戦闘です
次の日、私は昨日買った寝袋とマツヤナさんと奥さんの遺品であるモノクルをアイテムボックスにしまい、朝早く宿を出た。できるだけ人に会わないように宿に書置きを残してきたから掃除にきたおかみさんが気づけば宿の問題はない。特に行く当てとか先立つものもないけどたぶんダンジョンに潜ればいろんな素材が手に入るし、探せばアイテムもあるだろう。宝箱とかあるかわからないけど。
それに食料も魔物がいるから問題ない。この世界では魔物は脅威であると同時に大切な食料でもある。その最たる例としてあげられるのがラフラビットだ。初心者冒険者でも1分ほどで狩ることができ、やられたという報告はめったにない。さらにそのうえ栄養価がそこそこ高いこともあり、非常食として好まれる。味はまあそこまでよくないし、肉ばかりになってしまうだろうがその辺はたくさん動くから大丈夫だと思えばいい。たぶん太らない……といいな。
行先は決めてある。首都から一番近いダンジョンではなく、もう二つほど遠いダンジョン。1日歩けばつくような場所だ。
なぜそこを選んだのかと言えばなんとなくだ。人がそこまで多くなく、ダンジョンに出るモンスターも対処できる……はずの場所。資料によれば問題はない。ちょっと強くなった冒険者ならある程度進めるダンジョンらしいし、ダンジョン入口のすぐ近くに川もあるため水とかの心配はいらない。ただ王国から近いところに他のダンジョンが2つあるのであまり人が来ない。つまり最悪の場合助けてくれる人がいないのだ。私としてはそこは問題でも何でもないが普通の冒険者にとっては問題なんだと思う。
ちなみにこのあたりには過去にいくつかダンジョンがあった。そのどれもが『勇者』によって攻略されてきたらしい。実際には冒険者パーティによって攻略されたものもありそうだが。
冒険者が全員ダンジョンに入るわけではない。多くはギルドに所属して依頼を受け、それで日々を過ごしている。ダンジョンに入ればよい素材が手に入り金が稼げるのは事実だが、その分危険も増す。ハイリスクハイリターンかローリスクローリターン。どちらをとるかは各人の自由だ。
私が行かなかった、首都に一番近いダンジョン『タイラン』はかなり歴史のあるダンジョンのようで、いつからあるかがはっきりとしていない。初代の勇者が来た時にはすでにあったという噂まである始末だ。『タイラン』は全50層からなるダンジョンで、冒険者が入るのは基本25層まで。26層からは魔物が極端に変わるみたいだ。それまでの層で余裕で倒した相手でも普通に負ける。過去に魔法攻撃力をきわめて25層の魔物を一撃で倒すという魔法使いがいた。しかし、彼は26層で命を落とした。彼のいたパーティの唯一の生き残りの話だと、25層で出たライトホーンが26層にもいて、彼らはそいつ1匹に歯が立たなかったと。魔法を喰らってもぴんぴんしており、なおかつこちらの鋼鉄でできた鎧を一撃で粉砕していたそうだ。ちなみに25層では傷つきはしても破損につながることはなかったという。その後その人は冒険者をやめて農家になったそうだ。そして成功してきれいなお嫁さんももらってそこそこ裕福に暮らしたらしい。余談だけど。
私は平野を歩きながらいろいろなことを頭の中でまとめていく。そうでもしてないと寂しいのだ。魔法使いたちから教わった、体力、素早さ、筋力上昇の魔法のおかげで多少は楽に移動できているが、それでも半日以上はかかる。それを一人ただ黙々と歩くのは骨が折れる。パーティとかを組んでいくわけにもいかなかったからおしゃべり相手なぞいない。鳴がいてくれたらと頭に浮かぶのを必死に抑える。鳴は今1人で頑張っている。ならば自分も頑張って1日でも早く鳴の隣にいかなければと決意を固める。
「でも……寂しいよぉ。鳴ぃ……」
それでも寂しいものは寂しいのだ。人間1人でいると不安になるものだ。不謹慎だが、モンスターに襲われて困ってる行商人でもいないかなーとか思ってしまう。当然のようにいないけど。
そのとき、視界の端になにかをとらえた。
それは白い体で長い耳をもつ、体長80cmほどの生物、ラフラビットだ。ラフラビットはこちらに気づいておらず、もりもりと草を食べていた。ラフラビットはラビット種のモンスターの最下層に位置するモンスターだ。スライムと並んでぶっちぎりのランクF最下位。攻撃方法は体当たりのみ。その体当たりも自身のふわふわな体毛のせいでダメージはかなり軽減されてしまうという何とも言えないモンスター。ちなみにラフラビットの上位種であるラブラビットや、そのさらに上のラプラビットになるとその弱点はなくなるらしい。ラプラビットまで行くとランクもCになり、ラフラビットと間違えて先制攻撃を仕掛けて返り討ちに遭うことも多いらしい。森の奥底では。
私はチャンスだと思った。
私は動かないものに魔法を撃つことはしたが、動く相手に撃ったことはない。それに弱いとはいえ相手は魔物だ。油断はしない。
まずはあたりを見渡した。ラフラビットの仲間が近くにいないか確かめる。でかい個体とか現れたら怖いし。
「周りにはいないか……。まだ気づいてなさそうだしいけるかな」
ラフラビットはもりもりと草を食べている。それはもう一心不乱に食べている。何がラフラビットをそこまで駆り立てるのか、わき目も振らずに食べ続ける。
私はラフラビットに狙いを定めた。あいにく杖とかスタッフとか武器は用意できなかった。マツヤナさんの家の書物によると武器があると魔法が安定するらしい。命中率とか上がるんだってさ。たぶんだけどそれは武器にそういう能力がついているんだと思う。魔力操作とかそんな感じかな?
(ファイア)
私の『力』の一部である無詠唱魔法。それを使ってファイアを放つ。術式が瞬時に組み上がり私の掌から火の玉が飛び出す。それはこいつ大丈夫かってくらいに草を食べてるラフラビットに迫る。ラフラビットは当たる寸前でようやく気づき、顔をあげるがもう遅かった。
こんがりと焼けました。当たると同時にラフラビットの体は炎に包まれ動かなくなった。
火が消えて、確実に死んでいることを確かめるとラフラビットにさらなる魔法を使う。
「分解」
そう唱えて手でラフラビットに触れる。
ラフラビットは微かに光ると、ポンっと音をたてて煙となる。そして煙が消えると、そこにお肉が残った。
「鑑定」
『ラフラビットの肉:
ラフラビットの肉。栄養価はそこそこ』
「よし、成功。これ便利だなー」
『分解』と『鑑定』。これらは書物にあった古代の魔法だ。書庫の中の一番奥の方においてあった本にのっていた魔法だ。現在解明されている術式では再現が難しいらしく、実際に使ってみるのはこれがはじめて。うまくいってよかった。鑑定に関しては、使えたとしても使う人があまり多くない。かなり前に一人の魔法使いの開発した魔法『解析』が出回っているからだ。『解析』は鑑定ほど細かく知ることはできないが、そのものの名前とレベルくらいはわかるらしい。モンスターだと、名前だけになるんだとか。レベルの概念がどこまで適用されるのかわからなかった結果とマツヤナさんは言っていた。
私は夜ご飯がゲットできたことを喜びながらアイテムボックスに肉をしまう。野菜は……まあ諦めよう。
私は今晩のご飯をどういう風に調理しようか考えながら先をいそいだ。
そして後から調味料も調理道具もないので丸焼きしかないと気づいてからは進むペースが目に見えて落ちてしまった。
どうもコクトーです
真那の初戦闘です
すぐ終わりましたが……
ではまた次回