お買い物です
リビングに戻ると、二人とも手入れが終わって、その片付けもすんでいたので、留守番にマナとアンナとみぃちゃんを残して町に向かった。
「メイ、マナはいいの? なんか一心不乱に本を読んでたけど」
「地下で見つけた本が思いの外難しい内容だったみたいでな。何度も読み込まないと理解できなさそうって言ってた。おつかいは頼まれてるからそれは買って帰るけどな」
「何を頼まれたの?」
「紙とインク。残りが少ないんだって」
「紙もインクも本屋にあるはずです」
「じゃあ途中で本屋を見かけたら買っておこう。二人は何がほしいんだ?」
「私は手入れ用の布と、小さいランプかな」
「私はご主人様方がいらっしゃれば充分です」
「そういうのはなし。ほしいものは?」
「ご主人様」
「ほしいものは?」
「ご主人様とお風呂にはい――」
「ほしいものは?」
「……料理用の包丁と砥石がほしいです」
「よろしい。包丁と砥石って鍛冶屋に行けばあるかな?」
「包丁は刃物を扱う店にもあると思います。砥石は鍛冶屋のものなら粗悪品を掴まされることはないと思います」
「じゃあ鍛冶屋で両方ないか見ていこう。なければ扱ってる店を聞いてそこに行こうか」
「まずは町中をぶらぶらデートだね」
「散歩だよな?」
「デートでしょ?」
「なんか噛み合ってない気がする……」
「気のせいですよ。あ、ご主人様、入り口が見えました」
話しているうちに町の近くまで来たようだ。何度もここを往復することを考えたら馬車がほしいな。馬の代わりにゼルセにでも引いてもらうか。
「身分証の提示を」
入り口でギルドカードを提示して中に入る。顔パスとかはだめなんだろうな……。まあこの手間がかかるということは家を購入したときにすでにわかっていたことだ。あきらめよう。
町の中は相変わらず人通りが多く、ちらほらと冒険者の姿も見えた。
「あれは……」
その中に非常に目立つ青いスカーフをしている集団がいた。あれが『青き空』の一団なのだろう。
「メイ、露骨に見過ぎ」
「おっとすまん。人から聞いて知識として知っているのと実際に見てみるのとでは違うからな。改めて見てみると結構わかりやすいな。あれなら前にも見たことある気がする」
どこの町だったかは全然思い出せないが、あんな感じのスカーフをしている冒険者は見たことがある。たしかジャングルで遠くに見えた冒険者だったかな?
その後、のんびりと街を探索しながら目的地の1つである本屋にやってきた。本屋と言っても、大きな店ではなく、周りの店と変わらない大きさの店だ。店の左右の壁にある棚に本が並んでおり、奥のカウンターに店主のおじいさんがいる。客は本を選んでいるローブ姿の男性1人だけで、紙とインクは奥の方の棚においてあった。売っててよかった。
「いらっしゃい。どんな本をお探しで?」
「本じゃなくて紙とインクがほしいんですが」
「紙とインクですね。予算はどの程度でしょう? それに合わせて量を調整しますよ」
「いまいち相場がわからないんですが、銀貨1枚だとどれくらいになりますか?」
「そうですね……紙が10枚インクが少量ってところですかね。インクの量は……こちらの入れ物の大きさで少量、普通、少し多め、多量、としています」
おじいさんがカウンターの下からインクの入れ物を取り出して言った。少量の入れ物はヒメの掌くらいの大きさだが、多量の入れ物は相当大きく、ヒメの全身くらいある。これは使い切れないと思うんだが……。
「多量は商業ギルドや冒険者ギルド、貴族の方など、書類仕事が多い方々が購入されます。一般の方は普通の量でも十分多く感じると思いますよ」
「そうですか。じゃあ銀貨20枚分でお願いします」
「インクが普通で、紙が500枚ですがよろしいですか?」
銀貨1枚で紙が10枚だったから200枚かと思ったのだがそんなことはなかった。どういう計算なんだろうか。
「はい。それでお願いします」
「かしこまりました。紙を束ねておく紐はサービスです」
「ありがとうございます」
紙とインクを受け取ると、アイテムボックスにしまって店を出た。次に見つかるのは鍛冶屋か雑貨屋かどちらかな。
次に見つかったのは雑貨屋だった。本屋よりも大きな店で、お客の数もそれなりにいた。
ヒツギとキャラビーが手入れ用の布を選んでいる間に俺も雑貨屋の中を見て回ることにした。女の買い物は長いというからな。布1枚買うのが長くなるかは知らないけど。
この店には布だけではなく、いろんな小物が売っている。木のコップや木のフォークなどが主だが、木の板や小さな釘、それから金槌もあり、日曜大工にはちょうどいい感じの店だ。
そんな風に見て回っていると、どうやら選び終わったようで、店員に銅貨を数枚渡して魔法の袋に布をしまっていた。納得いくものが見つかったならいいや。
そして俺たちは最後の目的地である鍛冶屋を探した。
1時間くらい探索したのだが、鍛冶屋はなかなか見つからなかった。武器屋や防具屋はちょくちょく見かけるのだが、鍛冶屋というのはなかなか見つからなかったのだ。
そこで、近くにあった屋台で4つパンを買う代わりに話を聞いた。銅貨2枚の出費だが別段痛くない。パンも普通においしいしね。
教えてもらった通りに進んでいくと、だんだんと人通りが少なくなってきた。よくよく考えてみれば鍛冶屋がそんなに人通りが多いところにあるわけないよな。あくまでも俺の思い込みだけど。
人通りが完全になくなったところを2,3分歩いていると、いかにも鍛冶屋といった感じの看板が見えてきた。2本のハンマーがクロスするような絵の描いてある看板だ。
俺たちは鍛冶屋の扉をくぐった。
鍛冶屋の中はカウンターがあるだけで他にはなにもなかった。想像していたのとは全然違う。なんと言うかこう、壁には剣とか盾とかハンマーとかが立て掛けてあって、カンカンとハンマーでたたく音が聞こえている感じ。そんなものは一切なかった。
「誰もいないのかな?」
「そんなことはないと思うのですが……」
「すいませーん。どなたかいませんかー?」
カウンターの奥に向かって呼びかけた。しかし、待っても返事は返ってこなかった。
「おかしいな……。すいませーん! どなたかいませんかー!」
「はいはーい。すまんのう。ちとばかし奥にこもっておってのう。わしはここの店主をしておるガンダという者だ。で、どうかしたか?」
二度目の呼びかけで奥からドスドスと音を立てながら背丈が低く、横にがっしりとした男性……ドワーフが姿を現した。
全身が茶色の毛でおおわれており、顔には堂々としたひげを携えている。聞いていた通りのドワーフだ。
「砥石と包丁がほしくて、ここで扱っていると聞いたのですが」
「包丁と砥石だな。たしか今在庫があったな。少し待っておってくれ」
ガンダさんはカウンターの奥に入っていった。
5分くらい待っていると、木の箱に丁寧に並べられた包丁と3種類の大きさの砥石を持ってきた。
「使うのはそこの奴隷の嬢ちゃんか?」
「ええ。料理に使いたいので」
「そうじゃな……手を見してくれるか?」
「は、はい」
キャラビーは恐る恐るといった感じで右手を開いてガンダさんに向けた。
「ふむ……大きさは……それに太さは……力は……ふむ、その分手先が……」
ガンダさんはキャラビーの手を見ながらしばらくぶつぶつとつぶやき、箱の中から2本の若干サイズの違う包丁を取り出した。
「このどちらかだな。ちょっと持ってみろ」
ガンダさんの差し出した包丁を両手で1本ずつ持った。その瞬間、キャラビーは驚いて声を出した。
「すごい! 手にぴったりです! ご主人様、すごい手になじみます!」
「そうだろうな。その手ならこの箱の中にあるやつではその2本以外じゃ若干ズレがでる。わしの眼はごまかせん」
俺は純粋に驚いた。だってガンダさんはキャラビーの手に触れてすらいないのだから。
ガンダさんは向けられたキャラビーの手をじっと見ていただけだ。上から、下から、右から、左から順にじっくりと見ていただけなのだ。それだけで箱の中に所狭しと入れられている包丁からキャラビーの手にぴったりとなじむものを選ぶなんてそうそうできることではない。
「砥石はそのサイズの包丁ならこっちの小さいのでも問題ないが……お前さんも手を見せてくれ」
「あ、はい」
俺は反射的に手を差し出した。キャラビーの時と違いがしっと手首をつかまれ、いろいろと触って調べ始めた。見るだけでいいんじゃなかったのか?
「女性相手にこんなまねはしない。わしも相手を見極めてやっている。お前さんはこれくらいやっても大丈夫だろう? ほんとなら女性だろうとこれくらい触って調べるのが一番いいんだ。じっくりと見ればだいたいのことはわかるが、完全に調べようと思うならこうしたほうがいい」
そうやって話している間もガンダさんは俺の手をじっと見ていた。ドワーフは力が強いから手首が痛いんだが……。
「よしわかった。お前さんは武器に関しちゃ素人だろ? 剣、槌、槍、なんでも使うと見た。スキルはあるが技はないといった感じか。手入れに関してもわからんだろ? 後でわしが昔師からいただいた手入れに関する書物の写しをいくつかか貸してやる。……本来なら口伝で教えてもらう予定だったんだけどな……俺が呪われた武器を見極めきれなくて師は声を封じられた。バカみたいな話だ。この眼を身に付けたのはそれから10年も経ってからだったよ。当時はなぜあの時にできなかったのかと苦しんだものだ」
「……」
「まーそういうわけで、適当なことは許さねえからお前さんにはここに通ってもらうからな。冒険者なんだから休みの日くらいあるだろ? そこは全部昼までには俺のところに来い。手入れの方法を徹底的に仕込んでやる」
「え!?」
「冒険者にとって武器は生命線だ。その手入れの方法を本職が道具代だけで教えてやろうってんだから悪い話じゃないだろう。力は俺以上に強いはずだ。手先の器用さも十分及第点に届いてる。コツさえつかめば大丈夫だ」
「は、はぁ……」
その後、結局断れなくて俺、それからキャラビーも一緒に休みの日はここに通うことになった。まあ悪いことではないんだろうが、休みが埋められたのは少しつらいな。
いろいろと買ったけれど値段も多少割り引いてくれて銀貨8枚ですんだしよしとしよう。
そして俺たちは鍛冶屋を出て家に帰るのだった。
どうもコクトーです
『刈谷鳴』
職業
『ビギナーLvMAX(10)
格闘家 LvMAX(50)
狙撃手 LvMAX(50)
盗賊 LvMAX(50)
剣士 LvMAX(50)
戦士 LvMAX(50)
魔法使いLvMAX(50)
鬼人 LvMAX(20)
武闘家 LvMAX(60)
冒険者 Lv88/99
薬剤師 Lv42/60
聖???の勇者Lv12/??
狙撃主 Lv45/70
獣人 Lv16/20
狂人 Lv21/50
魔術師 Lv37/60
ローグ Lv21/70
重戦士 Lv21/70
剣闘士 Lv1/60
神官 Lv1/50
魔人 Lv1/20
精霊使いLv1/40
舞闘家 Lv1/70
大鬼人 Lv1/40 』
今回も遅れてすいません。
データが消えるのって怖いです……
感想で指摘されて気づいたのですが、町の名前が間違っていました。現在いるのは『グリムの町』で、カーミアの町はグリムの町に向かう途中にある町の名前でした。
すでに訂正はしましたが、これまで違和感を感じていた方、申し訳ありませんでした。
ではまた次回