散歩です
クレリア商会の前でマナとヒツギと別れた俺はのんびりと露店を見て回っていた。
ここの露店はこのあたりはこういったものが売っているとかそういったのは一切ない。武器の隣で食べ物を売っていたり、服の隣で薬草などの薬を売っていたりととにかくばらばらだ。
今見ている露店も、きれいな石のアクセサリーを売っている店なのだが、右の店は髑髏とか蛇の皮とかなんとも言いようのない物を売っているし、左の店は大剣と短剣が置いてあり、鑑定してみると一部が呪われた武器という不思議な店だし、場違い感が半端ない。オークションに出せばもっと高く売れると思うのだが……。
「なあおっさん、そこの右から2つ目の短剣は他のと見た目が違うが何か特別なやつなのか?」
俺は鑑定して『魔付与の短剣(呪いあり)』と表示された40cmくらいの短剣を指さして尋ねた。短剣は横に10本並んでいて、そのうち7本が見た目の同じ普通の鉄の短剣だ。しかし、残りの3本は微妙に形が違う。これは刀身にギザギザのマークが入っており、他の2本はともに刃が波のような形をしている。
「それか? 別に他のやつと変わりない普通の奴だよ。しいて言えば多少モンスターにダメージが通りづらいことがあるくらいだ」
おそらくそれが呪いなのだろう。そしておっさんはどうでもよさげな顔をしていることからたぶんこれの呪いに気づいていないのだろうと思い至った。掘り出し物の予感!
「そうか。ちなみにいくらだ?」
「お、買ってくのか? そうだな……銀貨2枚でいいぜ」
「それは高いな。銀貨1枚」
「半額じゃねえか。銀貨1枚と銅貨80」
「銀1銅20」
「銀1銅70」
「そっちの二本も買うから合わせて銀貨4でどうだ?」
「んー……乗った。銀貨4枚だ」
「ありがとよ。もらっていくよ」
「まいどありー」
首尾よく呪い付きの短剣を3本ゲットできた。後で呪い吸収して……ってこんなことに金使ってる場合じゃなかった。これ以上は使わないようにしよう……。
その後は、お金は使うことなくのんびりと露店を見て回った。
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私、マナはメイたちと別れて旅に必要な物資の補充のためにいろいろな露店を回っていた。
はっきり言って、あの二人は若干感覚がおかしくなっている。ヒツギはもとの世界にいたころから、面白さを重視していろいろとやらかすことがあったから、変わっていないといえば変わっていないのかもしれない。物事の基準や知識が900年前のものというところも問題だ。しかし、メイはもう少しまともだったはずだ。やはり私と別れてから再会するまでの3か月でおかしくなってしまったとしか思えない。
冒険者として考えた時もそうだ。
素材の解体は一切せず、全て喰らうかアイテムボックスにまるごと入れる。ダンジョンの中で寝る時は結界を張るだけ。食べ物はたくさん買ってアイテムボックスから取り出して食べる。どれも普通の冒険者では考えられないことだ。
まず、メイがやってるように解体せずにアイテムボックスに全部入れるのは論外だ。アイテムボックスにあんな大きいものを軽々と入れる容量などない。それはアイテムボックスを使う私が一番理解できている。たしかに、ラフラビットみたいな小さなモンスターを入れるのはできる。でもキングアントとかは入れられない。普通なら、その場で敵を警戒しつつ解体を行い、場合によっては換金できる部位だけもっていき、後は燃やしてしまうか、ダンジョンの中なら放置しておく。それが普通だ。決して「もったいないじゃん」とか言って、わざわざ解体して残そうとした部分を持っていこうとするのはおかしい。帰る方法がわからないと聞いて、のんびり暮らすなどと言っていた人のやることじゃない。
メイたちと合流してから何度目になるかわからないため息を吐くと、お目当ての商品のある店に到着した。メイと一緒だと買いに来れない下着などが売っている店だ。一人旅の3か月の間に数着買って、今もそれを使っているが、もう少し数がほしいのだ。
この世界の洗濯は手洗いが基本。あるいは魔法を応用して洗うのだ。地球みたいな洗剤などはなく、布自体もそんなにいいものを使っているわけではないからすぐに傷んでしまう。一度しつこく絡んできた冒険者から下着を贈られたことがあったな……うん、忘れなきゃね。
私の分とヒツギの分を合わせて6枚購入し、次の買い物に移った。店の人にお目当てのものが売っている露店の場所は数か所聞いている。待っててね調理器具!
それから、調理器具、食器、日持ちする食料、武器の手入れに使うための布や、魔法が使えない場合の応急処置用の包帯と薬などを購入して宿に戻った。持ってきた魔法の袋がいっぱいになっちゃったな。あとでアイテムボックスに分けておかないと。こうして、買い出しなどで私の暇な時間はすぎていくのだった。
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私、ヒツギは露店をひやかして回っていた。メイとマナと別れて行動することになったのはいいけど、いざ一人になってみても特にやることはない。
この町では奴隷として、エルの子孫の女の子を買うと決めている以上、あまりお金は使いたくない。多少は二人とも使うだろうから私も何か買っても何も言われないとは思う。しかし、メイが購入する女の子をその子に決めた理由は間違いなく私のためだ。以前エルの話をしたときに、その子孫の呪いを解いてほしいといったことがあった。その時のことを考えてくれたのだろう。
オークションで売りに出される以上、誰に買われることになるのかはまったくわからない。他の人に買われることもあるだろう。すでにその子がもともといたパーティである、勇者一行が買い戻す気でいるとメイから聞いているが、どこまで本気なのか不明だ。
そもそも900年前とは事情が違うとはいえ、昔は私も国から少なからぬ支援をもらって旅をしていた。王都に居る間は宿を用意してもらったり、訓練用の木剣を譲ってもらったりもした。センが旅についてきたのもその一つだ。彼はあらゆる分野で役に立ってくれたし、彼に命を助けられたことも一度や二度の話ではない。
しかし、その援助には、金銭はほぼなかった。旅立つ前の一度きりだ。それも寝袋や保存食、服の替えなどを用意したらそれほど残らなかった。魔王討伐をするわけでもないのにそんなにお金をかけられないといえばそこまでだけど、当時の王は『技術』を鍛えることの大切さをよく理解して、本人も実践していた。兵の訓練に混ざって、王とその息子たちが一緒に剣をふるっているのを見た時は驚いたものだ。だが、それを思えば明らかに自分の力に見合わない武器などを買うために金銭を送るなんてことはしないだろう。そんなものをそろえる暇があったら体を鍛えろと言うに決まっている。
今の王はわからないけど、奴隷の購入のために援助金をたくさん送るとは思えない。もし送っているのだとしたら、あの王の遺伝子を本当に受け継いでいるのか疑いたくなるくらいだ。
今はその子をその勇者たちではなく私たちが買い取れるようにお金をためないといけない。ファントムの血にかけられた呪いを解く機会はこれから先訪れるかわからない。このチャンスを逃さないようにしないと。そのためには無駄遣いは減らさないとね。オークションの前に彼らの準備した金額がわかればいいんだけどな……。場合によっては私のアイテムボックスに眠っているものを売ってでもお金を作る覚悟だ。さすがにそれはメイに止められたからしないけど。
それから、露店でいろんなものを見るたびに昔の仲間との旅を思い出しながらのんびりと露店回りを続けるのだった。
どうもコクトーです
視点が変わってることもあり、今回はメイの職業はなしです。
今回は3人の視点からお送りしました。
前回の話で冗談として言っていた、
メイのぶらり散歩
マナのしっかり散歩
ヒツギののんびり散歩
きちんとできちゃいましたね。はいそこ、ネタが浮かばずに短くなっただけとか言わない!
ヒメのもふもふ散歩ができなかったのは残念ですが、それはまた別の機会に…
ではまた次回