書物を読みます
「…………なるほど、こうすればいいのね」
それからしばらく怒りを落ち着かせるために時間を使ってからマツヤナさんの家に向かった。約束より少し遅れてしまったが笑って許してくれた。
そしてすぐに書物を読みはじめた。早読のモノクルというのを貸してくれて、あっという間に書物を読み込んでいく。早読のモノクルは片目に装着してもう片方の目を閉じて書物を読むことですごい早く読めるものだ。どういう原理なんだろう?
「どうじゃ? 参考になっておるかな?」
書物に集中して気づくのが遅れてしまったがそばにマツヤナさんがきていた。手には紅茶のはいったカップを2つ持っていた。
「はい。やっぱり基礎がわかるだけでだいぶかわりそうです。応用が利く要素がいくつかでてきました」
「そうかそうか。役に立ててなによりじゃ。どれ、ここらでひとつ休憩でもしよう。紅茶は飲めるかな?」
「いただきます」
マツヤナさんとたわいない話をしながら紅茶をいただく。若干甘めな気もするけどおいしかった。
休憩後、再び書物を読み始めてしばらくするとお昼になったのでお礼を言って帰ろうとしてリビングに行くと、マツヤナさんの奥さんがいた。
「あら? 真那ちゃんだったかしら? どうかしたかしら?」
「あっこんにちは。そろそろお昼時なので帰ろうかと」
「それならうちで食べていけばいいじゃない。うん、それがいいわ。あなたー、食器をもう一人分出してくれるー。真那ちゃんも食べていってもらいましょう」
「それはいいのう。ぜひ食べて行っておくれ」
「でも、そこまでお世話になるわけには……」
「よいよい。わしらには子供が生まれんでなぁ。二人で食べる食事というのも寂しいものじゃ」
「うちを我が家と思ってくれていのよ。私たちも娘ができたようでうれしいから♪」
「……じゃあ、お言葉に甘えて……」
「よろしい。じゃあ今日のお昼は張り切らなくちゃね!」
「わしも手伝うとするかの。真那ちゃんはゆっくり休憩しておってくれ。直にできる」
それからお昼をごちそうになり午後からも書物を読ませてもらった。それでもすべて読み切ることはできなかった。明日も来ていいかと尋ねると笑顔でいいよといってくれたので明日も来ることになった。いい人たちだなあ。
そしてその日は宿に戻った。
次の日、マツヤナさんの家に向かうと、なにやら煙が見えた。その時はなにやら焚火でもしてるのかなと思って特になにかするわけでもなかったが、それは間違いだった。
「…………なに……これ?」
目の前ではゴウゴウと燃え盛る炎。そしてそれに書物を投げ込んでいく騎士たち。そしてさらに奥に見えたのは……。
「マツヤナさん……」
マツヤナさんと奥さんの無残な死体だった。木の柱に括り付けられて何度も殴られたのか体は青痣だらけ。そして何か所も刺された痕。見てられないような有様だった。
「おい! 急げ! 書物は全部燃やせ!」
今きている部隊の隊長と思わしき人物が指示を飛ばす。私は腹が立った。マツヤナさんが集めた魔法に関する書物を燃やしたこと。しかし、なにより腹が立っていたのはよくしてくれたマツヤナさんと奥さんを殺したことだった。
「アクア」
私はアクアで火を鎮火した。
「なにをする! ……と、勇者殿でしたか。なにをなさるのかな? 作業の邪魔をしないでいただきたい」
「なにをするはこっちのセリフよ。なんでマツヤナさんと奥さんが殺されてるの? それとなんでその書物を燃やしているの?」
「この男は国家反逆罪です。悪魔の力で国を潰そうとしました」
「マツヤナさんはそんなことをする人じゃない!」
「勇者殿がこの男たちの手にかからないでよかったです。勇者殿は我々騎士がお守りしますのでご安心を」
私はこの時直感した。
これが王国のやり方だと。
これが騎士団だと。
自分たちの意思に沿わないものは無理やりにでも潰す。それがこの国なのだと。
そしてもう一つ、もしかしたら自分が昨日王の下へいかなかったからこうなったのかもしれないと思ってしまった。私が王の意思に背いてマツヤナさんの家に来たから。だからマツヤナさんを殺した。そう思ってしまった。
「……帰る」
私は頭の中でマツヤナさんに精いっぱいの謝罪をして宿に戻った。結局その日のうちに書物も家もすべて焼き尽くされたらしい。
私はその日何も食べられずに死んだように眠った。
「……」
「やあ、おはよう」
次の日、さすがにおなかが減って、下に行けば何か食べるものないかな?とかすかな希望を抱いて宿の廊下を歩いていたところ、また天上院に会った。
「今日も王様に呼ばれているんだ。一緒に行こうじゃないか」
「……いいわ。今日は行ってあげる。ただおなかがすいてるの。昼からでいい?」
「なら王様のところでなにか食べさせてもらおう。行くよ」
私の腕をとって歩き出す。正直痛い。でも今は耐えなきゃ。誰かをマツヤナさんのようにするわけにはいけないから。
そしてしばらく街を歩くと王様のいる城についた。
お城の中にあった食堂でご飯を食べ、それから天上院と一緒に王の間に向かった。ご飯を食べてる間ひたすら自分のことを話してきてなんかうざかった。昨日騎士を100人同時に相手したとか、騎士団長さんと引き分けたとかどうでもいいし……。
王の間の扉の前で少し待たされると執事と思われる男性がやってきて王の間へと案内された。
王の間はなんというか豪華の一言に尽きるって感じだった。あちこちに宝石が埋め込まれた壁にばかでかいシャンデリアがところどころにあり、床はおそらく地球で言う大理石のようなものでできている。まあこの世界に大理石があるかわからないけど。そして極めつけは玉座だ。向こうが透けていて、尚且つ若干ながら魔力を感じるからおそらく巨大な水晶を削ってできた玉座。なんかお金の無駄遣い感がすごいする。
「おお、よく来てくれた勇者たちよ。歓迎しよう」
「お招きありがとうございます。して話とは何なのでしょうか? 昨日も結局聞けなかったので気になっていたのですが」
天上院が王に頭を下げて尋ねる。結局昨日話さなかったらしい。私にかまわず話をしとけばよかったのに。
「そうじゃな。だが勇者の2人がそろわなければできん話だ。お主だけにしても意味がないであろう」
「そうなのですか?」
「……」
「うむ。率直に言おう。お主ら2人にはこれより先、王国より派遣する3人とともにパーティを組んでダンジョンに挑んでもらう。そして魔王を討伐するのだ」
「その3人は?」
「それぞれ弓、剣、回復魔法のスペシャリストだ。と言っても1人はおぬしらもよく知るものだ。騎士団団長のバラーガ。あやつはこの国でも1,2を争う使い手だ。戦力として不足はあるまい。まあ他のものの顔合わせは明日でいいだろう。まずは2人で行動を共にしてもらう」
「わかりました。じゃあこれからよろしく真那!」
私が話さないことをいいことにどんどん話が進んでいった。結局こいつと行動を一緒にしてパーティ組んでダンジョンを攻略しろってことだ。冗談じゃない。
私は差し出してきた手を払った。拒絶の意思を込めて。
「どうしたんだい? これから一緒に行動する仲間なのに」
「勝手に決めないで。私はあなたと行動を共にする気なんてさらさらないしこの国のために動く気もまったくないわ。私は明日にでもこの国を出る。今日ここに来たのはそれを言うためでもあるわ」
「何を言ってるのだ勇者真那よ? あなたは魔王を討伐するためにこの国に」
「それなら別にパーティを組む必要はないわ。私は一人でいい。誰もついてこないで」
「真那! バカなことを言うんじゃない! 僕らは協力して魔王に挑まないと」
「呼び捨てにしないで。というか名前を呼ばないで。挑まないとどうなるの? 世界が滅ぶ? それとも王国が滅ぶ? どっちでもいいわ。昨日、過去の歴史を調べて共通してる点があった。それは勇者は常に1人だということ。たとえ仲間はいたとしてもその人たちは勇者じゃない。それに一人で動き続けた勇者も過去にいたわ。つまり私が1人でも問題はないってこと。そういうことだからもう会うことはないわ。ごきげんよう」
私は王の間を後にした。正直歴史なんて調べてない。ラフォーレの話を拡大解釈して適当に言っただけだ。それでも反論のなかったところを見ると当たってたのかな? ただ言う暇がなかっただけかもしれないけど。ほんとはもう少しこの国で学ぶつもりだったけどしかたない。あきらめよう。
「とりあえず準備しないと……。お金は……まあなんとかなる……かな?」
私はその日のうちに寝袋だけ用意した。正確にはそれ以外用意できなかった。お金……足りなかったもの……。
どうもコクトーです
マツヤナさん夫婦は今回限りの登場です
次回も真那の話ですね
ではまた次回