出発の日です
今回は視点が2度かわります。
メイ → 天上院 → 第三者
といった感じです。
午前中の間にノノさんとネネさん、それからポールに挨拶をすませて、俺たちは馬車乗り場へと向かった。あまり三人で動いていたことが少なかったということもあり、共通の知り合いはほとんどいない。3人を除けば俺が対戦相手として知り合ったくらいの関わりの人が数人いるだけだ。
ノノさんとネネさんも今日のうちに町を出るらしく、行った時にはすでに自分たちの荷造りをしているところだった。二人とも一緒にバルガスに戻るらしい。そのうち行くことがあれば訪ねることにしよう。
ポールは対照的にしばらくこの町にいるそうだ。ヴァルミネにバルを奪われたことがショックでもうしばらくのんびりと遊んでいくらしい。冒険者として活動してたら遊ぶ暇があるかわからないからな。俺はヒメをよくもふもふしてるけどね。
馬車乗り場についた俺たちは、さっそくキーンの町に向かう馬車を探した。この乗り場は入ってきた南東の門とは真逆の、北西の門のすぐそばにある。アライエの町がイリアスの町とキーンの町のちょうど間にあるからな。
そこでこの馬車を運営している商人に金を払って馬車に乗る権利を手に入れる。まあすぐに終わったけど。
その時に天上院たちと同じ馬車になりたくないと伝えたところ、何も問題なく手配してくれるということになった。たまにあることらしい。俺たちは2台目の馬車で、天上院たちが来た場合は5台目の馬車になるように手配してくれるとのことだ。
そして午後になり馬車が出る時間となった。今回出る馬車は全部で8台で、各10人前後で乗っているらしい。もっと大人数がのる馬車もあるらしいが、それは明後日に出るらしい。五日に一回って聞いてたんだけどな。
俺たちの乗った馬車に乗っているのも当然10人で、俺たち3人と商人が4人、三人組の冒険者で合計10人だ。
馬車は連なってキーンの町に向けて出発した。
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僕、天上院古里は大会が終わってからというもの、あのシャドウという男のことを考えていた。
試合が始まる時は、棍棒というなめているとしか思えないような装備でいたことに腹を立てていたが、試合が始まってみるとその考えは一瞬で消えた。
棍棒ごと真っ二つにして終わりだろうと考えて威力重視の攻撃をしようとした。しかし、剣の腹を叩いて地面にたたきつけ、すぐに顎を狙ってきたときは本当に焦った。たしかに、あの戦い方をするのであれば棍棒は似合っていた。剣という武器ではああいった戦い方はできないだろう。
うまく流した後、すぐに魔法による追い打ちをかけてきたり、遠距離からひたすら魔法で攻めてくるというのは間違っていない。僕の『剣術』はこの世界の人と比べてもかなり高い実力だ。王都にいるときに一度だけ見せてもらった剣聖には及ばないけれど、それでも近衛騎士の筆頭として長年鍛えてきたはずであるバラーガには勝てるくらいの実力だ。それを考えたら接近戦をしかけるなんてことはしないだろう。魔法が多かったというのは僕を恐れているという証拠でもある。
しかし、回復している最中に攻撃してくるというのはどうかと思う。
これまでいろいろな人と戦ってきたし、そもそも回復魔法を使わないといけないほどのダメージを負うことが少なかったけど、みな回復魔法をつかう間は攻撃はしかけてこなかった。回復するのを待って、僕がある程度回復してから攻撃を再開していた。あいつには正々堂々と戦おうという気はないのか!
僕たちは今、領主様の館に向かっている。
ヴァルミネを返してもらいに行くのだ。キャラビーは足取りが重く、ずっと下を向いたままの状態だ。
そうなってしまうのも無理もない。彼女はこれからヴァルミネの代わりとしてオークションにかけられることになるのだ。僕達が買い戻す予定ではあるが、不安になるのもわかる。
僕はバラーガから本来の奴隷の扱いについて聞いたことがある。それは、とてもじゃないけど信じられるようなものではなかった。キャラビーも同じような話を聞いたことがあるのか、時折僕が大丈夫か尋ねても「……大丈夫です。マシですから」と言ってそれ以上は何も言ってこない。つまり僕たちがしている扱いは普通の奴隷を考えれば破格の待遇なのだ。奴隷ハーレムなんかもいいかもと思ってた僕からしたら奴隷をこき使うなんて考えられない! それよりは自分からしっかり僕に忠誠を誓ってもらって奉仕してもらうべきだ。
そんなことを考えているうちに領主様の館に到着した。ここから先はバラーガだけが対応するらしい。
僕達は2人を見送って、宿に戻った。
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バラーガとキャラビーは館で働く男の案内である部屋に向かった。
そこには、クラインが既に待機していた。
「クライン殿、キャラビーを連れてきました。ヴァルミネを解放していただきたい」
「さっそく来たか。契約じゃ仕方ねえからな。出してやる。連れてこい」
クラインがそう告げると、館の奥から首輪と手枷をつけたヴァルミネを連れた男が鎖を引きながらやってきた。
「外せ」
男はクラインの言葉で懐から鍵を取り出して、ヴァルミネの首輪をはずした。それに合わせるように手枷も外れる。
ヴァルミネは確かめるように手首を回したり首を触った。そして完全に外れているのを確認すると、バラーガの隣にたった。
男が落ちた手枷と首輪を拾うと、バラーガのすぐ後ろにたつキャラビーのもとへ行き、それをキャラビーにつけた。そして鎖を引いてクラインの斜め後ろに下がった。
「これで契約成立だ。本来ならこんなことあっちゃならねぇ。もし次にそいつがこの町でなにかやらかした時は逮捕でなくその場で首をはねるからな」
「ヴァルミネも反省しています。そんなことはしませんよ」
バラーガが言うのと同時に視線をヴァルミネに向けると、ヴァルミネもバラーガの言葉に答えるように首を縦に振った。
「ならいいんだがな。お前らは今回の大会開催期間中だけで色々とやらかしてるからな。これ以上は『王命』も使えないことだし、許されると思うなよ」
「……ちょっと待ってください。今なんと?」
「あ? 『王命』はお前らのパーティーで合計三回使いきったんだからもう許されると思うなよって言ったんだ」
「何をおっしゃるのですか? 『王命』は私が一度使っただけですよ」
「そこのが一回、お前が一回、それからサラって女も使ったぞ。お前が使ったのは最後の一回だったってわけだ」
「……どんな内容で?」
「そこのは『隷属の首輪』の使用の許可。サラってのは契約魔法の発動の際に使われる転移魔法及びコロシアムの結界に使用される転移術式の解析結果とその資料全般の閲覧と写筆。そしてお前さんが使った罪の撤廃で3つだ。彼女は転移魔法の使い手なんだろ? ここの解析結果をもとにしてもともと使えたらしい転移魔法を昇華させていったよ。ここの持ってた技術を1時間足らずで上回っていきやがった」
「……ヴァルミネ、後から話を聞かせてもらうぞ」
「は、はい……」
「これで俺はもう王にしばられることはなくなったわけだ。もう手出しはさせねぇ。これからいろいろやることもあるし、お前らはもう行け。馬車は昼過ぎとはいえ色々と用意するものもあるだろう。誰か、玄関まで案内を頼む」
「クライン殿、少しだけでいいのでキャラビーと二人で話してはだめでしょうか?」
「こっちにも予定があるから、できて5分ほどだぞ。くれぐれも逃がそうだなんて思うんじゃねえぞ?」
「助かります。ヴァルミネ、先に宿に行っていろ」
「わかりましたわ。案内をしてくださる?」
「かしこまりました。とうぞこちらへ」
ヴァルミネと案内に来た男が部屋から出る。そしてクラインと鎖を持つ男も一旦部屋から出た。これでこの部屋に残ったのはバラーガとキャラビーだけとなった。
「キャラビー、お前はこれからキーンの町でオークションにかけられる」
「……わかって、ます」
「そこでだ。我々にお前を買い戻す気はない」
「え!?」
バラーガの言葉にキャラビーは驚いたように顔をあげた。
「正直に言おう。お前はもういらん。次の罠使いは既に王都よりキーンの次に向かう都市で合流する手筈となっている」
「そ、そんな、私は解放されるはずじゃ」
「勇者の一行としてきちんと役割を果たしたら、だろ? 足手まといのお前がどんな役割を果たしたというのだ? 罠を見つけても報告する前に味方が罠にかかる。戦闘能力も低く差が開く一方だ。お前を守るためにマーサは戦闘に積極的に参加することを禁止しているのだぞ。次のやつは戦闘も既に仕込まれている。罠を見つけたときもすぐに知らせて味方がかかる前に解除もできる。お前よりよっぽど優秀なやつだ」
「嘘……」
「そもそも王はお前を解放するつもりなどない。呪われた血の一族の者を野放しにするはずがないだろうが。解放するとしてもこの世から解放するだけだろうな」
「……」
「はっ。絶望といった顔だな。お前のようなやつにはそれがお似合いだ。既にお前を買う貴族とも話がついてる。多少加虐趣味が過ぎたお方だが飽きるまでは使ってくれるだろう。お前が役に立てるのはそんなものだ」
バラーガはいつからか言葉も失って涙を流し続けていたキャラビーに背を向けて扉から出る。
「クライン殿、用は済みました。ありがとうございました」
「……案内しろ」
そしてバラーガはクラインの側に控える男の案内で館を出た。
そして数時間後、勇者たちはオークションのある町、キーンに向かうのだった。
どうもコクトーです
今回はメイ視点だけじゃないので職業はなしです。
第三者の視点からの部分がありますが、意外と難しいです。
しっかりできてますかね?
今回の話で第4章は終了になります。
少し閑話を書いて次の章に行く予定です。
ただ、テストとレポートの締め切りが刻々と近づいてる関係で遅れるかもしれません。その時は活動報告で書いておきますので、3日目なのに更新されてねーじゃん! ってなったら活動報告に書いてあるかもしれません。
長々失礼しました。
ではまた次回