仁王立ち、鉄壁、弾き」
ドムが防御に徹して真ドン・グロウモンキーの注意を引き付けた。身に着けた鎧は完全に壊れているが、自慢の重盾をどっしりと構えてその目は覚悟に満ちている。本当に耐えられるのか? ……いや、ドムなら耐えてくれる!
俺たちの動きに気づいた真ドン・グロウモンキーが構えたドムに拳を叩きつける。ドムがそれを受け止め、上にはじく。あとは任せたとでも言うようにこちらをみてにやりと笑みを浮かべた。今度酒おごらせろ!
「逃げられないようにしちゃいましょうねー『聖なる光よ、邪悪なる彼の身に罪の重みを与えたまえ』光重結界」
「右腕はもらおう、断ち切り」
「じゃあ私は左足ね。二狩三狩」
「せっかく刺さった矢なのに抜こうとするとかなんなん? 腕持っていったるん。属性矢・風」
「みんな近づきすぎ。大きいの撃ちにくいじゃん。まあいいや。ダル、トドメはお願いね。『大いなる大地よ、その強大なる力を私に貸して!』ウッドルート・巨木!」
ドムの作った隙を逃さず全員が攻める。ラクラの剣が右腕を、フロウの短剣が左足を切り落とし、ネロロの弓矢が左腕を打ち抜き、モモンとキリスの魔法で真ドン・グロウモンキーを押さえつけた。ほんとにこいつら最高じゃねえか。
「いくぜ。我竜昇華ァアアア!」
我竜昇華は、俺がまだ生まれた故郷にいたころ、近くの山に住む成龍に教えてもらったスキルだ。一時的に自分の体の一部を竜に昇華させる効果があり、すべての能力が跳ね上がる。俺の力不足からか、未だに龍になるまでには至っていない。要努力だな。
俺はハンマーをしっかりと握りなおす。竜の力でも壊れない、プラチナ製の特注品だ。俺の高い攻撃力をフルに生かせる愛用の一品。
片足がなく、ぼろぼろで、さらに二人の魔法で拘束されているこいつによけることはできないだろう。いや、当てる!
「くらえ、竜の……一撃!」
俺の全力の一撃が真ドン・グロウモンキーに直撃した。ブチブチと根が耐えられずにちぎれそうになる音が聞こえるが、これで決める思いでハンマーを振りぬいた。
真ドン・グロウモンキーの上半身だけが根から解放されて飛んでいく。
残った下半身がふっと消えてその場に1本の杖が残される。先端に大きな魔石のついた杖だ。
「……勝った……勝ったぞ、勝ったぞぉおおおおおお!」
俺の雄叫びに合わせるようにみんなが叫びながらこっちに走ってくる。誰一人として無傷の者はいない。ドムに至っては苦労して手に入れた鎧が完全に壊れているし、キリスも普段使っている兜はなくなっている。
みんなで抱き合って勝利した喜びを確かめあった後、ドロップ品である杖をモモンのアイテムボックスに入れてコアルームへ進んだ。回復するのを待ってからにするか悩んだが、魔法と回復薬で最低限だけ回復させて先に進むことにしたのだ。この先にモンスターはいないだろうし、警戒もそんなに必要ない。それならさっさとギルドにコアを提出して、ぐっすり宿で休みたいという意見で一致したのだ。酒はまた明日。朝から晩までギルドのやつらみんな巻き込んで飲み明かしてやる。
そしてコアを回収した途端、俺たちはダンジョンから転移で外に追い出された。
どうもコクトーです
今回は『貴の山』のボスを攻略したパーティの話でした。
時間的には、前回の話から数時間ほどさかのぼった感じです。
次は前回の話の続きになります。
ではまた次回