僕は真の勇者だ! その7
新年1話目です!
今年もよろしくお願いします。
古里君の話です
キャラビーと別れることになってしまったオークションが終わり、僕たちがリアの町に移動して、宿で休んでいるところに、突然その女性はやってきた。
「あたしは王都から来たアイリーン・ミルシャだ。王の命で罠師としてあんたたちのパーティに入ることになった。気軽にアイリと呼んでほしいね」
「アイリーン?」
僕はついそう聞き返した。いや、だっていきなり現れてそんなことを言われてもね。
「アイリと呼んでほしいと言ったんだけどね。まあいいかな」
「王から連絡は来ていたがお前が来たのか……」
「あたしじゃ不満かい、バラーガ?」
「バラーガ、知り合いなの?」
「王都にいた時に少しな」
バラーガの知り合いというその女性は、細身な体つきをしているが、不釣り合いな胸をしており、割と肌に張り付くような服を着ているせいでさらに強調されている。もしかするとサラよりも大きいかもしれない。
「勇者様よ、そんなに胸ばかり見るんじゃねえよ。照れるじゃんか」
「ご、ごめん! そんなつもりじゃ」
視線に気づかれてしまっていたらしい。そんなにじろじろと見ていたかな?
その後、お互いに自己紹介をして、ここに来たときにすぐ合流できるとは思っていなかったらしく、すでにとっていた宿があったアイリさんは一旦そちらに戻った。
残された僕たちは、ダンジョンに行く予定だったが、それを取りやめ、緊急会議を始めた。
「どうする?」
「どうすると言われましても、私は別に反対ではありませんわ」
「あたいもだな。罠師の不在はあたいらにとって大きな問題だ。罠を見つけられる奴はこの中にはいないからな」
「私も反対はありません。古里さんは反対なのですか?」
「いや、僕も罠師がいないことは問題だと思ってるよ。……ただ、キャラビーのことはどうするのさ?」
「古里殿、どうするのと言ってもだな、今の我々に何ができるというのだ? もちろんあいつのことをあきらめるつもりはない。だが、あいつを買い取ったのはただの冒険者であるシャドウだ。貴族であれば交渉もしやすかったが、冒険者ならそうもいかない。いろいろと調べてみたが、シャドウという名前は偽名だということしかわからなかった。大会以外に大きな記録もないし、どこからやってきたのかもわからない」
「シャドウはキーンの町にはすでにいないんでしょ?」
「ああ。少なくとも俺が調べた限りはもういなくなってるとのことだ。オークションの後すぐに俺の伝手で探してもらうように頼んだんだが、ダメだったみたいだ。少なくとも3日以内には町を出ていると思われる」
「そうなんだ……」
バラーガは広い伝手がある。その伝手で探せなかったのなら、見つけるのは厳しいだろう。でも僕はあきらめたくない。大事な仲間の1人だからね!
それから、しばらくみんなと話していて、アイリさんをパーティメンバーに入れるということで話は決まった。
そして次の日からさっそく近くのダンジョンに行くことにした。
「ストップ! 罠だよ」
アイリの声がダンジョン『タートリア』の洞窟に響く。その声で僕たちは足を止めた。
僕たちがこの『タートリア』の1層に入ってから2時間くらい経つが、その間にアイリの戦い方はだいたい把握できた。
アイリの武器は肩にかけている4本のロープと、直径1mほどの巨大なハンマーだ。基本はハンマーで相手の防御の上から叩き潰すのだが、アイリはそれを片手で行う。左手で器用にロープ4本を駆使して相手を捕まえ、右手に持つハンマーを振りぬくのだ。
その戦い方だけを考えると、大雑把に見えるかもしれないが、実はとても細かいところまで見ている。罠師ということを考えれば当たり前と感じるかもしれないが、洞察力が僕達とは全然違う。
今も、僕たちの目ではただの通路にしか見えないところに罠を発見したようだ。
「……落とし穴だね。勇者様の5m先からだいたい半径2mってところかな」
「なら飛び越えれば問題ないね。行こう」
「ちょっと!」
僕は高い身体能力を活かして落とし穴を飛び越える。アイリは僕が飛び越えられないと思ったのかな? 4mくらいなら余裕だよ!
僕は落とし穴を飛び越えるとアイリの方を向いた。
「4mくらいなら問題なく飛び越えられるよ? そんなに心配しなくても」
アイリは僕めがけて肩にかけたロープを飛ばしてくる。なんで!?
ロープが僕の腕に巻き付くと、すごい力で前に引っ張られた。そのままアイリの横を通り過ぎて地面を滑る。
「アイリ、いったいどうして」
「どうしてじゃないよ! あんた死にたいのかい!?」
すごい形相で叫ぶアイリに、僕は何のことかわからず唖然とする。
「なんで罠があるって言ってるのにそのまま先に行こうとするのさ!」
「落とし穴があるなら、それを飛び越えればいいし」
「なんでそんな発想になるんだい? バラーガ、あんたがいながらなんでこんなことになってんのさ!」
「落とし穴があった時はこれまでこうやっていたのだが……」
「はぁ? 前の罠師の子は?」
「キャラビーが見つけてからじゃ間に合わなかったんだ。大きな声を出したりはできないやつだったからな。なら個人で対処するしかないだろう? これでも罠にかかったことは1度の冒険で1回あるかないかだしな」
それを聞いてアイリは地面にしゃがんで考え込んでしまった。
完全には聞こえないが、「ひょっとして気づかれないように」とか、「どんな技量なのよ」とか、ぶつぶつつぶやく声が聞こえてくる。
20秒くらいぶつぶつとつぶやいた後、アイリは立ち上がって言った。
「あんたらがダンジョン内のトラップについて知識が偏ってることはよーくわかった。いいかい、あんたらはこのまま先の層に進んだら間違いなく死ぬね」
僕はその言い方に少しいらつき、アイリをにらむ。
「さっきの罠に関して言えば、あれを飛び越えて油断していて死亡か、あれに気づかず死亡ってところだね」
「どういうことだ?」
「実際に見ればわかるよ」
アイリは自分のアイテムボックスから水晶玉を取り出した。
「こいつはあたしが愛用している魔道具で、魔力を込めると囮を創ることができる」
説明するアイリの前に2体の腰辺りまでの大きさのマネキンが生まれる。そして、1体がそのまま前に進み、落とし穴に落ちた。落とし穴の中は槍が密集しており、マネキンは槍に刺さって消えた。
「今のが見つけられなかったパターン。で、これが見つけて飛び越えたパターンだ」
もう1体のマネキンが穴を飛び越えた。無事に着地して、わーいわーいと万歳をしている。
そして、壁から急に飛び出てきた槍に串刺しになった。
「今のがあのままぼーっとこちらを見ていた場合の勇者様の末路だよ。ダンジョンは進めば進むほど罠が巧妙化してくる。今みたいな二重の罠なんか当たり前だし、場合によっては特定の罠が発動しなかったときのみ発動する罠なんてものもある。今のままだといずれ死ぬよ? 罠はその人の強さなんかまったく関係ないんだ。龍を単独で討つ実力者が序盤の層で罠にかかって死んだなんて前例もある。己を鍛えるのはもちろんとして、あんたらはもっと罠について知るべきだね」
「……」
「戦闘術じゃなくて生存術を学びなってことだ。王から伝えられた情報の中にはそれに関することもあってな。王都にある訓練所の所長を務めていた元ランクS、ユウカ・コトブキ殿が訓練所をやめ、冒険者として復帰するとのことだ。彼女は戦闘術だけではなく、生存術でSランクまで上り詰めたような人だ。彼女のもとに向かい、生存術を学ぶことを勧められていた。今の状況を見る限り確実にその方がいいね」
僕たちは、何も言えず、彼女の言葉を聞いていた。
そして次の日、僕たちは彼女がいるというグリムの町に向かって旅立った。
どうもコクトーです
古里君の話なので職業レベルはなしです
今年もできるだけ3日おきに投稿になります。
今年もよろしくお願いします
ではまた次回