クレリア・ケルノの商売語り
私クレリア商会所属、クレリア・ケルノはキーンの町に拠点を構える商人です。
元々はソミナの町の冒険者として仲間とともに低ランクの魔物を狩って日々の糧を得ていました。しかし、魔物の肉を燻製に加工する技術に長けている仲間がいて、その加工を開発した魔法でできるようになったことをきっかけに、パーティメンバーの4人で行商を始めることにしました。商人ギルドに登録し、保存食を主に扱う商人として慣れ親しんだソミナの町を出ました。
最初のうちは、魔物の燻製肉しか商品がないということもあってなかなかものが売れない日々が続きました。幸い、保存食というだけあって、食料が腐って食べられなくなるということもなかったし、低ランクの魔物であれば狩って食料にすることができていたので飢え死にするということはありませんでしたが、苦労は続きました。商人なのに、狩った魔物の素材を冒険者ギルドで売ってお金を集めるという、移動しているということ以外は冒険者時代と何も変わらない生活を送っていました。
行商を始めてから3か月が経つ頃には、少しずつものが売れるようになっていきました。そのころには、保存食を主に扱う一方で、燻製を造る際に狩った魔物の皮などを加工して売ることも始めていました。もちろん商会に登録してですが。今思えば、なぜ最初からそうしなかったのでしょうか。
1年が経とうとしたある日、その町を訪れた際に仲間の一人が興味を持ったことで仕入れてみた、カピチュをきっかけに売り上げは上昇していき、それから1年後にはこの町にて私たちの商会を立ち上げるに至りました。クレリアと名乗り始めたのもこのころで、商人の中ではかなり早くに出世できたと思っています。
このカピチュという食べ物は、果実を使った保存食でした。みずみずしくて甘い果実をわざと乾燥させて水分を飛ばし、それにある加工を施すことで燻製肉以上に、保存性の高い商品と化したすぐれものでした。
これを作っていたのは、その町から少し離れた森の中に一人で住んでいるご老人でした。
なんでも、ご老人も元々は冒険者で、魔物に足をやられたことをきっかけに野菜などを育て始め、しばらく経って、果実の栽培にも手を出し始め、1度目の収穫のころに出会った1人の旅の青年からこのカピチュの作り方を習ったそうです。
その青年はカピチュの作り方と、その魔法版を教えると、少量の野菜と果実を受け取って旅に戻ったとのこと。魔法名は『ドライ・フルーツ』。青年のいた国では乾燥させた果実という意味をもつ言葉だそうです。また、それ以降その青年とは会うことはなかったそうです。
カピチュは、町の中ではそれなりに有名でしたが、逆に言えばその程度でしかなかったそうで、私たちにもその作り方を教えてくださいました。
今私たちはカピチュの作り方を秘匿扱いにしてクレリア商会の商品として扱っていますが、ご老人が広めろと言うのであればすぐにでも商会員が各町に行き、その製法を町の人々に伝える準備はできております。ご老人の意向を無視して利益を独占しようという者は私たちの商会にはいません。
現在は仲間の1人がご老人のもとで生活していて、ご老人とともに野菜作りに精を出しています。もっともご老人と仲良くなったやつで、ご老人も話し相手ができていいとおっしゃっています。
話は変わりますが、私は商会のメンバーの何人かでアライエの町の武闘大会を見物に来た際、クライン様に呼び出されました。
クレリア商会は毎年この時期は一応休業ということにしていますが、一部の若いメンバーが練習の意味も込めて店の前で販売を行っている日もあります。当然、彼らもその日は休みにしてあるのですが、1日でも早く上達したいと意気込んでわざわざ私に許可を取り、商品を安い値段で並べております。あまり多くはありませんが、売り上げ次第ではボーナスもあるから頑張っているという者もいるかもしれませんね。
作った物の中から無作為に選んだ1つを試食して、合格ならば販売に参加でき、不合格ならば合格者や普段から作っている者の技術を学ぶ。町の人がそうした努力を見守ってくださっているのも大きく、順調に若い世代が育っています。一部の者には今回の大会以後、普段売りの商品の作成に参加する許可も与えました。
カピチュを魔法で作るために魔力操作が上達し、冒険者となった者がいるというのは皮肉ですかね?
クライン様に呼び出されたのは私だけでなく、キーンの町に商会を持つ者が大勢集まっていました。挨拶は忘れずにしました。挨拶は商人の絶対の掟です!
クライン様のお話はこうでした。
まず、武闘大会優勝者であるシャドウさんに契約魔法に関することで伝えてほしいことがあること。
次に、それを伝える際には、あまり大勢の者に聞かれてはダメなので、どうにかして人の少ないところで話してほしいということ。
そして、シャドウさんが本名がメイという冒険者であること。
もちろん、シャドウさんがメイという冒険者であることは他の者には内緒にするように契約魔法がかけられました。私たちの誰にも悟られないように。
今ここにいる全員が従魔の部の出場者にかけられる契約魔法の内容は熟知しているし、今回の大会で1組、それが発動されるケースが発生していることも知っています。ただ伝えきれなかったことを伝えれば、あとはクライン様のお抱え商人が何とかするとおっしゃっているので問題がないといえば問題はありません。
実は、以前にも同じような事態が発生しました。
その時は、実は私が伝える役目を担いましたが、問題は起こりませんでした。今回も大丈夫……だと思います。
この中の誰かがやってくれればいいとおっしゃっていたので今回は他の人に任せましょうか。
この時はそんなことを思いながら館を後にしたのですが、今回も私が伝える役目を担ってしまったのは何か意図があるように思えて仕方がありません……。
メイさんたちに説明を終えた私は、商会に戻り、前回の説明の後でクライン様からいただいた『テレパスの水晶』でクライン様に報告をしました。
「クライン様、クレリア・ケルノです。ご依頼の件でお話があります」
クライン様にテレパスの水晶で連絡を入れる。
この『テレパスの水晶』は、2つで1つ、1対でようやく意味を成す魔道具です。2つの水晶を横にくっつけた状態で並べ、そこに2人の人物が同時に魔力を流し込むことで、起動準備に入ります。以前、報酬を渡しに来てくださったときに私とクライン様の魔力は流してあるのでいつでも使える状態だったのです。起動準備に入っている状態で、登録している2人のどちらかの魔力が流れると2つの水晶が反応して光り、もう片方の魔力が流れるとテレパスの魔法が発動するという効果があります。
しかし、常に両人が水晶を持っているわけではありません。その場合、先に魔力を流した側は、ほんの数秒ではありますが言葉を登録することができます。今回も私は先ほどの言葉を登録しておきました。これは、魔力が上がると同時に再生されるので報告などには便利です。そういえば他の方が達成していた場合はどうやって連絡を入れていたのでしょうか?
『おぉ、待ってたぜクレリア』
報告を入れてから1分もしないうちに机の上に置いた水晶からクライン様の声が聞こえてきます。おそらく近くにいらっしゃったのでしょう。
「無事ご依頼の件達成いたしました。メイ……シャドウさんはあの少女を購入する予定だそうです」
『話はしたのにか?』
「ええ。なにやら事情がある様子でして、どうしても購入するという話でして、賠償金が0になるという話をしてもその意見を変えることはありませんでした」
『あのファントムの子孫を買おうなんてな。あいつならば呪いもなんとかしそうな感じはあるけど』
クライン様が小声で納得するようにつぶやきました。水晶が言葉を拾ってしまっているために聞こえていますが、おそらく誰にも聞かせる気はないような独り言ですね。何も言わないのが得策でしょう。
「用件は以上になります」
『ありがとな。また報酬を渡しに行くから。次回からもよろしく頼むな』
「かしこまりま……次回からも? あの、もしかして、今回も私がお伝えすることになったのって……」
『他の商人連中にはお前に任せればいいからと伝えてある。乗合馬車でうまく会えただろ?』
それはつまり……ああ、馬車にクレリア商会以外の商会が1つしかなかったのも、今日オークション会場を下見している方がいなかったのもそうなんでしょうね。キーン様とクライン様の関係を考えればできないことではありません。もしかすると私以外の商人にはすべて話がいっていたのかもしれませんね。
「……あなたという方は……報酬は期待してもよろしいので?」
『ああ。お前さんのとこの保存食を定期購入したいと言ってきてるやつがいるからそこの紹介だな』
定期購入となれば期間ごとにまとまった収入ができることになる。これは商会として考えればプラス案件……。
「わかりました。これからもよろしくお願いします」
商会のために、私の苦労が増えていきます……。いやいや、商人たるもの苦労は買ってでもしなければ! それが利益になるとわかっているならなおさらです。今の時期は稼ぎ時。本店が休業していた間にいらっしゃったお客様も多いはず。さて、頑張らないといけませんね。
こうして、私の苦労生活はこれからも続いていくのでした。
どうもコクトーです
今回はクレリアさんのお話でした
次回はダンジョンに入る予定です
実は、8月11日をもちましてこの作品は投稿開始から1年になります!
ここまで続いたのに驚きです!
それを記念して1週間連続投稿とか考えてたんですが、それどころか明日から短くて1週間パソコンが触れず、執筆できないのでお休みです
そこで、21日から1週間または10日間連続で投稿します!
それまでしばらくお休みです。
すいません
もし早くパソコンを触れるようになれば21より前に1話投稿するかもしれません。自分としてもそれを願ってます
ではまた次回